第123話 晶のスウェーデンリレー
『お知らせします。スウェーデンリレーの準備が整いましたので、参加するの選手の皆さんは、グラウンドに集まるようお願いします』
その収集の元、俺はグラウンドに来ていた。
昨日は、二人三脚で散々なことになったが、さすがにリレーでは変なことに名はならない、と思う。
変なことがなければ、だが。
昨日なんて、パン食い競争、障害物競走、借り物・借り人競争(あの後、お題を聞いた)に、二人三脚、それから美天杯。これらの競技は、本当に酷かった。
マシだったのは、最初の二種目くらいだろう。
……さすがに、スウェーデンリレーでおかしなことにはならないと思うが。
今回、俺が走るのは400メートル。つまり、アンカーだ。
どちらかと言えば、短距離のほうが得意と言えば得意なんだが、この競技にはうちのクラスから、陸上部が出てるからな。仕方ない。
で、運動神経のいい俺が、ってことになった。
俺は別に、そこまで運動神経がいいわけじゃない。
実際、俺よりも、態徒のほうが高かったりするんだが。
体力測定では、俺のほうが半分ほど記録を上回っているが、あれは、練習の有無の問題だ。
俺は、常日頃から、体力づくりや、運動不足にならないようにするために、体を動かしているからな。走ったり、筋トレしたり。
だが、あくまでもそれだけだ。
あいつは、昔から武術をしていたらしいからな。鍛えるにしても、ほとんどそっちばかりで、俺が態徒よりも勝っている種目も、そこまでやっていないからだろう。
だがまあ、今は俺が勝っているから、ってことで俺が出てるわけだが。
……さて、コース上は……よし、見た感じ、変なものは見当たらない、と。
『えー、それでは、選手の皆さんが集まったようなので、説明をしたいと思います。スウェーデンリレーは、これと言ったルールなどは存在しません! それぞれの走者が決められた距離走るだけです。ただし、今日の団体戦競技に関しては、個人戦競技と違って、全学年が入り乱れているわけではなく、それぞれの学年ごとで行います。一学年につき、七クラスありますが、例外として、四組は二チーム出場ですので、実質八クラスです! 最初は一年生のグループからですので、一年生は準備をお願いします!』
よかった。どうやら、おかしな仕掛けはないようだ。
……まあ、さすがにネタ切れなんだろう。
どの道、リレーが終わった後には、棒倒しやら、アスレチック鬼ごっこもあるしな。
うちは、ハンデが大きすぎて、依桜だけしか出場しないがな。だが、それはさすがに仕方がないだろう。
少なくとも、学園祭のミスコンのあれを見ればな。
アスレチックが絡んでくるなら、圧倒的に有利になるだろうからな。
『小斯波、アンカー頼むぜ?』
「任せろ。とは、言えないが、まあ、頑張るよ」
『何言ってんだよ、お前、運動神経めっちゃいいじゃん』
『だよな。正直、イケメンで、勉強も運動もできるとか、マジで羨ましいっての』
「勉強も運動も、ただ努力してるだけだよ。別に、最初からそうだったわけじゃない。それに、この学園に入れるレベルの学力はあるんだから、別に馬鹿ってわけじゃないだろ? お前たちも」
『あー、それもそう、か? この学園、何気に倍率高いからなぁ』
クラスメートが言うように、この学園は倍率が高い。
学力のレベルも、そこそこ高いが、別にそれが倍率が高い理由ではない。
『だなー。俺も、すっげえ勉強したぜ。可愛い娘多いしよー』
『それな! この学園、男子も女子もレベル高いもんなぁ』
と言うのが、大体の理由だ。
それに、この学園はイベント事も多いからな。それ目当てで志望する中学生は多い。
俺たち五人は、近いから、って理由だったがな。地元だったし。
態徒はかなり苦労していたが。
たしか、今までの倍率で一番高かったのは、三倍だと聞いたな。
この時点で、首都圏の高倍率な高校と同じレベルだったりする。
一応、この学園がある県も首都圏と言えば、首都圏だが。
で、さっき女委が言っていた、来年の倍率は、今のところ……十倍らしい。いや、冗談抜きで。毎年、平均二倍後半以上を出しているが、どうやらそれどころじゃないらしい。
依桜目当てと考えて間違いないだろう。
……実際、今の依桜は冗談抜きで可愛いからな。
依桜がエキストラで出演したドラマを見たが……あれは、出演していた俳優の存在を喰ってしまってたからな。
それに、この学園は無理でも、と、美天市内にある高校を志望している人も多いらしい。
同時に、教師のほうも、この学園へ移りたいと思っている人も多いとか。
……何をどうしたら、そうなるのやら。
あまり目立つのが好きじゃないんだがな、依桜は。
男女問わず人気がある、なんて人は、依桜以外に知らないな、俺は。
無自覚に信者が増えてるからな……少なくとも、ファンクラブが二つできるレベルだ。
大体の荒事は依桜でどうにかできるからなぁ……。
ま、下手なことにはならないだろう。
「そう、だな。さて、話すのはここまでにして、持ち場につくか」
『そうだな。じゃ、できるだけ有利な状態でパスするぜ!』
『俺もだ』
『俺もな!』
「ああ、頼む」
そう言って、メンバーはそれぞれのスタート位置に向かって行った。
俺としても、ある程度引き離してもらえるとありがたいからな。
さて、依桜はどんな感じかな、っと。
……なるほど、あれは可愛いな。
「が、がんばってぇ~!」
ポンポンを両手に持ち、それを振りながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねて応援している。さらに、大輪の花のような笑顔もセット。
……和むな、あれ。
相変わらず、顔は赤いが。
……だが、心なしか、昨日よりも恥ずかしがっていないように見える。
もしかすると、精神年齢もある程度退行しているのかもな、あの姿は。
以前、普通に泣いていたし。
にしても、やっぱり視線を集めてるな、依桜。
まあ、見た目小学生だし、目を引くのも当然、か。
と言うか、会場にいる大多数の人は、あれが依桜だと気付いていない可能性がある。
なにせ、昨日とは全くの別人だ。
と言っても、学園の生徒や教師は気付いているだろうが。学園側が全生徒、全職員に通知をしていたみたいだしな。
観客の反応は……
『か、可愛すぎるッ! な、なんだあの娘!』
『て、天使! 西軍には天使がいるぞ!』
『女神様がいないのは残念だったが、天使がいるのなら全然かまわん! いや、むしろ全然いい!』
『可愛いなぁ、あの娘。応援団の服を着てるってことは、学園生なのかな?』
『だと思うけど、昨日あんな娘いたっけ?』
『どことなく、女神様に似てるような気はするけど……』
概ね依桜が可愛いと思っているみたいだな。
今いる位置が、割と応援席とかに近いおかげで、それなりに聞こえた。
しかし、どんな姿でも目立つとは……我が幼馴染ながら、末恐ろしい。
会場を見回し、ふと依桜のほうに視線を戻すと、女委が何やら依桜に耳打ちをしていた。
……何を言っているんだ、あれは。
依桜も疑問符を浮かべているようだが……ん? なぜか頷いてる? 納得したのか?
