第428話 ミオのステータス講義
とんでもない事実を暴露されて、場が若干混乱したため、一度冷却期間を設ける。
「し、子孫……ボクが、異世界人の子孫……な、なんで? え、ええぇぇ……?」
「あっちゃぁ……依桜が激しく混乱しているわ」
「依桜君、大丈夫かい?」
「だ、だい、大丈夫……大丈夫、だよ……」
一番混乱しているのはボク、なんだけどね……。
ま、まさか、異世界人の子孫だったなんて……。
「まあ、そんなわけだ。だからイオが魔力を持っているんだ」
「で、でも師匠、ボク異世界に行く前とか、魔法は使えませんでしたよ……?」
「そりゃそうだろ。あっちの世界には、魔法と言う概念がほぼないんだから。まあ、歴史を見ていた限りじゃ、魔術って言うのはあったみたいなんで、もしかすると歴史上にはいるのかもしれないけどな、魔法が使えた奴」
「そ、そう……ですか」
うぅ、なんだか突然の出来事過ぎて、本当に混乱するよぉ……。
「まあいい。明日も朝早いんだろ? 説明、続けるぞ」
「あ、は、はい。お、お願いします……」
「よし。まあ、魔法が使えない理由は単純に今言ったように、魔力の有無が関係してくるわけだ。魔力を持つには、前提条件が一つだけある。それは、母親の胎内にいる際、その母親が生活している場所の魔力濃度だ」
「ミオさん、それはどう関係してくるんですか?」
師匠の説明に疑問を言ったのは、美羽さん。
なんだかんだで、美羽さんも気になってるみたい。
「魔力濃度って言うのは、その言葉の通り、空気中にある魔力の濃さのことだ。これが一定の基準を上回っていれば、胎内にいる子供に魔力の受け皿のようなものが生成され、その体内の受け皿に溜まった魔力を使用することで、魔法が使えるわけだ」
師匠のわかりやすい説明に、みんなうんうんと頷きながら聞いている。
みんな、とても真剣な表情。
「例外として、イオのような存在もいるみたいだが……こっちは本当に例外中の例外だ。ほぼありえんだろ」
ボク、あり得ない存在なんだ。
「で、だ。ステータスに話を戻すぞ。向こうの世界おいて、ステータスという存在が普及していない理由として、危険度の有無がある」
「危険度?」
「そう、危険度だ。お前たちは『CFO』をやっているだろうから知っていると思うが、あれはこっちの世界を模したものだ。それは、知っているな?」
「うちは知らないです!」
「ああ、エナは知らないのか。だが、あのゲームはこっちをモデルにして作られているんだ。とりあえず、これは理解しておけ」
「はーい!」
順応早いね、エナちゃん。
あと、日中は結構動き回ったのに元気だね。
「あのゲームで考えてみろ。生まれた世界がああいう世界で、自分はただの村人。そんな状態で外をほっつき歩いていたら、どうなる? タイト、答えてみろ」
「え、オレっすか!?」
「ああ、お前だ。ほれ、早くしろ。五秒以内に答えなきゃ、修行な」
うわ、理不尽! 本当に理不尽! 態徒、一応一般人なのに!
「うぇ!? いや、そ、そりゃあ……やっぱ、危険、なんじゃないっすか? オレたちはまだ魔物に遭ってないっすけど、ゲームで考えたら結構やべえ気がするし……」
「ああ、その通りだ。こっちの世界では、その危険が日常茶飯事なわけだ。もしかすると明日死ぬかもしれない、明後日かも……そんな危険な状態がありつつも、生きているわけだ。そんな奴らが対抗するにはどうするか。アキラ」
「あ、はい。……あー、そうですね。やっぱり、ステータスにある、能力とかスキル、魔法、でしょうか?」
「まあ、正解だ。アキラの言う通り、あれに対抗するには、能力やらスキルが一番有効だ。大抵はなかなかに使えるものばかりだからな」
職業にもよると思うけど、確かに使いようによっては強い物って多いよね。
「質問がある奴はいるか?」
「はい」
「ミウ」
「話を聞いていて疑問なんですけど、ステータスってその人の身体能力をわかりやすくしたもの、なんですよね?」
「ああ、そうだな」
「ということは、私たちが住んでる世界にも、こっちの世界の人と同じように異常な身体能力がいる人がいても不思議じゃないと思うんですけど……」
美羽さんの疑問を聞いて、他のみんなもたしかにと頷く。
かく言うボクも頷いた。
だって、ステータスがあるのなら、たしかにウサイン・ボルト以上の速度で走れる人が出て来てもおかしくない気がするし……。
「あー、その辺りか。たしかに、ミウの言うことには一理ある。実際のとこ、そういう奴がいても不思議じゃない。その辺の違いは……やはり、覚悟だろうな」
「覚悟?」
