第251話 元の世界へ
土曜日を挟んで日曜日。
ボクは予定通り、土曜日は家でのんびりしていました。
なんとなく、ゴロゴロしながら、メルと遊んだりして楽しんだ。
リフレッシュできたかな。うん。
一応、依桜は未果たちとお買い物に。
お別れ会に関わる物を買いに行くとかなんとか。
正直、それを本人の前で言っていいのかどうかあれだけどね。
まあ、別にサプライズにしなくても問題ないからね。
サプライズでもいいけど、ちょっとわかっちゃうかもしれないしね。ボクが帰ることはみんなに伝えてあるし……。
だから、ちょっとこそこそしていてもバレるかも、と思った依桜が、先に行っても問題ない、って言ったのがきっかけで先に明かされることになりました。
そして、日曜日朝起きると、部屋にはボクしかいなかったです。
机に置手紙が置いてあって、そこには、
『とりあえず、準備時間があるから、昼の十二時まで時間を潰していて欲しい』
って書いてあった。
置手紙の横には、朝食も置かれていた。
美味しく頂きました。
時間を潰していて欲しいと書いてあったので、なんとなく『アイテムボックス』の中に入って、PCで久しぶりにオンラインゲームをしました。
まあ、アカウントをもう一個作る羽目になっちゃったけどね。
だって、依桜とアドレスが同じだし。
ともかく、ボクは久しぶりのオンラインゲームで時間を潰す。
ふと、お腹が空いたな―って思っていながら、時計を見ると、もうすぐ十二時になろうとしていたので、『アイテムボックス』の中から出て、リビングに向かった。
下に行って、リビングに入ると、すでに準備はできていて、飾り付けが施されていた。
「いらっしゃい、桜ちゃん」
ボクが入ってくると、こっちの母さんが笑顔で迎えてくれた。
「簡素なお迎えでごめんなさいね。さすがに、お別れ会なのにクラッカーは変だと思ったから、こうなっちゃったの」
「あはは。まあ、本来なら喜ぶべきことじゃないしね」
どちらかと言えば、悲しんだりする方なわけだし。
それでクラッカーを鳴らされたら、さすがにびっくりするよ。
「さ、こっち来て、ご馳走作ったから!」
「う、うん」
母さんに引っ張られてテーブルへ。
そこには、母さんが言うように、ご馳走が並べられていた。
なんか、色々とすごいことになってるんだけど……。
ステーキに、カレーに、シーザーサラダ、それから唐揚げ、天ぷら、カルパッチョ、後は、ボクの好物であるえんがわ。
本当に豪勢。
なんだか、すごく申し訳ない気持ちになる。
「それじゃあ、早速食べましょう」
「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」
そうして、お別れ会? が始まりました。
お別れ会と言っても、しんみりしたものじゃなくて、普通に楽しいものです。
態徒が隠し芸したり、態徒が馬鹿なことをしたり、態徒が謎の早食いをしたり……基本的に、態徒が何かをしていました。
ちなみに、大体が笑いを取れていたので、いっそ芸人になればいいと思いました。
態徒による、様々な出し物を見た後、不意に未果たちがボクの所へ。
「はい、桜。これ」
そう言って、少し大きめの包みと、手のひらサイズ包み、それから大き目の包みを渡された。
「これって……」
「もちろん、プレゼント。ちなみにこれ、メルちゃんとミオさんからのも混じってるから」
「ほんとに……?」
「そりゃそうだろ。別世界の依桜とはいえ、あたしの弟子。プレゼントを渡すのは当然」
「儂もじゃ! ねーさまはすごく優しくて、ふかふかじゃったから! 儂も、プレゼントを用意したのじゃ!」
「師匠、メル……ありがとう」
「早速、開けてみたらどうだ?」
依桜にそう促され、ボクは包みを開ける。
まずは小さい方。
「これって……ミサンガ?」
「うむ! 儂が頑張って作ったものじゃ!」
胸を張って言うメル。
どうやら、ミサンガはメルが作ってくれたみたいです。
改めてミサンガを見る。
赤青緑の三色で作られた、綺麗なミサンガ。
うん。可愛い。
それに、これをメルが一生懸命作ってくれたと思うと、すごく嬉しい……。
「ありがとう、メル」
「うむ!」
「じゃあ、こっちの包みは……」
次に、ボクが開けたのは、少し大きめの包み。
なるべく丁寧に包みを開けると……。
「あ、ぬいぐるみに……これは、えっと、プリペイドカード?」
中には、子犬のぬいぐるみと、二枚のプリペイドカード(五千円ずつ)。
う、うん?
いや、子犬のぬいぐるみは素直に嬉しいんだけど……えっと、こっちのプリペイドカードは……?
「まったく……態徒と女委の馬鹿みたいなプレゼントに、桜が困惑してるじゃない」
「え、これ、態徒と女委……?」
「おうよ!」
「もち!」
「あ、あー、えっと……なんで、プリペイドカード?」
「んー、なかなか思い浮かばなかったから?」
「なんで疑問形?」
本当、二人の頭の中がどうなっているのかよくわからないです……。
「だがこれ、ちゃんと使えるのか?」
と、晶が横からそんな疑問を口にした。
それを聞いて、ボクもふと思う。
「たしかに……。一応このプリペイドカードって、向こうのものじゃなくて、こっちの世界の物なわけだし……こっちで使っても、向こうで使える、のかな?」
「と言うか、仮にこっちで使わなかった場合、向こうで入力できるの?」
「「あ」」
……この二人、何も考えないで買ったんだね。
まあ、うん……二人らしいと言えばらしい。
でも、
「ありがとう、二人とも。プレゼントしてくれただけでも嬉しいよ」
もらったものが何であれ、ボクはもらえただけで嬉しい。
だって、こっちでも友達だと思ってくれてるんだもん。
「「天使か……」」
「て、天使?」
「うむ……桜ちゃんが天使だなぁ、と思って」
「それ、元の世界の女委にも言われるんだけど……ボク、人間なんだけど……」
「そういう意味じゃなくて、単純に桜の性格がいいからでしょう」
「ボク、そんなに性格がいいかな……? ふ、普通だと思うんだけど……」
「「「「「それはない」」」」」
未果たちと師匠が否定してきました。
な、なんで……?
「まあ、桜のあれこれはいいとして。一応、そのウサギのぬいぐるみは、私と晶から」
「そうなんだ。二人とも、ありがとう!」
「お、おおう、桜の笑顔、眩しすぎるわ……」
「……そうだな。何と言うか、別の依桜を知っているせいか、ギャップがすごいな」
あ、あれ? なんか、お礼を言ったら、未果と晶の二人が変に顔を赤くしたんだけど……。
どうしたんだろう、風邪かな?
「それでそれで? 桜ちゃん、大きい包みの方はどうなってるのかしら?」
「あ、うん。開けるね」
最後の包みを開ける。
中には……
「洋服……」
白を基調としたノースリーブシャツと、赤のチェック柄のフレアスカート。それから、クリーム色のコート。ヘアピンが入っていた。
「これ、一体誰から……?」
「あたし」
「……え?」
「だから、あたし」
「……え!?」
「おい、なんでそんなに驚く」
「え、だ、だって、師匠と言えば、その……基本、タンクトップにホットパンツで、ニーハイソックスにブーツ、って出で立ちじゃないですか。なのに、その……こ、こんなに可愛い組み合わせをできたんだな、って」
「……お前、あたしを馬鹿にしてるな?」
「す、すすすすみません!」
「……まあいい。あたしだって、これくらいはできるよ」
ぶっきらぼうにそう言う師匠。
で、でも、本当にびっくり……。
師匠が、可愛い洋服の組み合わせができたなんて……。
でも、すごく嬉しい。
やっぱり、こうしてプレゼントがもらえるって、いいなぁ……。
「ありがとうございます、師匠」
「いいってことよ」
どこに行っても、師匠は優しい人でした。
その後も、みんなで騒ぐ。
テレビゲームをしたり、トランプや人生ゲームと言った、ボードゲームなどもした。
そして、ボクはちょっと離れたところで休憩。
すると、そこに依桜が来た。
「電話があったよ、学園長から」
「それで、内容は?」
「なんでも、明日の朝八時に研究所で使うとさ。一応、学園に直で転移させるそうだ」
「そっか。じゃあ、明日は朝早く行かないとかな?」
「そうだな。しかしまあ、帰った後が問題だろうな」
「どうして?」
「いや、一週間も留守にしてただろう? 未果が言ったように、確実に心配しているだろうからなぁ。多分、師匠は怒り、メルは泣いているんじゃないか、と」
「あ、あー……ちょっとありそう」
師匠なんて特に。
いきなり一週間も行方不明になったら、確実に怒るよね……師匠は。
いつもそうだもん。
事前に言っておけば問題はないんだけど、何も言わないでしばらくいなくなると、すごく怒るからなぁ、師匠。
その時は、いつも一緒に寝ろ、って言われてたっけ。
「まあ、事情を話せば納得してくれるんじゃないか? いくら理不尽な師匠とは言っても、な」
「あ、あはは。そうだといいなぁ」
あの人の理不尽は筋金入りだから、すぐに許してくれるかわからない……。
す、すぐに許してくれるといいなぁ……。
「そう言えば、学園長先生は? あ、こっちの」
「装置を完成させた直後、すぐに倒れて、眠りこけてるってさ。まあ、マジで文字通り寝る間を惜しんで、って奴だ。今は研究所の仮眠室でぐっすりだそうだ」
「そっか。……もとはと言えば、学園長先生が原因とは言え、一応帰れる装置を創ってくれたのはありがたい、かな」
「……普通は、恨むとは思うんだがな」
「う、うーん……どうにも、恨むことができなくてね。もちろん、今回の件は怒ってるけど、少なくとも恨むほどじゃない、と言うか……ほら、学園長先生ってなんでもできそうなイメージがあるから」
自分でやらかしてしまったことを、ちゃんと自分で解決してしまえるから。
まあ、普通はやらかさないのが一番なんだけど……あの人は、ちょっとおかしいし……。
「……そうだな。僕とて、今までのことは怒ってはいるが、決して恨んでるわけじゃない。場合によっては感謝すらしてる。異世界云々のおかげで、僕は無駄に強くなって、みんなを守れるし、今まで辛いと思っていた、胸やら生理やらが無くなったからな」
「……男になるのはよかったんだ?」
「まあなー。逆に、桜はどうなんだ?」
「よかった、とはあまり思えないけど……今は、なんて言うか……悪くないかな、って思ってる部分はあるかも。この体だからこそ、楽しめたりするものもあるし……スイーツバイキングとか」
「たしかに、女性割引って言うのは、中々に良かったな。僕も、その辺りはちょっと残念に思ってる」
残念に思ってるところが、そこだけって言うのはなかなかにすごい。
ボクなんて、基本全部が嫌だったけど……こっちのボクは、前向きなんだなぁ。
前向き、というより、少し気楽に生きてるのかも。
「まあ、あれだ。仮に性別が変わってしまっても、少しでも前向きになりさえすれば、少しは自分の人生を楽しめるさ」
「……なるほど。たしかに、そうかも」
前から前向きに、前向きに、って思ってたけど、なかなかできなかった。
でも、今の依桜の言葉を聞いて、理解できた気がする。
もう戻れないのなら、すっぱり諦めて、ボクはその……お、女の子として生きていくべきなのかな、って。
まあ、もうすでに七ヶ月も経過してるのに、何を言ってるんだ、って話にはなるけど。
「依桜は、男の生活を受けいれてるの?」
「まあなー。そりゃ、最初は戸惑ったし、戻りたいとも思ったけど、すぐに考え直した。どうせなら、この体で新しく楽しめばいいって。それにさ、この姿になると、今までわからなかった、男の楽しさ、って言うのがよくわかったよ。桜も、女の楽しさ、って言うのがわかってるんじゃないのか?」
「女の子の、楽しさ……」
……たしかに、それはある、かも。
可愛い洋服を着て、どこかにお出かけしたり、男の時じゃできなかったことも多くあった気がする。
ま、まあ、女の子たちに体を弄られるのは……ちょっとあれだけど。
あとは、膝枕をしてあげたりとか、メルがボクに抱き着いてきて、気持ちよさそうにしているところとか。
なんだかんだで、楽しんでいたかも……。
「……うん。そうだね。今の生活は悪くないと思ってる」
「そうだろう? まあ、そりゃ男の時に比べたら、しんどいことの方が多いかもしれないけど、それも含めて楽しむ。それでいいと思うぞ、僕は」
「……あはは、まさか、自分に諭されるとは思わなかったよ」
「僕も、自分を諭すとは思わなかったよ」
でも、別の自分だからこそ、すんなりとボクの中に入り込んだ気がする。
「依桜、桜、何してるの? こっちに来て、一緒に遊びましょ」
「「うん。今行く」」
未果に呼ばれて、ボクたちはそろってみんなの所へ向かった。
そして、楽しかった時間は過ぎ、お別れ会が終了。
いつものようにお風呂に入って、いつものように就寝して、次の日――帰還する日になりました。
「準備はいいかしら?」
「はい。大丈夫です」
朝八時前、ボクは学園長先生の会社にある研究所に来ていました。
いるのは、ボクと学園長先生、それから研究員の人たち。
そして、ボクの目の前には、大きな装置がある。
「とりあえず、座標などはあらかじめ設定してあるから、後は桜ちゃん……じゃなくて、依桜君か。依桜君が、このスイッチを押せば、元の世界に帰れるわ」
「はい」
「やり残したことはある?」
「いえ。大丈夫です。ちゃんと、荷物なども収納済みですから」
「ほんと、『アイテムボックス』は便利ねぇ」
「そうですね」
大事なプレゼントは、みんな『アイテムボックス』の中。
あの中なら失くすことはまずないし、汚れることもない。
「さあ、そろそろ時間ね。本当、今回はごめんなさいね」
「あ、あはは……今度からは、安全性をしっかり確かめた上で使用してください。……まあ、使わないのが一番なんですけどね」
「ぜ、善処します」
断言しない辺り、学園長先生だなぁ、って思う。
「……でも、今回は、ちょっと面白い体験もできましたし、ボクにとってもプラスなことがあったので、悪いことばかりじゃなかったですよ」
「それならよかったわ。それじゃあ、始めましょう」
「はい。えっと、このボタンを押せばいいんですよね?」
「ええ、それを押せば、元の世界の学園に転移するわ」
「わかりました。それじゃあ、お元気で」
「依桜君もね。そっちの私によろしく伝えといて」
「はい。それでは」
最後に軽く会釈をして、ボクはスイッチを押した。
すると、機械が作動し、気が付けばボクの意識が暗転していた。
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