大晦日特別IFストーリー【ルート:シスターズ】

 男女シスターズのサプライズにより依桜が死にかけ、そして昇天しかけたバレンタインのあの日から七年の歳月が流れていた。


 とある大騒動がきっかけで、依桜は世界的な有名人となっており、毎日毎日忙しい日々を送っていた。


 そのせいもあって、家に帰ることができないことがあることが多くあった(それでも、なるべく妹たちの世話はする)。


 それにより、依桜スキーなシスターズはそんな依桜に対して、少なからず不満を持っていた。


 とはいえ、それはこの世界のために動いている事であり、同時に混乱を無くすために毎日毎日奮闘しているのである。


 そんな毎日頑張る依桜の姿は、妹たちにとって尊敬できる相手であり、恋慕を募らせる相手であり、そして心配する相手でもある。


 何せ、ほとんど休まないのだ。


 つい最近は、お休みという事で妹たちとのんびりとした時間を過ごす予定だったのが……。


『え、他種族同士の争い!? しかも、下手したら戦争の火種になる!? ほ、他に行ける人たちは……いない。わかりました。すぐにそちらへ向かいます。とりあえず、周囲の地域に飛び火しないよう、最大限警戒してください』


 というような内容の電話をして、すぐさま家を飛び出していったのだ。


 これには妹たちも拗ねた。


 いくら大事な立場にいるからと言って、こうも仕事ばかりでは精神的にキツイのではないか、法の世界で暮らし始めたあの日から成長した異世界の少女たちはそう思った。


 いくら肉体が完全に人間を逸脱したような存在であったとしても、精神は別。


 肉体疲労はなくとも、精神疲労は出るものである。


 だからこそ、心配なわけだ。


 最近の依桜と言えば、家に帰ってくると、家を空けている間の家事をこなそうとするのだ。


 家にいても休むことをしないので、これには妹たちも困り顔だ。


 というか、怒りそうである。


 問題なのは、依桜に頼りきりである職場の人間や、問題を起こす人たちである、そう考える。


 しかし、前者は依桜にしかできない仕事もあるため仕方ないとはいえる。


 後者は、感情がある以上まず無くすこと自体無理だろう。


 依桜という、存在が戦争の火種を鎮火させてしまうような存在ですら、争いの火種を完全に発生させないことはできない。


 依桜とて万能ではないのだ。


 故に、こうして依桜は仕事で飛び回ることが多い。


 仕事だからわがままを言ってはいけない、そう思ってはいても、大好きな姉との時間が減ると言うのは、メルたちにとっては辛いことでもある。


 何せ、こちらの世界で最も信頼する存在なのだから。


 これはどうにかした方がいい、そう思ってメルたちは依桜が勤めている職場に、軽く抗議することにした。


 尚、通常であれば割と門前払いになりそうなことだが、メルたちは依桜の妹であり、身の上が特殊であるため、無視できない……というか、将来はその職場に就職する予定なので、問題はない。


 なんだったら、もう既に手伝いをしていたりするので、余計である。


 あまりに酷使させ続けるのは問題だし、何より、一緒に過ごしたい! という、メルたちの意思が一つになったことで、実行されることに。


 今回は、代表としてニアが電話をすることになっている。


 話し方的に一番向いているためだ。


 早速、ニアは電話をかける。


「……あ、もしもし、ニアです」


 本来であれば、しっかりとした挨拶が必要であるが、メルたちの存在は職場で強く知られているので、大体これくらいで問題ない。


 というより、依桜がそれでいい、と言ったのでそうなっているのである。


『ニア様? 一体どうなさいましたか?』


 電話に出たのは、二十代くらいの女性。


 相手は、電話の相手がニアであるとわかると、わかりやすく疑問が浮かぶ声で要件を尋ねる。


「あの、依桜お姉ちゃんのことなんですけど……」

『依桜様ですか?』

「はい。その、今回はちょっと抗議というか……依桜お姉ちゃんを働かせすぎです! もうちょっと休ませてあげてください!」


 強い口調で、ニアは電話の向こうにいる女性にはっきりとそう告げた。


 いきなりこんなことを言われれば、普通の人であれば困惑するだろう。


 しかし、依桜の職場はかなり特殊だ。


 それを瞬時に理解した女性は、困ったように話す。


『そうですよねぇ……。正直、依桜様は働き過ぎなんですよ』

「わかってて働かせているんですか?」

『あー、いえ。あの方、責任感が強すぎて、自分が止めなきゃ! とか思ってるみたいなんですよ。一応、こちらも休むようにと言ってはいるのですが……全く休まなくて困っているんです』

「そうなんですか……」


 相手からの情報により、依桜は自ら働いていることが発覚。


 依桜はそうであることを隠しているたのだが、とうとうバレることに。


「じゃあ、休ませても問題ないんですよね?」

『そうですね。むしろ、休め、とこちらから言いたいくらいです』

「そうですか!」


 女性の発言に、ニアのテンションが上がった。


 それはつまり、依桜が仕事を休むのが合法であると言う意味に等しかった。


 ニアの電話を聞いていた他の五人も嬉しそうな反応をする。


「じゃあ、私たちの方で依桜お姉ちゃんを強制的に休ませます!」

『それはありがたいです。ニア様方であれば、あの人も休んでいただけるかと思いますし』

「はい! では、いつ頃からなら大丈夫でしょうか? 今すぐ、というわけにもいかないと思いますし……」

『そうですね……でしたら、大晦日――十二月三十一日~一月七日までなどどうでしょう? さすがに、今すぐにやめてしまうと、仕事にも滞りが発生してしまいますし、この辺りなら、私どもの方でなんとかできるかと思います』

「ありがとうございます! その日程でお願いいたします」

『かしこまりました。それでは、こちらの方でも動いておきます。……あ、それから』

「はい、なんでしょうか?」

『可能であれば、週二日は休むように言っておいていただけませんか?』

「わかりました。絶対に伝えておきますね!」

『ありがとうございます。それでは、この辺りで失礼いたします』

「はい。こちらこそ、ありがとうございました。失礼いたします」


 丁寧にあいさつをしてから、通話を終了させる。


 そして、スマホをポケットにしまい、振り向きざまにやり遂げた笑顔とサムズアップを他の面々にし、その五人もサムズアップで返事をした。


 これにより、知らない間に依桜の休暇が発生することとなった。



「ただいまー……」


 家を飛び出して行った依桜が家に帰宅。


 レディーススーツを着ているが、よく見るとところどころ汚れがあり、同時に疲れている様子だった。


 とはいえ、依桜とよく接している者でなければわからないくらいだ。


「「「「「「おかえりなさい!」」」」」」


 そんな依桜を出迎えたのは、メルたちである。


 依桜が帰ってくることを察知した六人は、玄関の前でスタンバっていたのだ。


 ちなみに、六人は七年前まで、可愛らしい少女たちであったが、この七年の歳月によって大きく成長していた。


 メルは魔王らしい、どこか威厳のある雰囲気を出し始め、絶世の美少女とも言える存在になっていた。


 モデル体型であり、まさに黄金比とも言える完璧なプロポーションを誇っている。


 魔王であるからか、人を率いることが上手く、それにより多くの生徒から慕われているなど、妹たちの中で一番、学生時代の依桜に近く、学園ではトップクラスの人気がある。


 ニアは、清楚な印象を与える美少女に成長。


 髪の毛を少しだけ伸ばしており、ショートボブだった少女の時から、セミロングにしている。


 着やせするタイプであり、脱ぐとすごい、とは同じクラスの女子の談であり、実際すごい。


 いつも穏やかな笑顔を浮かべており、誰に対しても分け隔てなく接することから、男子人気が高く、友人も多い。


 リルは、癒し系の美少女に成長。


 相変わらず髪の毛は長いが、昔は伸ばしていた前髪も今は切るようになっており、可愛らしい顔が見えるようになっている。


 全体的に小動物のような印象を抱くため、庇護欲を刺激されるため、クラスメートの女子などから可愛がられ、年上からモテるタイプになっている。


 ミリアは活発な印象を抱く美少女に成長。


 昔はツインテールだったが、今はポニーテールにしており、それがトレードマークになりつつある。


 運動が大好きであり、学園では様々な運動部の助っ人をして活躍するなど、下級生などに慕われやすく、同時に憧れの対象になることが多い。


 運動をしているのに、なぜか発育がいいので、未果たちからは、


『発育って、血が繋がってなくても、遺伝するの?』


 とか思われている。


 クーナは、大人っぽい印象を抱く美少女(?)に成長。


 もともとがサキュバスであることから、かなり色気ある姿(エロいとも言う)になっており、マドンナ的存在になっている。


 依桜に触発されたためか、家事が好き。


 そのため、学園では料理部と服飾部を掛け持ちしており、そのエロい外見とのギャップがすごく、それがきっかけで人気が高い。


 お姉様のような存在であるためか、男子人気ももちろんのことだが、女子人気の方が高い。


