第341話 二日目は何事もなく。三日目は……
その後と言えば、まあ……特になかったです。
昨日と同じようにみんなとお昼ご飯を食べて、午後は二回戦目の試合を、と思ったところで、またしても相手チームの棄権で不戦勝。
なんで棄権するのかがわからないんだけど……。
ただ、その事実を未果たちに言ったら、すごく納得されました。
一体、何に納得したの? みんな。
ボクが原因……じゃないよね? きっとそうだよね? だってボク、普通に……って、そう言えばボク、無意識で回避して、無意識で攻撃したんだっけ……?
で、でも、ボクは悪くないよね? だって、ボク自身の技術――と言っていいかはわからないけど――でしていたことだし……。
あれは、暗殺者必須の技能とか言われて仕込まれたものだもん。
いついかなる時も、無意識で反応できるようにっていう、あれだもん。
この技能に何度も助けられてはいたけど。
ともあれ、そんな風に進んだ結果、やっぱり決勝まで残ってしまいました。
少なくとも、これでボクが出場する種目二つは、決勝進出になっちゃったけどね……。
しかも、両方とも不戦勝って言うのが、なんとも微妙な気持ちになるよ……勝ち進むなら、普通に試合をして、普通に決勝まで行きたかったなぁ……。
まあ、今更言っても仕方ないわけだけど……。
それから、二回戦目を行っていたメルとクーナの方も、難なく試合に勝ち、続く三回戦目も勝ったそうです。
うんうん、勝ったようで何よりです。
そうなると、ニア以外はみんな決勝に出てることになるのかな。
うーん、ちょっとニアだけが可哀そうだよね……。
まさか、早い段階で姉妹同士で当たるとは思ってなかったから。
一人だけないというのが、可哀そうで仕方ないです……どうにかさせて上げられれば良かったんだけど、さすがにそれは無理だしね……。
学園長先生に頼めばどうにかできちゃいそうだけど、それはずる。
絶対ダメ。権力を私利私欲で使うなんて、向こうにいた悪い貴族の人たちと全く同じ。そんな人と一緒というのはすごく嫌だしね。
来年に期待すればいいよね。
それに、体育祭だって十一月にはあるからね。そっちにも期待しよう。
それ以外と言えば……ボクが高等部でまたお手伝いしたことくらいかな?
なぜか、幸せそうな緩み切った表情をする人が多くて、何がよかったのかわからない、という人が多くいたけど。
中には、なぜか教員の人もいたんだけど。
一体、何で怪我したんだろう。すごく気になる。
それ以外は本当に穏やかに進んでいて、問題が起こることはなかったです。
ほいほいと問題が起こること自体が変なんだけどね……。ボクはいつもそうなんだけど……。
なんで、変なことばかり起こるんだろうね、ボクの周囲。
そんなこんなで、無事に二日目が終了。
球技大会と言っても、体育祭ほど大規模じゃないから、そこまで盛り上がってない。……まあ、初等部と中等部が新設されたから、去年よりも圧倒的に盛り上がっているんだけど。
それに、ここで言う盛り上がってない、って言うのは、あくまでもこの学園の行事の仲では盛り上がってない方って言うだけであって、普通の学校とかに比べたら、かなり盛り上がってるんだろうけどね。
むしろ、最近は『普通ってなんだっけ?』って思うようになってるから、普通の学校がどんな感じなのかわからないんだけど……。
……今更だけど、メルたちを叡董学園に通わせてもよかったのかな? って心配になって来た。
高等部の方なんて、変な人ばかりだからね……生徒教師共々。
むしろ、普通の人の方が少ないんじゃないかな、ってレベルだよ?
なんだか、今の純粋な子供たちが進級を重ねていったら、今の高等部の人たちみたいになるんじゃないのかな……?
……すごく、心配になって来た。
それにしても、また『New Era』を使った種目をやると思うと、本当に学園長先生って、お祭りごとが好きなんだと思えてくる。
生徒が楽しいと思える学園が一番いい学園、なんて言ってるもんね。
まあ、たしかに学園長先生の言う通り、そう言う学園が一番いいよね。
ボクだって、楽しい方がいいし。
むしろ、楽しくない学園はちょっと嫌かな。
……勉強する場所なのに、楽しいということを求めている時点で色々とダメな気がするけど……そう考えたら、あの学園に通えるのって、かなり幸運なことな気がしてきた。
だって、イベントごとも多くて、そのどれもが騒がしいけど、誰もが楽しめるような物になってるし。
学園長先生はアレすぎるけど。それでも生徒第一に考えてるしね。
……うん。やっぱり、かなり幸運な気がしてきた。
それなら、みんなをあの学園に入れてよかったと思える。
ただ、それでも学園長先生がアレだと思うと……やっぱり、微妙な気分に……。
「ねーさま、どうかしたのかの?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
いけないいけない。顔にちょっと出てたかも。
ちなみに、今はみんなで仲良く夜ご飯を食べているところです。
一人っ子の時は、父さんと母さんがいないと、一人でご飯を食べていたけど、みんなが来たことによって、賑やかになったから、すごく嬉しい。
姉妹がいるって、いいね……。
「明日はじゅんけっしょうがあって、それにかったら、けっしょうがあるけど、だいじょうぶ?」
「もちろんじゃ!」
「がん、ばる……!」
「ぼくもだよ! 絶対優勝するんだー!」
「もちろんなのです! クラスのお友達と頑張るのですよ!」
「……優勝する」
みんな気合十分みたいでなにより。
「私はみんなを応援します!」
「ニア、おねえちゃんの、分まで、がんばる、よ……!」
「ありがとうございます、リル!」
リルの言葉に、ニアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
うんうん。
仲がいいね。とてもいいことです。
これでもし、ギスギスしてたら、空気が重くなってたし、なにより、日常生活に支障が出そうだったからね。
普段の様子を見ている限りだと、ギスギスするなんて、みんなには無縁そうだけどね。
第一、もしそうなったら、ボクが意地でも止めるもん。
喧嘩ダメ、絶対。
「……イオおねーちゃんは、どうなの?」
「ボクももんだいない、かな? ボクより強い人がいなければ、だけど」
「む? ねーさま以上の者がいるとは思えぬぞ?」
「「「「「うんうん」」」」」
メルが言うと、他のみんなも賛同するように頷いた。
「いやいや、こっちの世界にだって、ボク以上の人がいないともかぎらないんだよ? それがもしかしたら、次たたかう相手チームの中にいるかもしれないし」
今の姿なら、いても不思議じゃないもんね。
生まれてからずっと修行してきた人なら、今のボクより強くなっているかもしれないもんね。
「いないと思うのじゃ」
「いないと思います」
「いない、と思、う」
「いないと思うよ!」
「いないと思うのです」
「……いない」
みんな、ボクをどれだけすごい人だと思ってるんだろう?
