大晦日特別IFストーリー【ルート:恵菜】

 ボクとエナちゃんが友達兼アイドルのパートナーという関係から、恋人になって早一年弱。


 エナちゃんと恋人になってから、ボクは本格的にアイドルとして活動することになりました。


 エナちゃんは、今まで通りでもいい、そう言ってくれていたんだけど……これは、ボクなりのケジメのつもり。


 だって、世間一般からすると、ボクは一応エナちゃんの所属する事務所にいることになってるけど、実際はそんなことは一切なく、無所属でアイドルとして活動している存在だったから。


 あの時と言えば、内心マネージャーさんに怒られるかなぁ……とか思ったんだけど、


『おめでとう、エナ! よくやったわね!』


 こんな風に、楽屋に戻るなり、エナちゃんを祝っていました。


 どういうこと!? と、ボクの頭の中にはそんな疑問が渦巻いていたけど、事情を聞いたら、マネージャーさんがあそこで告白するように言っていたみたい。


 あー、だからあの時だったんだ、告白、とその説明で謎だったことがようやく腑に落ちた。


 それでその後、ボクは少しの間考えさせてもらう時間を貰って、今後のことについてじっくり考えた。


 その結果が、本格的にアイドルとして活動する、という事だったわけです。


 とはいえ、ボクはボクで、学園では生徒会長をしているので、さすがにエナちゃんと同頻度の活動はできない。


 あの学園の生徒会長、ちょっと忙しいからね……。


 あと、なぜか生徒会長の承認印が必要な書類とかも平気であるし。


 なので、ボクが所属するという事自体は、前以上に活動することが増えたけど、エナちゃんほどではない、そのような状態になっています。


 一応、本業は学生なので……。


 あれ? でも、本格的に活動したら、そっちが本業になるのかな……?


 ま、まあ、いっか。うん。


 それに、変化は他にもあったりします。


 と言うのも……ボクの素性がバレました。


 あ、いや、正確に言うとボクと言うより、『いのり』としてのボクだね。


 これに関してはボクとエナちゃんが軽率だったと言いますか……恋人同士になったのがうれしくはあったんだけど、さすがに日常生活でいつも以上にべたべたしたらまずい、ということで最初の内は自重していたんだけど……次第にその自重が薄れて行って、最終的に――。



