第432話 身バレ!

「ただ今戻りました」

「おぅ、お帰り。どうだった?」


 村から戻り、帰ったことを告げると、テッドさんが奥から声をかけて来た。


 カウンターに入り、テッドさんの元へ行き報告を。


「あー、えっと、クエスト依頼についてなんですけど……すみません、ボクが解決してきちゃいました」

『『『!?』』』

「ま、マジで!?」

「や、やっぱり、まずかったですか……?」

「い、いや、それはいいんだが……とりあえず、何があった?」

「実は――」


 と、軽く事の顛末をテッドさんに話す。


 最初の内は相槌を打つ程度だったんだけど、どんどん表情が険しくなり、話を終える頃には苦い顔を浮かべていた。


「――というわけです」

「はぁ……なるほど。こりゃ、ガレフもあの時頭を悩ませていたわけだ」

「それで、あの……やっぱり、まずかった、ですか?」

「いや、まずいわけじゃないが……正直、職員自ら解決しに行くとか予想外だぞ。まあ、サクラならしゃーないってのもあるが。んで、まあ、自分で解決した理由を一応訊こうか」

「それが、今回討伐対象になっていた魔物……は聖属性魔法、もしくは聖属性攻撃じゃないと倒せないような存在でした。そのため、クエスト依頼を成立させた場合、必須条件として聖属性魔法を習得した人か、もしくは聖属性が付与された武器などでないと倒せなかったんです。さらに言えば、その相手はクエストレベルが最低でも5は必要です。なので、結果的に依頼料がかなりかさんでしまうと判断しました。あの村は、かなり貧乏でしたからね。あれ以上お金を取れば、確実に村の人たちが飢えてしまいそうでしたし、何より聖属性魔法なら使えましたので」

「な、なるほど……そういうわけか……。しっかし、聖属性魔法が使えるとは、さすがとしか言いようがねぇな」

「あ、あはは……」


 師匠に無理やり覚えさせられたような魔法なんだけどね……。


 おかげで、あの時は酷かったよ。


「にしても、クエストレベルが最低でも5ねぇ……。そんだけ強いのか?」

「はい。攻撃手段も結構危険なものなので、ランクが5の人でパーティーを固めたとしても、五人はいた方がいいというレベルです」

「そこまで言うかよ」

「実際、それくらいでしたから」


 何せ、ボクが傷を負うくらいだもん。


 この世界の魔物相手なら、そんなことにはならないからね、こう見えて。


 でも、油断はしませんとも。

 油断一つで、死ぬかもしれないんだから。


『お、おい、聞いたか? 今、とんでもねぇ情報が飛び出したぞ』

『あ、あぁ。サクラちゃん、あんなにおっとりとした優しそうな人に見えるのに、ランク5の冒険者が五人はいないときつい相手を一人で倒せるのか……?』

『いやいや、まさか』

『もしかすると、サクラちゃんの強さ的なものがそこまででもなくて、その主観から基づくものかもしれねーぜ?』

『だがよ、サクラちゃんをナンパしていた馬鹿の背後を一瞬で取って、ナイフ突き付けてたんだぜ……? あんなん見えねーって』


 あー……ここで言うのはまずかったかなぁ。


 でも、テッドさんがここにいたし……。


「まあ、わかった。俺たちの仕事は、あくまでも人助けみてーなもんだしな。ま、受付嬢がちょっと村を救っても大した問題はない、か」


 普通にある気がするんだけど。


「で、怪我は?」

「いえ、大丈夫です。一度戦ったことがある存在だったので。まあ、その時は情報不足で一度だけ軽い傷を負っちゃったんですけどね」

「なに、サクラが? どんな敵だよ……そりゃたしかに、ランク5は必要かもなぁ。それどころか、6かもしれん」

『サクラちゃんが傷を一度負っただけで、危険度跳ねあがりすぎじゃね……?』

『マジで、何者』


 どうしよう、品定めをするかのような視線がびしびしと突き刺さる。


 冒険者の人たち的にはやっぱり気になるのかな、強さとかそう言うの。


 実際、こっちの世界の三年目の時なんて、戦争に参加していた冒険者の人たちに絡まれたこともあったし。


 その度に戦っていたけど。


「ま、事情はわかった。ご苦労だったな、サクラ。通常業務に戻ってくれ」

「わかりました。……それじゃあ、次のとこちらへどうぞー」



 その後も仕事をこなしていくボク。


 途中、お昼休憩を挟みつつも特に問題が起こることなく仕事を片付けていく。


 受付から報告、他にも冒険者登録までそこそこ多く。


 一番楽なのは、鑑定かな? スキルですぐに終わるから。


 そうしてしばらくすると、少しずつ人が減り、雑談をする余裕が生まれる。


「いやー、サクラちゃんすごいな」

「えっと、突然どうしたんですか?」

「いやさ、さっきサクラちゃんの話を聞いて、すげえ人なんだなって」

「たしかにそうですね。サクラさん、あの短時間で村に行って依頼内容を解決してきましたし、さらにはこっちの仕事も丁寧でしっかりしてますし……本当に、普段は何をしているんですか?」

「え、えっと、普段は……まあ、家事、とかですね。妹がいるものですから」


 さすがに、学校に通っています、とは言えない……。


 そもそも、こっちの世界の学校と言えば、貴族の人たちが通うような物という風に広まっているからね。


 ここでボクが、


『えっと、学校に通っているんですよー。テヘ☆』


 なんて言おうものなら、ボクは間違いなく貴族だと勘違いされます。


 ……いや、まあ、一応ボクって王族なんだけどね。魔族の国の、だけど。


「へぇ、妹さんがいるのか。何人いるんだ?」

「えーっと、六人ですね」

「「多っ!?」」

「そ、そうですか? こっちの世界だと、割と普通な気がするんですけど……」

「いやいや、そこまで多いわけないって! サクラちゃん、もしかして貴族とか?」


 あ、こっちで貴族だと勘違いされた。


「いえ、ボクは庶民の出ですよ。貴族じゃないです」


 王族です。


 嘘は言ってないよね。貴族じゃなくて、王族だもん。


 ……そう言えば、あの国の場合、王族でいいのかな……?


「それにしては、サクラさんって気品があるような気がするんですけど……」

「あはは、ボクに気品なんてないですよ。ただの、一般人です」

「クエストレベルが5に設定されるほどの魔物を一人で撃退して、一般人はない気が……」

「そ、それは……ちょ、ちょっと鍛えただけ、です」


 自分でも苦しい言い訳だと思います。


 だって、冒険者の人が討伐部門でランク5まで上げるのって結構大変って聞くもん。


 才能があって、さらに努力をすればなれる、みたいな感じ。


 あとは、単純にその人の職業と能力、スキルの問題じゃないかな。


「そう言えば、サクラさんって一人で鍛えたんですか? それとも、誰かに師事してもらったとか」

「一応、師匠がいますよ。その前には基礎を教えてもらった人もいますし。……まあ、師匠の方が酷かったんですけどね。理不尽すぎて……」

「うわ、サクラちゃんが遠い目をしてる」


 思い返しても、いい思い出なんてない。


 ヴェルガさんに鍛えてもらっていた時の方が、遥かにマシだったしね……。


 主に、筋トレと実践訓練だけだったから。


 師匠のは……筋トレだとか実践訓練だとか、生易しいものじゃなくて、常に命の危機にさらされるような物ばかりだったし……うぅ、思い出しただけで震えが……!