「ああ。向こうの世界はたしかに危険はないわけじゃない。殺人鬼がいるかもしれないし、もしかすると戦争に行く可能性さえある。だが、ある日突然死んでも戦い続ける覚悟を持て、なんて言れても、覚悟はできるだろうが、いきなりドカンと身体能力が向上するわけじゃない」
なるほど……。
たしかに師匠の言う通り、平穏に過ごしていたのに、ある時いきなり死ぬ覚悟を持ったとしても、身体能力は上がらない。
なぜなら、そこまで鍛えていないから。
「そう、今イオが思ったように、そこまでというほど鍛えていないとなると、正直身体能力は向上しにくい」
今、サラッと心読まなかった? あの人。
……まあ、今はいいけど。
「いわゆる、リミッターのような物が付けられていると言える。それを開放した状態ってのが、向こうの世界で言うところの『火事場の馬鹿力』だな」
「なるほど……つまり、私たちの世界で言う『火事場の馬鹿力』をこっちの人は常に出している状態で鍛えているからこそ、向こうと比べて異常に強い、ということね?」
「やはり、ミカは頭が良いな。そう、今ミカが言った通りのことがこっちでは起きている。命の危険がない場所なんて、そうそうないからな。この安全に思われている王都だって、裏ではおかしな組織だっているし、王都の外から大量の魔物が押し寄せてくる場合だってあるわけだ。そんな危険な状況が近くにあるんじゃ、当然対抗しようと覚悟をするよな? つまり、そういうことだ。ステータスは、言わば覚悟があるからこそ、見れるようになる、というわけだ。もっとわかりやすく言えば、ステータスが視れる、ということはそのリミッターが外れている証拠でもある、ってことだな」
「「「「「「「なるほど……」」」」」」」
師匠の説明って、やっぱりわかりやすい。
だって、態徒でも理解できてるんだもん。
その辺りはやっぱり、年の功なのかな?
「まあ、向こうの世界では無意識のうちに使ってるみたいだがな」
「無意識?」
「ああ、無意識。深層心理と言った方が正しいか。お前たち――というか、人間には、天職という才能が個人個人には必ず一つはあるんだ。イオで言うなら、《暗殺者》《料理人》《裁縫士》《演芸人》の四つが該当する」
「「「「「「最初以外が可愛い……」」」」」」
「どういうこと!?」
というか、ボクの天職って四つもあったんだ。
しかも……演芸人って。それってつまり、俳優などの方面に適性があった、っていうことだよね?
自分のことながら、ちょっと納得……。
「で、意図せずして天職の職業に就いた場合、そいつはその分野で少し能力が向上するわけだ。おそらく、能力か何かによるものだろう。ほら、よくいるだろ? 特定の分野に対して、馬鹿みたいに天才的な奴とか、器用にこなせる奴とか。そういう奴らは、それによるもので間違いないだろう」
なんだろう、すごく勉強になる。
何に活かせるかはわからないけど。
「とは言っても、職業は生涯で一つしか選択できないんで、一度決めたら変えることはできないんだけどな」
「へぇ~。ということは、依桜君は
「そういうことだ」
まあでも、それでもできることは多いんだけどね。
暗殺者的なもの以外にも。
「他にもまあ色々とあるんだが……このままだと時間が無くなるんで、ここからが本題に入るぞ。お前たちは、あれか? ステータスが視たいのか? 自分の」
「私はちょっと気になります」
「俺もそこまでではないが、視てみたい気はします」
「オレはすっげえ気になるっす!」
「わたしもー! オタクたるもの、そう言うのは夢なもんで!」
「私も視てみたい気はします」
「うちもうちも!」
「そうか。さて、どうしたもんか……まあ、まずは試しに一つ。お前ら、ちょっと目を閉じて思い浮かべてみろ。とりあえず……まあ、わかりやすいところで、『CFO』のステータスでいい。あれを思い浮かべてみな」
そう言われ、みんなは目を閉じる。
「どうだ? 何か視えたか?」
「……いえ、何も視えないわ」
未果言うと、他の人も視えないのか難しそうな表情を浮かべた。
ボクはすぐに視えたんだけどなぁ……。
「はぁ、仕方ない。荒療治でいいのなら、一つだけ方法がないこともないんだが……どうする?」
「「「「「「お願いします!」」」」」」
「ほう、そうか。そこまでお願いされちゃ、断れないな」
あ、なんかすっごくいい笑顔してる!
あれ、絶対何かを企んでいる時の顔だよ!
一番危険な時のものだよ!
「それじゃ……覚悟を決めろよ」
最後の部分だけ、本気が混じっていた。
みんなが頭に『?』を浮かべていると……
『―――ッ!?』
ズンッ!
という音が聞こえてきそうなほどの濃密な殺気が師匠から放たれた。
こ、これは……さすがに一般人のみんなにはきついよ!?
何考えてるの師匠!?