 スイは、ロリ系の美少女に成長。


 六人の中で一番背が低いが、一番発育が良くもある。


 当時は、ショートカットだったが、髪を伸ばしてロングになっている。


 昔、依桜のようなボンキュッボンになりたいと言っていたが、マジでそうなった。


 今では当時の依桜と同じレベルの大きさになっており、よく視線を集めている。


 本人は、クール系の美少女……に見えているため、近寄りがたく思われているが、それでも容姿は美少女なので、密かな人気がある。


 密かである理由は、存在がロリ巨乳というものなので、表立って好きだという事が憚られる、というもの。


 と、このように、当時の小さかった少女たちは、大きく成長し、今では数多く告白されるような存在に成長していた。


 そして、依桜としてもあの時以上に過保護になるほどに。


 ……ちなみに、依桜がメルたちが恋人にする者に求める基準は、最低限魔王を倒せるくらいと考えている。


「みんな、お出迎えしてくれたの?」

「うむ! 姉様に嬉しい報告があるのじゃ!」

「報告?」

「はい。とりあえず、夜ご飯にしましょう、イオお姉ちゃん」

「あ、うん。……あ、いい匂い。もしかして、作ってくれたの?」

「う、ん。クーナ、おねえちゃん、が、作った、よ?」

「そっか。じゃあ、早速貰おうかな。お腹空いちゃって」


 くぅ~、と依桜のお腹が鳴った。


「あはは、イオねぇの音可愛い!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいね……」

「大丈夫なのです。イオお姉様のお腹を満たしてみせるのです」

「そこは心配してないよ。クーナ、日に日に上手になってるもんね。……さ、ご飯にしよ」

「……ん、準備は終わってる。いつでもOK」

「そうなんだ。楽しみ」


 にこっと、微笑みを浮かべてから、依桜は自分の体に付いた汚れを魔法で落とす。


 今では神気を自由自在に扱えるようになった依桜でも、魔法の方がなんとなく気持ち的に楽とのこと。


 そうして、上着を脱ぎつつ、依桜は二階のリビングへ。


 そこには、出来立てなのか香ばしい香りを伴った湯気を立てる唐揚げや、白米に味噌汁、サラダなどが並べられていた。


「うん、美味しそうだね」


 そう言って、依桜は目の前にある料理に頬を緩ませる。


 そして、ジャケットを近くのソファーに置くと、椅子に座る。


 メルたちもほぼ同時に椅子に座り、準備はOKである。


「「「「「「「いただきます」」」」」」」


 食前の言葉を口にしてから、七人は夕食を食べ始める。


 ちなみに、依桜の両親だが、様々な事情があり、父親の実家にて田舎暮らしを満喫中であり、この家には依桜たちしかいなかったりする。


「イオお姉様、どうですか?」

「……うん、すごく美味しい。本当に、すっかり上手になっちゃったね。最近はボクもあまりできなくて、そう遠くない内にクーナの方が上手になりそう」


 唐揚げを一つ食べてから、依桜はそう評した。


「でも、まだまだ勝てないと思っているので、もっと頑張るのです」

「ふふ、応援してるね」

「クーナねぇのご飯、すっごく美味しいよね! ぼく大好きだよ!」

「ありがとう、ミリア。あ、零してますよ、もっとゆっくり食べるのですよ」

「てへへ、美味しくてつい」

「ははは! ミリアは元気いっぱいじゃな」

「私としては、もう少し落ち着きが欲しいですね。……まあ、そこがミリアの良いところでもありますし、いいですけどね」

「元気、が、一番」


 七年が経っても、姉妹仲は凄まじくいい。


 学園でも、姉妹で行動している光景が見られるので、名物として扱われていることが多い。


 そんな、男女姉妹の仲睦まじい夕飯を終え、食後のお茶を飲んでいると、ニアがあのことを話し出す。


「イオお姉ちゃん」

「ずず……ん、なに?」


 食事のあと、ラフな服装に着替えた依桜は、お茶を啜っていた。


 その途中、ニアに話しかけられ、そちらを向く。


「あのですね、イオお姉ちゃんは……働きすぎです」

「……え、えっと、いきなりどうしたの……?」


 突然、働き過ぎと言われ、依桜は困惑した。


 しかも、ニアはどこか諫めるような口調だったことも、困惑を加速させていた。


「いきなりどうしたの、じゃありません! イオお姉ちゃん、聞きましたよ? なんでも、職場の人に休むように言われても、休んでないって!」

「え、あ、そ、それは、そのぉ……」


 妹たちに隠していた事実を言われ、依桜は激しく動揺した。


