大晦日特別IFストーリー【ルート:ミオ】
師匠――ミオさんとの関係が、師弟から恋人との関係に変わってから、早くも三年弱。
ボクは学園を卒業して、大学生に。
とは言っても、様々な事情で休むことが多いんだけどね……。
そして、付き合い始めてから、約一年と少しの間は、ボクとミオさんは、教師と生徒の恋愛という、ある種のタブーめいた状態でした。とは言っても、そもそもボクと師匠の関係は、異世界からのものであって、法の世界からのものじゃない。
……まあ、問題がないとは言い切れないけど。
でも、ボクが通っていた、叡董学園は私立の学園であり、学園長先生が謎すぎるくらいに権力を持っているため、いくらでも隠せる、とのこと。
そういうのは、後ろめたくもあるけど……付き合えるのなら、という気持ちでお願いしました。
それに、ボクとミオさんは女性同士なので、問題が起こりにくい、と言うのも無事だった要因の一つだったと思います。
……とはいえ、仮にボクが男だった時は、裏でこっそり付き合って、卒業したら堂々とする予定でもあったし、今の状態でも問題があったら、異世界で暮らす、という事にもなっていたので、今の状態には満足です。
そんな、ボクとミオさんとの関係は……割と周囲にバレていました。
まあ、うん。なんと言いますか……。
なるべく、わからないように以前と同じような接し方をしていたんだけど、ボクの変化ってわかりやすかったみたいで、学園にいる人たちにはバレていました。
でも、全然叱責されることはなく、むしろなぜか温かく見守られていたことに関しては、ちょっと気にはなったかな。
だけど、こうして何事もなく過ごせるのはありがたい限りです。
そんなこんなで、ボクとミオさんは平穏で、どこから騒がしい、そんな日常を送っていました。
高校卒業後は大学生になって、卒業と同時に、ミオさんと一緒に暮らしていました。
メルたちは、一緒に行くかな? と思っていたんだけど……。
『ねーさまとミオの邪魔をするわけにはいかないのじゃ』
『そうです! イオお姉ちゃんの邪魔はしたくないです!』
『わたし、も』
『気にしないで大丈夫だよっ』
『幸せになってほしいのです』
『……応援』
と言った感じで、なぜか応援されまして……それで、二人きりでも生活できている、というわけです。
とはいえ、ボクとしてもまだまだ幼いみんなのことは心配なので、週に一回か二回は帰っていて、みんなのお世話をしています。
最低でも、高校生になるまでは見守りたいので。
と、そんなことがありつつも、ボクとミオさんは大晦日と言う日をのんびりと過ごしていました。
「……しっかし、あたしらが結婚して三年弱。あの騒動から二年弱。こうしてお前と一緒に暮らすようになって、一年弱。……案外、短いようで長かったな」
新居のリビングにあるソファーで、傍から見たら横柄な態度で座るミオさんが、上を見上げながらポツリと呟いた。
「ふふ、そうですね。でも、いいじゃないですか。今までのことも、思い返してみればいい思い出です」
「ふ、そうだな。……あたしとしても、まさかこんなことになるとは思わなかったよ。ミリエリアが亡くなった後のあたしに見せてやりたいくらいだ。信じないだろうが」
「あはは、でも、意外と信じるかもしれませんよ?」
「そうか?」
「はい」
にこにこと、ミオさんの言葉を肯定する。
きっと、ミオさんなら一瞬だけ疑った後信じると思うもん、ボク。
「ってかお前、改めて思うが、よかったのか?」
「何がですか?」
「あたしと結婚したことだよ。……学園卒業後、お前相当苦労してただろ? そこまでして、あたしと結婚する理由あるのか? と思ったし、何より……お前の立場的な問題もある。当時だって、批判されまくったろ? お前」
「あ、あはは……懐かしい話ですね。でも、大丈夫ですよ。ミオさんと一緒に暮らしたいからあそこまで頑張ったんです。だから、後悔もしていませんよ」
「……そうか。それならよかったよ。あん時のお前、なんと言うか……やる気が半端なかったからなぁ……」
「それはもちろん。ミオさんと堂々と一緒にいられるためなら、ボクは使える手を全て用いましたから」
「……お前が誰かを好きになると、あそこまで暴走するとは思わなかったがな」
