第252話 帰還、からの……
ボクの意識が不意にはっきりとしてきた。
いつもなら、自然と目が開き、場所を確認するんだけど、今回はそうじゃなかった。
今回は、急激に意識がはっきりしてきた。
なんだか、全身に強い風を感じる。
ただ、面白いことに横からじゃなくて、下から。
今日って風強いなぁ。しかも、下からくるなんてすごいね。
……うん? 下から風って、おかしくない……?
なんだか、すご~~~~~~く、嫌な予感がしたボクは、恐る恐る目を開けると……
「って、落ちてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!?」
すごい高さから、ボクは落下していました。
というかこれ、雲の上だよね!? なんでこんな場所から出てきちゃってるの!?
ちょっ、ど、どどどどどうするのこれ!?
ボク、生まれて初めてスカイダイビングをしたよ! パラシュートなしだけど!
……うん? あれ、下に見えてるのって……が、学園!?
しかもこの位置、明らかに講堂の真上なんだけど!
「あ、あれ? め、メール? こんな時に一体……って、学園長先生!?」
急いでスマホを取り出して、メールを確認。
『えー、このメールを読んでいると言うことは、無事に世界を超えてメールが届いていると言うことですね。私、依桜君から見たら、もう一つの世界の方の叡子です。では、率直に言います。……ごめん! 高さの座標設定、間違えた! 多分、高度一万メートルくらいになってるかも! だからその……すみません! がんばってどうにかして!』
………………あ、あの人は何してるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!
なに、高度一万メートルって!
それ、パラシュートなしだったら、どんなに頑丈な人でも余裕で死んじゃいますからね!?
異世界の人で、人間の中で屈指の強さを誇ってたヴェルガさんでも、多分ギリギリ生きていられるかどうかのレベルなんですけど! というか、普通は無理ですからぁ!
あと、どうやったら座標設定間違えるの!?
せっかく見直したと思ったのに、最後の最後でこれですよ!
殺す気だよね、学園長先生!
ボク、何度も学園長先生が原因で殺されかけてるんだけど!
やっと帰還! と思ったら、学園の上空。それも、高度一万メートルはおかしいですよ! どうやったら、そんな位置に設定を間違えるのか小一時間問い質したい!
たしか、腹ばいの状態で落ちると、落下する時の最高時速は、180~200キロ。垂直の場合、250~300キロ。
今のボクは、腹ばいに近いから……地上までにかかる時間は、約三分。
もしかすると、もっと早いかも……。
でもどの道、普通の人なら、地上に到達した瞬間、ザクロみたいになるね……うん。
普通に考えて、よく冷静でいられるね、ボク……。
って、今は呑気にそんなことを考えてる場合じゃなくて!
いくら異世界で鍛えたと言っても、さすがに骨折は免れない……って、あ、そっか。『身体強化』を最大までかければほとんど無傷でなんとかなるかも。
でも、問題は魔力だよね……。
ボクが最大まで強化可能な『身体強化』は、十倍。
その分、魔力の消費量も馬鹿にならない。
というか、ある程度の魔力を残しておかないといけないことを考えると、もって三十秒。
……つまり、残り千五百メートル地点で使わないといけないわけで。
……うん。『瞬刹』も使おう。
それくらいしないと、ちょっと危ない。
それじゃあ早速……って、待って。確か今、講堂の上、だったよね?
このままボクが落下して、ぶつかった瞬間確実に天井に穴が開く……あれ、これダメじゃないかな?
ということは、別の方法を考えないといけないわけで……うん。無理。
『アイテムボックス』でパラシュートを創るって発想もあったけど、さすがにそれは無理があるかも……そもそも、見たことないし。
見たことがないもの創れないことはないけど、その場合、失敗するリスクもある。
しかも、魔力を無駄に消費することも考えると危険すぎる。
あ、あれ? これもしかして、詰んでる、っていうこと?
……う、うぅ、し、仕方ない。
魔法でどうにかしよう。うん。少なくとも、講堂の上じゃなくて、グラウンドなら、まだ可能性はある。
……ちょっとクレーターができるけど、その辺りは、あとで謝って、修復しよう。うん。
そうなると、まずは風魔法で移動して、その後に『瞬刹』を使用して、『身体強化』を十倍で使用。
これで行こう。
早速、ボクは『瞬刹』を発動。
すると、世界がスローモーションに映る。
そして、地面にかなり近くなったところで、風魔法で自身の位置をグラウンドにずらし、『身体強化』を自身の体にかけた。
あとはもう、運頼みです。
そう思ったところで、『瞬刹』を解除。
元の速さに戻り、直後、
ドオォォォォォォォォォォォォンッッッ!
という轟音と、土ぼこりが辺り一帯に漂った。
あれから一週間経ったけど、未だに依桜は見つかっていない。
来る日も来る日も私たちは依桜を探し続けたけど、まったく見つからない。
そのせいで、私たちは精神的にかなりきていた。
大切な幼馴染が、ずっと行方不明……。
その事実が、私たちの中に、影を落としていた。
それに、依桜がいなくなったことで、私たち以外にも問題が発生した。
それは……。
『あぁ……しんどい……』
『学園とか、もうどうでもいいわ……』
『授業とかやってらんねぇよ……』
『清涼剤がないよぉ……』
『あぁ……こんな世界、滅んでしまえばいいのに……』
依桜がいなくなったことで、学園――特に高等部がものすごく暗くなっていた。
校舎そのものがどんよりとした空気を放ち、外観は綺麗なのに、まるで幽霊屋敷のように思わせるくらい、どんよりとしていた。
これは、生徒だけでなく、教職員にも言えることで、さっきの生徒と同じような状況になっていた。
授業中なんて、
『えー……次は、五十ページを開いて……死にたい。とりあえず、そこの問題を解いてください……死にたい』
『癒しが……癒しがない……』
こんな風になる。
おかげで、高等部は世紀末状態になってしまっていた。
ここまでの影響力を与えている依桜が本当によくわからなくなるけど、あの娘は優しい上に、とんでもない美少女だから、そうなるのも無理はないわよね……。
「昨日も収穫なし、か……」
「……警察の方はどうなってんだ?」
「残念ながら、何一つ手掛かりがつかめてないみたいだよ……」
「……どこに、行っちゃったのかしら、依桜……」
月曜日の朝、私たちは一ヶ所に集まって、先週から恒例になった話し合いをしていた。
時刻は朝の八時。
いつもなら、依桜が来てもおかしくない時間。
でも、依桜は先週の月曜日から連絡が途絶え、行方不明になってしまった。
最初こそ、ひょっこり帰ってくるのでは? と思っていたのだけど、現実は違った。
まったく帰ってくる気配がない。
その事実によって、私たちの空気はずっと重い。
夜遅くまで市内を走り回り、ずっと探し続けても見つからない。
これには、ミオさんやメルちゃんも一緒になって探していたわ。
……私たちはまだいいけど、メルちゃんは特に辛いかも。
出会って日が浅いとはいえ、依桜のことを本当の姉のように慕って、ちょこちょこ後ろをついてくるような娘だったから。
この一週間、メルちゃんは天真爛漫な笑顔を浮かべなくなっていたわ。
常に、泣きそうな顔で生活をしていた。
それを見て、私たちは心が痛くなった。
メルちゃんは、見た目小学四年生くらいとはいえ、実際は0歳。
姉のような存在である依桜は、メルちゃんにとって必要不可欠。
まったくてがかりがないことに、私たちが落ち込んでいると、
『―――ぁぁぁぁぁっ!』
と、依桜の声らしきものが聞こえてきた。
その声が聞こえた瞬間、私はすぐに窓の方へ向かった。
窓を勢いよく開け、外を見回す。
すると、空の方に、何かがいた。
それは、きらきらと光を反射していて、講堂に向かって落下していた。
このままだとぶつかると思った瞬間、突然その物体がグラウンド側に移動。
そして、私はその物体が人であることに気付いた。
同時に、その人が誰なのかを察した。
私はそれに気付いた瞬間、教室を飛び出し、グラウンドへ駆けていった。
ドオォォォォォォォォォォォォンッッッ!
グラウンドに来る途中、そんな轟音がグラウンドの方から鳴り響き、同時に砂ぼこりが舞った。
「はぁっ……はぁっ……あそこ、ね……!」
息を切らしながら、私は音の中心へ駆ける。
気が付けば、私の後を追ってきていた、晶たちも一緒になって走る。
「あいたたた……うぅ、『身体強化』がなかったら、腕か足のどちらかが骨折してたよ……まったく、学園長先生は酷いよぉ……」
砂ぼこりに、一つのシルエットが見えた。
そして、シルエットから、私たちがずっと聞きたかった声が聞こえてきた。
シルエットは立ち上がると、パンパンと服をはたく様子を見せた。
心臓が早鐘を打つ。
それはもう、うるさすぎるくらいに。
私はその人の所へ歩く。
次第に砂ぼこりは晴れていき、そこには……
「い、依桜……?」
「あ、み、未果……」
私の大切な幼馴染が立っていた。
夢じゃない。
夢じゃない、わよね?
今、確かに、目の前の、幼馴染らしき人は、私の名前呼んだ。
……っ!
「依桜!」
「わわっ! あ、危ないよ、未果」
「一体どこに行ってたのよ! し、心配したん、だからぁっ……!」
依桜の言葉を無視して、私は涙を浮かべながら依桜に抱き着いた。
「「「依桜(君)!?」」」
「み、みんなも、えっと、あの、た、ただいま……」
困惑したような、それでいて嬉しそうな声音で、依桜はそう言った。
グラウンドに落下した直後、未果たちがボクの前に現れた。
ボクが未果の名前を言った直後、涙を浮かべながら未果が抱き着いてきた。
後ろのみんなが見えたから、ただいまと言った。
その後、未果がボクから離れると、まずは教室へ、と言うことになって、ボクたちは教室へ。
「お、おはよー」
と、いつも通りにボクが挨拶しながら入ると、
『『『!?』』』
なぜか暗い雰囲気を漂わせていたクラスのみんながバッと起きて、
『『『男女!?』』』
『『『依桜ちゃん!?』』』
ボクの名前を叫んでいました。
直後、
『無事だったのか!?』
『依桜ちゃんどこ行ってたの!?』
『どこか怪我とかない!?』
『なんか、ヤクザとかマフィアの人たちに攫われた、って聞いたんだけど!』
「い、いや、そう言うわけじゃないよ!? 別に、攫われてはいないよ」
……あ、でも、ある意味、攫われた、でいいのかな、これ。
……うん。よくわからない。
『でもでも、どこに行ってたの?』
「あ、え、えーっと、その……ちょ、ちょっと記憶があやふやで……よく覚えてないんだよ」
『大丈夫なのかそれ!?』
『病院に行った方がいいんじゃないの?』
「そこまでではないから大丈夫」
あやふやになってないからね。
さすがに、並行世界に行ってました、なんて言えないもん……。
異世界の存在を知っているのは一部だからね、一応。
「おらー、席着け―……って、うぉ!? 男女、生きてたのか!?」
「生きてますよ! 死んだことにしないで下さい!」
「いやでも、お前一週間音信不通、行方不明だったからな」
「うっ、それについては申し訳ないです……」
やっぱり、こっちでも一週間経ってたんだ……。
まあ、未果たちの反応からなんとなく察してはいたけど……。
「まあともかく、無事で何よりだ。……これで、何とか自殺者が出ることは避けられたな」
……なんか今、すごく物騒なことが聞こえた気がするんだけど……聞かなかったことにしよう。
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