第342話 三日目はケモロリ
朝起きたら、尻尾と耳が生えてました。
いや、うん。本当に久しぶりすぎる……。
最後になったのは……ゲームをしてた時、かな?
目立つから、なるべくなりたくない姿ではあるけど……意外と便利なところもあるんだよね、この姿って。
実を言うとこの尻尾。動かせます。
ボクの体の一部だからか、思う通りに動かせて、かなり便利。
実質、第三の手、みたいなものかな?
ただ感情を表す飾りじゃない、ということですね。
「……さて、とりあえず、おべんとうを」
今日は最終日。
決勝戦もあるし、体力が付くものにしないとね!
……まあ、最終種目に関してはボクは色々とやらないといけないけど。
とはいえ。学園長先生が考える学園である以上、競技全てが普通に終わるとは考えにくい。
なにか、決勝戦でやりそうな気がしてならないんだけど……杞憂かな?
杞憂だったらいいなぁ……。
「おーすー……」
「あ、ししょう。おはようございます!」
「んー、おはよ……って、ん? お前、また変化した?」
「はい。あさおきたら、こうなりました」
「え、なに? 連続で変化することなんてあるの? マジで?」
「まあ、いちおう。へいこうせかいにいったときも、れんぞくでへんかしましたよ」
「あ、そう。……お前、ほんっと不思議体質だよな」
「……ししょうのせいですけどね」
そう言いながら、師匠にジト目を向ける。
「はっはー。何のことを言っているかわからんなー。とりあえず、腹が減ったから飯」
「……まったくもぉ。あと、そのいいかただと、なんだかいばりちらすていしゅかんぱくなおっと、ってかんじですよ?」
師匠って、傍若無人な時あるもん。
あと、腹減ったから飯、っていう言い方が、本当に亭主関白な人みたいだよ。
見たことがないからわからないけど。
「まあいいだろ。しかしま、今日で球技大会は終わりか」
「そうですね。さみしいんですか?」
「いや、そんなことはないぞ。三日ってのは、あっという間だなと思ってな」
「ふふっ、そうですね」
こういうお祭りは、本番はすぐ終わっちゃうように感じるもんね。
特に、あの学園では、それが顕著だよ。
イベントごとは多いし、なんだかんだで楽しいからね。
いいことばかり……っていうわけじゃないけど。主に、ボクが被害を被ってるし。
「にしてもお前、それで大丈夫なのか?」
「あ、はい。もんだいないですよ。しんたいのうりょくは、ごぶんのいちにまでていかしちゃいますけど、こういうスポーツのたいかいなら、ちょうどいいんじゃないかなって」
「なるほど。確かにそうだな。お前の力のステータスが998だったから、まあ、大体190台だろうな。それでも、こっちの世界じゃ強い部類だろう」
「そうですね」
こっちに戻ってから、微妙にステータスが向上しているらしいからね。
最近、師匠に言われて初めて気づいたけど。
とはいえ。190っていうのは、こっちの世界で考えても、決して弱くなく、むしろ強い。
ボクシングの世界チャンピオンの人の場合、どんなに高くとも110くらいだしね。
……そう考えると、ボクって、こっちの世界だとおかしいんだ、って再認識させれるよ。
いやまあ、今更だけど。
「はい、ししょう、どうぞ」
「ありがとな。いただきます、と」
師匠は朝ご飯を食べたら、すぐに学園へ出勤していった。
今日は最終日だから、色々と準備があるとか。
父さんと母さんは今日は来れるそう。
それはそれで嬉しいんだけど……なんと言うか、二人が見に来る日に限って、ボクは酷い目に遭っているような気がしてならないんだよね……。
実際、体育祭はそうだったし……。
でも、球技大会では、二人がいなかった二日間、特にボクが酷い目に遭うことはなく、平穏無事に過ごせていたしね。
うん。……ダメじゃない? これ。
すっごく心配になって来たよ? ボク。
大丈夫? 変なことに巻き込まれないよね?