呆れ半分、笑い半分でミオさんがそう話す。
実はボクたち、色々あって結婚しました。
最初は海外で、と思ったんだけど……どうせだったら、日本の法を改正してしまおう、と思い至って、結果として同性婚を認めさせました。
あの時は、本当に大変だったよ。
色々な妨害もあったし、殺し屋さんに狙われるし、誹謗中傷されるし、テロリスト集団に協力を申し出があったしで、本当に大変でした。
その時は、ボクの人脈と能力をフルに活用して、大体一年かけて達成させました。
そうして、法を改正してほとぼりが冷めた頃に、ボクとミオさんは結婚。
それと同時に、二人の新居に引っ越しました。
「で? お前は大学の方はどうなんだ? 上手くやってるのか?」
「はい、大丈夫ですよ。あっちの仕事も忙しくて、行けない時もあるんですけどね。でも、その辺りはみんなのフォローもあるので」
「ならよかったよ。ってか、お前ら示し合せたかのように、同じ大学に進学したもんな。ありゃ、面白かったよ」
「あ、あははは」
ミオさんが言ったように、ボクが現在通う大学には、ボクだけじゃなくて、未果、晶、態徒、女委、エナちゃんという、あの時と変わらないメンバーが通っています。
学部は微妙に違うけど、サークルを立ち上げて、活動する時は一緒に活動しています。
内容は……まあ、サークル、というより会社に近いんだけどね。
なんだかんだで、三年生時の『変革の聖夜』という大きな事件の後……というより、その前からすでに似たようなことをしていたんだけど。
で、ボクたちが大学を卒業したら、そのサークルでの活動を基にしつつ、会社を興すことになっています。
社長はボク……ということで満場一致。
おかげで、大学生なのに学業よりも別の部分で時間を割くことになっています。
もちろん、みんなも手伝ってくれてはいるけど。
「それで、ミオさんは?」
「あたしか? あー、そうだなぁ……あたしも、あん時のことが原因で、有名になっちまったからな。おかげで、大忙し。……ただまぁ、次代の育成は順調だぞ。いい感じの奴が育ってる。……これなら、お前がいなくなった後でも問題ない、そう思えるくらいにな」
「そうですか。それなら、そうなるように祈らないとですね。ボク、今のところの将来の夢って、ミオさんとのんびり、田舎で暮らすことなんですから」
お茶を淹れて、ミオさんの隣に座りながら、ボクは自分の夢を話した。
それを聞いたミオさんは、軽く笑うと、それに対しての気持ちを話す。
「ははっ、今のお前からすりゃ、随分とまぁ慎ましい夢だな。だが……そうだな。その夢は、あたしにとっても最もでかい目標だ。むしろ、それが一番だな。今のこの世界じゃ、あたしらの力はほぼ必要なくなる。そうなりゃお役御免で、あたしらものんびりできるってもんだ」
「そうですね。ボクも、あの時は本当に大変でしたよ。でも、あれがあるからこそ、今があるわけですから」
「だな」
そこで一旦会話が途切れ、ボクとミオさんとの間に静かな時間が流れる。
とは言っても、その時間が嫌なんてことはなくて、大好きな人とのこうした静かな時間は大好きです。
ある意味、ボクが求めていた穏やかな時間、というのは今の時間のようなことを指すから。
ちらっと横を見てみると、ミオさんは穏やかな表情をしていました。
そんなミオさんに、ボクは何かこみ上げるものがあって、ぽふっと、頭をミオさんの肩に乗せる。
「どうした? イオ」
「ミオさんのその顔を見てたら、こうして甘えたくなっちゃって……ダメですか?」
「悪いわけないさ。むしろ、膝枕でもしてやろうか?」
軽く笑みを浮かべながら、優しくそう言われて、ボクはつい、
「……じゃ、じゃあ、お願いします……」
ミオさんの提案に甘えることにした。
「あぁ。ほれ、きな」
「し、失礼します……」
なんとなくそう言ってから、ボクはミオさんの膝に頭を乗せて寝転ぶ。
柔らかくて、温かくて、張りがあるミオさんの膝枕は、なぜか心の底から安心できる魔力のようなものを持っていた。
だからたまに、こうして膝枕をしてもらっています。
逆の時もあるけど。
「どうだ?」
「……落ち着きます」
「そうか。……にしても、お前ほんと、甘えん坊になったな」
ボクの頭を撫でながら、ミオさんは優しい口調で指摘する。
