第433話 知りたくなかった創造神のあれこれ(依桜にはほぼわからない)
「ま、マジか! 本物の勇者様がここで職員をしていたなんて……!」
「でも、どうしてなんですか? あまり似つかわしくないような気がするんですけど……」
「え、えっと、王様を通してテッドさんに頼まれまして……それで……」
身バレした結果、ボクの所には大勢の人が押し寄せてきました。
その代表的な意味で、アミさんとニルドさんの二人がボクに話しかけてきた。
「へぇ、そんな理由だったのか。ギルマスも度胸あんなぁ、勇者様に職員をやらせるとか。ある意味命知らずだ」
「いえ、ボクとしても話を聞いていたら介入した方がいいかなって思っていたので、別に問題はないんですよ。こういう仕事は、いつか役に立つと思いますから」
「いい娘すぎる……」
「そうですね。勇者様の性格がよすぎて、本当に聖女に思えてきました……」
「あはは。ボクは聖女なんかじゃないですよ。そもそも、性格がいいかどうかは微妙ですから」
(((マジで聖女みてー……)))
それにしても、この状況をどうするか……。
むしろこれ、抑止力になるのかな。
一周回って迷惑かけているような気がするし……。
「まったく、迂闊な愛弟子め……」
「って、し、師匠!?」
いきなり師匠が目の前に現れて、呆れ声をボクに浴びせて来た。
「師匠? と言うと、この人が勇者様の?」
「そ、そうです」
「あぁ、どうも、こいつの師匠をやってるミオ・ヴェリルだ。よろしくな」
師匠が軽く自己紹介をすると、ボク以外の全員がこっちをバッ! と見てきた。正確に言えば、師匠を、だけど。
え、こ、今度は一体何?
「ちょ、ちょっと待ってください? あの、つかぬ事をお聴きしますけど……その、み、ミオさんって……昔、冒険者ギルドで登録とか、してませんか?」
「ん? あぁ、そういや数百年前くらいに登録してたな、あたしの親友と一緒に」
え、数百年前……? なんだかそれ、ちょっと引っ掛かるような……。
「す、数百年前……あ、あの、ら、ランクは……?」
「7だな」
『『『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?』』』
周囲から再び驚愕の声が発せられた。
あ、だから引っ掛かってたんだ! だって、テッドさんが言ってたもん! 数百年前にランク7になった人がいたって!
「ん? なんだ? 何かおかしなことでも言ったか?」
「いや普通に考えておかしいですからね!?」
「何もおかしなことはないだろう。あたしの強さ的に」
「周囲が驚いているのはそこではなく、師匠の年齢と、冒険者登録をした時のことだと思いますよ……」
「……あぁ、そういや高位の魔法使いじゃない限り、百年以上生きるのは無理だったか。たしかに驚くか」
(((いや、驚くべきは数百年前という部分なんですがそれは……)))
この人、やっぱりこっちでも非常識だったんだなぁ……。
どこかずれたことを言ってるよ。
「まったくもう。師匠はもうちょっと周囲からの自分の評価を気にしてくださいよ」
「「「「「「「それを依桜(君)(ちゃん)が言う!?」」」」」」」
「え、ボク結構自分のことは気にしてるよ!?」
「「「「「「「どこが!?」」」」」」」
ボク、結構周囲からの評価というか、どう見られているのかということに対しては、そこそこ知っていると思うんだけど……みんな、酷くない……?