とか、すごく心配になりつつ、ちゃっちゃとお弁当と朝ご飯を作っていく。
父さん母さんの二人は、少しゆっくり寝てから来るって言っていたので、作ったものをラップしておいておけば大丈夫。
必要なのは、メルたちの朝ご飯のみ。
多分、そろそろ来る頃……と思ったら、ドタドタと足音をが聞こえてきた。
「ねーさま、おはようなのじゃ!」
「おはようございます!」
「おは、よう!」
「イオねぇおはよう!」
「おはようなのです!」
「……おはよう」
「あ、みんな、おはよう。あさごはんできてるから、たべちゃって」
「「「「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」」」」」
ボクの姿を見た瞬間、昨日と全く同じ反応を、みんなはしました。
うん。だよね。
というわけで、事情説明。
事情説明も何も、昨日言ったことと大して変わらないけど。
「だからまあ、ボクはきょういちにち、このすがたっていうわけです」
「イオお姉ちゃん、その耳と尻尾は本物なんですか?」
「ほんものだよ。ちゃんとちがかよってるし、こんなふうにうごかせるよ」
と言いながら、ボクは尻尾を動かす。
なんとなく近くにあったカップを尻尾で持つと、みんなが目をキラキラさせていた。
「イオねぇすっごーい!」
「……たしかに。すごい」
「ふふっ、ありがとう。まあでも、あんまりつかうきかいはないんだけどね」
だって、尻尾を使わずとも、手を使えばいいわけだし。
手が足りない時なんて、そうそうないしね。
「きょうはみんなじゅんけっしょうからだから、がんばってね? ニアは、おうえんしてあげて」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
「うん、あさからげんきでいいね。ボクのほうも、なるべくみんなのおうえんにいくけど、ちょっといそがしくなっちゃいそうだから、あまりきたいしないでね?」
そう言うと、みんなはちょっとだけ残念そうにしたけどこくりと頷いてくれた。
素直でいいんだけど、どうもボクの言うことに素直に従いすぎる場面があるから……ちょっと心配かなぁ。
朝ご飯を食べ終えたら、みんなで仲良く登校。
「……」
「あれ? どうかしたの? クーナ?」
「イオお姉さまが、私たちよりも背が低くて、不思議な気分になったのです」
「あはは。このすがただと、ボクはしょうがくいちねんせいくらいになっちゃうからね」
でも、言われてみればみんなよりも小さいって言うのは不思議な気分。
同じ身長ならまだしも、みんなより背が低い。
うーん、不思議。
「うむぅ……」
「メル?」
ふと、メルがボクをじっと見て唸り声を上げていた。
「ねーさま、ちょっと抱っこしてみてもいいかの?」
「え、だ、だっこ?」
いきなり抱っこしてもいいか、と訊かれ思わず面食らう。
「うむ、抱っこじゃ」
「な、なんで?」
「なんと言うか……今のねーさまを見ていると、無性に抱っこしてみたいというかの……理由はわからないのじゃ」
……そう言えば、この姿になると、よく抱っこされるような……。
もしかして、抱っこしたいという気分にさせるオーラとか雰囲気でも放ってるの? この姿の時って。
「でも、しんちょうさはそんなにないけど……」
「大丈夫じゃ! 頭一つ分くらい違うからの!」
「そ、そですか……。ま、まあ、メルがしたいっていうなら、べつにいいけど……」
「わーいなのじゃ! では、早速……」
メルがボクを後ろから体に手を回して、ぎゅっと抱きしめて、そのままひょいと持ち上げる。
「おー、ねーさま軽いのじゃ!」
「あ、ありがとう……」
な、なんだろう、この気持ち……。
ちょっと恥ずかしいんだけど、すごく嬉しいというか……くすぐったいような気持というか……で、でも、ちょっと……ううん、かなり落ち着く……。
「ふにゅぅ~~~……」
「おお、ねーさまが気持ちよさそうに!」
「ほん、とうで、す。か、可愛い、です」
「はぅっ」
「……イオおねーちゃん、抱っこ嬉しい?」
「え、い、いや、そのぉ……う、嬉しい、かなぁ……」
「尻尾、ぱたぱた揺れてますもんね!」
「はぅぅっ!」
は、恥ずかしい!
妹たちにこんな姿を見られていることが恥ずかしい!