「そ、そう、ですか?」
「あぁ。だってお前、あたしと付き合う前とか、こうならなかったろ? 強いて言や、小さくなった時と、風邪引いた時くらいだろ? それ以外は基本、お前は甘やかす側だったしな」
「あー……そうかも、しれないですね」
「かも、じゃなくて、実際そうなんだよ。……ま、あたし的には、あまり甘えなかったお前がこうして甘えるってのは、いい変化だと思うぞ? お前、あの頃は頑張りすぎだったしなー。適度に息抜きしてたとはいえ。実際、それが原因で高校二年の時には、あんなことにもなったし」
「あ、あははは……あれは、その……反省してます……」
ミオさんに言われた時のことを思い出して、ボクは苦笑と共に謝った。
あの時は、ミオさんにすごく助けられたもんね……。
もし、ミオさんがいなかったら、今のボクはいないわけで。
……そう考えたら、大恩人だよね、ミオさん。
それ以前に、異世界で魔王を倒せるくらいにまで強くしてくれた時点で、大恩人なわけだけど……。
「そうだな。反省しろ」
「はぃ……」
「……だがまぁ。今後はそう言う事もないだろ。もう平和なんだ。多少の騒動はあるかもしれないが、今のお前にとっては敵でも問題でもなんでもない」
「そう、ですね。もちろん、油断はしませんけど……」
「それでいい。……にしても、平和だなぁ」
「そうですね。今日は大晦日ですから」
「たしかに、魔の世界における年末ってのも、なんだかんだで平和だったな。その辺は、世界共通なんかね?」
「さぁ……でも、誰もが平穏で、おだやかな年末を望んでいるじゃないですかね? こういう何気ない日が、最も手に入れにくいものですから」
「……だな」
ミオさんの膝枕で寝ころびながら、窓から見える外の光景をなんとなく見つめる。
今年の大晦日は雪が降っていた。
外には、雪で遊ぶ小学生くらいの子供たちが、楽しそうにはしゃぎまわっているのが見える。
ああして、子供たちが楽しそうにしている光景を見ると、なんだかほんわかと温かくなるね。
三年生の時のことを思い出すと殊更に。
「っと、そうだ。イオ、どうだ? 今日の夜は酒でも飲まないか? お前も書類上で二十歳になったしよ」
「あ、いいですね。ボク、ミオさんと一緒にお酒を飲んでみたかったんですよ」
ミオさんの提案に、ボクはその案に賛成した。
実年齢で言えば、高校二年生の時で二十歳にはなってたけど、法の世界換算では十七歳だったからね。
それでようやく、二十歳になったので堂々とお酒が飲めます。
どうせなら、初めてのお酒はミオさんと一緒がいいからね。
「なら、決まりだ。後で、あたしの秘蔵の酒でも出そう。つまみは……」
「ボクが作りますよ。でも、今日は大晦日なんですし、年越しそばは食べてくださいね?」
「当り前だ。そもそも、あたしがイオの料理を食わない、なんてことは絶対しねぇよ。それも生き甲斐の一つなんだからな」
「料理が生き甲斐、というのもちょっと恥ずかしいですけど……きっと、満足させて見せますよ」
「あぁ、楽しみにしてる」
「はい」
ここで再び会話が途切れて、ボクたちは心地よい静かな時間を過ごした。
のんびりとした時間を過ごして、夜になった頃、ボクとミオさんは年越しそばを食べて、その後晩酌となりました。
「よし、飲むか」
「はい。……うーん、消毒とか、暗殺者時代の時のあれこれで、お酒の匂いはよく嗅いでいましたけど……こうして自分が飲むとなると、ちょっと不思議な気持ちです」
「ま、最初はそんなもんだ。あたしだって、最初はお前みたいな感じだったしな」
ボクの気持ちに、ミオさんは頬杖を突いて微笑みながらそう話す。
「そうだったんですか?」
「あぁ。あたしだって、最初から飲めたわけじゃないさ。ただ、一口で世界が変わったと思ったがな。酒、うめぇ、と思ったし」
「そ、そうなんですか」
「ま、お前も飲んでみりゃわかる。ほれ、飲め飲め」
「はい、いただきます」
ミオさんに注いでもらったお酒を、一口飲む。
最初だから、ということでまずは弱いお酒から。
そして、一口飲んでみると……。
「あれ? あまりジュースと変わりませんね……」
飲んだ感想は、あまりジュースと変わらなかった、というものでした。
なんと言うか……アルコールの匂いや味がするジュース、かな?