あの後、テッドさんが出て来て、休憩時間を貰えました。
休憩を貰えた旨を伝えると、ボクは師匠に引っ張られていきました。
そうして、少し大きく来のごく普通の一軒家に辿り着くと、師匠はそこに入っていき、同時にボクも引きずられながら入りました。
「あ、あの、師匠? ここはどこですか……?」
「ここか? ここは、まあ……あれだ。あたしが数百年前、この辺りにあった国……ってか街で冒険者として活動していた時の家だ。まあ、正確に言えばあたしの親友――ミリエリアの家でもあるんだがな」
「うえ!? そ、そんなところにボクが入ってもいいんですか!?」
「ま、問題ないだろ。あいつなら、そう言うの気にしねーし、何よりあいつは……いや、うん。言わない方がいいな。その方がまぁ……お前も幸せだろう」
最後の部分だけ、なぜか濁した。
しかも、遠い目をしているというか……何と言うか、こう、『あいつ、すっげえやべー奴だったんだよなぁ……』みたいな顔をしているのがすごく気になる。
「ちょっ、何ですかそのすごく気になる言葉は!? 一体どんな人なんですか、ミリエリアさんって!」
だからか、思わずツッコミを入れていた。
「……聞きたい、か?」
「すごく気になる言い方だったので」
「……まあ、うん。いいか。とりあえず、前知識として、お前はミリエリアが神だってことは知ってるよな?」
「以前言ってましたね。今の世界を管理している神様は二代目だって。それで、その先代がミリエリアさんっていう人……じゃなかった、神様なんですよね?」
「そうだ。で、まあ、あいつは人が好きでな。ちょこちょここっちに降りてきていて、その時にあたしと出会ったんだ。で、何か知らんがあいつに気に入られて、あたしもあいつが気に入ったんで一緒に暮らしたり、一緒に冒険者として過ごしていたわけだが……」
「だが?」
「あいつな……女好きだったんだよ」
「………………はい?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
だけど、何度頭の中で思い返してみても、女好きって言っていた、よね?
……いやいやまさか。
大丈夫。きっと男の人のはず……!
「え、えーっと……み、ミリエリアさんって、男の神様、なんですよね……?」
「いや、女だぞ?」
アウト――――――――――!
ボクは心の中で叫んだ。
十分アウトだよっ!
「あぁ、勘違いするなよ? あいつの名誉の為に言うが、誰彼構わず口説いたり、手籠めにしたりするような奴じゃなかったからな? ただ、可愛い女が好きだったってだけで」
「それ、十分アウトな気がするんですけど!?」
「いや、まだセーフだろ。世の中のアウトって言うのは、まあ……あれだ。出会ってその日でベッドインみたいな」
「ベッドイン……? 普通に一緒に寝るだけで、なんでアウトなんですか?」
(あー……そうだった。こいつはドが付くほどのピュア娘ちゃんだったわ……。めんどいな、こいつ)
「……いやまあ、なんつーか、お前が思っていることと違う意味っつーか……気にすんな」
「そう、ですか?」
ボクが思う意味以外に何があるんだろう?
とても気になるけど、この様子だと教えてくれなさそう。
だって師匠、苦い顔をしてるし、手も額に当てていかにも『どうしたもんか……』みたいな表情をしているし。
「話を戻して。あいつは女好きだが、別に男が嫌いとかっていうわけじゃないからな? じゃなきゃ、お前のことをあいつみたい、とは言わんし」
「あ、それもそうですね。……って、それ、ボクがミリエリアさんっていう神様と似てるって言ってますよね? ボク、人間ですから全然違いますよ?」
「……まあ、それでいいか」
こっちに旅行に来てからというもの、師匠はどことなくボクに対して変に生暖かい目を向けてくるようになった気がする。
一体その目にどんな意味が含まれているのか……。
「まあ、それが理由で話が振出しに戻るわけだ。あいつは、可愛い女が好きだ。特に、依桜なんてドンピシャなんじゃないか? あいつは何と言うか……うん。家庭的で優しくて、性格が可愛い女を好むしな。ちなみに、あいつ曰く『外見は関係ありません! 中身が可愛ければいいのです!』だそうだ」
「……なんだろう。すごい神様なんでしょうけど、そういう話を聞いていると人間みたいな神様なんですね」
「そうだなぁ。あいつはたしかに、人間っぽい神だったな。女好き、ってのはどうかと思ったが」
「あ、あはは……」
「……あいつとは、色々あったからな」
昔のことを思い出しながら話す師匠の顔は、どこか遠くを見つめているようだった。