「ねね、依桜ちゃん。放課後、スイーツ食べに行こ?」

「いいよ。最近エナちゃん頑張ってたもんね。今日はご褒美で、ボクが奢っちゃうよー」

「いいの!?」

「もちろん。本当は、ボクも一緒にいてあげたいんだけど、生徒会長だからね。その分ということで」

「わーいっ! 依桜ちゃん大好きぃっ!」

「っとと、ふふ、まったくもう……ボクも大好きだよ」



 ――などというやり取りを、学園の廊下でしちゃいまして……。


 ボクとして、女の子同士での言葉だったし、大丈夫と思っていたんだけど……まあ、ダメでしたね。


 どうあがいてもアウトでした。


 なんでバレたんだろう、とボクが焦り半分疑問半分で口にしたら、エナちゃんが苦笑気味に説明してくれた。


 なんでも、


『うちと依桜ちゃんの雰囲気、恋人っぽかったからね……』


 だそうです。


 言われてみればたしかに、お互い顔は赤かったし、明らかに大好き、という言葉に友達的な関係性以外の物が見え隠れしてたもんね……。


 それなら仕方ない、よね。うん。


 ボクたちが軽率でした。


 その時のやり取りの次の日なんて、やたら祝福されましたよ。


 クラスメートの人から、生徒会の人、果ては先生方からも言われる始末。


 さすがに、そこまで祝福されると、すごく気恥かしくて……。


 だから、次の日からはしばらく恥ずかしかったです。


 そして、これがどうやって、いのりの素性がバレたかと言えば……まあ、うん。


 エナちゃんと恋人である、という事実が問題だったね。


 エナちゃんがボクに告白して、カップルになったあのライブは、瞬く間に有名になった。


 そもそも、エナちゃん自体が大人気アイドルであるため、当然学園にもファンはいるわけで……。


 そして、素性のわからない恋人であるいのりの正体は誰だ、そう思われていたわけだけど……それがここに来て、ボクがいのりであるとバレてしまいました。


 何せ、ボクとエナちゃんが恋人同士であるということは、いのりはボクなのでは? という疑いが出るも同然。


 だからバレました。


 それに、あの一件は何と言いますか……エナちゃんはともかくとして、実はかなり心配したことがあったり。


 それは……人気の低下。


 アイドルが恋人を作る、もしくは結婚したりすると、どうしてもファンを辞めてしまう人が出てくると思います。


 実際、有名なアイドルの人が結婚した途端、一部でプチ炎上のような状態になったり、過激な人たちによる不買運動じみたことが起こったり、もっと酷い時だと殺害予告のようなものを送ったりする人が出るような、そんな状態になりかねない、ちょっと怖い事態。


 だからこそ、ボクはエナちゃんに何か危険が及ぶんじゃないか、そう思っていたんだけど……ボクが想像していたこととは真逆のことが起こりました。


 簡単に言えば、ファンが激増しました。


 ボクとエナちゃんの。


 それにはいつも天真爛漫で、滅多なことじゃ本気で驚かないエナちゃんでも、本気でびっくりしていました。


 もちろんボクも。


 どうして? と思ったボクたちは、芸能人としては禁忌である、エゴサをすることに。


 その結果わかったことは……。


『マジもんの百合アイドルとかいろんな意味で新しすぎだろ!』

『やっべー、二次元しかないと思ってたことが、三次元で起こってる……これは、ファンになるしかねぇ!』

『百合カップルアイドル……最高ですなぁ!』

『くっ、最初から追ってた奴が羨ましい! ってか、その瞬間を見ていた奴らが妬ましい!』


 などなど、ボクとエナちゃんが恋人同士になった結果、ファンが増えたみたいだった。


 普通、同性同士のカップルになろうものなら、誹謗中傷などが発生しそうなのに、実際は誹謗中傷の方が限りなく少なく、応援する声の方が多かった。


 これには、ボクもエナちゃんもお互いに顔を見合わせて苦笑い。


 でも、ファンの人たちや、あのライブ以降にできたファンの人たちがいい人だとわかり、ボクたちは嬉しくなった。


 だって、ここまで祝福されることになるとは思わなかったから。


 だけど、ボクたちの予想を裏切るかのように、祝福されて、ボクたちは喜んだ。


 学園でも、堂々と恋人として生活できたしね。


 あ、だからと言って未果たちや、メルたちのことをおろそかにはしていないですよ?


 大切な人たちだもん。


 たまに、みんなで遊びに行ったり、メルたちとだけで遊びに行ったりもしてるからね。


 ……まあ、それが原因なのかわからないけど、学園の人たちの間で、実はボクがハーレムを作っているのではないか? という噂があるみたいだけど……。


 き、気のせいだよね! きっと! うん!


 ……さて、そんなこんなで、ボクとエナちゃんの関係から十か月と少し経過し、大晦日。


 学園の方もクリスマスの数日前から冬休みに入り、ボクも生徒会長ではなくなっているのでかなり身軽に。


 なので、その後からエナちゃんと一緒に過ごしたり、アイドル活動をしたりと、色々しました。


 クリスマスライブとかもしたしね。


 それから数日間も次のライブなどの準備もして過ごしていた、大晦日の前日、十二月三十日。


 ボクはエナちゃんと一緒に事務所に呼ばれていました。


「「ライブ配信?」」


 ボクとエナちゃんが一緒に事務所に行き、マネージャーさんと個室で話すなり、マネージャーさんに『ライブ配信をしてほしい』と言われ、ボクとエナちゃんは揃って首をかしげて聞き返していました。


「えと、マネージャー。それって、あれかな? 大晦日にゲリラライブをする光景を動画サイトなんかで配信するの?」

「いえ、そう言うライブ配信じゃないわ。私が言っているのは、所謂年越しライブね。あぁ、ライブと言っても歌って踊るようなものではなく、ファンの人たちと雑談しながら、年越しをする配信をすることよ」

