第343話 ケモロリっ娘の不安(嫌な予感)

「おーっす」

「おっはー」

「あ、おはよー、ふたりとも」

「おはよう」

「おはよう」


 未果たちと話していると、態徒と女委が教室に来た。


「あ! 依桜君がケモロリになってる! これはもふらねば!」

「うわわっ!」


 ボクの姿に気づくなり、女委は朝から高いテンションで、ボクに抱き着いてきた。


「おほぉ~……も、もっふもふだよ~! この肌触りに、このもふもふ加減! そして、この甘くてフローラルな匂い! 最高だよ! 依桜君!」

「ちょ、め、めいぃ、く、くすぐった――あははっ!」


 わさわさ、もふもふとボクの耳と尻尾を触ってきて、思わず笑い声を出してしまう。

 き、気持ちいいけど、それ以上にくすぐったい!


「今日の依桜は、ケモロリなのな」

「みたいよ。でもたしか、身体能力が五分の一になる、って前言ってたような気がするんだけど」

「だが、それでも強いだろ? 依桜は」

「それもそうね」

「の、のんきにはなしてないで、た、たすけ……あははっ…!」

「おー、ここがええんか? ここがええんかー?」

「や、やめっ、はひっ……め、めい、も、もうやめ、てぇっ……!」


 さ、さすがに息苦しくなってきた……!

 くすぐられるのって、苦手なんだよぉ、ボク……。


「女委、その辺にしときなさい。依桜、死ぬわよ」

「おっとこれはいけない。そこに、もっふもふな尻尾と耳があったもんなので」


 未果に注意されて、ようやく女委が離れてくれた。


 耳と尻尾は、触り方によってすごくくすぐったいから、ちょっと辛い……。


「いやー、マジで大変だよな、依桜は。姿が変わるたんびに、こんな風にいじられるんだろ? 大変だよなー」

「そ、そんなひとごみたいに……」

「いや、実際他人事だしよ」

「……そうだけど」


 でも、なんだか納得できない……。


 なんでいつも、ボクがこんな目に遭うんだろうなぁ……。


 ボクとしは、普通に……平穏な生活を送りたいのに、なぜかいじられる。それも、なんだかちょっと嫌な感じで。


「諦めなさい。第一、依桜が可愛すぎるのが悪いのよ」

「みか、それはけっこういってることがひどいとおもうんだけど……どうおもう?」

「そう? 可愛いって、罪よね」

「……ごめんね、なにをいっているかわからないです」


 そもそも、ボクは可愛くないもん。


 それはきっと、小さい子って可愛いよね! みたいな感想を抱くからであって、別段ボクが可愛い、ということはないはず。


「ま、依桜には何を言っても無駄、ということで」


 ……なんだろう。馬鹿にされているような気がしてなりません。

 みんな、容赦ないよ……特に未果。


「あ、そういやよ、さっきLINNの学園公式アカウントの連絡で、なんか一部の種目のルールが変わるみたいだぜ? 高等部限定で、決勝戦だけだが」

「突然だな。一体なんだ?」

「いや、それがまだわからなくてよ、変化するのは、サッカーとバスケ、ドッジボール、あとはテニスらしいぜ?」


 ……どうしよう。本当に嫌な予感しかしない。不思議。


 いきなり、ルール変更はさすがに……一体、何をする気なんだろう?


「……あら?」

「ん、どうした、未果」

「いえ、ちょっとこの部分見て」

「どれどれー? ……うーん? 『ドッジボール参加者は、各種着替えを揃えております』?」


 着替えが揃ってるって……何?


 そもそも、着替えが必要になる球技大会って言うのも、聞いたことないんだけど。


 余計に嫌な予感がしてきた。


「というか、あれね。女委以外、全部引っ掛かってるわね、変更される種目」

「うへー。どう考えても、碌なもんじゃねーよこれ」

「同感だな。やることなすこと突拍子過ぎて、さすがに……」

「特に、依桜なんて両方そうじゃない。大丈夫なの?」

「……だ、だいじょうぶ……じゃないかなぁ……だって、がくえんちょうせんせいだとおもうもん、くろまく」

「「「「たしかに」」」」


 そもそも、学園長先生以外が黒幕なんてありえないよ。


 もし、学園長先生以外にいるとしたら、色々と大変なことになってると思うしね。この学園。


「着替えがあるってことはよ、やっぱ、体育祭の時みたいに、スライムプールのようなあれとかなんかね?」

「たしかにありそうだねー。でも、さすがに同じネタは使わないんじゃないかな? あの人、エンターテイナーだし」

「そのエンターテイナーは、色々とやらかしまくって、依桜の黒歴史を大量生産しているきがするがな、俺は」

「あ、あはははは……」


 否定できない。


 思い返せば、去年の体育祭なんて、スライムプールに落ちるし、なぜかVRゲームの仲では縛られるしで、かなり酷かった覚えがあるもん。


 楽しかった6割、黒歴史4割くらいだよ、あの時は。


 ……球技大会、大丈夫だよね?


「まあ、わたし的には、依桜君が素晴らしい状況になったら嬉しいなーなんて」

「……めい?」

「にゃ、にゃはは! じょ、冗談だよ、依桜君! 友達がそんなこと思うわけないじゃないかー」


 その割には、目が泳いでる気がする。

 ……まあ、いいけど。


「そう言えば、最終種目の情報が朝の十時頃に出るみたいね」

「十時ってーと、サッカー、テニス、バレー、卓球の決勝やってる時間くらいか?」

「んー、それくらいだねー」

「ってことは、全員勝ち進んだ場合、晶と未果以外は見れなくなるってことか?」

「そうだね。みかは、テニスのほうははいたいしちゃったみたいだし、あきらのほうも」

「二人とも、全国常連のとこと当たったんだろ? 勝てるわけねーって、普通は」

「勝てるのなんて、依桜君くらいじゃないの?」

「い、いやいや、ボクいがいにもかてるひとはいるんじゃないかな? た、たとえば、ちゅうがっこうとかで、テニスとかバレーボールをやってて、つよかったひととか」


 この学園なら、そう言う人がいても不思議じゃないと思うもん、ボク。


「でもよ、この学園に入学する理由の一つに、部活がなかったか? うちって、無駄に強豪だし、無駄に設備は揃ってるしよ」


 無駄は余計じゃない?


 それくらい、生徒のために学園側が色々とやってくれてるってことだと思うんだけど、ボク。


「だ、そうよ? 依桜」

「で、でも、あきらみたいなひとだっているよ?」

「俺は運動自体は得意だが、器用貧乏みたいなものだぞ? 満遍なくある程度はできるが、結局はある程度止まりだしな。依桜みたいに、何でもこなせるわけじゃないさ」

「そ、そうはいうけど、ボクはどりょくしたけっかだし……」

「「「「いや、どりょくだけであれはない」」」」

「そ、そですか……」


 ……努力すれば、何でもできると思うんだけどなぁ……。



 というわけで、いつも通りに着替える。


 ただ……


『『『キャ――――――――! 依桜ちゃん可愛い――――――――!』

「あ、あぅぅ……」


 ナース服、だけどね……。


 サッカーの準決勝があるはずなのになぜか、ナース服を着ていました。


 ……なんで? とお思いでしょう。


 かく言うボクも、なんでなんだろう? って思ってます。


 原因をあげるとすれば……更衣室に行った際に届いた、学園長先生からのLINN、かな。


『あ、今日はナース服でやってね! ヨロシクー』


 だった。


 ……なんでボク、律儀にナース服を着ちゃってるんだろうなぁ……。


 別に、着る義務なんてないのに、なぜかボクは着ている。


 ……まあ、単純にボクの体操着が消えたからなだけどね。


 ボクが更衣室で体操着に着替えようとして、ロッカーの中に入れたあと、服を脱ぎ、視線を別の場所からロッカーに戻したら、なぜか……体操着が神隠しに遭っていました。


 その直後に、さっきのLINNが届き、ナース服を着ている、というわけです。


 ……生徒に、ナース服で大会に参加させるって、どういう神経してるんだろう、あの人。


 というか、ボクの体操着どこ行ったの?


 尻尾穴が付いた、特別仕様の体操着。


 少なくとも、消失した後にさっきのLINNが来たって言うことは、あの人が何かしたんだよね、これ。


 ……もしかしてなんだけど、この更衣室、実は何かの仕掛けが施されたりしない? 遠隔操作で、特定の場所にある物を回収する装置、みたいなものとか。


 …………や、やってそう。あの人なら、なんだかんだでやってそう。


『はぁぁ~~~! ケモロリっ娘にナース服! なんという萌え要素の塊!』

『うんうん! 依桜ちゃんが可愛すぎて、死んじゃいそうだよ!』

『はぁっ、はぁっ……た、たまらん!』


 そして、この状況。


 仕方なく、ナース服を着てるけど、これ、変じゃない?


