第141話 多才な女委
「はぁ……」
朝から大声を出した後、顔を真っ赤にしながら学園に登校。
道中、未果と晶がすごく慰めてくれていたけど、二人に言われても、慰めにならず……赤面した状態のまま、教室へ。
珍しく先に来ていた態徒と女委が、ため息を吐いたボクのところに来た。
「どうしたの、依桜君」
「……昨日のボクの恥ずかしい姿が、ね……未果と晶に見られて……」
「恥ずかしい姿ですと!? 依桜君、そこのところ詳しく!」
「はいはい、可哀そうだから聞かないで上げて。……ま、まあ、あれはものすっごく可愛かったけど」
「あぅぅ……!」
恥ずかしいぃぃ……!
なんでボク、二人にあんなに甘えちゃったの……?
何が、『ふーふー、して』だよぉ……高校生にもなって、なんて恥ずかしいセリフを言ってしまったんだろう……。
他にも色々言ってたし、一緒に寝てって言ったり、行かないで、って言ったり……恥ずかしすぎるセリフを連発したと思うと……穴があったら入りたい!
「依桜君がここまでなるということは……よほどのことがあったんだね?」
「……まあ、な」
「お? 晶が珍しく赤面してるな。……それほどのことが、昨日あったというのか……くっ、行きたかったっ」
「……ボクとしては、態徒と女委が来なくてよかったと思ってるよ……」
絶対、ネタにされてたと思うもん……。
はぁ……男に戻りたい……。
……いや、でもあんな恥ずかしい姿を見られた後に男に戻っても、逆に思い出しちゃいそうだよ。
うん。忘れよう。記憶の彼方に投げよう。
「酷いなぁ、依桜君。わたしたちだって、心配したんだぞ?」
「……ありがとう」
「そうだなぁ。依桜がいない学園は、まるでお通夜のような状態だったぞ」
「え、お通夜?」
誰か死んじゃったの?
「簡単に言うとな。依桜が欠席しただけで、このクラスの奴らは、軒並みテンション最低レベルまで落ち込み、国語の授業で朗読をさせられている時、まるで念仏を唱えているかのような声になり、先生すらもやる気が消えているような状態だったんだぜ」
「あはは。さすがに作り話でしょ」
なんて、態徒が言った話を笑うと、なぜか、みんなにも言わなかった。それどころか、目をそらしていた。
え、ほんと、なの?
「で、でも、たまたまみんなの体調が悪かっただけなんじゃ……?」
と言うと、晶が、親指でクラスの後ろの方を示してきた。
えーっと、
『やったッ……! 男女が、男女がいるぞッ……!』
『女神だぁ……女神が降臨なされたぁ……』
『ああぁぁ……癒されるわ~……』
『ありがとうございますっ、ありがとうございますっ』
と、なぜか涙を流している人が多かった。それどころか、拝んでいる人までいる始末。
え、えっと、これは……どういうこと?
「依桜はね、この学園ではアイドル、ひいては清涼剤、そして、癒しというわけね」
「肩書多くない?」
「まさか。今の依桜は、肩書多いわよ?」
「……あんまり聞きたくないような気がするけど、どんなの?」
「『白銀の女神』『天使』『悪魔』『小悪魔』『ケモロリっ娘』『美幼女』『お姫様』『アイドル』『清涼剤』『癒し系美少女』『可愛さの権化』『吉祥天』とかかしらね? ほかにもあったような気がするけど」
「多い多い! なんで、そんなに肩書ができちゃってるの!? と言うか、明らかに、本当の神様いたよね!? あと、ボクは、お姫様じゃないから! た、たしかに、お姫様の知り合いはいるけど……」
レノとかね。
まあ、一応王子様とも知り合いだけど……。
ちなみにですけど、『
吉祥と言うのは、繁栄・幸運を意味していて、幸福・美・富を顕している神様です。
……何と言うか、幸運、と言う意味においては、あながち間違いじゃないと言うのが何とも言えない……幸運値が高いので。
そもそも、肩書かどうかすら怪しいような?