「だ、大丈夫ですか、サクラさん!? すごくぷるぷるしてますよ!?」

「だ、だい、大丈夫、です……。ちょ、ちょっと嫌なことを思い出しただけ、ですので……」


 主に、自分が死ぬ過去を。


 こ、怖い……。


「そ、そうか。まあ……元気出せよ?」

「ありがとうございます……」


 なんでボク、慰められてるんだろうなぁ……。



 と、そんなことがありつつもお仕事をしていると、とあるクエストの報告がきた。


 そして、これが大問題のきっかけになってしまいました。


『これの鑑定とクエスト報告をお願いしたいのだが……』


 そう言いながら、戦士風の男の人が麻布でできた袋をカウンターに置いた。


「かしこまりました。『指定魔道具の回収』のクエストの報告ですね? では、こちらで鑑定させてもらいますね」


 麻布を受け取り、麻布の中に入れられていた魔道具を取り出す。


 中には、黒と紫が混じったような禍々しい色の水晶玉が。


 たしかこれは、『打消しの宝玉』っていう魔道具だったはず。


 これ、たしか相当厄介な効果だった気がするんだけど……どういうものだったかな。憶えている限りだと、暗殺者にとっては天敵に近いようなものだったはず……。


 まあ、今は気にしなくても大丈夫かな。


 それじゃあ、早速鑑定、と。


 ボクが何気なく、麻布の中から『打消しの宝玉』を取り出した瞬間、体に何か変な感覚が走った――と思ったら、すぐに消えた。


 あれ? 何だったんだろう。


 まあいいかな。とりあえず、鑑定、と。


 えーっと……うん、間違いなくこれは『打消しの宝玉』だね。


「確認ができました。こちらの魔道具は『打消しの宝玉』で間違いないです……って、あ、あの、皆様、どうかしましたか……?」


 顔を上げると、なぜか周囲から視線を一身に浴びていた。


 え、あの……え?


 なんか、冒険者の人だけでなく、ギルド職員の人たちまでこっちを見ているような……。


 しかも、ものすごくびっくりしているというか、口をあんぐりと開けて、まさに驚愕! みたいな感じに見えるような……。


「あの、アミさん?」

「さ、サクラさん? あの、その……その髪は一体……」

「髪、ですか?」


 恐々とボクの頭、髪の毛を指さしてくる。


 ボクの髪の毛、そんなにおかしい? 『変色』で色を変えて、『変装』で髪の長さを変えているんだけど……って、あれ? なんだか違和感。


 髪の毛が伸びているような……それでいて、髪色が見慣れたものになっている気が……って!


「あ、あれ!? な、なんで元に戻ってるの!?」


 どういうわけか、ボクの姿がいつものものに戻ってしまっていた。


 髪は銀髪に、瞳は碧眼。長さもいつも通りの腰元まで伸びてるし……。


 幸い、声だけは戻っていなかったけど、こ、これはまずい!


 しょ、正体が――


「え、さ、サクラちゃんって、も、もしかして……ゆ、勇者、様?」

「い、いや、それは、そのぉ……えっと……」


 ば、バレた! バッチリバレた! ボクが隠していたことが一瞬にしてバレた!


 あぅぅ、どうしよう……すごく見てるよ。特に、ギルド職員の人たちなんて、神聖なものを見るような視線を向けて来てるよぉ……!


 ま、まずいまずいまずい!


 こ、ここはなんとかして誤魔化しを――


「あ、いたいた。依桜―」

「へぇ、ここが冒険者ギルドか。たしかにそれらしいな」

「うおー! これがマジもんの奴か! いっやー、こりゃいい体験だぜ! 依桜、お前すげえな!」

「おほー! これは写メ写メ! あ、ついでに依桜君の受付嬢姿もパシャリ!」

「なるほど、現実だとこんな感じなんだ。なかなか興味深いなぁ。これは、演技をする時にいいかも!」

「すっごーい! 本物の冒険者さんだ! カッコいい! 依桜ちゃん、ここすごいね!」


 ボクの望みは断たれた。


「イオって……たしか、勇者様の名前、でしたよね? ということはつまり……」


 じっと、さらに視線がボクに注がれた。


 それはまるで、ボクが本人だと認めるのを待っているかのような……ううん、これは実際にそう思っている視線だね。


 はぁ……。


「……実は、そうなんです。『サクラ・ユキシロ』と言うのは偽名で、本名は、その……『イオ・オトコメ』です……」


『『『うええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?』』』


 驚愕の声が、ギルドに響き渡りました……。


 結局、バレちゃったよぉ……ぐすん。

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