1-5章 CFO《Connect Fantasia online》

第167話 新年の始まりと、サービス開始

 二〇二〇年という年が終わり……


「「「「明けましておめでとう! 今年もよろしく、依桜(君)」」」」

「うん。明けましておめでとう。今年もよろしくね、みんな」


 新しい一年が始まった。

 時間通りに、みんながボクの家を訪れた。

 LINNで着いた、という連絡があったので、ボクも軽く着替えて外に出ると、みんなが新年の挨拶をしてきた。

 もちろん、予想できないわけがないので、ちゃんと返しますとも。


「おーし、んじゃまあ、初詣行くか」

「うん」


 集まって早速、神社へ向かった。



 ボクの家の近くには、神社がある。

 名前は、『美天神宮』と言って、何でも、幸運と恋愛にまつわる神様を祀っているそうです。


 ボク自身は、何と言うか……恋愛をする気はないから、幸運の方かな。だって、ボクの場合不運しかないんだもん。


 実際、本当に神様とかいるみたいだし、ある意味神頼みも間違いじゃないと言えば間違いじゃないんだよね……。


 師匠が言うには、全部の世界にいる、って話だし。


 そうなると、この世界にもいるんだろうけど……どういう神様がいるんだろう?

 この世界には、いろんな神様がいるって言われてるし、国や地域によって色々と変わってくる。

 そう考えたら、どういった神様がいるのか気になる。


 まあでも、師匠は碌な奴はいない、みたいなことを言っていたし、あんまり会ってみたくはないかも。


「おー、やっぱ元日なだけあって、人がいっぱいだねぇ」

「そうね」


 神社に到着し、ボクたちも並ぶ。

 ここの神社は、それなりに広く、結構な人数が初詣に来ていた。


 そう言えば、例年より人が多い気がする。

 ここの神社は、恋愛にまつわる部分もあるから、女性の参拝客が多いんだけど、どうも今年は男性の参拝客が多いように思える。

 誰か好きな人でもいるのかな? なんて思ったけど。


「そう言えば、ここの神社って、幸運に関することはよく結びつく、見たいに言われてたわね」

「幸運。ってことは、この後発表される『New Era』の抽選か?」

「多分ね。おそらく、転売ヤーの人たちもいるのでしょうけど……依桜、たしか転売ヤーは抽選から必ずあぶれるのよね?」

「うん。学園長先生が言うにはね」

「すげえなぁ。転売ヤーも、今回は一台も手に入れられない、ってわけか」

「みたいだよ。第三者の利益にしてたまるものですか、って学園長先生が言ってたし」


 まあ、自分の会社で頑張って作って、ようやく発売になった作品を、どこの誰とも知れない人の利益になるなんて、普通に嫌だもんね。


「学園長先生って、結構謎が多いよねぇ」

「……そうだね」


 ボクは、色々と知ってるけど、みんなには話していない。

 というか、勝手に話せないよ。

 ボクが異世界に行ったのは、学園長先生が原因だ、なんて。


 いや、別にあの人を守る云々じゃなくて、単純に言ったら何されるかわからないから言わないだけだけど。


「さて、お参りしましょうか」


 気が付けば、ボクたちの番となっていた。


 みんなでお賽銭を入れて、なぜかボクが鈴を鳴らす。

 その後、二礼二拍手一礼をする。

 そう言えば、お願いごとをする時は、先に神様にお礼を言ってから、というのがマナーだって聞いたっけ。


 うん。……ボク、全然無事に一年を終えられてないんだけど。


 昨年はありがとうございました、と思ったけど、この世界にも神様がいるのなら、ボク、全然無事じゃないよね? 性別が変わっちゃってるよね? というか、普通に何度も死にかけたり、実際に死んだりしてるよね?


 ……神様って、もしかして放任主義?


 それだったら、ボクの場合、ほとんど言う意味がないような……?


