第305話 ブライズの世界へ
それから、ややあって、新学期。
新学期から、メルも学園に通うようになった。
新たに、初等部、中等部が新設されたんで、そこの初等部に通うそうだ。
あたしは、相変わらず、イオのクラスの副担だ。
だが、体育の時間は、あたし一人の担当になったんで、好き放題できる。いや、他の生徒がいるんで、そんな馬鹿なことはしないがな。
ちなみに、裏で手を回して、イオたち五人は同じクラスにするよう、エイコに頼んでおいた。
理由は単純。
イオが心配だからだ。
これに関しては、エイコも同感だった。
イオは確かに強い。だが、あいつは異常なまでに鈍感だし、そもそも魔法やらなんやらの事情を知っている奴が近くにいないと、色々とフォローが面倒だ。
その点、ミカたち四人はその事情をイオから直接聞いている。
ならば、まとめて同じクラスにしておいた方が、面倒ごとも少なく済むはずだ。
というか、あたしが面倒ごとが来たら嫌なんで。
本当はこう言うのはだめだが、幸いというか、国や県が運営しているわけじゃないんでね。私立だから、大丈夫だろう。多分。
まあ、イオは抜けてるからな。心配を減らすために、っていうのもあるんだがな。
そんなイオだが、今はメルと楽しそうに歩いている。
弟子の楽しそうな顔というのは、いいもんだな。
それから学園へ。
あたしは別に、司会のような仕事があるわけじゃない。やらされそうにはなったが、さすがに断った。
そう言うのは柄じゃない。
なんだよ、美人だからって。
容姿で決めようとしてんのか? 馬鹿か。
まあ、そんなわけで、さすがに辞退。
入学式やら始業式が終われば、それぞれのクラスでちょっとした自己紹介の時間となった。
まあ、顔と名前を覚えるのは、重要なことだからな。
一応、教師もするらしい。面倒なことだ。
「今年、お前たちの担任になる、戸隠だ。まあ、何人かは去年と同じだが、ほとんどは初か? まあ、そんなわけだ。よろしくな」
パチパチと拍手が起こる。
クルミと同じクラス担当というのは、ありがたいな。
個人的に、同僚の中では一番仲がいいと思っている。クルミがどう思っているかはわからんがな。
まあ、向こうも嫌いと思っているわけではあるまい。
でなければ、スキー教室の時とか、拒絶の意思を示してくるだろうしな。
「ミオ・ヴェリルだ。クルミと同じく、去年から同じ、って奴もいるな。なぁ? 愛弟子」
にっこりと笑ってイオを見れば、イオはびくっと肩を一瞬だけ震わせた。
別に、脅したわけじゃないんだがな。
「なんでも、高校二年生ってのは、何かと忙しい時期らしいな。進路を決めたり、依ベンドごとも多いらしいな。おそらく、高校三年間で最も短く感じる一年になるだろうが……ま、悔いなく、全力で楽しめよ。あたしも、お前らガキどもが満足して三年に上がれるよう、協力するからな。よろしく頼む」
そう言うと、クラス中から拍手が鳴る。
ふむ。ちょっと年寄りくさかったかね?