「まあ、数パー程度じゃそうだな。世の中には、それで酔っ払う奴もいるが……お前は大丈夫そうだな」
「みたいですね。……そもそも、猛毒無効がある時点で、酔わないとは思うんですが……」
「その辺、そいつの管理次第だな。正直、毒無効とか、毒系に対する耐性などが付く奴はな、アルコールに対しての効き目が薄い」
「そうだったんですか?」
「あぁ。だから、仮に毒無効を持っていても、酒が弱い、なんて奴はいる。だが、幸いお前は大丈夫そうだな」
「……みたい、ですね。特に、頭がふわふわする、なんてこともないみたいですし。あ、でも、ちょっとだけ熱いかも?」
なんだか、体がかっか、というか、ぽかぽかというか……少し熱いかもしれない。
飲むだけで、体が熱くなるのって、不思議……。
「その程度じゃ問題ないな。……よし、じゃあ、次は、この酒を飲んでみるか?」
「はい、いただきます」
「おし、じゃあ、ほれ」
今度は、別のお酒を飲むことに。
こくり、と一口飲むと、冷たいはずのお酒が、喉を焼くかのように、熱くさせた。
「これ、喉にきますね……」
「はは、飲み慣れてないと、少しびっくりするかもな。で、どうだ? 味は」
「あ、はい。そうですね……さっきより、アルコールを感じます。でも……美味しいですね」
「それならよかったよ。他にもあるんだが、どうする?」
「せっかくですし、色々な物を飲んでみようと思います」
「そうかそうか! いやぁ、好きな奴と酒を飲むっての、ちょっとばかし憧れがあってな。こうして飲めるのは嬉しいもんだ」
「ミオさんにも、そんな憧れがあったんですね。じゃあ……今日は、心ゆくまで付き合いますよ」
「お、さっすがイオ! じゃあ、じゃんじゃん飲むぞ!」
「はい!」
そうして、ボクはミオさんに最後まで付き合うべく、ミオさんが取り出した、お酒に手を出し始め……記憶がそこで途切れた。
「あー……これは、なんと言うか……うん、こいつ、こうだったのかー……」
イオと酒を飲み始めてから一時間と少し。
イオが美味しい美味しいと言いながら、美味そうに酒を飲むもんだから、あたしも嬉しくなって、ついイオにいろんな酒を出していたんだが……。
「こく、こく、こく……ぷはぁっ、これ、おいひいれふね~……ひっく」
イオは、それはもう……べろんべろんに酔っていた。
最初こそ、いつもの柔和な笑みを浮かべながら、あたしと一緒に酒を飲んで、つまみを食べていたんだが……途中から少し様子がおかしくなってきた。
最初は、顔が赤くなる程度だったんだが、次第にいつもの優し気な笑みではなく、とろーんとした笑みに変わっていった。
その時点で、『ん?』と思ったが、嫁と一緒に酒が飲めるってのが嬉しかったんで、気にしないようにしていたら……この様だ。
「あー……イオ? お前、酔ってるだろ? だから、もう飲むのをやめた方が……」
「なにをいうんれふか~……! ボクはぁ、じぇーんじぇん、よっれまへんよ~っ! うっく」
アルコールで真っ赤になった顔で、ぷりぷりと怒るイオ。
しかし、酒を飲む手は止めない。
「酔ってる奴は、自分で酔ってないとは言わん。と言うかお前、呂律回ってないからな?」
まあ、なかなか見られない姿なんで、可愛いとは思うがな。
「せはいは、まわっれま~ふ! あははははっ!」
「会話が噛み合ってないぞ!?」
やべーよ。
あたし、てっきりこいつは酒に強い方だとばかり思ってたが……バカ弱いじゃねーか!?
顔真っ赤だぞ!? 呂律回ってないぞ!? 話も嚙み合ってないし、突然笑い出すしで、典型的な酔っ払いになってやがるっ……!
しくじったな……もう少し、様子見しながら飲ますべきだったか……。
「みおしゃーん♥」
「うおっ!? い、いきなり抱き着いてどうした!?」
「えへへぇ~、あっらは~い……」
どうしたものかと頭を悩ませていたら、突然イオが抱き着いてきた。
しかも、嬉しそうにすりすりと頬ずりしてくる。
な、なんだっ、この可愛い生き物はっ……!
普段以上に甘えん坊なんだが!
「みおしゃん、だいしゅきぃ~……」
「んぐふっ!」
畜生! 好かれているとわかってはいても、こうもドストレートに言われるのはクッソ嬉しい!
しかも、酔っぱらいながらだから完全なる本心!
こいつめ、恋人になって、こうして結婚するまでで約三年……まだまだポテンシャルがあったと言うのか!?