「それを、明日、ですか?」

「そ。どう? 服装とかも特に指定はないし、ラフな格好でいいわ。まあ、一応アイドルだし、TPOをわきまえた服装で臨んでほしいけれど」


 その話を聞いて、ボクとエナちゃんはなるほどと頷く。


 意図はわからないけど、ちょっと楽しそう。


 そしてそれは、エナちゃんも思ったみたいで、いつもの楽しそうな笑顔を浮かべていました。


「それで、どう? やってくれる?」

「やりますっ!」

「やるっ!」


 ボクとエナちゃんが食い気味に了承すると、一瞬驚いたものの、すぐに笑みを浮かべる。


「ありがとう。……ま、実を言うと、あなたちが了承する前から既に、チャンネルの開設とか告知をしていたのだけれど」

「それ、強制っていうことですよね!?」

「そうよ? 仮に断ったら、意地でもやらせようとしたわ」

「あははー、マネージャー、それはパワハラだよ?」

「大丈夫。二人なら間違いなく了承してくれると見越しての準備だから」


 ……だからと言って、本人たちが了承する前に準備するのはどうなんだろう?


 それ、やらざるを得ない状況だし……。


「マネージャーも相変わらずだねー」

「マネージャーだもの。これくらいの行動力を持ってないと、生き残っていけないの」

「大変なんですね、マネージャー業務って」

「ふふ、好きでやってるからいいのよ。何より、あなたたちのようなアイドルをマネジメントできて、私は嬉しいし。……おかげで、給料もがっぽがっぽだし、ね?」

「「あ、あはははは……」」


 それがなければいいセリフだったのになぁ、と二人揃って思ったけど、それは言わない方がいいんだろうなと思って、乾いた笑いを零した。


 というか……そうなんだ。


 マネージャーさん、給料多いんだ。


「というわけだから、二人とも、明日はよろしくね?」

「「はい」」

「時間などの詳細は、あとでメールで送っておくから、確認しておくように。それじゃあ、解散」


 ――ということが前日にありました。


 家に帰って、しばらくするとマネージャーさんからメールが届いた。


 中身を見てみると、開始時刻が夜の二十一時であること、配信場所は配信用に貸し出しされている部屋を一室借りてのものであること。


 配信機材なんかは、事務所の人がしてくれること。


 配信中は、ボクとエナちゃんしかいないようにすること。


 などなど、当日についてのことが色々書かれていました。


 そして、レンタル部屋の場所は、そこまで遠くなく、幸いにも隣町でした。


 これで遠かったらどうしようかと思ってたから一安心。


 メールを確認後、エナちゃんと軽く連絡を取り合って、前日は終了。


 そして、当日になりました。


「おー、なんだかファンシーなところだね!」

「そうだね。くまさんやウサギさんのぬいぐるみが多くて、すごくいい場所だね」

「うんっ! ここで依桜ちゃんと配信かぁ。なんだか楽しみだね!」

「ふふ、ボクも楽しみだよ」


 撮影部屋を見てはしゃぐエナちゃん。


 見守るような目で見ているボクも、実はこの部屋の内装に関して内心はしゃいでいたり。


 可愛いぬいぐるみが昔から好きだったからね。


 こうして見ると、なんだか幸せな気持ちになる。


 しかも、大好きなエナちゃんと一緒でもあるから殊更。


「ねね、依桜ちゃんはどんな服を持ってきたの?」

「ボク? ラフな格好って言われたから、普段家でしてる恰好かな? 家着、みたいな」

「へぇ、どんなの? うち、依桜ちゃんの家着って見たことないから、気になる!」

「そんなにいいものでもないよ? 普通の服だし」

「いいのいいの! 依桜ちゃんの私生活で着てると言う部分が大事だからね! どんなのどんなの?」


 きららきらとした目で詰め寄られて、少し苦笑い。


 でも、こうして興味を持ってもらえるのは、いいことだよね。


「えーっと……こういうのだよ」


 カバンの中から服を取り出して、エナちゃんに見せると、エナちゃんは興味深そうに服を見る。


「へぇ~、依桜ちゃんってこういうの着るんだ」


 取り出したのは、シンプルな白のシャツとゆったりとした長ズボンに、少し大きめな黒のパーカー。


「うん。ボクの向こうでの経験が経験だから、なんとなくこういうのが落ち着くの」

「なるほどー。あれかな? 姿を隠す、とか?」

「それもあるけど……ほら、普段はちょっと堅苦しい物を身に着ける時もあって、こういうラフな格好が一番落ち着くから」

「あ、なるほど。そうだよね。うちも普段はアイドルらしいものを着てるけど、家じゃちょっぴり緩い格好になるしね!」

「そうなの?」

「うん! ほら、これだよ!」


 元気いっぱいに言いながら、エナちゃんはカバンの中から服を取り出す。


 エナちゃんが取り出したのは、ゆったりとしたワンピースでした。


 なるほど……。


「たしかに、普段のエナちゃんよりも緩いかもね」

「でしょでしょ? やっぱり、反動だと思うんだぁ、うち。普段着るもののジャンルが決まっちゃってると、プライベートではこういうのが着たくなるもん」

「あはは、そうだね。言われてみれば、ボクもそうかも」

「だよね!」


 エナちゃんの話を聞いて納得した。


 ボクもエナちゃんのように、堅苦しい服を着ていたからこそ、こうしてかなりラフな格好を好むのかも。


 実際、向こうだと暗殺者として活動するために、色々な服を着ることがあったからね。


 従者の格好から、お店の店員さんの格好、貴族のような格好、などなど、堅い服を着る機会も多かったし、帰還後にもう一度異世界に行った時なんて、ドレスとか着させられたし、クナルラルで女王に即位した時もドレスだったしね……。


 個人的に、そう言う服は好まないので、ラフな服が一番好きです。


「あ、そだ。依桜ちゃん。今日何を話すか決めてるの?」

「話すこと? うーんと、雑談配信って言ってたから……その場その場で考えようかなって。ボク、あまりトークスキルないからね」

「そうかな? 依桜ちゃんが話すことは大体面白いから大丈夫だと思うよ?」

「そんなことないよ。……あ、エナちゃんは何かあるの?」

「うち? うちも特にないよ!」

「そこ、元気いっぱいに言うところじゃないと思うよ?」

「いいのいいの! それに、質問コーナーでもいいと思うの、うち」

「質問コーナー?」

「うん! ほら、依桜ちゃん――じゃなくて、いのりちゃんって、メディア露出は増えたけど、それでもあまりプロフィールとか知られてないでしょ? だから、これを機に知ってもらうの!」

「あ、なるほど……」


 たしかにそれはいい案かも。


 ボクが本格的に活動を始めたのは、今年のバレンタインのあのライブから一ヶ月後くらい。


 それからは、生徒会長としての業務をこなしつつのアイドル活動で、エナちゃんが言うようにメディア露出は増えたけど、それでもボクが出演するのは、基本的にライブのみ。


 バラエティ番組だって、実は本格活動をする前にした、ドッキリ番組くらいで、後は基本音楽系の番組がほとんど。


 一応、質問されることはあったけど、それも基本的なことばかりしか回答してこなかった。


 理由自体は、そもそも何を答えていいのか、何を話していいのかわからなかったから。


 でも、今回はボクとエナちゃんだけの雑談配信だし、そう考えれば問題ないのかも。


 ……うん。


「いいね、それ」

「ほんと? じゃあ、質問コーナーをメインにして、雑談する感じにしよっか」

「うん。そうしよ。……あ、変な質問が来たら――」

「それはばっさり切り捨てます!」

「それならよかった」


 これで、変な質問とか来たらちょっとあれだったからね……。


「じゃあ、そろそろ着替えて準備しよ!」

「あ、うん、そうだね。もうすぐ始まる頃だし」

「じゃあ、着替えよー!」


 そろそろ時間になるということで、ボクとエナちゃんは持ってきた服に着替えて、配信の準備を始めた。



 依桜ちゃんこと、いのりちゃんとの配信。


 大晦日一緒にいられるだけで嬉しいのに、こうして活動ができるのはとっても嬉しいし、幸せ!


 今は、カメラとPC、マイクが置かれたテーブルの前に座って、配信開始を待ってるところです!


 もう既に、数万人規模の人たちが待機中みたい。


 おー、すごい人数。


 うち一人で活動してたら、もっと少なかったんだろうなぁ、そう思えるね。


「いのりちゃん、大丈夫?」

「うん、さすがにボクも慣れたから大丈夫。エナちゃんは?」

「うちはいつでも大丈夫!」

「あはは、エナちゃんらしいね。あ、もうすぐ始まるよ」

「ほんとだ。じゃあ、いのりちゃん、楽しもうね!」

「うん」


 お互いに笑いあい、待機していると、ついのその瞬間が訪れた。


 ちゃんと配信が始まっているのを確認してから、うちたちは挨拶を始める。


「「みなさーん、こんばんは! Graceです!」」

「火憐アイドルのエナと――」

「水麗アイドルのいのりです!」

「今日は、大晦日にも関わらず、うちたちの年越し配信に来てくれてありがとう!」

「みなさんを楽しませられるように頑張るので、最後まで観て行ってくださいね!」


 と、うちたちが挨拶をすれば、チャット欄がすごいスピードで流れていった。


 わわ、すごい速い!


 よく見ると、楽しみにしていた人たちばかり。


「さてさて、今日は新年を迎えるまでの間、うちといのりちゃんの二人で、雑談や質問コーナーをしていくことになってるよ! 質問コーナーをしつつ、そこを軸に雑談をする、という感じだね! なので、是非是非、訊きたいことを書いてみてね! 書く場所は、GraceのTwitterの方に書いてもらえるとありがたいです!」

「もちろん、何でもいいわけじゃなくて、ちょっとエッチな質問とか、TPOをわきまえない質問に関しては答えないので、気を付けてくださいね」


 うちといのりちゃんの二人で質問コーナーのことを話した瞬間、一気に通知音が鳴り出した。


「おー、早速質問がいっぱい来てるね! じゃあ、早速質問コーナーを始めよう! いのりちゃん、準備はOK?」

「いつでもいいよ」

「了解です! じゃあ、記念すべき最初の質問は……『お二人の好きな食べ物は何ですか?』とのことです。いのりちゃんは何が好き?」

「うーん、ボクはえんがわかな?」

「知ってはいたけど、やっぱり渋いねぇ」

「そ、そう?」

「うん。ほら、チャット欄も」


 うちがチャット欄を見るよう促すと、


:しっぶ!

:なんか意外な食べ物が出てきたw

:てっきり、ケーキとか言うのかと思ったら、予想の斜め上の回答が出てきたわ


 そこには、意外だというコメントがいっぱい。


「ほんとだ……えんがわって、そんなに渋いかなぁ?」

「んー、いのりちゃんくらいの年齢だと男女関わらずあんまりいないんじゃないかな?」

「そっかぁ」


 そう言ういのりちゃんは、どこか不思議そうな顔。


「じゃあ、エナちゃんは何が好きなの?」

「うち? うちはもちろん……いのりちゃんの手料理!」

「ふぇ!?」


:おっと?

:いきなり、あら~案件か?

:というか、いのりちゃんの反応が可愛いw


 うちの好きな食べ物を聞いたいのりちゃんは、いつもの柔らかい笑顔から一転して、一気に真っ赤に。


 うんうん、いのりちゃんらしい。


「え、ええ、エナちゃんっ? そ、その回答は、ありなのっ?」

「もちろんありだよ! だって、好きな食べ物だもん! うちは、いのりちゃんの手料理がどんな食べ物よりも大好きだよ?」

「はぅぅ……」


:あかん、序盤から百合ップルのイチャイチャで昇天しそう

:オレ、ショウテンシタ

:昇天ニキは成仏してもろて

:いのりちゃん可愛いよ!


