第516話 調査開始
伊吹さんとの契約が済み、ボクたちは調査に向かうべく、一度天姫さんから情報を得ることに。
(あ、天姫さん? 今大丈夫?)
(問題あらへんよ。どうや? そっちは)
(うん、問題なく契約が完了したよ。というか、伊吹さんが自分から迫ってきたくらいで)
(そうか。酒吞童子らしいなぁ。ほな、これから調査へ行く、ちゅうことでええんやな?)
(はい。ですので、どの辺りに行けばいいか教えてほしいなー、と思って)
(ええよ。そやなぁ……今は、酒吞童子の所か?)
(うん。今は伊吹さんの家の中だね)
(了解や。そやな……そこから、北東の方角に不審な気配がある。そこへ行ったらなんかわかるかもしれへん)
(ありがとう。じゃあ行ってみるよ。……あ、ちなみに、そこには何があるかわかる?)
(ん~……たしか、村があったはずや。種族はまちまちでな)
(わかった。情報ありがとう)
(ええよ。頼んだで)
(うん、任せて)
そう言って、ボクは天姫さんとの念話を切った。
契約の利点って、絶対これだよね。
いつでも意思疎通が可能。
あの指輪のように、周囲に魔力が無い状態であれば機能しない、そんな欠点はなく、相手が同じ世界にいれば確実に話せる点は、本当にありがたい。
それに、元の世界とも連絡が取れないから……連絡が取れない………………あ。
「お、思い出したぁっ!」
「きゃっ、い、依桜ちゃん? ど、どうしたの? 突然大きな声を出して……」
「み、美羽さん! ボク、思い出したんです!」
「思い出した?」
「はい! 実はボク、異世界間同士で通話をできるようにするアプリを入れてもらっていたんです!」
「そうなの!?」
「い、依桜様、それは本当のことでしょうかぁ?」
「うん! 学園長先生が前に創ってくれて、それがボクのスマホに入ってるの。ちょっと待ってね。今すぐ電話してみるから」
思えば、使うような事態に直面したことがなかったから忘れていたけど、今回がまさにその事態。
ボクは大急ぎで『アイテムボックス』の中からスマホを取り出すと、異世界間通話アプリ『繋がるんです』を起動。
名前が何と言うか……インスタントカメラみたいな名前なのはご愛敬。
そして、ボクはアプリを起動後に開かれた、電話帳(実際にボクのスマホに登録されてる番号)にある、学園長先生の番号を押し、電話をかける。
電話をかけた後、数秒ほど待機状態になり、その後にコールが入る。
大体二コールほど鳴った後、
『もしもし?』
学園長先生に繋がった。
やった、と心の中で喜び、学園長先生に話し始める。
「もしもし、学園長先生、ボクです!」
『その声……依桜君!?』
「はい! よかった、ちゃんと繋がったみたいですね……」
『ということは、例の通話アプリ、ちゃんと動作したみたいね。……まあ、それはいいとして……依桜君、今どこ?』
「それが、今異界の一つ、妖魔界にいまして……」
『……なるほど。それで、帰れそう? セルマさんに、フィルメリアさんはそっちに?』
「はい。幸い、二人はボクと美羽さんが妖魔界に流れ着いた後、すぐに出て来てくれまして。まあ、セルマさんとは別行動中なんですけど」
『そう……それならよかった』
ボクの説明を聞いて、学園長先生は安堵したような声を漏らす。
心配させちゃったみたい……。
「すみません……こっちでは、もう一日経過しちゃってまして……」
『一日? え、そっち、一日経過してるの?』
「え? あ、はい。そうですよ? そちらも、ボクと美羽さんが一日行方不明になってるかと思いますが、できれば抑え込んでいただけると……」
『…………え、えぇ、それについては私の方で何とかしておくわ』
あれ? なんだろう、今妙な間があったような気がするんだけど……。
いっか。今はそんなことを気にしてる場合じゃないし。
『こほん。それで、帰還については? 一応さっきも訊いたけど』
「あ、すみません。えっと、帰還なんですけど……ちょっと、こっちの世界で今問題が起こってるみたいでして、その問題をどうにかしないと、帰れないみたいなんですよ」