 単純に、忙しいから休んでいないだけ、という風に言っていたのだが、実際は休むことは全然できるのに、仕事をしようとしているのだ。


 休めないから働くのと、休めるのに働くのでは全く違う。


 それを理解していたからこそ、依桜は自分が前者の意味で休んでいない、と伝えていたのだ。


 心配をかけたくなかったので。


 しかし、その隠し事が普通にバレたとあって、依桜は冷や汗ダラダラである。


「まったくもう……イオお姉ちゃん。お姉ちゃんは、一人しかいないんです。だから、イオお姉ちゃんが倒れたら、私たちが悲しみます。それに、未果さんたちも悲しみます」

「うっ……」

「そうじゃな。姉様はちと、働きすぎじゃ。休んだ方がいい」

「で、でも、ボクが行かないと……」

「大丈夫、だよ。ニアおねえちゃん、が、頼ん、でる、から」

「頼む……?」


 リルのその発言に、依桜は首を傾げた。


 あれから七年がたち、今では大人な姿の依桜だが、たまに当時のような愛嬌のある仕草をするため、妙に可愛らしい。


「イオねぇはね、大晦日から一月七日までが休みになったんだよ!」

「そうなの!?」

「はいなのです。イオお姉様が働きすぎであると、職場の方も言っていたのです」

「……だから、イオおねーちゃんにお正月休みが入った」

「い、いつの間に……」


 さすがの依桜でも、知らない間に長期休みが発生したことに驚いている様子である。


 まあ、こんなことがあれば、働いている者的には当たり前であると言えるが。


「でも、仕事が……」

「イオお姉ちゃん?」

「……あ、はい。すみません……」


 仕事があると言い募ろうしたら、謎の迫力を持ったニアの笑顔と言葉で、依桜は素直に謝った。


 七年の間で、依桜は妹たちに頭が上がらなくなりつつあった。


 ある意味、情けないかもしれない。



 そんなこんなで、大晦日。


 今日から依桜は一月七日までの連休に入る。


 そんな連休初日の朝。


「あ、もうこんな時間! い、いけないっ! 仕事に遅れちゃう!」


 と、大慌てで着替えて、リビングへ行くと。


「おはようじゃ、姉様……って、何をそんなに急いでいるのじゃ?」

「え、お仕事だよ! 急がないと――」

「イオお姉様。今日からお休みですよ?」

「お休み……? あ、そ、そう言えば……」


 大慌てだった依桜だが、昼食を運んでくるクーナに休みだと言われて、今日から一週間ほどの休みに入ることを思い出した。


「……そ、そっか、休みだっけ……あぁ、よかったぁ……遅刻して迷惑をかけるところだったよ……」


 仕事が休みだったことを思い出し、依桜は目に見えて安堵した。


 目覚ましが鳴らなくて、焦ったため、その分安堵が大きい。


「イオおねえちゃん、それほ、ど、疲れてた、という、こと」

「……ん、リルの言う通り。もう、十二時」

「ふぇ? ……あ、ほんとだ……ボク、こんな時間まで寝てたんだ……」


 スイに言われて時計を確認すると、長針と短針は12を指していた。


 ここでようやく、依桜は自分が正午まで寝ていたことを理解した。


 昨夜は、十一時頃に就寝したのにもかかわらず、十三時間も眠っているところを鑑みるに、依桜はよほど疲れていたようである。


「ふふ、イオお姉ちゃんがちゃんと休めて何よりです。目覚まし時計を鳴らないようにした甲斐がありました」

「そんなことしてたの?」

「はい。お休みの日に、目覚ましは不要ですから」


 にこにこと優しい笑顔で、そう言うニア。


 なんだかんだで、ニアが一番姉らしいかもしれない。


「そっか……それなら、ちょっと着替えて来るね。スーツのままだとあれだから」

「「「「「「はーい」」」」」」


 一度私服に着替えるために、依桜は部屋に戻った。



 それから、適当な私服に着替えて再びリビングに戻る。


 尚、あの時よりも成長し、女性の体にも慣れたためか、依桜の私服は時たま露出が多い服になりつつある。


 楽、とのことだ。


 とはいえ、今は真冬真っ只中なので、そこまで露出は少ないが。


 ……尚、夏場はミオの服装に似ている。


「そう言えば姉様」

「ん、どうしたの? メル」


 リビングに戻り、ソファーで寛いでいるとメルに話しかけられる。


「今夜、夜の祭りがあるみたいで、よかったら行かんか?」

「祭り……? あ、そう言えば、今の世界になってから、各地でそういうの増えてるんだっけ……。美天市も、やり始めたって、未果が言ってなぁ。……うん、いいね。最近みんなと一緒にお出かけが碌にできなかったし、行こっか」