「って、あれ? えっと、みんなどうしたの?」
気付けば、クラスのみんながボクを凝視しながら固まっていた。
あ、あれ? 何か変なこと言った?
「いや、まさか依桜にお姫様の知り合いがいるとは思わなくてな……」
「ええ。王様は知っていたけど、お姫様は知らないわね」
「美少女なのか?」
「ねえねえ、美少女?」
「え? う、うん。可愛い人だよ」
レノは、ボクのことをお姉様、と呼んで慕ってる? けど、可愛い人だったし……。
『お、おい、聞いたか。男女、美少女なお姫様の知り合いがいるんだってよ』
『……あの銀髪碧眼と言い、もしかして男女の家系って、どっかの貴族か何かだったりするのか?』
『依桜ちゃん、すっごーい! お姫様の知り合いがいるなんて……』
『本当に何者なんだろうね、依桜ちゃんって』
……あ。もしかして、お姫様の知り合いがいる、っていうところに驚いていたり……?
だ、だよね……どう見てもこれ、それが原因だよね。
そもそも、普通の高校生がお姫様の知り合いがいる、ということ自体おかしいか。
ボクからしたら、三年間もいたわけで、何と言うか……慣れ、のような何かがあるので、つい、自分の感覚で言ってたけど……なんだろう。この、やっちゃた、みたいな気分は。
「それで、どういった関係なのかしら?」
「うーんと……」
なんて言えばいいかな。
レノからは、お姉様呼びで慕われてるし……。
「え、えーっと、お姉様って呼ばれてるけど、普通の友達だよ」
「「「「お姉様……?」」」」
え、そこに反応するの?
というより、なんで怪訝そうな顔?
……たしかに、お姉様呼びはちょっとおかしいかもしれないけど。
「そうか……そのレベル、なのか」
「……女委、どう思う?」
「んー……同類な気がするなぁ」
「……それ、結構やばくね?」
なんだか、珍しくもない光景になりつつある、四人だけの会話。
何を話しているのか気になる。
「ま、まあいいわ。正直なところ、依桜が何をしても、もう不思議じゃないしね」
「そ、それはそれで酷いような……?」
「いや、アスレチック鬼ごっこで、音もなく忍び寄って捕まえたり、一瞬で近づいて捕まえる奴が、何を言ってるんだ」
「うっ、そ、それを言われると……」
たしかに、あれはやりすぎたと思ってるよ……。
いくら、トラップで怒っていたとしても、やりすぎ、だよね……。
身体能力のスペックに差がありすぎたもん。
……まあ、小さい姿でよかった、といる部分もあるけど。
今の姿でやっていたら、かなり大変なことになってたもん、あれ。
「依桜が異常なのは、学園にいる人全員が、九月には認知しているから、何とも言えないな」
「あ、あははは……」
そっか。九月の時点で認知されてたんだ……だよね。
だって、いきなり女の子になるし、テロリストを撃退するし、おかしな動きで的当てするしで、目立ってたもんね……。
目立ちたくない、と言いながら、この状況。
……なんだか、小説のテンプレ主人公みたいだよ……。
ブー、ブー、ブー。
ふと、バイブレーションが聞こえてきた。
「あ、ごめんごめん、わたしー。ちょっとごめんね」
音の出どころは女委。
断わりを入れて、通話をし始める。
「はいはーい、女委ちゃんだよー。あ、三角さん? うん、うん……なるほど。それなら、外の冷蔵庫の中に入っているはずだから、そっちを使ってね~。あ、あと、お肉の解体の方もお願いね。うん。じゃね~。……あ、ごめんね、それで、なんだっけ?」
「いや、ちょっと待って。女委、あなた今、誰と話してたの?」
「え? 副店長」
「「「「副店長?」」」」
なんだろう。その、すごく気になるワードは。
副店長って、文字通りの意味をとるなら、お店の副店長のこと、だよね? え、なんで女委がそんな人と話してるの?