たしかに、ボクはちょっと強いかもしれないけど、ボク以上に強い人が身近にいるんだよ? それに、もしかすると師匠と同レベルくらいの人だっているかもしれないし……。
……まあ、師匠レベルの人が何人もいたら、かなり怖いけど……。
「ねーさまなら、きっと勝てると思うのじゃ!」
「そ、そうかな?」
「うむ! そうじゃろ?」
「「「「「うん!」」」」」
みんな、ボクを信じ切ってらっしゃる……。
なんだろう。妹たちにここまで思われてると思うと、幸せすぎて死んじゃいそう。
こんなに幸せでいいの? ボク。
妹たちがいるのって、幸せすぎるよ?
しかも、綺麗な目でボクを見てるんだよ? 100%の信頼が、ボクに来てるよ?
これはもう……
「じゃあ、お姉ちゃんがんばっちゃおっかな!」
頑張るしかないよね!
可愛い可愛い妹たちが、ボクの勝ちを信じて疑わないのなら、ボクは本気でやります。
え? 初日の失敗? なんですか、それ? 知りませんし、記憶にないですよ?
ボクの中では、妹>>>>>>>>>>>>>>ボク、くらいの順番ですからね! 妹が一番です!
最も優先すべき事柄なので、他のことは二の次!
「見に行けないかもしれぬが、応援しておるぞ! ねーさま!」
メルがそう言うと、みんなも笑顔を浮かべながら頷いた。
うん……本気で頑張ろうかな。
そう思いました。
夜ご飯を食べたら、お風呂に入る。
もちろん、みんなと一緒です。
なんというか、習慣化しちゃってるんだよね。
まだ、二週間くらいしか経っていないとはいえ、習慣化するには十分だと思う時間。みんなと一緒にお風呂に入るのは、ボク的にもすごく癒しなので、全然おっけーなのです。
そして、お風呂から上がれば、ちょっとだけ休憩してから眠るところなんだけど……
「あ、あれ……ね、ねむけが……」
不意に、強烈な睡魔がボクを襲った。
……すごく、覚えのある睡魔。
これってもしかしなくても、あれだよね?
ボクの体質に関わってくるあれ。
まさかとは思うんだけど、二日連続で体が変化する、なんてことはないよね?
……あ、でも、並行世界にいた時に、一度だけあったっけ。
あの時は、小さくなってから、大人状態になったけど……今回もそのパターン?
それならまあ……嬉しいかな。うん。
大きくなれるって言うのは、すごくいいからね。
それに、ちょっと体も動かしやすそうだもん。
……と言っても、小さいから動かしにくい、何て言うことはないから、結局のところ、気分的なものかもしれないんだけどね。
うぅ、眠い……。
でも、まだやることが少し残ってるし……も、もうちょっと頑張ろう。
ボクを眠りに落とそうとする、強烈な睡魔をなんとか抑え込みつつ、残っていた家事を済ませると、遂に限界が来た。
なかなか眠らないボクに対して、さらに強気に出るかのように、睡魔がボクを襲う。
でも、まだ三階にたどり着いていない。
さすがに、二階のリビングで寝るわけにはいかないので、視界がぼやけつつも、なんとか三階の、みんなが寝ている場所に到達。
そして、糸が切れたかのように、不意に視界が暗転して、ボクはそのまま眠りに落ちた。
そして、目を覚ますと、
「……んっ、ふぁあぁぁぁぁ……よくね、た……?」
ボクの体は昨日よりも小さく、そして……狼の耳と尻尾がついていました。
耳はひょこひょこと動き、尻尾はふりふりと揺れる。
あ、久しぶりだね。
……結果は、大人状態になるのではなく、耳と尻尾が生えた、幼い女ん子の姿になり果ててました。
これ、本当に久しぶりだね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます