第427話 ミオ大暴露

 リルが以前過ごしていた村で昼食を摂ってから、王都に戻ると、ボクたちは軽く観光を再開させて、色々と楽しんでいる内に、気が付けば夜も近づいていました。


 一応戦争が終わり、治安に人員を割けるようになったとはいえ、犯罪が何も起こらないわけではないので、早めに戻る。


 たまーにあるからね、事件。前回なんて、レノが誘拐されるような事件があったわけだし……。


 それに、みんなの服装はこっちの世界の人たちからすれば奇異に映るし、何より好奇心を刺激する物になりかねない。そうなると、それに目を付けた人たちが悪さを働かないとも限らないからね。だからこそ、早めに戻るのです。


 そして、王城に戻れば、まるでそれを見越していたかのように夕食が食堂に用意されていました。


 なんでこうタイミングよく用意されてるのかなぁ、と王様の方を見たら……


「……(サッ)」


 勢いよく目を逸らされた。


 それを見て理解。


 はぁ……まったくもう。


 さてはあの人、こっそり兵士かメイドさんかを街に行かせてたんだね。


 そうでないと、こんなにタイミング良く夜ご飯が出せるわけないもん。


 別に悪い事じゃないからいいんだけど、こっそり調べさせるんじゃなくて、普通に聞けばいいのに……。


 どうしてこう、犯罪チックな方法で調べるのかなぁ。


 まあ、ご飯は美味しいけど。


 それに、お城のご飯なんて久しぶり。


 最後に食べたのは……魔王を倒して、ここに帰ってからかなぁ。


 二年目は師匠と一緒だったし、三年目は各地を巡っていたから、野外での食事が多かったし。


 そんな、お城の料理を食べているみんなは、とても幸せそうな表情でした。


 普通に考えて、貴族の人が食べるような豪華な食事だもんね。


 向こうで言えば、高級レストランとかかな。


 ……ということはボクって、最初に一年間、その高級な料理をずっと食べていたことになるんだけど……。


 うん。考えるのはやめよう。


 向こう換算でいくら分の食事をしたのかを考えたら、ちょっと怖くなってきた。


 ボク一人だけそんな気分になりつつも、夕食は終わり、お風呂にも入りました。


 ……まあ、何の代り映えのしない、普通のお風呂だったけどね。


 ただ、かなり広い大浴場でした。


 と言っても、ボク自身は修業時代に何度も入っているので、そこまでの新鮮味はなかったけど。


 恥ずかしいことに変わりはなかったけどね!


 幸いだったのは、一緒に入っていたのが身内だったこと。


 ただ、美羽さんとだけは一緒に入ったことがなかったからちょっと恥ずかしかったかなぁ……。


 うぅ、どうにも慣れない。


 お風呂に入った後は、用意された大部屋でまったりとお話……というより、なんだかパジャマパーティーみたいだけど。


 と言っても、メルたちはもうすでにぐっすりと眠っちゃってるんだけどね。


「いやぁ、異世界は楽しいねぇ」

「そうね。まだ初日で、そこまで回れていないけど、異国に来たような新鮮味があるわ」

「異国どころか、異世界だけどな!」

「でもでも、異世界って言っても、意外と元の世界と変わらないんだね!」

「文明を発展させたものが、科学から魔法に置き換わっただけと考えると、エナさんの言う通りかも」

「違うとすれば、魔力があることとか、魔道具があることだな。あとは、亜人がいることらしいが」


 六人は基本的にこの世界について話していた。


 初めての異世界で、結構はしゃいでたからね、みんな。


 美羽さんだって、高校生のみんなよりは大人しかったけど、それでも結構はしゃいでた気がする。


 なんか、異世界の娯楽小説を買っていた気がするし。


 なんでも、


『ほら、異世界産の娯楽小説なんてそうそうお目にかかれないからね。買える時に買っておくの。もしかすると、いい演技の練習になるかもしれないからね』


 だそうです。


 本当に声優というお仕事が好きなんだな、っていうことがわかるくらい、美羽さんって演技に対しての探求心がすごいよね。


 普通に尊敬します。


 それを言ったら、エナちゃんもプロだから尊敬してるけどね。


 ちなみに、美羽さんがエナちゃんをさん付けで呼ぶのは、同じプロとしての敬意、みたいなものだそうです。


 何気に、このグループってプロが二人いるんだよね。


 地味にすごいことな気がする……。


 あ、女委もある意味プロと言えばプロ、なのかな?


「あ、そう言えば。なぁ、依桜」

「どうしたの? 態徒」

「いやよ、ちょっと気になることがあるんだが……ステータスって、存在してるんだよな?」

「え? あ、うん。そうだね。一応ボクは視えるよ。ただ、これってこっちの世界に来たことによるものなのか、それとももともとあったのかについてはわからないけど」

「へぇ。んじゃよ、オレたちも持ってる可能性があるってことだよな?」

「うーん、どうなんだろう? 師匠にきけばわかるんじゃないかな?」

「お、それもそうだな。んで、その肝心のミオさんはどこ?」

「えーっと……あ、いた。師匠―」


 室内をぐるりと見回すと、師匠はバルコニーで外を眺めていた。


 ただ、なんだろう。また考え事をしているような気が……。


 読んでみても、反応がないし。


 どうしたんだろう。


「ちょっと呼んでくるね」


 そう言って、ボクはバルコニーへ移動。


「師匠」

「ん……ああ、イオか。なんだ?」

「いえ、ちょっと師匠に訊きたいことがあったんですけど……考え事ですか?」

「ま、ちょっとな。まあ、そこまで重要なことでもないから、別に問題はない。で? 何が訊きたいんだ?」

「あ、はい。えっと、態徒がふと自分たちにもステータスはあるのか、って訊いてきたんです。でも、ボクはそこまでそういうことに詳しいわけじゃないので……それなら、一番詳しい師匠にと」

「なるほど、わかった。ならあたしが講義でもしてやろうか」

「ありがとうございます。師匠の説明はわかりやすいので、助かります」

「はは、そうか。んじゃ、向こうで説明すっかね」


 軽く笑ってから、師匠は部屋の中へ戻る。


 その後を追うように、ボクも中へ。


「よーし、お前たちにステータスについて軽く教えてやろう」

「「「「「「おー」」」」」」

「んじゃま、まずはステータスを見ることから始めるかね」


 と、師匠がそう言うと、みんなは首を傾げた。


 まあ、普通はわからないよね。そう言われても。


「ああそうか。普通は見れないんだったな。あー……そうだな。どう言うものか説明するところから始めるか」


 そう言うと、師匠は一瞬だけ考えるそぶりを見せた後、口を開いた。


「ステータスって言うのを一言で言うとすれば、そいつの身体能力をわかりやすく数値にしたものだ」

「いや、そのまんまじゃないっすか、ミオさん」

「うるせぇ。本当にこれしか言いようがないんだよ。あとは……一種のバグだ」

「「「「「「「バグ?」」」」」」」


 ステータスをバグと言われて、みんなだけでなく、ボクも思わず聞き返していた。


 バグってどういうことだろう?


「んー、ステータスってのは、神どもが生命に生じたバグを上手く機能するように設定したものでな。まあ、あれだ。あのクソ共の娯楽的な面が強いってことだ」

「はい!」

「エナ」

「えーっと、神様っているんですか?」

「ああ、いるぞ。クッソムカつくがな」


 あ、本当に嫌そうな顔をしてる。


 師匠、一体過去に何があったんだろう……?


「で、だ。このステータスってのは……基本的に、誰にでもあるものらしい。ない、とは言われているが、それは単純にあることに気づかず人生を終えているからだろう」

「つまり、元の世界にもステータスはある、ということですか?」

「そうだ。アキラは理解が早くて助かる。アキラの言う通り、向こうの世界にもステータスはあると思っていい。おそらく、能力やスキルも存在しているだろう。ま、魔法に関してはないと思うがな」

「はい」

「ミカ」

「なんで、魔法はないのかしら?」

「あー、それな。さっきのはあたしの言い方が悪かったか。正確に言えば、魔力自体はある。だが、基本的にあの世界に住む奴は魔力を持たないんだ。ちなみに、魔力がないと魔法が使えん。それと、この魔力は後天的に手に入れるのは不可能だな」

「え、師匠、それ初耳なんですけど。その通りのなのなら、なんでボクは魔法が使えるんですか?」


 ボクも向こうの世界出身なのに、おかしくない?


 なんて、そこからの疑問だったんだけど、ボクが言った瞬間に、師匠が『しまった』みたいな顔をした。


「あー、それは、だな……まあ、あれだ。何事にも例外はある、ってことだ」

「……師匠、さては何かを隠してますね? 今、明らかに動揺してましたよね?」

「いや、そんなことはないぞ?」

「………………むー」

「そう可愛い顔するな。………………はぁ、仕方ないか。ま、どうせいつかは本人が知らないといけないことだしな……」


 不意に、師匠がとても真剣な表情になった。


 雰囲気そのものも、かなり真剣なもの。


 みんなもその変化を感じ取ってか、気を引き締めた表情になる。


「お前、隔世遺伝だったよな?」

「はい、そうですけど……」


 なんでも、北欧系の血が流れてるとかで……。


「それ、お前は変に思ったことはないのか?」

「変、ですか? いえ、特には……」

「まあ、お前はその辺りは疎そうだしな。そもそも、だ。隔世遺伝だと言うのに、なぜお前の両親は、それが誰なのか知らないんだ? しかも、北欧系何て言うあやふやなもんだ」

「……あ、言われてみれば確かに」

「まあ、その時点からしてなんかおかしいが……まあ仕方ないな。お前の母方の方だからな、その遺伝は」

「母さんの?」

「ああ」


 十九年生きてて、初めて知ったよ、その事実。


 そっか、ボクの隔世遺伝って母さんの家系の方からだったんだ。


「それじゃ、まどろっこしいことはなしで、ドストレートに行くぞ。イオ、お前は――」


 ごくり、と部屋から生唾を飲み込む音が聞こえてきた。


異世界人の子孫・・・・・・・だ」

「……………………え」

「「「「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?」」」」」」」


 師匠のズバッと言った事実に、ボクだけでなく他のみんなも一斉に驚愕の声を上げた。


 まさか過ぎる事実に、驚くしかありませんでした。

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