『それでは、準備が整ったようですので、競技を進めていきたいと思います! 先生、お願いします!』
何を言っているのか気になるところではあるが、時間になったようだ。
頑張らないとな。
「それでは、位置について。よーい……」
パァン!
二日目初のスターターピストルが鳴り響き、競技が始まった。
『最初は100メートル! よく見ると、参加している生徒は全員陸上部です! すごい! 考えることは同じってことですね! それにしても、ずいぶん拮抗しております! おーっと、ここで次の走者に交代しました! 一組、五組が速いです!』
二走目にバトンが渡るまではほぼ同時だったが、二走目が走り出した途端、一組と五組が前に出た。
うちのクラスは……五番目、か。結構下だな。
いや、今走っている奴は、決して遅いわけじゃないんだが、相手が悪かったか。
一年生ながら、陸上の県大会で成績を残しているような猛者だからな。
しかも、インターハイまであと一歩だったとも聞く。
あれは、本当に相手が悪い。
……勝つのは厳しい、か。
そう思った直後だった。
「昇二お兄ちゃん、頑張って(見た目通りのロリボイス)!」
という、依桜の応援が聞こえた。
『よっしゃあああああああああああああああ! 幼女からの応援ッ! これで俺は勝てるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおっっ!』
二走目――松戸(通称ロリ戸)が、そんな叫び声を発しながら、ものすごいスピードで走っていた。
いや、待て。このパターン、昨日も見たぞ。
たしか、100メートル走で。
あれか? 依桜の応援には、なにかバフのようなものでも付くのか?
……しかし、これで松戸はロリ戸としか呼ばれなくなるな、あれは。
いや、待て、俺。サラッと流したが、依桜は一体何を言っているんだ?
なんで、クラスメート相手にお兄ちゃん呼びをしているんだ?
……まさかとは思うが、女委か? 女委なのか!?
そう思って、女委を探す。そして、女委の姿を見つけるなり、俺は悟った。
女委は、ものすごくいい笑顔をしながら、依桜にサムズアップしていた。
なんて言うか……ツッコミどころしかないな、これは。
『すごい! すごいです! 一年六組のロリ戸君、天使モード依桜ちゃんのお兄ちゃん呼びで覚醒し、他の選手を追い抜いて行きます! 速い速い! なんと、三走目の選手にもうバトンを渡しました!』
もうすでに、ロリ戸呼びは固定してしまったようだ。
……ドンマイ、ロリ――松戸。
心の中で、慰めの言葉を送っていると、またしても依桜が、
「哲人お兄ちゃん、いおのためにかって(見た目どう――以下略)!」
『俺は……天使ちゃんのために勝って、勝利を捧げるんだぁああああああああああああああっっ!』
『なんと、三走目の遠藤君までもが、天使モード依桜ちゃんの声援により、覚醒! どんどん後続を引き離します! すごい! これが天使の応援!』
……女委は、一体依桜に何を言わせてるんだろうな。
あと、今の見た目だと、自分を名前で呼ぶのに違和感がないな、依桜。
むしろ、似合いすぎて怖いくらいなんだが……。
……まあ、本人はなんで言わされているのか分かっていないだろうけどな。
『小斯波―!』
――って、速いな!?
気が付けば、遠藤はかなり近くまで来ていた。
俺は慌てて、バトンを受け取る体勢に入り、
『頼むぞ!』
「ああ!」
バトンを受け取り、走り出した。
この後、圧倒的な差をつけ、一年六組は一位でゴールした。
……え? 俺が走っているシーンはどうしたか、だって?
普通に走っただけだ。
走っている最中、依桜から声援をもらったが……未果や、ほかのクラスメートたち同様、なぜか、いつもより速く走れた。
本当に、バフをかけることができるのかもしれないな、依桜。
ちなみに、ロリ戸と遠藤は、あとでファンクラブの人間に粛清されたとか、されてないだとか聞いたが……俺には、無事でいることを祈ることしかできなかった。
頑張ってくれ、二人とも。
……初っ端からこれだと、先の競技が思いやられるな。
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