第431話 すり合わせのはずが……

 なぜかおかしなことが頻発したものの、お仕事は順調。


 テッドさんがあそこまで言うから、てっきり乱暴で粗野な人たちが多くいるのかなぁって思ってたんだけど、杞憂だったのかな?


 それならそれでいいんだけど。


 意外と大丈夫だという状況を見て、テッドさんが、


「悪いんだが、サクラ、これから依頼のすり合わせに行ってきてもらえないか?」


 と頼んできた。


「すり合わせ、ですか?」

「ああ。まー、あれだ。クエストを依頼してくる人の所へ行って、報酬やレベルなどを決めるものだ。元々旅をしていたって話だから、レベル付けは正確にできるだろう?」


 旅をしていた、というのは『サクラ・ユキシロ』としての設定です。まあ、本来の素性と変わらないので、間違いじゃないんだけどね。


「まあ、一応。でも、報酬については?」

「そうだな……今回は討伐系になる可能性があるんで、まあ危険度に見合った金額、ということになる」

「なるほど……わかりました。でも、どうしてボクなんでしょうか?」

「あー、ちょっと場所が遠くてな。普通の職員じゃ、ちっと遠くてな。多分、往復するだけで営業時間が終わる」

「あ、そうなんですね。それでボクに。……わかりました。じゃあ、すぐに行ってきますよ」


 そういうことなら仕方ないね。


 適正な値段とかも見ておかないと。


 行く前にクエストの張り紙を見て、相場を見ておこう。


「すまないな。できればすぐに行ってもらえると助かる。場所は、王都より少し遠い、ドーバ村だ」

「わかりました」

「あぁそうだ。どれくらいで往復できる? 仕事こみでな」

「そうですね……スムーズに進めば、一時間かからないで戻って来れますよ」


(((早くね?)))


 師匠が住んでいた森に比べたら、全然遠くないし。


 もともとは用心棒のような立ち位置なわけだけど、そこまで遠くないのなら問題はない、かな?


 できる限り早く戻ってくればいいだけだもんね。


「あ、一応『分身体』出せますけど代わりにおいていきますか?」

「なに、あれを使えるのか?」

「はい。と言っても、習得したのはまお――じゃなかった。えと、大きな仕事を終えてから数ヶ月経った後ですけどね」


(((まおってなんだ?)))


 危うく魔王って言いかけるところだった。


 あ、危ない危ない……。


「ほうそうか……しかし、まあ、一時間の間におかしなことをする馬鹿共はいないはずだし、大丈夫だろう。無駄に魔力を使うのもな」

「別に魔力自体はかなりあるので、全然無駄じゃないですけど……」

「いや、元は助っ人できてもらっているだけだからな、さすがに手間を増やすのも俺的にちょいとな。なんでまあ、とりあえずは必要ないとだけ言っておこう」

「そうですか。わかりました。それじゃあボクはちょっと行ってきますね」

「ああ、頼んだぞ」

「では」


 軽く会釈をして、カウンターから出る。


 その途中でちらっとクエストの報酬額を確認してから、ボクはギルドを出た。



 草原を走る走る。


 早く戻るつもりなので、時速換算大体百キロ近くは出てるかな? 多分。


 なるべく地面に凹みができないように気を遣っているのが一番疲れるんだけどね。


 やっぱり、力の加減は難しい。


 師匠曰く、ステータスがなぜか向上しているらしいし……。


 まあ、こっちの世界ならある程度加減しなくても問題ないからまだマシだけど。


「あ、見えて来た」


 しばらく走ると、目的地の村が見えて来た。


 見れば、村の入口付近できょろきょろとしているおじいさんがいた。


 まるで誰かを待っているように見えるから……多分、あの人が依頼主さんなのかな?