「――何度も興奮気味に聞かれたよ。『攻めがいいですか? 受けがいいですか?』って。いや、あたしもあいつが好きだったしまんざらでもなかったんだが……な。さすがに……毎日二桁以上の回数はちょっと……体力無尽蔵、世界最強とまで言われたあたしと言えど、あいつの全てを受け止めきるのは……無理だった……」
師匠は一体何を言っているんだろう。
だけど、その儚い笑みと『しんどかった』という気持ちがひしひしと伝わってくるところを見ると、なんだかいろんな意味ですごい神様だったんだなって、思えて来た。あの師匠にここまで言わせるわけだし……。
まあ、言っている意味はわからないけど。
「それにしても……なんだか、ボクに知り合いやその人の知り合いのほとんどが、同性愛者ばかりな気がしてきましたよ、ボク」
「まあ、お前の容姿が悪いだろ、それは」
「え、それディスってます?」
「いやむしろ褒めてる。要はあれだ。男女関係なく、無自覚に落としちまう無駄に整いすぎた容姿が悪いってだけで」
「やっぱりディスってますよね!?」
「いや、褒めてる」
全然褒められている気がしない……不思議。
「……それで、どうしてこの家に? 一体何をしにここへ来たんですか?」
「あぁ、この家は何かと便利でな。あたしもたまに使っている」
「使う?」
「そうだ。この家には、ミリエリアが施した魔法……というか、神技が使われていてな」
「神技?」
「ああ、そうか。お前は知らなかったな。神技ってのはな――」
と、師匠が説明してくれた。
なんでも、神技というのは神様のみが使うことのできる技術のことだそう。
使う際は、神気を用いるとか。
基本的にやろうと思ったことができる、と言うものらしく、基本的に制限のない技術だそうです。
師匠は使えないみたいです。意外。
理由は、純粋な神気じゃないから、というもの。
師匠の場合は、ミリエリアさんと一緒にいたことによるものと、邪神を殺したことによるイレギュラーでなったもの、らしいです。
でも、なんだろう。他にも理由があるような気がしてならない。
旅行前日に師匠に使い方を(強制的)教えられてからは、人がいないところで神気の扱いを練習しているんだけど、普通は一緒にいたり邪神を殺したりするだけじゃ神気を体から発しないような気がしてます。
なんと言うか……これは体のどこからか発生している物で、染みついただけだと染みついている分しか出てこない気がする。
とは言っても、ボクは最近になって初めて知ったことだし、違うのかもしれないけどね。
それで、神技というのは人間じゃ絶対に手の届かないものでもあるため、人がそれを見破ったり解除したりするのは不可能だそう。
出来ても、効力を落としたり、なんとかある程度見破ったりするだけみたい。
なるほど、やっぱり神様ってすごいんだね。
ちなみに、師匠は打ち消したり余裕で見破れるそうです。
おかしくない?
それで、この家にもそれが施されていて、効果は『不可視』と『不変』だそうです。
前者は、単純に見えなくなる……のではなく、ごくごく普通の一軒家にしか見えない上に、入られないようにするためのものみたい。
師匠が言うには、普通の人には入る気さえ起きない家なのだそう。なので、泥棒が入ることもないとのこと。
そして後者は、文字通りの意味です。
言ってしまえば、汚れない、傷つかない、老朽化しない、燃えない、壊れない、そういう効果みたいです。
何そのチート、と思わなくもないけど、やったのが神様だと考えれば普通の事……なんだよね? これ。
ちなみに、この『不変』の効果は内装にも適用されるらしくて、食べ物は腐らないし、家具も壊れないみたいです。あと、清潔な状態にも保たれます。
それだけでもすごいんだけど、師匠が言うにはこれは相当恐ろしい効果なのだそう。
なんでも、
「こいつは、神の中でも別格である創造神のミリエリアが施した神技だ。その結果、この家は仮に隕石が降ってきてもこの家だけは無事だし、星の中心にまで家が落ちても決して溶けたりすることもなく中は快適な温度に保たれ、そして、星が無くなって宇宙に放り出されてもこの家だけは無事な状態なんだよ。だから、あいつのこの施した効果を知った時、思わず背中に寒気が走ったね。それほど、あいつは神としても、創造神としても別格だった。あたしは、あいつ以上の創造神を知らん」
だそうです。
なんと言うか……師匠以上のチートがいること自体が驚きだし、師匠ですら寒気を覚えるレベルって相当やばいよね?
やばい、という言葉を普段使わないボクが使っているので、どれだけ異常か察してくださると嬉しいです。
そう言えば、その効果が本当なら、どうしてボク、入れたの?