『……なるほど。つまり、依桜君は今、その問題解決に乗り出してるところ、と言った感じかしら?』
「その通りです」
『おっけー。その問題は、どれくらいで片付くかわからない状態?』
「はい。残念ながら……」
『了解。ともあれ、連絡ありがとう。とりあえず、ミオたちにもこの情報を共有させておくわ』
「ありがとうございます。それでは、この辺りで一度切りますね。早く問題を解決しないとなので」
『えぇ、わかったわ。それじゃあ、なんとか無事に戻ってきてね?』
「はい。それでは、失礼します」
通話終了。
なんとか学園長先生に現状を伝えることができた。
本当、学園長先生様様だよ……。
「ふぅ……」
「依桜ちゃん、どうだった?」
「なんとか、連絡できました。向こうの世界で、ちゃんと伝えておいてくれるそうです」
「よかったぁ……。それじゃあ、これで心置きなく捜索できるね!?」
「そうですね」
「「……」」
ボクと美羽さんが、お互いに喜んでいると、フィルメリアさんと伊吹さんの二人が、何やら驚いたような、それでいて苦いような、そんな顔をしていた。
「どうした? 二人とも」
「あ、い、いえ、なかなかにとんでもないことをする人だったんだなぁ、と思いましてぇ……」
「……美羽殿たちが住む、法の世界には、なんとも異常な者がいるのだな……」
「あ、あはは、学園長先生、色々とおかしいから……」
あと、法の世界にいる異常な人は、学園長先生だけだと思う……。
異世界転移装置なんて、普通の人は創ろうとは思わないし、何より異世界なんてばかばかしい、とか思うだろうからね……。
「と、ともあれ、これで向こうの心配はなくなりましたね」
「そうだね。じゃあ、これから動く感じかな?」
「はい。じゃあ、早速、天姫さんと連絡してみますね」
「うん」
美羽さんの契約も無事完了し、元の世界の方の心配もなくなったボクは、一度天姫さんと連絡を取ることに。
(天姫さん、聞こえる?)
(お、依桜はんか? どないしたん?)
(あ、うん。えっと、酒吞童子……伊吹さんとの契約が済んだから、これから調査を始めようと思ってね。さっきは一応、方角は訊いたけど、そう言えば正確な場所を教えてもらってなかったなぁって思って。それを訊きたいんだけど、いいかな?)
(そう言うたらそうやったなぁ。せやったら、そこから北へ進んだ先に、おっきな岩があってな? そこに左右に道分かれてるんやけど、そこを右に真っ直ぐ進むと、さっき話した廃村があるよ)
(ありがとう。それじゃあ、これから向かうね)
(あぁ。頼んだで)
そこで連絡は終わった。
連絡を終えたボクは、美羽さんたちの方へ向き直り、今しがた天姫さんと話していたことを告げた。
「……なるほどー。じゃあ、ここを真っ直ぐ進めばいいのかな?」
「はい。それでいいんだよね? 伊吹さん」
「うむ。北はこっちで合っているぞ。そして、その廃村というのはおそらく、つい最近滅ぼされた村で間違いないと思う」
「そんなことがあったんですかぁ? 妖魔界は、強い方が多かったと思うのですがぁ……」
「それに関しては面目ない。某も、その村のことを知った頃には、既に時遅く……」
「そうなんだ……それなら、すぐに行こっか」
「だねー」
早いとこ元の世界に帰らないとだし、天姫さんたちのためにも頑張らないとね。
それから、天姫さんから教えてもらった場所へ向かって四人で歩いていると、目的の廃村に到着した。
「ここが、天姫さんが話してた廃村……」
たどり着いた廃村に着き、ボクたちの視界に飛び込んできたのは、倒壊した建物や、焼けたような痕が残る地面や木々、それから、赤黒い染みなどがところどころに存在する、凄惨なことが起こったと思わせられる、そんな廃村という文字を体現したかのような、そんな場所だった。
調査のために、二手に分かれて探索をすることに。
「これは……酷いね」
「ですねぇ……。一体何があったんでしょうかぁ……」
ボクとフィルメリアさんは、手始めに近くにあった建物へ。