 じゃあ、この辺りで徒歩に。


 ボクが近づいていくと、こちらに気が付いたのかおじいさんが安堵したような表情を浮かべた。


「こんにちは。冒険者ギルドの者なのですが、クエストのご依頼をしようとしている方でしょうか?」

『はい、そうです。初めて見る人ですが……』

「今日一日、臨時で助っ人をしています、サクラ・ユキシロと申します」

『あ、臨時の方でしたか』

「臨時とは言っても、今日一日は正式なギルド職員ですので、遠慮なくお申し付けください」

『ありがとうございます。ささ、こちらへどうぞ』

「はい」


 なんだか優しそうな人で良かった。



 おじいさん案内されて、おじいさんの家へ。


 テーブルを挟んで、お互い向かい合う形で座るり、こちらから話を振ることに。


「それで、今回はどのようなご依頼でしょうか?」

『えぇ、それが近頃、得体の知れない魔物が出没するようになりまして、そちらの討伐をお願いしたいのです』

「得体の知れない魔物、ですか。何か特徴はありますか?」

『そう、ですね……。何と言うか、全体的に黒い印象がある存在でした。ただ、蝙蝠の酔うな翼があり、姿も人に近いというか……』

「黒い印象で、蝙蝠の翼があって、人に近い姿……」


 うーん、ボク自身聞いたことがない魔物だなぁ。


 そもそも、人型って言うのが気になる。


 人型で該当するとしたら、ゴブリンとかオーク辺りかなぁ。


 でもあの辺りは、下手に刺激しない限り襲ってこないし、どちらかと言えば大人しい部類に入る。


 あと、それなりに知能もあるからたまに集落とか作ってるみたいだしね。


 だから、よほどのことがない限り討伐対象にならない。


 まあ、人型系の魔物のほぼ全般に言える事なんだけど。


 どちらかと言うと獣系の魔物の方が討伐対象になったりするしね。


 まあ、それはそれとして。


「えーっと、他に何かありましたか? 鳴き声とか、出没した際に何か仕掛けてきたりとか」

『……そう言えば、よくわからない言語を話していた気がします』

「言語、ですか? 鳴き声ではなくて?」

『はい。まるで笑いながら話しているような感じでして……』

「……笑いながら、ですか」


 どうしよう。今一瞬、悪魔の存在が頭の中をよぎったんだけど……。


 ま、まさかね。


「それで、被害は?」

『それが、被害と言ってもいたずら程度の物でして』

「いたずら程度?」

『はい。例えば、家の中から生活用品がいくつかなくなっていたりだとか、いたずら書きされたりだとか、あとは水を上げたはずの畑にさらに水を上げていたりとか……』

「あー、本当にいたずら程度ですね……」


 なんだろう。すごくしょうもない。


 しかも、生活用品がなくなるのは地味に困るし、いたずら書きも消すのが地味に大変だし、畑の水やりをやりすぎるのも地味に根腐れしそうで嫌だ。


 どれもこれも、地味な嫌がらせながら、地味にイラッとくるような物ばかり。


「それで、えっと、それが出始めたのはいつ頃ですか?」

『そうですね……大体、二日前ほどかと』

「二日前……」


 それって、元の世界でも悪魔が出てきた時期なんだけど……。


 ということはもしかして、こっちの世界にも悪魔が出てき始めちゃったりしてる……?


 うーん、否定しきれない……。


「あと、その魔物……は二日連続で出没しているんですか?」

『はい……。多分ですが、もうすぐ現れるんじゃ――』


 と、おじいさんの言葉が言い終わらない内に、


『ケケケケ! 今日もいたずらしまくりだぜぇ!』


 そんな声が聞こえてきた。


 ……え、まさか、本当に……?


『あ、あぁあれです! この鳴き声が聞こえる度に、村の者はびくびくしてしまって……』

「なるほど……」


 席を立って窓から外を覗けば、ショッピングモールで出会った悪魔とは違うけど、たしかに悪魔がそこにはいた。


 というか飛んでいた。


 師匠曰く、聖属性魔法や聖属性が付与された武器じゃないと倒しきれない、とか言っていた気がするし……。


 それに、聖属性魔法って意外と習得している人が少ないみたい。


 師匠が言うには、


『大なり小なり邪な心を持つ奴はいるが、下心満載の奴は絶対習得できん。神殿とかそういうとこに在籍している奴らは使えるがな。というか、それが条件だし。つまり、心が綺麗な奴なら習得ができる魔法ってわけだ』


 だそう。


 ボク、そこまで綺麗じゃない気がするけど……まあ、使えるので大丈夫。


 師匠がどうして使えるのかは不明だけどね。あの人、色々と邪な心を持ってそうなんだけどなぁ……お酒とか。


 ともあれ。


「あの存在を倒す、もしくは撃退するとなると、最低条件として聖属性魔法、もしくは聖属性が付与された武器が必須になります」

『そ、そんな……ど、どうにか、どうにかできないんですか?』


 現実的なことを伝えると、おじいさんはボクに懇願してくる。


 それを見て、ボクは軽く微笑みもう一つの案を伝える。


「さすがに、聖属性魔法を使える人を条件として設定するとなると、見つかるまで少し時間がかかりそうですし、ここはどうでしょうか。ボクに一任してみては」

『職員さんに……?』

「はい。あの存在とは一度交戦した経験があります。その時も、一度だけ傷を負いはしましたが、軽傷です。なので、ボクに任せて頂ければ、報酬はいりませんし、必ず撃退すると約束しましょう」

『おぉ、ほ、本当ですか!?』

「そちらが望むなら、ですが」


 なんて言うけど、ボクとしては見て見ぬふりをするのはちょっと……。


 それに、相手は悪魔だし、結構強め。


 あの謎の黒い攻撃だって、結構危険。


 ボクの見立てだと……最低でも、冒険者のランクは5。4以下だと厳しい。


 まあ、あくまでも目安的にだし、単純に強い人は強いからね。あまり、ランクだけで判断しない方がいい。


 あとは、ボクが油断していたり、普段からあまり戦闘をしていなかったからとはいえ、切り傷を受けるくらいだからね。結構危険な存在。


 それならいっそのこと、ボクが出た方が早いし、解決も迅速。


 何より、この村にはそこまでお金がないように見えた。


 人も少なかったし、少しやせ細っている子供もいた。


 多分だけど、仮に依頼という形にしたとしても、結構安くってしまい、割りあわないという理由で敬遠されそうだからね。


 それだったらいっそ、ボクがただ働きをした方がお互い好都合というものです。


 ……何て言うけど、実際は単純にボクが助けたいと思ったからだったり。


 とはいえ、あとはおじいさんの返事次第かな。


『よ、よろしくお願いします!』


 と思ったら、おじいさんは勢いよく頭を下げてお願いして来た。


 よかった。


「かしこまりました。では、早速片付けてきますね」


 安心させるように、軽く微笑んでから外へ出た。



『おぉおぉ、やっぱ人間が困る姿を見るのはいいなァ』


 外に出ると、悪魔が空を飛びながらそんなことを呟いていた。


『あの、すみません。もしかして、悪魔の方でしょうか?』

『ンー? うぉ、メッチャ可愛い人間めっけ! ……ん? いや、あれ人間か?』

『人間です。何をしているんですか? ……って言っても、大体わかりきってるんですが』

『何っておめぇ、人間にいたずらしに来ただけだが?』

『ですよね』


 うん、本当に悪魔が犯人だった。


 どうしようかな、これ。


 まあ、まずは話し合いで解決できるか、かな。


『あの、ここの人たちが困っているので、帰ってくれませんか?』

『ハァ? 嫌に決まってんだろ。オレたちゃ悪魔ぞ? 人間を嫌がらせするのも生きがいの一つなんだよ』

『うわー、迷惑極まりない生きがいですね……』

『ま、お前たち人間にはわからないだろうがな!』

『わからないですし、わかりたくもないですよ』


 嫌がらせするの好きじゃないもん。


 好き好んではしたくないよね。


『ってか、お前なんでオレたち悪魔の言葉がわかるわけ? 普通人間ってのはわからねぇはずだが?』

『スキルの影響です。まあ、それはいいとして。これはあれですよね? 口での交渉は無意味、と』

『ま、そうだなぁ。オレはただいたずらがしてぇ。お前はオレを止めてぇ。そうだろ?』

『そうですね。無理というなら、単純に力ずくで止めますが……』

『へぇ、言うじゃねえの。まあいいや。オレも退屈してたし、ちょっとは遊ぼうじゃねえか、よ!』


 いきなり攻撃を仕掛けてきた。


 悪魔はあの時出会った悪魔と同じように、黒い槍? のような物を放ってきた。


 あ、これ他の家に迷惑がかかっちゃう!


『すみません! ここだとちょっと嫌なので、場外に移しましょう!』


 そう言いながらボクは悪魔に肉薄すると、聖属性を纏わせた右足で、思いっきり蹴りを入れた。


『うぐぉぉぉ!?』


 悪魔は村から吹き飛んでいき、ボクも跳んでいった悪魔を追って駆け出す。



「なんだ今の重い一撃はよぉ……」

「いえ、ちょっと蹴っただけです」

「チッ、面倒だなぁ……。ん? というかお前、まさかとは思うがよ、別の世界で別の悪魔と対峙とかしたか?」


 吹き飛ばした先で、そんなことを尋ねられた。


 あれ? この悪魔、もしかして知ってる……?