……まあいいよね。うん。師匠が目の前で入ったから、きっとそう思っただけだよね。
「――ま、神技についてはこんなもんだ。余計な時間を食っちまったな。本題がおろそかになっちまう」
「本題?」
「ああ。あたしが、ミリエリアの話とか、神技についての説明をするために此処に来たと思うか?」
「いえ……思わないですね。師匠はある意味、ささっとやるタイプな気がしますし……」
「だろう? つまり、だ。あたしの本題って言うのは……お前、『打消しの宝玉』を触っただけで、『変装』と『変色』の能力とスキル、解除されたよな?」
にっこりと笑いながら指摘された。
「あ」
「いやぁ、あたし修業時代に言ったよな? というか、教えたよな? なのにテメェ、何してんだよ」
「うぐっ」
「よし、あたしが教えた暗殺者の三箇条を言え」
「は、はい! え、えっと、『一つ、姿をバレてはいけない』『二つ、油断や慢心はしてはいけない』『三つ、感情のコントロールは完璧に』です!」
「よーし、よく覚えていた。褒めてやろう」
「あ、ありがとうございますっ!」
「じゃあ言うが……お前、普通に一つ目と二つ目、ナチュラルに崩しているような?」
「……」
そーっとボクは目を逸らした。
いや、うん……。だって、本当のことなんだもん。
でも、師匠の体からは異常なまでのオーラのような物が出ていて……背後には、龍のような物さえ視える。
「あたし、言ったよな? 暗殺者たるもの『打消しの宝玉』には気を付けろと」
「は、はい言ってましたですはい!」
「なのに……それを忘れてるとは、平和ボケしすぎて、脳内お花畑かこの野郎」
「す、すみません! 普通に忘れてただけなんです! 本当に! 師匠の言ったことはそれなりに覚えてます! 本当です!」
「いや、それなりじゃダメだろ」
「はぅっ!」
「なんで……お前には、罰を執行することにした」
「ば、罰……?」
どうしよう、嫌な予感しかしない……。
じりじりと後ろに後ずさる。
師匠はわきわきと手を動かし、悪い意味でいい笑顔を浮かべながら近づいてくる。
ひぃぃ! 怖いよぉ!
「お前へ与える罰……それは、『魔道透過』のスキルの習得だ!」
「い、嫌です! 『感覚共鳴』でのスキル習得だけは、ボクも本当に勘弁してください! あれだけは……あれだけは嫌なんです!」
「そいつが嫌がるものじゃきゃ、罰にはならんだろうJK」
「随分古いネタですねそれ!?」
今時、JK、って使う人いないよ!
一体向こうの世界で何を学んだのこの人!?
「そんじゃ、お前が逃げられないように……『封印』『捕縛』」
「うひゃぅっ!?」
師匠が謎のワードを唱えると、師匠の手からロープが出て来て、なぜかボクを縛り上げた。
ちょっ、何してくれてるのこの人!?
「ぬ、抜け出すしか……って、あ、あれ? ち、力が出ない……というより、これ、一般人レベルにまで落ちてる……?」
縄を抜け出そうとして、力を入れるんだけど、まったく力が出ない。
というより、昔に戻った感じがする。
ど、どういうこと? これ。
「ふははは! それは、ステータスをか弱い女レベルにまで落とすスキルだ!」
「何使ってるんですか!?」
「そして、捕縛のスキルと併用することにより、どんなに強い屈強な男でも一瞬にしてか弱い女レベルの力にできるってわけだ」
「最悪のスキルじゃないですか! これ解いてくださいよぉ!」
「嫌だ」
「酷い!?」
「ちなみにこれ、ミリエリアがよく好んでいてな……夜とか、ベッドの上でとか」
「一体何の話をしてるんですか!? あと、なんで好んでるんですか、神様が!」
ボクの中の神様像、どんどんマイナス方面に進んでいってるよ!? その内、0の壁を超えてマイナス方面まっしぐらだよ!?
あと、なんでベッドの上で使ってるの!? 縛られていないと眠れない神様だったの!?
「いや、使うのはどっちかと言えばあいつの方で、あたしが使う時はマンネリ防止だったんだが……まあ、それはいいとして」
本当に、師匠がなにを言っているのか理解できない。
「そんじゃ、始めるぞ」
「え、ちょっ、や、やめて、止めてくださいっ! あ、い、いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
昼下がりの王都にあるとある家から、少女の悲鳴が聞こえたとか聞こえないとか……ぐすん。
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