「えっと、女委って、アルバイトしてたっけ?」
ちょっと気になって、女委に尋ねる。
たしか、女委はアルバイトはしていなかったはずだけど……。
「うん、アルバイトはしてないよ~」
「だよね。……『は』?」
「うん。アルバイトは、してないけど、経営は、してるよ」
「「「「…………ええええええええええええええええっっっ!?」」」」
「お、おおぅ!? ど、どしたの四人とも」
女委のまさかすぎる発言に、思わずボクたちは素っ頓狂な声を上げていた。
け、経営って!
「め、女委、お前、店をやっているのか?」
「うん。やってるよー」
「……ち、ちなみに、どういったジャンルのだ?」
「一応、飲食系だね」
「……中身はどんなのかしら?」
「メイド喫茶!」
……ええ? いや、その……ええええぇぇ?
「ま、まままま待って? 何? 女委って、メイド喫茶をやってるの?」
噛み噛みで、未果が女委に再度尋ねると、
「うん。この街でやってるよ」
「……たまに思うんだが、女委って、かなり謎な気がするんだが。人脈とか、やっていることとか」
何とも言えない表情で、晶が言う。
晶、その気持ちはわかるよ。
実際、女委って、小学生の頃から、年二回、東京国際展示場で催されるイベントに参加してた、って話なんだよね……。しかも、中学生の頃から、サークル参加してた、って話だし……。あの時にはもう、同人誌を描いていたんだね、女委。
それに、田中さんっていう、衣装のお店を開いている人とかなり親しかったり、パソコンで学園のネットワークに侵入して、情報を入手したり、いっつも五人で遊びに行くときに、ある程度のお金を出してくれるなぁ、とは思ってたけど……まさか、メイド喫茶を経営していたなんて。
「ミステリアスな女って、いいよね!」
反応に困っているボクたちとは裏腹に、女委のテンションはかなり高い。
どうなってるんだろうね、本当に。
「にしても、なんでメイド喫茶の経営なんて?」
「コ〇ケって、参加費がかかるんだよ。と言っても、一万円くらいなんだけどね。でも、当時中学生だったわたしには、結構な額でね。それならいっそ、お金を稼ごう! みたいな?」
「「「「……」」」」
絶句した。
すっごく軽い気持ちで始めたんだなって。
……ボクも異常かな? とは思っているけど、女委の方が明らかに異常な気がするのは気のせい? だって、ハッキングができるし、同人誌を描いているし、メイド喫茶も経営しているんだよ? おかしいと思うんだけど……。
「まあ、最初は苦労したけど、一年経つ頃には、結構収入が入ってねー。おかげで、余裕で毎年参加できてるのさ! それに、初めて見たら、かなり楽しくってねー」
「そ、そうなんだ」
何と言うか……本当にすごい。
この歳で、お店の経営をするなんて……本当に、尊敬するよ。
「そうか……たまに、女委がよくわからない電話をしていたり、帰るのがやたら早い日があると思ったら……自分の店に行ってたんだな」
「そだよー。あ、もし来てくれるなら、サービスするよ!」
「いや、そんなこと言われても、お店の名前を知らないのだけど?」
「あ、これは失敬失敬」
女委が経営しているお店の名前……今までの経験から考えると、あまりいい名前を付けていなさそうなんだよね……。
一体どんな名前なんだろう?
「えっと、『メイド喫茶 白百合亭』って名前でやってるよ。ちなみに、駅から近かったりするよ」
((((白百合、ね……))))
なんとなく、別の意味に聞こえたのは、きっとボクだけじゃないと思いたいです。
……そう言えば、レノも『白百合姫』って呼ばれてたっけ。
うーん、白百合……百合、か……。
気のせい、だよね。うん。きっと気のせい。
「おらー、席つけー。HR始めるぞー」
ここで、戸隠先生が来たことで、話は終わり、ボクたちも席に着いた。
それにしても、朝からびっくりしたよ。
……もしかすると、他にも色々ありそう。
なんて、そう思うボクだった。
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