 笑顔でそう言うと、六人の表情がきらきらとした期待の表情に変わる。


「本当に、行ってくれるの!?」

「もちろん。今日からお休みだし、ね。それに、最近はみんなに構ってあげられなかったから、そのお詫びも兼ねてね」

「「「「「「わーい!」」」」」」


 依桜の言葉に、六人はそれはもう喜んだ。


 大好きな姉とのお出かけ、喜ばないわけがないのである。


 しかも、祭りである。


 非日常的な催し物に行けるとわかり、喜びはひとしお。


「それなら、夜ご飯も向こうで食べる?」

「そうじゃな。そっちの方が面白そうじゃ」

「異議なしです」

「同じ、く」

「ぼくも!」

「私もいいと思うのです」

「……賛成」

「じゃあ、決まりだね。大体……そうだね、八時に家を出よっか。そのまま、初詣にも行きたいし。それでいいかな?」

「「「「「「はーい!」」」」」」


 というわけで、出かけることが決まった。



 それから時間が流れて、夜。


 全員外出用の服に着替えて、七人で外を歩く。


 大晦日ではあるものの、かなりの人が街を歩いており、誰もが楽しそうな表情をしていた。


 その上、今日は大晦日の祭りが催されており、街の至る所で出店が並んでいた。


 この祭りは、とある理由で全国的に開催されるようになったもので、美天市も例外ではなかったのだ。


 そのため、多く人に楽しんでもらえるように、という配慮により、街中に祭りの醍醐味である出店が開かれているのである。


 尚、今日は美天市内のほとんどが車の通行を禁止しており、様々な人たちが街内を楽しそうに歩く。


 そんな中、やたらと注目受ける集団があった。


 まあ……依桜たち、男女姉妹である。


 妹たちは、先ほどの説明により言わずもがな。


 しかし、七年の歳月で成長したのは、妹たちだけでなく、依桜もである。


 あの時は、まだ幼さも残ったとても可愛らしい顔だちだったが、今では背もある程度伸び、イメージ的には不定期で体が変化していた際の、大人モードが近い。


 色気が凄まじい、絶世の美女に変貌していた。


 そんな女性が、妹たちと楽しそうに話しながら歩く光景は……なんと言うか、とても尊いものである、周囲の者たちは思った。


 尚、依桜は世界的な有名人であると自覚しているため、今は変装中だ。


 変装は……高校時代と変わらず、黒髪に眼鏡と、そこだけは成長していないが。


 と、そんな七人であるため、当然良からぬことを考える者もいるわけだ。


 とは言っても、そんなことをするのは、美天市の外から来た者で、この街に住む人々は彼女ら……というか、妹組をナンパすることは、死にも等しい行為であると言われている。


 そして大晦日でお祭りという、羽目を外しそうな輩が近づき、


『ねぇ、お姉さんたち綺麗だねぇ! よかったら、俺らと――』


 軽薄そうな笑みを浮かべながら、一番近くにいたメルに触ろうとした瞬間。


「――ボクの妹たちに、汚い手で触らないでもらえます?」

『ひぃっ!?』


 依桜の迫力のある笑みと、とんでもない殺気が込められた言葉が投げかけられた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ、という効果音が見えそうだ。


 そして、依桜に殺気を向けられた輩は、その殺気に思わず腰を抜かしていた。


 圧倒的強者の殺気に、腰を抜かさない方が、今のこの世界ではレアである。


「それから……この街では、そう言うのはボクが許しませんからね♪」


 腰を抜かしている輩に、依桜はくすりと笑ってから、言外に『それをしたら容赦しませんよ』そう告げると、


『『『す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』』


 輩たちは謝りながら走り去っていった。


「ふぅ……。さ、お祭りに行こ」

「「「「「「はーい!」」」」」」


 依桜の殺気をものともしない六人の楽しそうな返事と雰囲気に、それを見た周囲の者たちは少しだけ引いた。



 それから七人は楽しく、大晦日の祭りを仲良く歩く。


 高校三年生時のとある一件以降、依桜はかなり忙しい立場になってしまったため、こうしてのんびりと過ごす時間が昔に比べて減ってしまっていたため、六人はそれはもう喜色満面である。