 で、でも、無事にこっちの世界に帰って来られたと思うと、やっぱり神様のおかげ、なのかな? うん。そう思うようにしよう。


 えっと、昨年はありがとうございました。無事(?)に、新年を迎えられました。


 と、お礼を言ってから、願い事を。


 ボクは……今年は、大きな出来事や変なことに巻き込まれないような、平穏な日常を送れますように。

 本気でそう願った。



「みんなは、何を願った?」


 お参りも終わり、今度はおみくじを引くべく、列に並ぶ。

 その際に、態徒がそう尋ねてきた。


「えっと、私はみんなが無事に二年生になれますように、かしらね」

「わたしは、同志が増えますように」

「俺は、態徒の馬鹿が治りますように、だな」

「ちょっ、酷くね!?」

「じゃあ、態徒はなんてお願いしたのよ?」

「オレは……モテますように」

「「「まあ、態徒だしそんなもんだよね(な)」」」

「チクショウ!」


 みんなに馬鹿にされて、態徒が悔しそうにしていた。

 うん。でも、態徒らしいと言えば、らしいよね。


「んで、依桜は?」

「ボク? 大きな出来事や変なことに巻き込まれないような、平穏な日常を送れますように」

「「「「切実すぎて、泣ける……!」」」」


 ボクの言ったお願いごとに、みんなが涙を浮かべた。

 ……ボクは、普通に過ごしたいんです。


「叶うといいわね、依桜……」

「……うん」


 ぽん、と肩に手を乗せられながら、未果にそう言われた。

 ……優しさが沁みる。


「つ、次オレたちの番だぞ! 行こうぜ!」


 どうやら、ボクたちの番が巡って来たらしい。

 沈んだ気分を持ち直し、おみくじを引く。


「おっしゃ! 大吉!」

「くっ、私は末吉」

「わたし中吉―」

「俺は、吉だな」

「依桜は?」

「……………ボク、大凶」

「「「「……うわぁ」」」」


 みんなが、残念な人を見る目を向けてきた。

 ……ボク、幸先悪すぎない? 平穏無事に過ごしたい、って願った直後に、おみくじで大凶引くって……出鼻をくじかれた気分なんだけど。


「ほ、ほら、よく言うじゃない。これ以上落ちることはないって」

「……この中身を見ても、それが言える?」

「え? えーっと、何々? 恋愛『女難あり』。学問『今のままで良し』。健康・病気『瀕死になるかも』。旅行『見知らぬようで、知っているような場所にたどり着く』。商い『問題なし』。抱人『増える』。失せ物『何かを失くす』。争いごと『必ず勝利するが、望まない方へ向かう』。成長『背丈、少ししか伸びず。胸、さらに成長する』」

「「「………………」」」


 みんな、無言になった。

 書かれている内容が、すべてにおいて不運すぎて、なんだか目の前がぼやけてきたよ……うぅ。


「いや、なんつーか……ごめん」

「……いいよ。大吉を引いた態徒は、あとは落ちるだけだもん……」

「ちょっ、それ言うのやめて!?」


 いいもんいいもん……。ボクなんて、ずっと運が悪いもん……ぐすん。


「というか、女難があるって、普通に考えておかしくないか?」

「まあ、今の依桜君、普通に女の子だもんねぇ。もしかすると、神様は気付いてるのかもねー」


 それはあると思います……。

 正直、あとは上がるだけ、という風に言われても、こんな結果が出ちゃうと、その……心が折れる。

 というか、ただただきつい……。


「にしても、胸、成長する、ね……。依桜、それ以上成長するみたいよ」

「……もういやぁ……」


 よりにもよって、一番欲しい身長が少ししか伸びない、って酷くない? なのに、なんで胸だけは成長する、って書かれちゃってるの?


「というか、今ってどうなの?」

「……し、身長は、一センチだけ伸びて、胸は、その……さ、最近、ブラがきつくなってきたかな、って……」

「「……ま、マジですか」」


 ボクの発言に、未果と女委が絶句していた。


 身長が一センチ伸びて、150にはなったけど、できれば、以前の身長くらいまで戻ってほしいけど……無理そう、だよね。


 あと、胸に関しては、本当にきつく感じるようになってきた。

 学園長先生が言っていたけど、人って、二十二歳まで成長するって話だからね……ボクの場合、肉体年齢はどっちになるんだろう? 十九歳? それとも、十六歳?

 ……どっちにしろ、まだ成長する、ってことだよね……胸が。


「依桜、早めにブラは買っておいた方がいいわ」

「……うん」

「そうだよ、依桜君。下手をすると、ちょっと動いただけでホックが壊れて、大変なことになっちゃうからね!」

「……うん」

「……なあ、俺たち、男なんだが」

「いや、全然ありだろ! 女子の下着事情とかぶげらっ!?」


 あ、態徒が未果に殴り飛ばされた。

 今のは、態徒が悪い。


「まったく……結構デリケートな話題なんだから、変なこと言うんじゃないわよ」

「いや、そもそも目の前で話すなよ……」

「ああ? なんか言った?」

「いえ、何でもありません」


 よ、弱い。さすが態徒……弱い。


「……とりあえず、括り付けとくか、依桜のおみくじ」

「……そうだね」


 個人的には、いいことを書かれた項目が、学問だけなのが、ちょっと悲しい……。

 あと、瀕死になるって何? そうそう陥らない状況が書かれてるって、相当まずくない? もしかしてボク、今年中に死に目に遭うの?


 だとすれば、その原因って……師匠? あの人に何度か殺されてるしね、ボク。これも修行だ! とか言って。


 ……あぁ、今年、ボクは平穏無事に過ごせるのかなぁ。


 そう言えば、旅行の項目、あれどういう意味だったんだろう……?



