第340話 呼び出し
そんなこんなで二人の試合を見た後は、一旦別れていろんなところを見て回った。
ボクの方はと言えば、高等部の辺りを歩き回っていた。
ふと、晶がバレーボールに参加していることを思い出し、体育館へ。
やってるかな?
「えーっと……あ、いた。晶―!」
体育館に行き、中を見回すと、普段見慣れている金髪の男子生徒が目に入った。
やっぱり、目立つね、晶の髪色も。
「依桜か。どうした?」
ボクが呼ぶと、晶はこっちに来て、そう尋ねてくる。
「えっと、晶がバレーボールに出てることを思い出してきたんだけど……終わっちゃったかな?」
「ああ、ついさっきな」
「そっか……。それで、結果は?」
「ん、いや、さすがに負けたよ。運悪く、バレーボール部出身の人が多いクラスと当たってな……俺一人じゃ、どうにもならなかった」
「そっか……ざんねんだね」
「悔しいと言えば悔しいが……あとは、応援に徹するさ。それに、俺はバスケの方も残ってるしな」
「それもそっか。それで、晶はこれからどうするの?」
「そうだな……やることもないんだよな、別段。未果たちも試合はないし、かと言ってここに残るか、と言われれば……微妙なところだ。依桜はどうするんだ?」
「うーん……ボクもとくによていとかはないかな? おしごともないし、メルとクーナのしあいは午後からみたいだし……」
その間は本当にやることがない。
晶がもし、試合をしているんだったら、まだよかったんだけど、タイミングが合わなかったみたいだしね……。
どうしようか。
そんな風に、何をしようか考えていると、
『生徒のお呼び出しをします。二年三組の男女依桜さん。二年三組の男女依桜さん。至急、学園長室に来てください』
……こ、校内放送での呼び出し……。
なまじ変に有名(?)になっちゃってるせいで、周囲からの視線が……。
じーっと見られてるよぉ……。
「あー、依桜? 呼び出しをもらっているみたいだが……どうするんだ?」
「……いってきます」
「行ってらっしゃい」
嫌な予感しかしないよぉ……。
学園長室の扉をノック。
『どぞー』
「しつれいします」
「悪いわね、急に来てもらっちゃって」
「……そう思うなら、ほうそうを使わないでくださいよ」
あまり悪く思ってなさそうな学園長先生に、ジト目を向ける。
「いやぁ……アハハハ……」
「……それで? ようけんは?」
「あ、はい。えーっとね……明日の件です」
「明日の件って言うと……さいしゅうしゅもく、ですか?」
「そうそう。前日だし、別に放課後でもいいと思ったんだけど……依桜君、すっご~~く、暇そうにしてたから、『あ、今ならちょうどいいんじゃね? なんか、快く引き受けてくれるんじゃね?』って思って……まあ、はい。呼び出しました」
……ということはこの人、相変わらず監視カメラで見てたって言うことだよね?
なんというか……経営者として、監視カメラの映像をじっと見続けているのはどうかと思うんだけど、すごく今更だよね……学園長先生だし。
言ってしまえば、師匠が理不尽であることと同義です。
「はぁ……まあ、じっさいにひまだったので、いいんですけど……でも、ほうそうだけは、今後やめてくださいね?」
「善処します」
「…………」
スッと『アイテムボックス』から針を数本取り出す。
「すんません! マジで今後一切合切やらんので、許してください!? というか、その針仕舞って!?」
「……しかたないですね」
渋々ながらも、ボクは針をしまい込んだ。
これが普通の制服だったなら、太腿に着けたポーチにしまい込むんだけど、今は体操着姿だからね。それができない。
そうなってくると、必然と『アイテムボックス』の中になるわけで。
まあ、便利なことに変わりはないんだけどね。
「ふ、ふぅ……こ、今世紀最大の死の危険を感じたわ……」
「じごうじとくです」
「と、ともかく、話をしましょう。えーっと……じゃあ、とりあえず、アイちゃんカモン」
〈はーい! 呼ばれて飛び出て、デデデデーン! 最強AIのアイちゃんでっす☆〉
なんで、ベートーヴェン交響曲第五番 ハ短調なんでしょうか?
「相変わらずというか……これが私だと思うと、なんかアレな気分になるわ……」
「? 何か言いました?」
「あ、いえ。なんでもないわ。それでまあ、話っているのは、さっきも言ったように、明日の最終種目に関して。と言っても、詳細はまだ言わないけど」
言わないんだ。
そう言うのは普通、言うところだと思うんだけど……学園長先生って、口が軽そうに見えて、実際はかなり固いよね。
いいこと、なんだろうけど……。
「はいじゃあ……依桜君にはお手伝いです」
「はあ」
「ちなみにだけど……競技に使用するブツは、依桜君も所持しています」
「え、ボクも?」
「ええ。だって、私が直接家に送ったものだし」
……家に、送った?
…………まって? まさかとは思うんだけど、最終種目って……
「……もしかして、『New Era』を使うんですか?」
「もちのろん!」
「……また、使うんですか?」
「また使うのよ。あれよ。eスポーツよ。ゲームだって、立派なスポーツよ! だから、フルダイブ型ゲームがスポーツ系イベントの中の種目にカウントされててもいいじゃない!」
「い、いいじゃないって……あの、去年の体育祭ですでにやったんですよ? さすがにかくほうめんにあきられてそうですけど……」
「ふっふっふ……大丈夫よ! 学園生はみんな祭りごとが大好き! そして、ゲーム業界の最先端を行っていると言っても過言ではない、我が社の最高傑作である『New Era』を使った種目なら問題なく盛り上がるはず! それにそれに、やる内容は違うから、画面の前のお友達(リアル)の方たちも納得してくれるはず!」
どうしよう。最後の方なんて、何を言っているのかわからないんだけど。
画面の前のお友達(リアル)ってなに?
一体誰のことを指してるの?
フルダイブ型ゲームなのに。
「というわけで、まあ……依桜君にはそこで色々やってもらいたいなと」
「色々って言われても、何をするのかわからないいじょう、ボクはどうしようもない気が……」
〈すんません。空気みたいな存在になってる
「あ、ごめん。普通に忘れてたわ。というか、こういう時でもネタに走るのね、アイちゃん。わかりにくいわよ」
え、今のセリフ、ネタだったの?
どこの辺りが?
〈はっはっはー。いやぁ、ほら、私ってサポートAIですし? ネタに走った方がいいかなと〉
「そのネタがわかり難かったら意味なくない?」
〈まあ、そですね〉
……どうしよう。本当にどの辺りがネタだったのかさっぱりだよ。
「さて、依桜君が元ネタがわからなくて困惑しているところで、本題。仕事内容は至ってシンプル! ずばり……傭兵です!」
「よ、ようへい、ですか」
〈傭兵ねぇ?〉
「んまあ、依桜君とアイちゃんの二人は基本的に暴れてもらうんだけど、その際、ちょっとした仕掛けで二人はどこかのクラスの傭兵になるの。まあ、二人以外にも傭兵はいるけど……そこは追々」
傭兵かぁ……。
ボクとアイちゃんの二人って言うことは、ボクが基本的に動いて、アイちゃんは現実と同じく、サポートAIとしてボクと一緒に行動する、って言う感じになるのかな?
ちょっと楽しそうではあるかな。
「でも、前回はたしか、『CFO』のしさくひんを使って行ってましたけど、今回はそうじゃないですよね?」
「ん~、やる事的には、前回と変わらないのよね~。だって、CFOのデータを流用するつもりだし」
「……え、今なんて?」
「だから、今回の最終種目では、CFOのデータを使うのよ。まあ、あれね。データを持っている人はそれでログインすれば、それと同じステータスのアバターで参加できる、的な?」
「て、てきなって……それ、ふつうに考えて持ってない人が不利すぎませんか!?」
ボクが言うのもなんだけど、持っていない人とボクのアバターでは、雲泥の差どころか、海王星とすっぽんくらい離れてると言ってもいいよ?