「う、うぅぅ~っ……つ、次! 次の質問行こ!」

「あ、話題を逸らした。でもそうだね、次に行こう!」


 さすがにまだ最初だからね、いきなりこんなに可愛い反応をされたら、後々困るもんね。


 なら、次に行かないと。


「じゃあ、次いのりちゃん選んでいいよー」

「うん、わかったよ。じゃあ次の質問は…………『お互いの好きなところを上げてください』です」

「いのりちゃん、それでいいの?」

「うん」


 うちの問いかけに、いのりちゃんはにっこにこの表情で肯定した。


 むむ……これは、仕返しかな?


 ならば、受けて立つよ、いのりちゃん!


「じゃあ、いのりちゃんからどうぞ」

「うん。エナちゃんの好きなところはね……まず、可愛いでしょ? 性格も優しくて天真爛漫。いつも、ボクをフォローしてくれて、困っていたら助けてくれて、極めつけはやっぱり……エナちゃんがアイドルをしている時の笑顔、かな」

「あぅ……」


 えへへ、とはにかみながらうちの好きなところを言ったいのりちゃん。


 顔が赤いのが可愛いです!


 でもこれ、すごく嬉しいんだけど……結構ダメージが……。


 さすがいのりちゃん!


 でも、うちも負けてられないよ!


「じゃあ、うちの番ね! えっとね、まず可愛いでしょ? 家庭的だし、包容力があるし、優しいし、いつもさりげない気遣いをしてくれるし、お弁当を作ってくれるし――」

「んっ、あぅ……」

「うちが告白しても笑わずに付き合ってくれたし、うちと恋人になってからは一緒に活動してくれる頻度が増えたし、いつも優しく見守ってくれる時もあるし、危険があるとすぐに助けに来てくれるし……でも、一番を決めろって言われたら……うちは、いのりちゃんの全てが大好きだよ。いのりちゃんの欠点だって、うちにとっては好きなところだから!」

「は、はぅぅぅぅぅぅぅっ! え、エナちゃん、反則だよぉっ……」

「ふふふふー、うちの勝つなんて百年早いよー」


:な、なんだこれ、俺たちは一体何を見せられているんだ……

:美少女アイドル同士の百合だろ? 最高な

:オレ、生きててよかったっ……!

:二人とも顔が赤いのがいいわー……

:いのりちゃんの赤面が可愛すぎる

:エナちゃんもちょっと赤いのがいい!


 あ、見られてたのちょっぴり忘れてた。


 でも、受けたみたいでよかった!



 それから、うちといのりちゃんはいろんな質問に答え続けました。


『二人の思い出で一番記憶に残ってること』や、『お互いの学生生活がどんなものなのか』とか、『アイドルはいつまで続けるのか』とか色々。


 その都度、いのりちゃんが顔を赤くすることが多くて、何度もチャット欄には、いのりちゃん可愛い、というコメントが付いたほどです。


 あ、うちにもグッジョブとか付いたよ。


 やっぱり、いのりちゃんが可愛いは、共通認識だよね!


 そうこうして、うちたちの配信時間……というより、年越しの瞬間まであとわずかに。


「――それじゃあ、最後の質問! 最後は……『来年の二人の抱負をお願います!』だね! じゃあ、うちから言おうかな」


 ほとんどがいのりちゃんからばかりだったし、ここはうちからで。


「んーと、そうだなぁ……やっぱり、いのりちゃんと今くらい……ううん、今以上にもっともっと仲良くなって、アイドル活動を目一杯楽しむ! あと、いのりちゃんの手料理をたくさん食べたい!」


:絶対最後のがメインだろw

:さっすがエナちゃん! そうなるよう応援してるぜ!