まあいいだろう。あたしからすりゃ、一年なんてあっという間だ。
数百年も生きているんだ。あたしにとって、一年は一ヶ月程度の感覚でしかない。
だが、こいつらはもっと短いんだろうな。なにせ、生涯唯一の一年なんだし。あとは、イベントも多いし。楽しい一年にさせなきゃ、教師として失格だろ。
……なんてな。あたしも、こっちの世界が気に入っちまってるらしい。
柄にもないことを言った。
見ろ、ガキどもがすっげえキラキラした目で見てやがる。
イオに至っては、尊敬した目をしてる。
ふっ、もっと尊敬するがいい。
進路に関しては、あたしがそいつらの才能を見抜けるんで、上手く教えられりゃいいがな。
新学期最初の登校日は、授業があるわけじゃなかったんで、楽なもんだった。
そんな仕事が終わり、イオたち生徒が帰宅した後。
あたしは、エイコに呼び出されていた。
「んで? 用事ってのはなんだ、エイコ」
「来てくれてありがとう、ミオ。例のあれ、予定よりちょっと遅れたけどもうすぐ完成するわ」
「例のあれって言うと……まさか、ブライズの世界への装置か?」
「そう! 予定では三月中に完成させるつもりだったけど、最近ちょっと困ったことが怒ってたから、それに合わせて平行にこなさなきゃいけなくなっててね。それで遅くなっちゃったけど、無事に完成しそうなの!」
「……そうか、すまないな」
「いいのよ。被害が出ている以上、どうにかしないといけないしね」
完成しないよりはマシだ。
むしろ、よく完成させられたな、エイコは。
本当、天才だよ。
「それで、完成はいつになる?」
「そうねぇ。今は最後の仕上げよ。シミュレーションをし、無事作動するかどうかの確認だけ。あとは、微調整をすれば大丈夫だから……明後日には完成するわ」
「わかった。なら、あたしは完成次第、すぐに乗り込むとしよう。いい加減、うんざりしてたんだよ、あいつらには」
あいつらのせいで、あたしは世界中を回らなきゃいけなくなるし、武力行使で止めなくちゃならなくなってたんで、本当に厄介だった。
てか、めんどくささしかなかったぞ。
それを、ようやく止められると思うと、胸が躍るな。
「そうね。異世界人の回収もお願いしてたし……ミオには、厄介ごとを押し付けちゃってるし、申し訳ないわ」
「いや、いいんだよ。あたしが好きでしていることだ。てか、あたしじゃなきゃこんなことはできんしな」
イオは学業がある。
あたしは教師ではあるものの、融通は効く位置にいるんでな。多少世界を回っていても問題はない。
というか、あんな奴らを野放しにしていたら、倒して回る以上に面倒くさいことしかない。
「それで、その世界はどうするの? ブライズを滅ぼした後」
「あー、そうだな……今回、あたしが赴く理由は、ちょっとした考察材料も兼ねてだ。まあ、一番の理由は鬱陶しいから潰すのが目的だがな」
てか、それ以外ない。
あとはあれだ。今言ったように、神の管理から外れた世界なのかどうかを確認するためだ。そういや、空間歪曲だったか? どうも、それが頻発しているらしいし、もしかすると、何か関連があるかもしれん。
それのチェックもな。
「ミオらしいわね」
「ははは。ま、あたしは自分の楽しく楽な生活を脅かすあいつらが許せんだけさ」
「ふふっ。まあ、ともかく、よろしくね」
「ああ。任せな」
最後にお互い笑いあい、あたしは部屋を出ていった。
ようやくあいつらを潰せると思うと、マジで胸が躍るね。
マジでムカつく奴らだったし、これでスッキリできそうだ。
終わったら、酒でも飲むとするかね。祝い酒だ。
イオにこの件は……いや、とりあえず、言わなくていいな。事後報告でも問題ないだろう。
さて、今の内にある程度準備はしておくかね。
そんなわけで、二日後。
例によって、あたしは学園を訪れていた。
別に、エイコの研究所に直接行ってもいいんだが、さすがにそれは申し訳ないからな。壊しかねんし。
だから、学園で落ち合うことになっている。
誰もいない学園だし、別にいいだろ、と思ってエイコのいる学園室にノックなしでそのまま入った。
「来たぞ、エイコ」
「待ってたわよ、ミオ」