そんな状態だと、圧倒的不利なんだけど!
「ええ、だからこそ救済措置を設けるの」
〈ほ~、救済措置っすか。創造主の言うことですし、さぞかし素晴らしいんでしょうね?〉
「どうかしら? でも……そうね。持ってない人は、明日レベリング作業ができるようにしたわ。とはいえ、できない人もいると考えて、初期レベルは30くらいで設定してるけどね」
「……あの、学園長先生。それでもボク、そうとうあれなステータスなんですけど……」
だって、称号の影響でおかしなことになってるよ? ボク。
「んまあ、そこはしょうがない。それに、一応は時間加速を設けるつもりよ。あと、それぞれがそれぞれのサーバーでレベリングするから、狩場の取り合いにならないし、落ち着いてできるしね。友達とやりたければできるようにするし、問題ないでしょ。一時間を五時間にするくらいだし」
……毎回思うんだけど、どうやって時間を加速させてるんだろう?
以前『瞬刹』のスキルを調べさせたから、多分それなんだろうけど……。でも、スキルの効果を科学的に実現させるって、やっぱりおかしくない?
学園長先生ってどうなってるんだろう?
〈なるほどー。つまり、今回はバラバラにすることによって、普段見下してくる憎いあんちくしょうとか、実は裏でいじめられていて、そのいじめっ子に復讐ができるチャンス、というわけですかい?〉
「まあ、それもあるわねー。特に今回はクラス対抗戦だから余計に。まあ、特殊なあれこれで、フレンドリーファイアも可能にしてるけど」
それ、友情を破壊しに来てませんか?
フレンドリーファイアは色々とまずいような……。
「でもさー、何と言うかこう……ついさっきまでは仲睦まじかったカップルの仲が氷点下くらいに冷え込むと、スカッとしない? 面白くない?」
「しゅみ悪いですね!?」
〈創造主……まさか、『くっ、私なんて、ずっと研究詰めだったのに! ふっつうに青春しやがって! リア充死ね! 畜生! 私がフ〇ーザだったら、デス〇ールでぶっ飛ばしてるよ! こんちくしょう!』とか思ってませんか?〉
「…………………………思ってないわ」
……今の間はなんだろう?
学園長先生の学生時代って、一体どんな感じだったんだろうね……?
「ま、まあ、あれよ。私は、
「う、うわぁ、建前と本音が逆転してるー……」
ボク、初めて見たよ、逆転してる人。
〈んでも~、我が創造主はヤベーですねー。たかだか学生の行事に、自身の会社のブツを何の躊躇もなく使ってますし〉
「それはほら。やっぱり、一生に一度の学生生活くらい、思い出に残る楽しいものにしたいじゃない? ……私のように、灰色どころか夢も希望もない生活とか、嫌でしょ……?」
……本当に、学園長先生の学生時代に何があったんだろう……?
すごく、心配になった。
「……とまあ、そんな感じなわけよ。でまあ、二人にはその都度教えるんで、頑張ってね! あ、アイちゃんの方も、こっちで勝手に調整しておくけど、いいかしら?」
〈問題ないっすよー。私は、イオ様と面白おかしく、暴走フルスロットルでできればいいんで〉
「さっすがー! じゃあ、あとはこっちで微調整しておくわねー。明日、昼休みになったら、ここに来てね?」
「わかりました」
「はいよろしい。じゃあ、もう戻っても大丈夫よ。そろそろお昼ご飯だしね」
「じゃあ、ボクたちはこの辺でしつれいします。では」
「ええ、残りの球技大会も楽しんでねー」
という、学園長先生の言葉を聞きつつ、ボクは学園長室を後にした。
……学園長先生って、過去に爆弾でも抱えてるのかな?
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