 だって、狼の耳と尻尾が生えた姿小さい女の子に、ナース服だよ? これって、絶対変だと思うんだけど……。


 あと……なんで、全体的にだぼってしてるの? しかも、ずり落ちないギリギリのラインで作られてるし、袖なんて、萌え袖? って言う物になっちゃってるよ?


 学園長先生、設計を間違えたのかな……?



「ねえ、女委。私……ちょっと我慢できそうにないんだけど」


 更衣室にて。


 私は、自身の着替えを終えた後、他の女子たちに囲まれている依桜を見て、女委にそう言っていた。


 ちなみにだけど、心臓はばくばくしてる。


「わかる、わかるよ未果ちゃん! わたしも、あの依桜君を襲いたくてしょうがない! あの背丈に合わない、だぼっとしたナース服に! ひょこひょこ動く耳にぱたぱたと揺れる尻尾! そして、口元に袖口を当てて、恥ずかしそうに潤んだ瞳で上目遣いをしているあの顔! 正直、最高すぎてわたし、鼻血が……って、あ、やっべ、鼻血が」


 興奮して依桜の姿を言う女委は、急に鼻血を出して急いでティッシュで鼻を押さえだした。


「……女委、あんたすごいわ」


 正直、近くに依桜とか他の人もいるのに、堂々と大声で言える辺り、本当に女委はすごいと思う。

 むしろ、女委に羞恥心というものは無いんじゃないの? なんて思う。


 ……いや、絶対ないわね。女委だし。


 BL趣味であることとか、バイであることを人目を憚らずに言える人間だし。


「いやいや、依桜君大好き人間としては当然さ! 未果ちゃんだって、あれを見て何も思わないわけないでしょー?」

「……そりゃまあ。依桜は昔っから可愛いし」

「うむうむ、持ち上げたものから手を離せば落ちるのと同じくらい、当然のことだよね!」

「否定しないわ」


 それくらい、依桜が可愛いというのは当然ということよ。


「あ、知ってる? 依桜君のお父さんも、昔は男の娘だったらしいよ?」

「え、マジで?」

「マジマジ。前にね、依桜君の家に遊びに行った時に聞いたんだけど、依桜君のお父さんの方の家系――つまり、男女家の人たちって、男だと必ずと言っていいレベルで男の娘になるらしいんだよ」

「なにその家系。面白いわね」


 というか、初耳だわ。


「いや、びっくりだよねー。ちなみに、依桜君のお父さんって妹さんがいるみたいで、その人も結婚して子供がいるみたいだよ?」

「ってことは、依桜にはいとこがいるってことなのね?」

「うん、らしいね」


 依桜のいとこ……どんな人なのかしらね?

 ちょっと気になるけど……


「でもそれ、依桜知ってるの?」

「知らないらしいよ?」

「なんでよ」

「教えてないから、だそうで」

「……あ、そう」


 まあ、源次さんだしね。


 あの人、変に抜けてる……っていうか、すっごい抜けてるし。


 もしかして、依桜はそこが似たのかしら?


 あり得る。


「それにしても……あぁ、依桜君が可愛すぎるぅぅ! ねえ、未果ちゃん、今すぐ依桜君を襲ってもいいかな!?」

「ダメに決まってるでしょ、ド変態」

「おうふぅ! み、未果ちゃんに罵倒されるの、なんだかちょっとドキッとしたぜー」

「……女委って、転んでもただじゃ起きないわよね」


 女委って、ドSなところもあるけど、Mな部分もあるのかしら……。


 だとしたら、女委って、相当やばい人間よね?


 ……少なくとも、バイで、腐女子で、変態で、ド変態で、ドSで、若干Mっぽくて、下ネタを堂々と言って来るような人間。


 ……いや、本当にヤバいわね。ド変態すぎる。


 こんなのが友達って、普通に考えたら相当アレよね?


 なんで、友達やってるのかしら。


「み、みかぁ~~~……めいぃ~~~……た、たすけてぇ~~……」


 おっと、世界一可愛い、ケモロリっ娘ナース依桜が助けを求めてるわ。


 しかも、涙目+上目遣いで。可愛すぎて、私も萌え死にそうよ。


 …………あ、まずい。私も鼻血が……。


 くっ、まさか、試合前にダメージをもらうなんて、さすが依桜……ティッシュ、詰めとかないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る