「ええまあ……こっちとは違う世界ですけど、たしかに戦ってます」

「ハァ、やっぱりかよ……」

「あの、えっと、もしかして知ってたりする、んですか?」

「いやまあ、うん。知ってるってーか……二日前にメッチャ可愛い銀髪碧眼の美少女に心臓を一突きされた! とか言う奴がいてよぉ。そんときゃ、他の悪魔どもも『いやいやまさか。悪魔に勝てる人間とか、少数だぜ?』って言ったんだよ」


 あれ、なんだろうこの悪魔。地味に話が軽い。


 うーん?


「いやまさか、マジだったとは……」

「あの、ボク今姿変えてますけど、わかるんですか?」

「そりゃあ、人間一人一人の気配は千差万別なんだぜぇ? 悪魔たちは記憶だとか共有できっからな! だからわかったわけだが……あー、こりゃやめやめ。オレなんかが勝てるわけねーって」


 ドヤ顔をしたと思ったら、苦い顔をしだす悪魔――もとい、悪魔さん。


 あれ、これってもしかして……


「手を引いてくれる、ってことですか?」

「おうよ。オレたちだって、でっけえリスクを抱えてまで悪さはしねーよ。死にたかねーもん。というか、オレたちが苦手とするオーラがバリバリ出てんだもんよぉ。しかも、別の悪魔と対峙した時よりでっかくなってんし……」


 でっかく? それってもしかして、師匠が『感覚共鳴』で神気の扱い方を教えたから、とか?


 そう言えばあの日以降、神気を自分の体から感じてたり。


 やろうと思えば自在に操れる気さえするよ。


「んじゃ、オレは退散すっかなぁ……。ハァ、悪魔王様になんて言えばいいんかねぇ……」


 悪魔王?


 それはもしかして、悪魔の王様、みたいな?


「あ、できればあの村で悪さはしないでくださいね?」

「へいへい、仕方ねぇ……お前の可愛さと強さに免じて手は引きますよーっと。んじゃ、さらば!」


 そう言うと、悪魔さんはポン! という音と共に姿を消した。


 あれ、どうやってるんだろう?


