第430話 受付嬢な依桜ちゃん
「今日一日、受付業務をすることになりました、サクラ・ユキシロです。よろしくお願いします」
更衣室でギルドの制服に着替えてから、受付カウンターの方へ行くと、すでに他の職員の人たちがすでに出勤して来ていて、営業準備をしていた。
ちなみに、制服はスーツのような感じです。
一応、タイトスカートかズボンかで選べるみたいだったので、荒事にも対処しやすいようにズボンを選びました。
久しぶりに穿いた気がする。
そして、受付カウンターの方へ行き、挨拶をすると、温かい拍手で迎えられた。
すると、ボクの目の前に一人の女性がこちらに来て自己紹介をしてくれた。
「はじめまして。アミ・ユティムです。よろしくお願いします、サクラさん」
「はい、こちらこそ」
差し出された手を握って握手。
アミさんは知的な雰囲気がある美人さん。
長い茶髪をハーフアップにして、瞳は髪と同じブラウン。
綺麗系な顔立ち、と言えばいいのかな?
身長はボクより高く、大体160センチ前半くらい。
むぅ、羨ましい……。ボク、152センチくらいだし……。
「それにしても、珍しい名前ですね、サクラさんって」
「辺境の国出身でして……」
辺境どころか、異世界なんだけどね。
ギルド職員の人たちは、基本的にボクが異国から来た助っ人、みたいな感じで説明されているみたい。
「サクラちゃん、でいいんだよな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「オレはニルドだ。よろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、ニルドさん」
次に話しかけてきたのは、ニルドさんという男性。
結構なイケメンさん。
やや長めの緑色の髪に、全体的にシュッとした印象のある人。
筋肉は……うーん、そこそこ、かな。まあ、こっちの世界の人は、普通の一市民でもそこそこ筋肉質だからね。生活の違いで。
反対に、向こうの世界はと言えば、生活に楽なものが多いせいで、ちょっと肥満気味の人が多いからね。
その辺りは、結構違う。
どちらかと言えば、サッパリとした性格に見える。
「ギルマスから聞いてるが、サクラちゃん、荒事にも対処できるんだって?」
「そうですよ。これでも一応、戦闘職ですから」
「へぇ~、サクラさんって戦闘職なんですね」
「一応。しっかりと修行もしていたので、もし何かあれば頼ってください。今回助っ人として入った理由も、そこが大きいですからね」
「人は見かけによらないってことか」
そういうことだね。
どこの世界に行っても、見た目で判断しちゃダメだからね。
「あ、サクラさんは仕事内容は理解しているんですよね?」
「はい。さっき、テッドさんから詳しく説明してもらいましたから」
「なら、鑑定系の仕事も大丈夫、ということか?」
「大丈夫です。一応下位とは言え、鑑定のスキルも持ってますから」
「お、マジか。戦闘職で鑑定スキルを持ってるのは珍しいな。それなら助かるぞ」
ニルドさんの言う通り、鑑定のスキルって結構珍しいからね。
本来なら《鑑定士》や《鍛冶師》の人たちが持っている場合が多いからね。
戦闘職だと、持っている人は意外と少ないしね。
持っているとしても……魔法系職業の人が多い、かな?
なんでかはわからないけど。
ちなみに、《戦士》とか《武闘士》の人のような、近接系戦闘職の人たちが持っていることはほぼほぼないとか。
《暗殺者》は……たまにいるそう。
まあ、大抵はボクのように下位の物なんだけどね。
それでも、十分有能なスキルだから重宝するんだけど。
「あ、ちなみになんですけど、ボクってどんな職業に見えたんですか?」
ちょっと気になる。
見かけによらないって言ってたし、ボクが戦闘職って言った時驚いたような顔をしていたし。
「私は……《菓子職人》とか《聖女》かな?」
「オレは《料理人》《回復術師》とかだな」
なんでその四つ?
というか、《菓子職人》なんてあるの?
あと、《聖女》って……。ボク、元々男なので、その職業になることは絶対にないと思います。
「どれも違いますよ。
「へぇ、複数適正があるとは、珍しいな」
「みたいですね。それ以外だと今の職業を含めて三つありますよ」
「じゃあ、四つもあったっていうことですか? なかなかに多才なんですね、サクラさんって」
「そうでもないと思うんですけど……まあ、結局他の三つは選ばないで、今の職業を選んじゃったんですけどね」
まあ、単純に他を選ぶという選択肢がなかっただけなんだけど。
じゃないと、ボクが強くなることなんて不可能だったしね。
「じゃあ、サクラちゃんはなんの職業なんだい?」
「あー……えと、それはちょっと、秘密、ということでお願いしてもいいですか?」
「まあ、個人情報だからな。ごめんな、ずかずかと」
「いえ、大丈夫ですよ。それで、えっと、仕事はまず何をすればいいですか?」
「おっと、雑談をし過ぎましたね。最初は受付業務をお願いしてもいいですか? 朝は基本的にクエストを受注する人しか来ませんから」
「あ、そうなんですね。わかりました」
「それじゃ、サクラちゃんは……あそこのカウンターでいいかい? 両サイドにオレとアミちゃんがいるから、わかんなかったら聞けるし」
ニルドさんが指示したのは、正面入り口から入って右から三番目の場所。
それなりに目立つ位置な気がするけど、アミさんとニルドさんの二人が両サイドにいるらしいので、いいかな。
「そうですね。サクラさん、そこで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、一応これマニュアル。受け答えの仕方はここに書いてあるから、営業前にこれを見ておいてくれ」
「わかりました」
「じゃ、何かわからないことがあったら何でも聞いてくれ。他の奴でもいいぞ。失敗も気にしなくていい。フォローはオレたちの方でやるからな!」
「そうですね。私たちの方が先輩ですから。安心して仕事をしてくださいね」
「ありがとうございます」
よかった、本当にいい人たちで……。
さて、時間になるまで色々と頭に入れておこう。
……時間はあと十五分くらいとなると、これはあれかな。『瞬刹』を使った方がいい気がしてきた。
そうしよう。
というわけで、マニュアルのほとんどを頭に入れていたら営業開始に。
すると早速、冒険者の人が数名ギルドに入ってきた。多分、パーティーなのかな? 親しそうな感じだし。
数名の人は、クエストボード――クエストが張り出されている掲示板の所に行き、クエストを吟味していると、紙を持ってこちらに来た。
あ、いきなりボクの所だ。
『これを受けたいんだが』
「かしこまりました。それでは、冒険者カードの提示をお願いします」
『あいよ』
『どうぞ』
『ん』
「えーっと……はい。確認が取れました。ミハイルの館の調査ですね。お気をつけていってらっしゃいませ」
にこっと微笑んで言ったら、
『『『ぐふっ』』』
なぜか胸を押さえていた。
あれ、行く前からなんでそんなに苦しそうなんだろう?
……大丈夫なのかな。
『……あんな可愛い受付嬢いたか?』
『いない』
『見たことない』
何やらこそこそと話していたみたいだったけど、何を話していたんだろう?
まあ、きっとクエストのことだよね。
さて、お仕事お仕事。
営業してすぐは、結構人はまばらに来ていたけどそれでも特に問題もなく仕事をこなせていました。
ただ、なぜかはわからないけど、
『た、頼むぜ』
『お、お願いします』
『報告、い、いいですか?』
ボクが受付をした人たち、なぜか顔を赤くして声が上ずったり、吃っちゃったりする。
もしかしてボク、怖がられたりする?
それかもしくは、勇者だとバレてたり……はないよね。さすがに。だって、髪色と髪型を変えて、瞳の色も変えて、さらに声も変えてるんだもん。バレるはずないよね。
バレるとしたら……みんなくらい?
まあでも、そこまで心配するような事態はないから大丈夫……だと思うんだけど。
そう言えば中には、
『やぁ、君見ない顔だね? もしかして新人かい?』
「新人と言えば新人ですね。ただ、今日限りの助っ人です」
『へぇ、君すごく可愛いじゃないか。ねえ、よかった仕事終わりにお茶でも』
こんな風にお仕事中なのにナンパしてくる人がいます。
ここまで直球なのはちょっとあれだけど。
「いえ、ボク連れの人たちがいるので(にっこり)」
『そう言わずにさぁ』
「すみません。後ろがつっかえているので、関係ないお話でしたら、出てもらえますか(にっこり)」
『冷たいなぁ。別にちょっとくらいいいじゃないか』
と、男の人がボクの手を掴もうとした瞬間、ボクはカウンターから飛び出て一瞬で背後を取ると、男の人の首筋に短刀を突き付けた。
「ちょっとくらい、なんですか?(にっこり)」
『ひっ! い、いや、あ、あの……す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁっ!』
顔を青ざめさせると、男の人はギルドから逃げるように――というか、実際逃げていった。
ちょっとやりすぎちゃったかな?
でも、こっちでは下手に出てると相手がつけあがっちゃうからね。
これくらいはしないとダメなんです。
あとは、周囲に対する牽制、という面もあるかな。
ただ、変に注目を集めちゃったような……。
『あの受付嬢ヤバくない?』
『あ、あぁ。可愛いだけじゃなくて、メッチャ強い』
『もしや、戦闘職?』
『動き的にそうだろー……』
『どうしよう、あの人カッコよすぎる』
『わかる。優しそうなお姉さんみたいな感じなのに、にこにこ笑顔でキザなナンパ野郎を退けていたと事か、ギャップがすごかった』
あーうー……視線がすごいよぉ……。
やっぱり、やりすぎちゃったのかなぁ。
うぅ、ボクってこっちだとついやりすぎちゃうからなぁ……自分が恥ずかしい。
って、そんなことよりも、ギルド内がちょっと騒然としちゃってる。
収めないと。
「え、えっと、突然あのようなことをして申し訳ありません。少々騒がしくなってしまいましたが、どうぞお仕事を続けてくださいね」
最後に軽く微笑んでそう言えば、
『『『( ˘ω˘ )』』』
なぜか安らかな顔をする人が続出した。
え、どういうこと!?
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