辛うじて壁が残っているけど、屋根はもうすでに崩れているみたい。
とりあえず、何かないか調べるために、倒壊した建物へ足を踏み入れると、ギシッ、ペキッ、という音が鳴る。
なんだか、床が抜けそう……というか、既にところどころ抜けてるんだけど……。
「うーん……見た感じ、何もない、かな?」
「そうですねぇ……ですが、この辺り、少しおかしくないですかぁ?」
「……あ、ほんとだ」
フィルメリアさんに指摘された場所を見てみると、まるで巨大な爪か何かで抉られたような痕があった。
なんだろう、これ。
それに、ちょっとだけ焦げているようにも見えるし……。
「滅ぼされた、って言ってたけど……妖魔、なのかな? これは」
「ん~……たしかに、ここにある痕跡に合うような、そんなものを持った妖魔の方がいないとは限りませんけどぉ……妖魔であると言う線は、かなり薄いでしょうねぇ」
「そうなの?」
「はいぃ。妖魔は基本、温厚な方々で、滅多に争うことがないんですよねぇ。それに、大きな爪を持った妖魔はいるにはいますけど、ここまで巨大な痕跡を残せるほどの巨大な爪を持った存在はいませんねぇ。可能にできるとすれば、それこそ玉さんが持つ能力を使用しない限りはぁ」
「なるほど……」
そうなると、妖魔の線は薄い、かぁ。
仮に天姫さんがやったとしても、天姫さん自身に何のメリットもないし、そもそも自分が治める世界なのに、やる意味が全くない。
他の妖魔だって、フィルメリアさんの話では温厚な人ばかりみたいだし、ボクたちがあって、美羽さんが契約した伊吹さんだって、お酒を飲みまくる幼い女の子、と言った風貌だけど、基本的に温厚そうだし。
それを考えると、妖魔以外の存在がいる、のかな……?
「フィルメリアさん、妖魔界を襲う存在に心当たりはないの?」
「ん~……一応、無くはないのですがぁ……」
「ほんと!? 教えて!」
「ひゃわっ? い、依桜様、い、いきなりそこまで近づかれると驚きますぅ……」
「あ、ご、ごめんね! つい……」
何とかしたいと言う気持ちのあまり、つい近づきすぎちゃった。
反省反省。
「いえいえぇ……。それで、えーっと……心当たり、でしたねぇ」
「うん。教えてくれる?」
「……そうですねぇ。ここで隠して、本当に危ない状況に直面した場合、後手に回って取り返しのつかない場合があるかもしれませんしねぇ……。わかりましたぁ。お教えしましょうぅ」
「ありがとう、フィルメリアさん」
「いえいえぇ。えー、こほん。実は私、この世界に来てからある気配を感じ取っておりましたぁ」
「気配?」
「はいぃ。その気配と言いますのがぁ……邪神に関する気配なんですぅ」
「……え、邪神!? ほ、ほんとに……?」
以前、師匠からちょっとだけ聞かされた、とんでもない存在の名前が出て来て、ボクは驚くと同時に聞き返していた。
だって、邪神がいた場合、ボクは確実に勝てないと思うし……。
「本当ですよぉ。依桜様自身も、この世界に来た直後に嫌な気配を感じ取っていましたよねぇ?」
「あ、うん。なんと言うか、底知れない悪意というか、普通の人だったら正気を失いそうというか、そんな感じの」
「そうですねぇ。邪神が生み出した、末端の存在ですら、精神が鍛えられていない人などは、正気を失い、最悪の場合は死に至りますからぁ」
「……え、それってもしかして、美羽さんも危険なんじゃ……」
フィルメリアさんの話を聞いて、ボクは真っ先に美羽さんに危険が降りかかるのではないか、そのような心配の言葉を漏らした。
しかし、フィルメリアさんは首を横に振り、否定の言葉を述べ始める。
「いいえ、美羽さんに関しましては、問題はありませんねぇ。というより、依桜様のご友人方全員が平気ですよぉ」
「なんで!?」
一応みんな、異世界の事情を知っているとはいえ、一般人だよね!? あ、いや、態徒に関しては師匠に鍛えられているせいか、一般人とは言えない気がするし、女委も別ベクトルで一般人ではないけど……だとしても、広い目で見れば一般人と言えるみんなが、なんで危険にさらされないのかが謎すぎる……。