「……ともあれ、これで一件落着、ということでいいのかな?」


 なんだか、すごくあっさり終わっちゃったけど……まあいっか。


 一回の蹴りだけで済んだんだもん。


 前回みたく、さすがに毎回毎回戦闘をしていたんじゃ、疲れちゃうもん。


「さ、報告に戻ろう」


 おじいさんに報告に行かないとね。



「――というわけでして、もう大丈夫だと思います」

『そうですか。本当にありがとうございます……何と言えばいいやら』

「いえいえ、お気になさらず。ボクも好きでしたことですから」

『何かお礼をしたいのですが……』

「お礼なんていいですよ。問題がなくなって、ここの人たちに笑顔が戻るだけで充分です」


 それ以外はいらないしね。


 さすがに、お金をもらうわけないはいかないもん。


 そもそも、お金はかなり持ってるしね、こっちの世界でも。


『まるで、女神様のような方ですね』

「め、女神はやめてくださいよぉ。ボク、そこまですごい人じゃないので」


 なんでボク、いつも女神って言われるの? そこがわからない……。


「あ、そうだ。一つ気になったんですけど、この村、どうして子供がやせ細っているんですか? やっぱり、作物が採れないとか……」

『それは、お見苦しいところを……。実は、この村はかなりの貧乏村でして、今回の一件だって、村の者たちからお金をなんとか集め、それでどうにかしようとしていたのです』


 やっぱり。


 この村に入った時から、その辺りがちょっと気になっていたけど、予想通り。


 よかった、ボクが解決して……。


 冒険者の人って、たまに横暴な人もいるからちょっと心配だったんだよね。


『お金がないため、作物の苗や種を買うこともできず、作物が実ったとしても、魔物に襲われてしまうのです……』

「なるほど……」


 お金がないから、魔物を狩る人を雇えない。お金がないから、作物を育てることができない。


 ある意味、最悪の状況とも言える。


『我々大人たちはいいのですが、子供がお腹を空かせているのはやはり堪えまして……』

「そう、ですよね」


 子供はどこに行っても宝。


 できれば、すくすくと健康に成長して欲しいし、美味しいものを食べてもらいたい。


 ……どうにかしようと思えば、正直できないこともない。


 ボクの『アイテムボックス』を使えば、お金を出すことは出来なくても、宝石などを生成してそれを売ってお金にしてもらうことはできる。


 まあ、そんなことをしなくても、あの三年間で手に入れていた貴金属や宝石は結構な数になってるんだけどね。その一部を譲渡するってい方法もある。


 それに、子供が貧しそうにしているのを見るのは胸が痛い。


 ……でも、さっきの方法でやっても、受け取ってくれなさそうなんだよね……。


 あまりやりたくない方法だけど、あっちで試そうかな。


「あの、よかったら食料を寄付しましょうか?」

『さ、さすがに悪いですよ。あの魔物まで撃退してくださったのに、これ以上お世話になるわけには……』

「いえ、出来れば受け取ってほしいんです。子供たちを飢えさせたくないですから」

『で、ですが……』

「それに、子供は宝です。それなら、大人たちが頑張ってできる限り健やかに成長させないといけませんから。それが、大人の義務というものです。なので、出来るなら、全ての方法で子供の成長を促してあげてください」


 なるべく優しく、微笑みながらそう伝える。


 まあ、ボクの勝手な価値観かもしれないけど、それでも子供に罪はない。


 最終的に、子供がいい大人に成長するか、悪い大人に成長するかは、その環境にもよるかもしれないけど、一番は子供をの周りにいる大人だから。


『本当に、よろしいのですか……?』

「もちろんです。子供たちにお腹いっぱい食べさせてあげてください」

『……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます』

「いえいえ。それじゃあ、ちょっと出すのでちょっと待ってくださいね」


 そう言って、ボクは立ち上がり、『アイテムボックス』を開き中に手を入れる。


 さすがに剝き出しで出すのはどうかと思うので、袋をいくつか生成してその中に食料を入れることにしよっか。


 とりあえず、一ヶ月分は欲しい、よね。


 そう言えば師匠、『アイテムボックス』の小型版みたいなものを以前創っていた気が……。


 もういっそ、それも創っちゃおうか。


 さすがに、食材を腐らせるわけにはいかないもん。


 とりあえず、それは生成。


 ……上手くできるかな? と心配していたけど、それは杞憂に終わった。


 なぜかできた。


 これ、本当にどういう原理なの? いつも思うんだけど、ボク自身で最大の謎はこの『アイテムボックス』だと思う。


 何でも創れちゃうんだもん。


 その内、本格的に調べた方がよさそうな気がしてきた。


 って、いけないけない。今はそうじゃなくて、食材食材。


『アイテムボックス』の中にある簡易的『アイテムボックス』の中にさらに手を入れて、その中で食材を大量に生成。


 さらに、『アイテムボックス』内にしまい込んでいる貴金属や宝石類なども少し入れておく。


 ボクの手持ちから……大体二割くらい。


 量としては、まあ……結構あるんだけどね、二割でも。


 下手をしたら、一生遊んで暮らせるくらいのお金ができるかもしれないけど、そこはそれ。変なことにお金を使わないことを願うばかりです。


 ……手紙でも生成して一緒に入れておこう。ちょっと心配だから。


 うん、これでよし、と。


 最後に『アイテムボックス』内から、生成したばかりの簡易版『アイテムボックス』を取り出す。


「はい、どうぞ」

『こ、これは……?』

「えーっと、それ簡易的な『アイテムボックス』になっていますので、その中から食料などを取ってください。少なくともこの村の人みんなで分けても一ヶ月分はありますから」

『な、なんと! そんなに恵んでくださるとは……本当に頭が上がりません』

「あはは、気にしないでください。……さて、ボクはそろそろギルドの方に戻ろうと思います」

『わかりました。入口まで見送りましょう』

「ありがとうございます」


 席を立ち、おじいさんと一緒に村の入口まで歩く。


 そして、入口に着くと、


『本当に、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません』

「いえいえ。子供たちに、お腹いっぱい食べさせてあげてくださいね」

『はい。それでは、お気を付けて』

「ありがとうございます。それでは」


 最後に軽く会釈をしてから、ボクは村を立ち去った。

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