第124話 おかしなこと
「戻ったぞ」
「あ、おかえり晶! それと、おめでとう!」
スウェーデンリレーを終えた後、俺は依桜たちがいる場所に戻ってきていた。
戻ってくるなり、依桜は嬉しそうに笑いながら、祝いの言葉をかけてくれた。
「おっかえり~、晶君」
「一位おめ、晶」
「おめでとう」
「いや、あれは俺が頑張ったというより、依桜の応援で覚醒した、ロリ戸と遠藤が凄かったからだろ。俺は、いつも通りに走っただけだ」
……まあ、俺自身、応援だけで強くなった、って言うのがどうにも納得できないが。
いや、別にあの二人の運動神経が悪いわけではないんだ。わけではないんだが……本職に勝ってどうするよ。
三走目に走っていた奴とか、中学時代に全国行ってるような猛者だぞ? 高校生では、家の事情でやっていなかったらしいが、その速さは健在だった。
にもかかわらず、運動部というわけではない遠藤が勝つなんて、おかしいと思うだろう?
俺は、絶対におかしいと思っている。
依桜の声援には、何かあるんじゃないか、なんて疑ってしまうよ、ほんと。
……その本人は、かなり魅力的な微笑みを浮かべているわけだがな。
「でもまあ、次はクラス対抗リレーだろ? どうなるんだろうなー」
と、態徒が暢気に言っている。
俺は、なんとなく落ちが見えている。
『お知らせします。クラス対抗リレーの準備が整いましたので、参加するの選手の皆さんは、グラウンドに集まるようお願いします』
「あら、早いわね。晶、行くわよ」
「あ、ああ」
そんな、落ちが見えているクラス対抗リレーに出るべく、グラウンドへ向かった。
さて、そんなクラス対抗リレーだが……結論から言おう。
昨日の100メートル走とスウェーデンリレーと大差なかった。
簡単に言えば、依桜の声援によって、全員が覚醒し、まさかの五周以上差をつけるという事態に発展してしまった。
クラス対抗リレーは、一人150メートル走り、合計でトラック八週分走るのだが、見事に、その半分以上の差をつけた。
これを見てわかる通り、どれくらい異常なのかは、押して図るべし。
いや、本気でおかしいと思うんだ、俺は。
このクラスリレー、例によって本職の生徒も多く出ていた。陸上部や、野球部、バスケ部などの、主に走ることがメインな部活動に参加している人たちだ。
そんな生徒が多く出ていたにもかかわらず、俺たちのクラスは圧倒てしてしまった。
……依桜の応援が無関係だとは思えないな、これ。
正直、俺自身も、依桜の声援を受けると、どういうわけかいつも以上に力が湧いてきた気がしていた。
以前、依桜が所持している、能力やスキル(同じじゃないのか?)、それから、魔法について尋ねたことがあったが、それらしいようなものはなかったはず。
一応、こっちの世界でやっていたことがきっかけでスキルを習得しているようなので、もしかすると、何らかの形で『応援した相手の身体能力が向上する』なんてものが身に付いていても不思議じゃない。依桜だしな。
それに、依桜の師匠であるミオ先生は、依桜が言った通りに、理不尽で、完璧超人だった。
なんでも、できないことはないんじゃないか、と言われているらしい。
実際、俺もそう思っている。
障害物競走で見せた動きや、依桜との組み手の時の動きなど、かなりおかしいからな。
異世界の人だから、と言ってしまえばいいとは思うのだが、ミオ先生は、向こうでも異常らしいから、そうも言えない。
それに、向こうではおかしな能力やスキル、魔法があっても不思議じゃないらしいので、可能性はゼロではないのだろう。
……まあ、俺は異世界に行ったことはないし、どんな世界なのかは分からないから、推測を立てようにも、この程度しかできないんだけどな。
ミオ先生なら、何か気づいていそうなものだが……。
と、晶がそう思った相手は、
「……変だな」
晶と同じく、かなり訝しんでいた。
「あいつに、付与魔法はたしかに習得させたが……あんな芸当、普通はできない、よな?」
そもそも、付与魔法で付与できるのは、自分自身か、自分が触れている物体だ。
自分以外の生物には効き目がない。
『身体強化』は付与魔法からの派生スキルだが、あれを他人に付与できた、なんて話は聞いたことがない。まあ、できないこともないんだろうが……。
……仕方ない。『鑑定(極)』でも使うかね。
あたしは、依桜のあの謎の力を知るべく、『鑑定(極)』を使用した。
「……ん? 変だな。なぜか見れない部分がある、な」
あたしが今使った『鑑定(極)』は、鑑定系スキルの最上位に位置するものなんだが……どういうわけか、イオのステータスには、二ヶ所だけおかしな場所があった。
この『鑑定(極)』で見れるのは、名前、性別、年齢、基本的な五つの身体的項目に職業、それから、能力、スキル、魔法、種族、そして固有技能が見れる。
通常、種族と固有技能なんて項目は、大多数の人間が気付かない部分だ。おそらく、あいつも気付いていないだろう。
ちなみに、固有技能と言うのは、実際本人でもよく分からない項目で、無い場合は表記されることがない。ある場合は、自分で確認はできるが、どういうわけかそれに気づくことなく生涯を終える奴は多い。
それに、固有と付くだけあって、オンリーワンなものだ。
基本的に弱いなどはなく、大体が強いものを宿している。
あたしも持ってるしな。
だがまあ、そんなことはどうでもいい。
問題は……種族と、固有技能だ。
あたしが、『鑑定(極)』を使うことは滅多にない。
なくても、大抵のことはどうにかなるからだ。
だが、今回のイオのあれははっきり言っておかしい。
普通はあり得ない。
……そもそも、異世界へ渡り、魔力を得ている時点で、割とおかしかったりするんだが。
いや、今はそんなことはどうでもいいな。
考えなければならないのは、種族と固有技能の二つだ。
話を戻すと、あたしは依桜に対して『鑑定(極)』を使ったことはない。
なぜか。なくてもなんとなくわかるからだ。
そんなあたしでも、分からないことくらいある。そんな時にしか使わないのだが、項目が見れないなんて、初めての経験だぞ?
イオはたしか、先祖返りで銀髪碧眼らしいが。この世界のごく普通の家に生まれた、ごく普通の人間だと聞く。
その話は間違いなく、事実だろう。
だって、サクラコとゲンジの二人は、どっからどう見ても、普通の人間だったしな。
だったら、種族の項目には『人間』と出るはずなんだがな……。
「なぜ、見えない?」
この『鑑定(極)』は、どんな相手のステータスを、問答無用で見ることができるものだ。
見れないなんてことがあるはずはない。
にもかかわらず、見れないとはどういうことだ?
固有技能だって、あるにはあるようだが、なぜかこっちも見れない。
【反転の呪い】で変質した、って可能性もなくはないが……どうなんだろうな。
……しかし、なんだって、こんな平和な世界にいるって言うのに、愛弟子のおかしな部分が露出するのかねぇ。
気になるが……まあ、何か大事になるようなことはないだろ。
うん。問題なし。
「さてさて。次の競技はどんなのかね。なかなかに見ていて面白いからな」
分からないことは、いくら考えてもわからん。なので、放置することにした。
クラス対抗リレーが終わり、次に行われたのは、部活動対抗リレー。
ボクたちは部活動に所属しているわけではないので、出場することはない。
でも、聞いたところによると、出場している人たちは、来年度の新入部員獲得のために奮起しているそう。
実際、学園見学では、部活動の体験もできるから、それでも十分新入部員は確保できそうなものだけど、どうやらそうでもないみたいで。
この学園は、部活動が盛ん。特に運動部が一番目立っており、県大会よりも先に進む部活もそれなりにある。
そうなると、新戦力は欲しいわけで、できれば囲っておきたいみたいです。
なので、体験はなるべく、明るく楽しい雰囲気、って言う部分を前面に押し出しているとのこと。
……それにつられて入部すると、地獄みたいな生活になるとか。
運動部だけではなく、文化部も本気で新入部員獲得を狙っているとのこと。
吹奏楽部や美術部のような、有名な部活動はいいけど、マイナーな部活動は、人数が確保できないと、廃部になってしまうからね。
たしか、オカルト研究部や数学部、
……人がいないのは、部活名が原因な気がするけど。
正直、本気部とコラ部が謎すぎるんだけど。
一体どんな部活動なのか、すっごく気になるところではあるけど……この学園の謎が多いのは、嫌と言うほど知ってるしね……主に、学園長先生のせいで。
だから、多分、変な部活じゃない、と思う。
それで、話を戻すと、新入部員獲得がどうして、この競技に関係があるかと言えば、単純にこの学園を志望している中学生が多く来るから。
十一月の下旬くらいなのに、よく来たね、と言いたくなるよ、ボク。
この時期って、受験勉強で忙しそうだもん。
まあ、それを言ったら、この学園の三年生も、なんだけどね。
ともあれ、この学園を志望している中学生が見に来るって言うことは、部活の知名度を上げて、入部してもらえるチャンスが高まるということ。
なので、部活動対抗リレーは、どちらかと言えば……仮装リレーに近くなる。
特に、文化部が。
漫画研究部とかは、レベルの高いアニメやマンガのキャラクターのコスプレをしていたり、オカルト研究部は、貞〇のような出で立ちでグラウンドを走る。
すごいなぁ、と思ったのは、吹奏楽部かも。
だって……楽器を持ちながら走ってたし。
チューバを持ちながら、全力で走っている人とか、チャイムを背負って走っている人とか。
……チューバはまだ分かるんだけど、チャイムはおかしくない?
あー、えっと、よく分からない人のために説明を。
チャイムは、なんて言うか……ピアノの鍵盤状に立てられた金属の筒を叩いて音を出す楽器です。
演奏会だと、ステージ向かって左側に位置しています。大きいです。180後半くらいはありますよ。
ちなみに、すごく重いです。最低でも、平均的な高校生男子が三人がかりで持つような楽器です。二人でできないこともないとは思うけど、かなりつらいと思います。
なので、一人で運ぶと言うのは……正直、無理、だと思います。
吹奏楽部、すごいなぁ。
そのほかは割と普通だった気がする。
可もなく不可もなくって感じで。
運動部は部活動のユニフォームや、道具を持ちながら走ってたっけ。面白いのは、リレーで使うバトンが、その部活によって違うことだった。
例えば、野球部だったら、バット。文芸部だったら本、みたいに。
なかなかに面白かったです。
「いやぁ、部活動対抗リレー、面白かったねぇ」
「そうだな。俺たちは部活をしていないが、結構興味を引かれたな」
「つっても、未果は委員長やってるし、晶はバイト。女委は作家で、オレは家の道場で色々ある。で、そこまで用事があるわけじゃない依桜も依桜で、入ったら大混乱。部活はできねぇよなぁ」
「そうね。私たちはともかく、依桜が部活動を探してる、なんて噂が広まろうものなら、血で血を洗う戦争が起きるもの」
「そ、そこまで酷くはならないと思う、よ?」
「「「「……」」」」
……無言はやめてほしいです。
無言になるのもわからないでもないんだけどね……。
ボクも、経験してきたから。
料理一つで乱闘になりかけるし、あまったお弁当を巡って、態徒がボロボロになりかけたこともあったし……。
ボクとしては、本位じゃないんだけどね……。
『お知らせします。綱引きの準備が終わりましたので、一年生はグラウンドに集まるよう、お願いします』
「お、ようやく全員で出る競技か」
「そうね。それじゃ、さっさと行きましょ」
綱引きかぁ……。
……うん。コントロールには気を付けよう。
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