 何せ、次の休みの日に出かける予定があったとしても、どうしても外せない仕事が舞い込んでくる場合があるのだ。


 なんと言うか、忙しい休日のお父さんみたいな生活になっている。


 しかし今回、ようやくまとまった休みが取れて、しかも一緒に祭りを回れるのは、妹たちにとってとても幸せな時間。


 まあ、それは妹大好き通り越して、妹命な依桜からしても幸福な時間でもある。


 実際、今なんて、


(はぁぁぁ~~~~っ! 久しぶりの、メルたちとのお出かけ! お祭り! 最近は仕事に次ぐ仕事だったから、全然一緒にいられなかったけど……なんて素晴らしい時間っ! ボクの人生は、このためにあったと言っても過言じゃないよ! むしろ、みんなのために生まれてきたのでは? とさえ思えちゃう! あぁ、みんな気づけば大人っぽくなっちゃって……。メルは、魔王らしく、可愛らしくもカッコよさが現れ始めて、カリスマ性が現れ始めて可愛いし、ニアは優しくて清楚で、それでいて言う時はしっかりと言う、可愛い娘になって、リルは昔よりもはっきり喋るようになったし、何より相手の気持ちになって考えられる、思いやりのある可愛い娘になったし、ミリアは元気いっぱいで、周りにいる人たちを元気にするような、そんな太陽みたいな可愛い娘になって、クーナは常に冷静でしっかりとしてるけど、同時に家事を率先してやる家庭的な可愛い娘になったし、スイは昔と同じで口数はそんなに多くないけど、さりげない気遣いや手助けができるそんな可愛い娘になったしで、お姉ちゃん、みんなの成長が嬉しすぎるよ……。そして、そんな世界一可愛い妹たちと一緒にいられるなんて……はぁ、幸せぇぇぇ……!)


 とか思ってる。


 表面上は、みんなで仲良く出店を回っている光景を、優し気な笑みで見守っているお姉さん、と言った様子なのに、心の中は狂喜乱舞するただのドシスコン。


 未果たちのように、依桜のことをよく知る者以外は夢にも思うまい。


 まさか、こんな優しい表情で見守っている絶世の美女の心の内が、妹の可愛さでやや変態的な感想を抱き、そして狂喜乱舞しているなどと。


 七年前ですら、相当なシスコンだったのに、年月を重ねるにつれて、依桜のシスコン度は高まっているのもある。


 実は、告白されれば、相手の男を部下などを使って細かく調べ上げるし、場合によっては消そう、とか考えてしまうほどでもある。


 ……まあ、依桜は常識的で、聖女のような性格なので、暗黒面に落ちる前に、自らにかけた『妹のことで、マイナス方面に堕ちそうな時は全身を痺れさせる』という、呪い系の魔法があるので一応大丈夫である。


 ……まあ、裏を返せば、そうしなければ暗黒面に堕ちてしまう、ということでもあるが。


「む、姉様、これ美味いぞ! 食べてみるのじゃ!」

「うん、ありがとう。……あ、ほんとだ、美味しい」

「イオお姉ちゃん、こっちも!」

「こっち、も……!」

「ぼくのも!」

「私のも食べてほしいのです!」

「……同じく」

「はいはい、順番だよー」


 微笑ましい。


 全員、依桜と一緒に祭り、ということが半端なく嬉しいため、こうして我先にと依桜に食べさせている。


 百合百合しているので、周囲の男性は完全に見守りに徹し、女性も微笑ましいものをみるような目を向けている。


 全員が美少女・美女であるため、それはもう、目の保養だ。



 それから、七人は仲良く祭りを回る。


 射的をしたり、くじ引きをしたり、デザートを食べたりなどなど。


 楽しい時間があっという間に過ぎていく。


 そんな最中、依桜は少し違和感を覚えた。


 と言うのも、妙にメルたちが張り合っていたからである。


 例えば、射的では、


『誰が一番多く景品を取れるか』


 というものであったり、くじ引きでは、


『誰が一番いい賞を取れるか』


 ということもした。


 何らかの勝負ができる物は、こうして必ず勝負をし始める。


 これには、依桜も首をかしげる。


 昔から姉妹仲が良く、こういったことはまずしなかったメルたちが、なぜか勝負をしている。


 どういう事だろう?