そんなボクの疑問に、フィルメリアさんは苦笑いと共に理由を話してくれた。
「魔の世界へ行ったことがある、というのも理由の一つかもしれませんが、大きな理由としましては、未果さんたちに加護のようなものが働いているからだと思われますねぇ」
「加護?」
「はいぃ。詳しく調べたり、不確かだったりするので、まだそうとわかったわけではありませんが、少なくとも超常的な存在が護っているかのような、そのような気配があるんですよぉ」
「そんなものが、みんなに……」
それは不思議な話だね……。
天使に悪魔、精霊、妖精、妖魔、そんな存在がいる上に、神様も存在している以上、そういった存在からの加護があっても不思議じゃないけど……。
「仮に加護があったとして、それって神様からだったりするの?」
「それはわかりかねますねぇ……。クソ上司――こほん。神様方は、人間――というより、法の世界と魔の世界に住まう生きる者たちや、天界、魔界、精霊界、妖精界、妖魔界に住む我々に対しても、基本的には無頓着ですのでぇ。ですので、加護を与える存在というのは、ミリエリア様のように、心優しい神様でない限りはありえないですねぇ」
バッサリと、笑顔で可能性を切り捨てた。
「そ、そこまで言うんだ……」
「そこまでなんですねぇ。もっと言えば、人々の苦悩や苦難を見ることを面白がったりするほどでもありますのでぇ……」
「えぇ……」
神様として、それはどうなんだろう?
それが本当なら、ほんわかとしたフィルメリアさんが『クソ上司』と言ってしまうのもわかるよ……。
「……さて、お話を戻しまして、邪神のことについてですねぇ」
「あ、そうだった。えっと、この世界にいるの?」
「邪神はいませんねぇ。今現在、いる可能性があるのは……邪神が創り出した、兵士のような存在でしょうかぁ」
「そんなのがいるの?」
「はい、存在しますよぉ。そもそも、邪神が単体で出てくることは基本的にはありません。元が普通の神である以上、その存在は、まず自身の配下を創り出し、その存在たちに襲撃させますぅ」
「じゃあ、今回はその兵士……のような存在が?」
「おそらくはぁ」
「……ちなみに、強さは?」
「その辺りは、生み出した邪神の強さによりますがぁ……最低でも、依桜様が討伐した魔王くらいかとぉ」
「……そっか」
なんだろう、ボクが三年かけてやっと討伐した魔王レベルの強さの人が、こうもポンポン出てくると、悲しくなるんですが……。
ボクの苦労って一体……。
「とはいえ、今の依桜様であれば、邪神の兵士程度、苦戦せずに勝てるかと思いますからぁ」
「そうかな?」
「はいぃ。今現在の依桜様は、当時よりも強くなっていると聞きますぅ。さらに言えば、私と玉さん、アホ悪魔の三人と契約しているんですからねぇ。三人の力を同時に顕現させれば、問題ないかとぉ」
「あー、そういえばそうだったね……」
フィルメリアさんとセルマさんの二人の力を同時に顕現させるだけでも、ステータスが異常なまでに上がるのに、そこに天姫さんの力が加わったらとんでもないことになりそう。
……それでも、師匠には勝てなさそうなんだけど……。
「……とはいえ、あくまでもそれに近い気配がすることと、玉さんからの情報であるため、本当に存在しているかは確定してはおりませんが、気配からしてまず間違いないでしょうねぇ。ですので、くれぐれもお気を付けをぉ」
「うん、ありがとう、フィルメリアさん」
「いえいえぇ」
こういう状況だけど、やっぱり知識がある人がいるというのは安心するよ。
未知ほど危険で不安になるものもないもん。
……それにしても、邪神かぁ。
なんだか、師匠に一年ぶりに再会したあの時に言われたことが、現実味を帯びてきている気がするよ……。
できることなら、邪神なんてものに関わりたくないものです。
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