「ほれ、どうした? ステータスが視たいんだろ? このままだと、殺気を当てられただけで死ぬぞ?」
「ちょっ、師匠やりすぎです! これじゃあ……」
「何を言う。ここまでしないと、人ってのは覚悟が決められないんだよ。見ろ、あいつら以外にも耐えてるぞ?」
「そんなわけ……あ、ほんとだ」
師匠の言う通り、みんな師匠の殺気に顔を歪めているけど、たしかに耐えてる。
これにはボクもびっくり。
今の師匠が放っている殺気は、少なくともボクが知っている限りの質量だと、七割くらいなんだけど。
それを耐えられるって、そうとうすごい気がするんだけど……。
あれ、どうなってるの?
「んー……そろそろ頃合いか。ほれ、殺気は消したぞ」
「「「「「「――はぁっ……はぁっ……き、キッツ!」」」」」」
殺気を放つのを止めた瞬間、一斉に息を吐き呼吸を整えだした。
そして、一斉に同じことを言う。
うん……あれはきついよね。本当に。
「し、死ぬかと思ったわ……」
「ああ……俺も、死を覚悟したぞ、あれは」
「お、同じく……」
「ミオさん、本当にやべー存在だったんだねぇ……」
「私、あんなに濃密な殺気って初めて……」
「う、うちもあれは……ちょっと……」
あぁ! あの天真爛漫なエナちゃんでも汗がすごい!
やっぱり、それほど消耗してるってことなんだね……。
「で、どうだ? あたしの考えが正しけりゃ、これで見れるはずなんだが」
再び目を閉じだすみんな。
すると、
「あ、視えるわ」
「俺もだ」
「オレも視れるぜ!」
「おぉ! こ、これが生ステータス!」
「なるほど、これが本物……」
「面白ーい!」
「本当に視れてる!?」
あの荒療治で、本当に視えるようになったみたいです。
……うそぉ。
「ははは! やっぱりそうか。あれだけのことをすれば、確実だと思ったんでな。……しっかし、本当によく死ななかったな、お前たち。あれ、最初の頃の依桜でも気絶しかけたほどの濃さだったんだがな……」
「うぐっ」
みんなは耐えられたのに、ボクは気絶しかけるなんて……なんだろう、この敗北感。
「……何か、特殊な加護でも働いたのか?」
ぼそりと師匠が顎に手を当てて呟いていた。
なんだろう?
「よし。視れたのならいいだろう。どうせ、他に気になることはな――」
「あのー、ミオさん」
ないと言おうとする前に、未果が恐る恐ると言った様子で、師匠に声をかけた。
あれ? どうしたんだろう?
「なんだ?」
「えっと、気力って項目は何ですか?」
「…………は?」
「それ、俺にもあるな」
「オレもある」
「わたしも」
「私もあります」
「うちもあるよ」
「え、き、気力? みんな、そんな項目あるの?」
ボクが尋ねると、みんなも戸惑いつつも頷く。
え、気力なんて項目あったかな……?
「ちょっと待て、今調べる」
突然の出来事に、師匠もさすがに戸惑いを隠しきれなかった様子。
そうして、少しの間師匠が集中していると、苦笑いをしながら「あー」と言って口を開いた。
「OK理解した。その気力って言うのだが、まあ、あれだ。どうやら魔力の代わりらしい」
「え、師匠、どういうことですか?」
「つまりだな……今後、魔力を使用しなければいけない能力、スキルがあれば、気力を代用してそれが使える、ってわけだ。とは言っても、魔法はどうも使えないみたいだが」
そ、そんなものがあったなんて……。
不思議なことって、まだまだあるんだね……。
魔法が使えない、と言われたみんなちょっとがっかりした様子。
……魔法、憧れるもんね。ちょっとは。
「そう気を落とすな。意外と『魔力変換』なんてもんがあるかもしれんしな」
たしかに、なんかありそう。
ボクたちが知らないだけで、もしかしたら本当にあるかもしれないもんね、そういうものが。
「さて、ステータスが視れるようになったんで、お前たちはおそらく身体能力が向上しやすくなると思うが、まあ、気にするな。あと、職業がの部分が埋まってる奴がいたら、まあ……今後はそれで頑張ってくれ」
師匠がそう言ったら、美羽さんとエナちゃんの二人が、ちょっとだけ笑っていた。
あ、もしかして、二人には今の職業に関する物が埋まっていたのかな?
よかったね。
「……さて、結構長々と話しちまったな。どれ、あたしはそろそろ寝るかね……ふぁあぁぁぁぁ……」
「あ、おやすみなさい、師匠」
「あぁ、おやすみ……」
ごろんと横になったと思ったら、すぐに眠った。
は、早い。
「じゃあ、ボクたちも寝よっか」
「そうね。明日も早いし」
「うん。じゃあ、おやすみなさい」
「「「「「「おやすみなさい」」」」」」
うん。初日、最後の最後でとんでもない事実が発覚したけど……まあ、いつも通りということで。
今更何か変わるわけじゃないもんね!
うん、気にしないでおこう。
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