 と、依桜は疑問に思う。


 ……が、これには、依桜が知らないちゃんとした理由が存在する。


 もともと、メルたちは孤児である。


 しかも、メル以外の五人に関しては、危うく奴隷にされそうになったことがあり、そこを依桜に救われている。


 かっこよく、それでいて可愛く、そして綺麗な依桜は、当時のメルたちにとって、それはもう魅力的に見えた。


 憧れを通り越して、恋慕の情を抱いてしまうほどに。


 最初は、ただ単純に、『お姉ちゃん大好き』という純粋な物だったのだが、これがメルたちが中学生になると、『あれ? 実はこれは姉に向ける親愛の感情ではなく、恋愛感情なんじゃ?』と思い始めた。


 結果、それは当たりであった。


 そもそも、メルたちにとっての恋愛の好みのハードルが凄まじく高い。


 言ってしまえば、依桜以上の存在でなければ嫌だ、というもの。


 つまり……可愛くて、巨乳で、強くて、カッコよくて、それでいて優しく、家庭的な存在でなければいけない。


 しかも、強さの部分に関しては、依桜よりも強い人、であるため余計に酷い。


 というか、そもそも六人全員が、依桜による英才教育を受けているため、バカみたいに強く、なんだったら依桜が勇者時代に戦った魔王よりも普通に強くなっているので、マジで笑えない。


 結果、依桜というこれ以上ないくらいの魅力的な存在は、いつの間にか親愛から恋慕へと変わったのである。


 では、これがなぜ勝負関わってくるかは……明白だ。


 誰が、依桜と恋人になるか、というもの。


 しかし、姉妹仲は普通に……というか、かなりいいので、できれば全員が勝ちでありたい。


 でも、それでは依桜が困ってしまう。


 だから、一人に絞るためこうして勝負していたのである。


 ……尚、勝負の期限は、妹全員が高校を卒業するまでである。


 最終的に、一番勝利した者が、依桜に告白する、みたいなことになっているのだ。


 ちなみに、依桜はアプローチが始まってから、今まで以上に懐くようになったなぁ、と的外れなことを思った。


 と、まあ、そのようなことがありつつも、時間は流れていき、もうすぐ年越しという状況に。


 屋台で年越しそばを買い、人気の少ないベンチで仲良くそばを食べる。


 それを食べ終えたら、七人は静かで、それでいてどこか心地良い時間を過ごす。


 そこで、ふと、依桜が口を開いた。


「……こうして、みんなと一緒にのんびりできて、ボクは嬉しいなぁ」


 軽く笑みを浮かべながら、しみじみとした口調でそう零す。


 いきなりどうしたのか、そう思った六人は依桜に視線を向けた。


「メルとはクナルラルで出会って、ニアたちとはその道中の小屋で。正直、あの時はボクに妹ができるなんて思ってなくてね。それが今こうして、みんなと幸せな時間を過ごしてる。これがもう、本当に嬉しくて……」

「姉様?」

「……だからまぁ、こうして一緒にいると、ふと思うんだよね。いつかみんなが、ボクの元から離れて、好きになった人と一緒に暮らしていくんだろうな、って。……だからこうして、みんなと仲良く過ごせるのが、もう残り少ないのかなぁ、なんて思うと、ちょっと寂しくなっちゃうんだ、ボク」


 突然の独白に、六人は困惑した。


 どこか寂しそうに笑いながら話す依桜の表情が、なぜだか強く目に焼き付く。


「……まぁ、みんなにはみんなの人生があるし、ボクのわがままで道を閉ざすわけにはいかないからね。みんなは、自由に生きてほしいな。……なんて、あはは。いきなり、何を言ってるんだろうね、ボク。あ、今の話は忘れていいからね? お姉ちゃんのしょうもないわがままだと思って――」