:その前の部分も素晴らしい


「みんなありがとう! じゃあ、いのりちゃんの方も抱負をどうぞ!」

「うん、そうだなぁ……ボクは……ほとんとエナちゃんと同じようなものになっちゃうけど……うん。今年から本格的に始めたアイドル活動を、今以上に楽しむこととか、エナちゃんと一緒にずっと幸せなアイドル活動や、日常を送りたい、とか……あと、一番は……今よりももっと一緒にエナちゃんと一緒にいること、かな……」

「――は、反則だよ、いのりちゃん……」


:うわぁ、あれは死ねる……

:可愛すぎて、さすがのエナちゃんでもカウンターを入れる前に、ノックアウトか

:あれを正面からくらって生き残るのは無理だと思う

:( ˘ω˘)スヤァ

:実際、安らかになっているのがいるわ


 いのりちゃんの恥ずかしそうにしつつも、はにかんだ笑顔で放たれた抱負に、さすがのうちでも顔を隠すほどに気恥しくなった。


 反則級だよぉ。


「こ、これが、ボクの抱負、です……」


 はにかみ顔から一転して、いのりちゃんは恥ずかしそうな表情を浮かべた。


 うん、そう言うところも含めて反則。


「え、えと……あ、も、もうすぐ年越しだよっ。み、みんな、準備はいいですかっ?」

「おー、またしても話題逸らし」

「え、エナちゃんっ」

「あははは、みんな準備はいいかー!?」


:OK!

:当然だぜ!

:もちのろん!


「じゃあ、カウントダウン行くよー! 10、9、8、7――」


 うちたちは、新年へのカウントダウンを始めた。


 そして、うちは最後にすることを決めている。


 横で、みんなと一緒にカウントをしているいのりちゃん。


 そして、今0になる瞬間。


「1……ぜ、んむっ!?」

「ん、ちゅ……んふぁ」

「んんっ?」


 うちはいのりちゃんの唇を塞いで、キスをした。


:おおおおおおおおおおおおお!?

:き、キスだ!? 目の前で、アイドル同士のキスが行われているぞ!?

:キスと同時に年越ししてるぞ!? すげぇ!

:リアルタイムで見れてよかったっ


 甘くて柔らかい、いのりちゃんの唇を、うちは一分間くらいうちの唇で塞ぎ、唇を離す。


「はぁ……ふふふ、ドッキリ!」

「も、もうもうもうもう! エナちゃん突然キスしないでよぉっ!」


 うちがいたずらっぽく笑うと、いのりちゃんは顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒り出した。


「あはは、ごめんね。つい」


:おっと? さすがに、いのりちゃんでも怒るか?

:まあ、突然だもんなー


 うん、それはうちも思うなー。


 いのりちゃん、どう出るかな?


 そう思っていたら、


「――するならするって言ってよぉ! ボクからしたのにぃ!」

「え、そこなの?」


 予想とは違った反応をしました。


:そっちかーい!

:自分からしたかったんか

:というか、自分が先にするつもりだったんじゃね? これ

「そうだよぉっ! いつも、エナちゃんからだから、ボクからしようと思ったのに……」

「そうだったんだ。……じゃあ、今する?」


 ちょっと手遅れかもしれないけど。


 そう思いながらも、いのりちゃんはうちの提案に、


「えと……ぅん」


 こくりと頷いた。


「じゃあ、依桜ちゃん、お願いします」

「う、うん……行くよ……?」

「いつでもきていいよ」

「じゃあ……ん」

「ん、ふぅ……んん」


:二度目、だとっ……?

:オレ、新年分の運使い果たしたわ、これ

:すげーなー、この二人。また伝説残そうとしてるよ


 いのりちゃんからのキスを受け入れて、うちと同じ一分ほど。


 唇が離れると、うちといのりちゃんは熱っぽい吐息を零した。


「え、えへへ……エナちゃん。今年も、よろしく、ね?」


 そして、満面の笑みでいのりちゃんはそう言った。


「うんっ! こちらこそ! よろしくね!」


 だからうちもそれに応えて、幸せいっぱいな笑顔を浮かべて返した。



 それから、うちといのりちゃんが突然キスをするという事態を引き起こしたものの、配信は大成功で終わり、今後もたまにこうして配信する、ということになりました。


 それはそれで嬉しいんだけど……あの後、キスのことはちょっぴり怒られました。


 そこに関しては、うちといのりちゃんでちゃんと謝りました。


 反省しないとね!


 ともあれ、また新しい一年、幸せで楽しい、そんな日常になるといいなぁ。


 そう、うちは願った。

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