「みおしゃんは、ボクのころ、しゅき……?」
「――ごふっ」
だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
マジでなんなんだよ、この可愛い生き物はよぉ!?
上目遣いはしてくるわ、その瞳は潤んでるわ、なんか甘え声で訊いてくるわで、こいつはあたしを萌え殺す気か!?
あたしの、ライフは割と0近いぞ!?
舌ったらずなのがポイントたけぇ!
しかもこいつ、今二十歳! 大人! 大学生!
なのになんで、可愛いの方にステータスが割り振られてるんだよ!
おかしいだろ!?
「……きらい、なの……?」
はっ! あたしが心の中で叫んでいる内に、イオが泣きそうに!
「そ、そんなことはない! 好きだ! 超好きだ! ってか、イオが好きだから、あたしはお前と一緒にいるんだぞ?」
「……わーい! みおさんに、しゅきって言われら~っ!」
「――……」
あたし、今日死ぬかもしれん……。
そうかぁ……こいつって、酔っ払うと、精神年齢が幼くなるのかぁ……。
……何それ、最高じゃねーか。
ということはつまり、感情表現がドストレートってわけだろ?
あ、いや、そもそも酔っ払うと、嘘が付けなくなるか、普通。
「んふふ~……すりすり……」
「んんんっ!」
あかん……これはアカン奴……。
嬉しそうに、あたしの体に顔をうずめるイオとか、アカン奴……。
可愛いという言葉が、限界を超えて全く別の言葉になろうとしている気がする。
「みおしゃん……」
「あ、あぁ、なんだ?」
いちいち、しゃんになってるのが可愛いじゃねーか此畜生。
「みおしゃんは……ずっと、ボクといっしょ……?」
「ん? それは、死ぬまで、ってことか?」
「ぅん」
「なんだ、そんなの当り前だろ? あたしが今更お前を手放すなんて、ないない。お前以上に可愛い奴も知らないし、愛せる奴も知らん。だから、心配するな。あたしはずっと、お前の傍にいる」
心のどこかで心配していたことだったんだろう。
それが、酔っ払う、という状態に陥ったことで、イオの口からその心配が出たみたいだ。
だからあたしは、安心させるために、あたしの本心を口にした。
その結果、イオの表情が目に見えて明るくなる。
「……ずっと、いっしょ、だよ?」
「あぁ」
イオの言葉に、あたしは短い肯定でもって返す。
すると、イオは突然目を閉じ、こちらを見上げてきた。
……ふむ。これはあれか。
キス待ち、という奴だな。
しかも、いつものキス待ちじゃない。
いつもは、緊張した面持ちなんだが、今のイオのキス待ちはそうではなく、なんか、こう……せがんでいるのが丸わかりだった。
なんと言うか、可愛い。
いや、普段のイオのキス待ちも可愛いんだが、今の状態は、なんて言うんだろうな……こう、純粋な魅力、と言うべきか。
普段はあれだ。綺麗なんだ。
あいつは、この約三年で成長した。精神的にも、肉体的にも。
だから、結果として、こいつとキスをするとなると、昔の純粋なイオというより、大人に成長したイオの、少し不純とも言えるものになる。
その不純な部分が無くなり、純粋なだけのイオがそこにいるわけだ。
……可愛すぎる。
よし。するか、キス。
「みおしゃん……」
「あぁ、イオ……ん」
「んん……んふぁ……はぁ」
酔っ払い状態にイオとのキスは……酒の味がした。
まあ、うん。なんだ。当然っちゃぁ、当然だな……。
あたしも、酒飲みまくったし。
と、あたしがそんな感想を抱いていると、ボーン、ボーン、と時計が鳴り出した。
時間を見れば、いつの間にか日を跨ぎ、新しい一年へと変わっていた。
「新年、か。……ともあれ、だ。まずは、明けましておめでとう、イオ。今年も、よろしくな」
あたしは、目の前であたしを見上げる最愛の女に、ふっと笑みを浮かべてそう口にした。
それにイオは、無邪気で、だが、どこか妖艶な笑みを浮かべて、
「……よろしくおねふぁいひまひゅ」
呂律の回らない舌で、そう返すのだった。
後日、イオは二日酔いになっていた。
どうやら、酔っていた間の記憶はなくなるタイプだったらしく、憶えていなかった。
ま、アレに関しては憶えてなくてもいいだろと思って、あたしは記憶を見せないことにし、あのイオは胸の中にしまっておくことにした。
そして、その後のあたしたちと言えば……平穏で、のんびりとした幸せな生活を送っている。
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