 そこまで言いかけたところで、六人は立ち上がると、ベンチに座る依桜の前に並んで立った。


「みんな?」


 いきなりどうしたのか、そう頭に疑問符を浮かべる依桜に、六人は勢いのままに告げた。


「「「「「「好きですっ!」」」」」」


 と。


「え、えーっと? あ、うん。ボクも好きだよ」


 突然なんで好きと言われたのかわからなかったが、多分自分の言葉を受け取って、感謝の気持ちのような意味合いで言ったのだろうと、依桜は思い、自分も好きだと返した。


 しかし、ここで依桜は自身が想像していなかった言葉を投げかけられた。


「そうではなく……儂らは、姉様が恋愛的な意味で好きなのじゃ!」

「…………ふぇ!?」

「というより、イオお姉ちゃん以外は好きになれないと言いますか……」

「イオおねえちゃん、の方、が、ずっと、ずーっと、魅力、的!」

「イオねぇ以外は嫌だよ!」

「イオお姉様が一番なのです」

「……惚れてる」

「……え、ええ……ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?」


 今が深夜であるにもかかわらず、依桜はそれはもう、素っ頓狂な声を上げた。


 それはそうだろう。


 まさか、突然告白されるなどとは、夢にも思わなかったのだから。


「と、突然、ど、どど、どうしたのっ……? も、もしかして、さっきの言葉に気を遣って……?」


 動揺しまくった依桜は、自分が考えられる可能性の一つとして……というか、100%そうだろうと言う可能性を口にした。


 しかし。


「いや、儂らはずっと姉様のことが好きだったのじゃ」


 瞬時にその可能性はメルによって切り捨てられた。


「そ、そうなの!? え、い、いつから……?」

「中学生くらいですね」

「そ、そんなに前から……?」

「「「「「「うん」」」」」」

「そ、そう、なんだ……」


 まさかの事態。


 依桜はさっきから動揺しっぱなしだ。


「そ、れで、誰を、選ぶ、のっ?」

「ふぇ?」

「ぼくたち、みんなイオねぇが大好き」

「でも、イオお姉様は一人しかいないのです」

「……だから、一人選んで」

「何その究極の選択!? ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってね!?」


 まさかの選択肢を出され、依桜はさらに混乱した。


 いきなり告白されただけでも驚きなのに、いきなり一人を選べと言われ、混乱してしまう。


(ど、どどど、どうしよう!? いきなり告白されちゃったんだけど!? みんな、いつか恋人ができるんだろうなー、とか思ってたら、ボクがされちゃったよ!? え、え? 世の中のお姉ちゃんたち、もしくはお兄ちゃんたちは、こんなことを言われるの……? って、さすがにないはず……。で、でも、見る限りみんな本気、だよね……? じゃ、じゃあ選ばなきゃいけないの!? ……む、無理無理無理無理ぃぃぃぃっ! みんな可愛いもん! ボクにとって、みんなは選びようのない、全員が一番の存在! そこに、誰か一人だけを選ぶなんて、ボクにはできないっ……! そ、それに、日本では…………って、あ、あれ? 日本、では……? ……はっ! そ、そうだよ! ないなら、作ればいいんだ! 日本でも一夫多妻、あ、一妻多妻? って、どっちもでいいよね。……うん、作ればいいんだよね! それ! うん、そもそも、選ぶ必要なんて、ボクにはないです! そもそも、ボクにみんなの告白を受け入れる以外の選択肢はないし、大好きだもの。問題なしです!)


 頭の中で考えまくっていると、最終的に『法律を作ればいいじゃない』という発想に至った。


 まあ、マジで今の依桜にはそれほどの権力が存在するので、洒落にならないが……。


 ともあれ、依桜の中で答えが出た。


 大きく深呼吸をして、依桜は目の前でドキドキと、不安で少し震えている妹たちを見据えて、口を開いた。


「ボクは……みんなを選ぶよ」

「「「「「「え?」」」」」」

「そもそもボク、みんなの中で誰が一番好き、というのはないの。だって、みんなが一番なんだもん。だからね、誰か一人を選ぶんじゃなくて……みんなを選ぶよ」


 優しく微笑みながら、依桜は自分の答えを口にした。


 その結果、


「姉様!」

「イオお姉ちゃん!」

「イオおねえちゃんっ!」

「イオねぇ!」

「イオお姉様!」

「……イオおねーちゃん!」


 全員、感極まって泣き出し、そして抱き着いてきた。


 昔は小さかったが、今は大きくなっているので、ぎゅうぎゅうである。


 しかし、依桜にとっては、凄まじく幸せな状況であった。


「ふふ、じゃあ、これからは恋人、ということになるのかな?」


 そんな依桜は、全員にそう尋ねる。


「「「「「「うんっ!」」」」」」


 それに、六人は曇り一つない綺麗な笑顔で肯定した。


 それと同時に、市内放送による、新年を迎えたという放送が流れた。


「あ、新年になったね。……え、えーっと、それじゃあ……明けましておめでとう。今年も……というより、今年から、新しい関係として、よろしくね」


 抱き着く妹たちに、依桜は微笑んでからそう口にし、


「「「「「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」」」」」


 六人も幸せな笑顔で、そう答えるのだった。



 年を跨いで新しい関係性となった姉妹たちはその後、軒並み寿命と言う概念をぶっ壊して、末永く幸せに暮らした。

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