 初詣も終わり、解散となった。

 この後は、ゲームの中で会うことになる。

 なので、現実のみんなとはお別れ。


 そう言えば、プレイヤーネーム決めてなかった……どうしよう?

 うーん……桜、はインターネット上で広まっちゃってるしなぁ……。下手に使うと、身バレしかねないし……うーん。


「中性的な名前の方がいい、よね?」


 もともと男だし。


 どちらかと言えば、男よりの名前にしよう。


 確か、カタカナでしか入力できない、みたいなことが書かれていたから、カタカナになるけど……うん。『ユウキ』にしよう。


 これなら、問題ないよね。


『お前ら、プレイヤーネームは決まったか?』

『もち! わたしはいつも通り、『ヤオイ』だよー』

『私は、『ミサ』にしたわ』

『俺は、『ショウ』だな。正直、思い浮かばなくて、冬〇ミの時に名乗ったものにした』

『オレは、『レン』にしたぞ』

『ボクは『ユウキ』にしたよー』

『OK! たしか、全員最初の街の『ジェンパール』の中心にある、噴水の前でいいか?』

『『『『異議なし』』』』

『目印は、依桜でいいよな?』

『ボク?』


 なぜか、ボクを目印に、と態徒が言ってきた。


『おう。初期に選べる髪色に、銀髪はなくてな。どうせ、ほとんど現実通りにするんだろ?』『うん』

『なら、依桜を目印にすれば、問題ないだろ!』

『なるほど。わかったよ。じゃあ、みんなボクを目印にしてね』

『『『『OK』』』』

『それじゃあ、ゲームで!』


 と言って、最終確認の会話は終了。


 楽しみだなぁ、みんなとゲームで遊べるの。


 ……そう言えば、最初の街の名前、どこかで聞いたような気がするんだけど……どこだったっけ?

 結構関わっていたような気がしてならない。

 どこで聞いたんだっけ?


 うーん……気になるけど、まあいいよね。


「あ、そうだ。抽選の方はどうなったのかなー」


 まだ時間には余裕があるので、テレビを見る。


 今日は、『New Era』の発売日と言うこともあって、家電量販店に多くの人が並んでいる姿が映し出された。


 こ、これ、どこまで人が続いているんだろう?

 すると、リポーターの人が、街頭インタビューをしている映像が流された。


『いつから並んでいましたか?』

『昨日の昼十二時です』

『早いですね!』

『いえ、自分なんかよりも、早く来ている人は、発表された一時間後くらいにには並んでたみたいっすよ』


 そ、そこまでする!?

 たしか、当日販売も抽選って聞いたんだけど。

 なのに、そんなに早く来ても意味がないような……?


 たしか、抽選方法は、数字の書いた紙を引いてもらって、発表された数字が合っていれば購入できる、っていう方法だったはず。


 ゲームのサービス開始は十五時。だけど、これを見ている限りだと、早すぎて、誰もいないんじゃないかな?


 そう思っていたら、速報のテロップが流れてきた。


 それを見ると、どうやら、ゲームのサービス開始時間を二時間遅らせた、十七時になるみたい。

 まあ、当然と言えば当然だよね。

 ボクたち五人が特殊すぎるだけで。

 まあでも、十五時だった場合、ちょっと怪しまれてたかもしれないね。


「それじゃあ、時間までちょっと寝ようかな」


 少しだけ眠くなってきたので、お昼寝をすることにした。



 そして、目が覚めると、時間は十六時半。

 サービス開始の三十分前だった。


「んっ~~~~! はぁ……。そろそろ、準備しよう」


 付属していた、ゲームディスクを『New Era』に入れる。


 その後、ヘッドセットとコンタクト、腕輪をつけて待機。


 インストールはもうすでに終わらせているので、あとは時間になればいつでもダイブ可能というわけです。


 まだかなまだかな、と待ち遠しく思っていると、ついにサービス開始の十七時になった。


【ようこそ! 『CFO』の世界へ! まずは、ヘッドセットのマイクを用いて、音声を登録してください!】


 という文字が視界に出現。


 あ、そう言えばこれがあったっけ。


 体育祭の時にやったことを再び行う。

 適当に声を出して、認証させると、


【認証完了です! それでは、『let′s Dive』の文字をクリックすると、十秒後にダイブします! 一時間以上に渡ってダイブする場合は、ベッドやソファーなどに横になってプレイすることを、おすすめします】


 という、見たことがある文面が出現した。


 今回は、長期的なものになるから、ベッドに横になってプレイすることになるかな。


 そして、『let′s Dive』の文字をクリックすると、カウントダウンが表示された。

 それを確認してから、ボクはベッドに横になって、始まるのを待つ。


 そして、カウントが0になるのと同時に、


【それでは、いってらっしゃーい!】


 という文字が流れて、ボクの意識は暗転した。

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