「例の物、ちゃんと完成してるんだろうな?」
「もっちろん。私を誰だと思ってるの? 余裕よ余裕」
そう言いながら、エイコは一つの腕時計らしきものを取り出した。
「それか?」
「そう! これが、ブライズの世界に行くために製作した、異世界転移装置よ。行き先は、ブライズのいる世界しか行けないわ。帰還時は、腕時計についている、青いボタンね。ブライズの世界へ行くためのボタンは、紫よ」
「了解した。で、この赤いボタンはなんだ?」
「自爆ボタンよ」
「……いるのか? それ」
少なくとも、絶対に使わないだろ、そんなボタン。
一体何に使うんだか。
「ロマンよ」
「そうか、ロマンか」
く、下らねぇ……。
エイコって、そう言うのを大事にする奴だったのか……。
まあいい。
「それで、気を付けてほしいんだけど……」
「なんだ?」
「死なないでね?」
「はっ! それをあたしに言うか? これでも、引き時はちゃんと見極めるさ。というか、神だって殺せるあたしが、そう簡単にくたばってたまるかよ」
「それもそうね。というかそれ、死亡フラグじゃないの?」
「ふっ、あたしクラスともなると、死亡フラグは簡単に撥ね退けられるのさ。……それに、あたしはプロだ。危ないと思ったら即座に逃げる。それに、最悪の場合を常に想定するのが、プロの暗殺者ってものだ。戦力を見た感じ、そこまで強くはない。少なくとも、常時全身に光属性の魔力を纏ってりゃ、そうそう近づけんし、向こうなら大丈夫だと思うぞ」
「……そっか。ええ、理解したわ。それなら、大丈夫そうね」
「だろ?」
一体をほぼワンパン出来るんだ。大した問題はない。
というかだな。このあたしが苦戦するとか、今じゃそうそうないぞ?
あるとすりゃ、神……それも、邪神クラスだな。
普通の神如きなら、そこまで問題はないだろ。
ちょっと臓器がいくつか潰れるかもしれんが、すぐに修復はできるしな。
まあ、心臓と脳さえ潰されなきゃ、即死にはならん。
もちろん、心臓と脳が潰された時のための想定はしてあるし、潰された後のことも考えてある。
最終的な話、魂さえなくならなけりゃ、問題はないんでね。
……イオに言ったら、
『おかしいです!』
なんて言われそうだな、これ。
まあいいけど。
……あいつらなら、その辺の技術を身に付けそうだけどな。
今回のこの件が終わったら、どうすっかね。
一応、昨日の内に、明日明後日はいない、そう伝えてあるし、大丈夫だな。
問題は、あいつがまーた変なことに巻き込まれないかどうか、ってところだろ。
……あいつ、知らない間になんか厄介ごとに関わってるし。
どうするよ、これでまた、別の世界に行った、なんてことがあったら。
まあ、ことと次第によっては、それはそれでイオの判断材料になりそうだし、別にいいんだがな。
それに、魔の世界以外の場所に行った、何てことになれば、時間のずれもある程度わかるようになるかもしれんし、それはそれで期待するとしよう。
……いややっぱだめだ。余計に面倒なことになる気がする。
変なことに巻き込まれるなよ、我が愛弟子。
「それじゃあ、最終確認。今回、ミオが行く世界は、ハッキリ言って環境は最悪。ミオだから大丈夫だとは思うけど、常に気を付けてね」
「当然だな」
「そして、腕時計はかなり頑丈だから、壊れる心配はないわ。でも、仮に壊れたとしても、バックアップとして、帰還できるように知るプログラムがミオ自身に投射されるから、帰れなくなる、なんてことはないので安心してね」
「了解だ。というか、さすがだな」
「でっしょでしょ~? 私って、天才よねぇ」
「否定はしないな」
まあ、イオたちは『天才』じゃなくて『天災』って言うんだがな。
「それで? 他はなにかあるか?」
「いえ、ないわ。あとは、さっき言ったように、死なないで、くらいよ」
「了解した。それじゃあ、言ってくるぞ」
「ええ、いってらっしゃい」
そう言って、あたしは装置を起動させ、一瞬の浮遊感の後、あたしの意識はそこで暗転した。
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