「ねーさま、いい子いい子じゃ」
「あ……はふぅぅ~~~~~……」
メルが優しい声音で、いい子いい子といいながら、頭を撫でて来た。
その際、耳も一緒に撫でてきて、かなり気持ちがいい……。
しかも、ちょうど撫でられると気持ちい場所も一緒に撫でられているから余計に。
「イオねぇ、そこが気持ちいいの? じゃあ、ぼくも撫でる!」
「ふわぁ……」
あ、ダメ、本当に気持ちがいい……。
ちょ、ちょっと眠くなってきちゃったかも……。
「あ、じゃあ、私も撫でます!」
「わた、しも……!」
「じゃあ、私も撫でるのです」
「……撫でる」
「え、ま、まっ……ふにゃぁぁ~~~~~……」
結局、みんなにいい子いい子と撫でられ、ボクは学園に到着するまで、ずっとメルに抱っこされながら、頭を撫でられ続けていました。
……あぅぅぅ……は、恥ずかしかったよぉ~~……。
ちなみに、そんな光景を見ていた通行人たちは、
『『『何あれ、すっごい和む……』』』
と、ほんわかしたそうな。
学園に到着し、いつも通りに教室へ。
「おはよー」
と、ドアを開けていつも通りに入っていくと、
『『『きゃあああああああああああああ!』』』
「んみゅっ!?」
クラスの女の子たちが黄色い悲鳴を上げながら、ボクを抱きしめてきました。
って、ま、またこの状態!?
「あー、今日の依桜はケモロリなのね」
「二日連続で変化とはな。しかも、早速クラスの女子に捕獲されてるな」
「難儀な体質よね、依桜は」
の、呑気に話してないで、助けてよぉ!
ということを視線で訴えるも、サッと視線を逸らされた。
……酷いよぉ……。
ちょっと目頭が熱くなってきて、涙が……。
「こらこら、あなたたち、依桜が苦しんでるからその辺にしときなさい」
『あ、ごめん!』
「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
『い、依桜ちゃん、ごめんね』
「だ、だいじょうぶだよ。これくらいならなれてるから」
だって、何度も抱き着かれたりしてるしね……。
ボクって、そう言う機会が多いもん。
とりあえず、みんなに下ろしてもらって、未果たちの所へ。
「あらためて、おはよう、みか、あきら」
「ええ、おはよう」
「おはよう」
「朝から災難よね、依桜も」
「そうおもうなら、さいしょからたすけてくれたっていいよね?」
「いつものことだし、いいかなと」
「よくないよっ!」
みんながボクがこうなることに慣れてからというもの、ちょっとおざなりになってきているような気がしてなりません。
ボク、みんなに何かした……?
「それにしても……えいっ」
「んひゃぅっ!?」
「あぁぁぁぁ~~……やっぱり、依桜の耳と尻尾最高~~……」
未果がいきなり、ボクの耳と尻尾を触って来た。
く、くすぐったい……。
「このもふもふ加減……罪作りな尻尾と耳よね」
「んふぅ~~~~~……」
「相変わらず、耳と尻尾を弄られると気持ちよさそうな声を出すのね」
「だ、だって、きもちよくて……そ、それに、みんなじょうずなんだもん……」
「ほほう。晶もちょっと触る?」
「……いいのか?」
「べ、べつに、いい、よ……? あきらなら……」
ちょっとだけ恥ずかしいけど、問題ない、よね。
そう思って、顔を熱くさせながら、上目遣い気味に晶にそう言うと、
「ちょっと待て。その言い方に、その表情は誤解を招く!」
って、よくわからないことを言ってきた。
不意に、なんだか敵意があるような視線が晶に行っているような……?
『小斯波のやつ、羨ましすぎんだろ……』
『超絶可愛いケモロリっ娘な男女にあんな風に言われるとか……死ねばいいのに』
『爆ぜればいいのに……』
「……はぁ」
「あきら、だいじょうぶ……?」
「ああ、まあ……。とりあえず、触るのはやめておくよ。なんか、後が怖いしな」
「そ、そっか。でも、いつでもいってね? いつでも、すきなだけさわらせてあげるから」
顔を熱くさせながらも、晶ににこっと微笑みながら言うと、晶はなぜか眉間に皺を寄せながら、何とも言い難い表情を浮かべていた。
「……なあ、依桜。お前、実はわざとそう言う風に言っていたりしないか?」
「えっと、どういう、こと?」
「諦めなさい、晶。この娘は、天然系エロ娘よ? 無意識にややエロよりな発言をしても不思議じゃないし、気にしてたらきりがないわ」
「……それもそうだな。悪いな、変なことを言って」
「う、うん、いいけど……」
え、どういう意味だったの?
あと、微妙に未果が言ったことには、異論があるけど……何も言い返せそうにない気がしたので、言わなかった。
同時に、微妙に生暖かい目を向けられたのも気になったけど……。
それから、なんで、クラスのみんな(男子)は、顔を赤くしてたの?
うーん……よくわからないことばかり。
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