第277話 五月五日:異世界旅行1
そうして、次の日、五月五日。
「ねーさま、どうしても、だめかの……?」
「うん。さすがに、初めて使うのに、メルを連れて行くのはちょっと……。何度か使用して確認しないといけないから、今日はお留守番しててもらえる?」
「うぅ、寂しいのじゃ……」
「本当にごめんね……。明日、帰ってきたら、どこか遊びに連れてってあげるから」
「……ほんとか?」
「うん。どこに行きたい? ボク、お金はあるから、メルの好きなところに連れて行ってあげるよ?」
全部、学園長先生からの賠償金や謝礼だけどね。
……まあ、普通に考えたら、三年間も強制的に異世界で生活させられたり、テロリストを撃退させられたり、再び異世界に行かされたり、体育祭で恥ずかしい姿を晒したり、クリスマスにサンタさんをやらされたことを考えたら、まあ……妥当なのかも。
いや、下手をすると、人によっては少ないと言われても不思議じゃない、かな。
だって、最悪の場合死んでたわけだし。
……まあ、過ぎたことだしいいけどね。
お金は、有効活用させてもらおう。
あ、いつか旅とかしてみたい。
卒業後かな。
「そうじゃ! 儂、ゆうえんち、なる場所に行ってみたいのじゃ!」
「うん、遊園地だね。それじゃあ、明日は遊園地に遊びに行こっか」
「ねーさまと二人きりかの?」
「そうだね。たまには、メルと二人だけで遊びに行こうかな。メルは、みんなと一緒がいいかな?」
「ううん、ねーさまと二人がいいのじゃ!」
「わかったよ。それじゃあ、明日は二人で遊園地に行こう」
「うむ! だからねーさま、絶対に帰ってくるのじゃぞ……?」
「うん。大丈夫。だから、心配しないで待っててね」
「……うむ」
「いい娘だね」
そう言って、少しかがんでメルの頭を撫でる。
相変わらず、メルの頭の撫で心地はいいなぁ……ふわふわな髪を撫でると、甘い香りがするんだよね。
なんと言うか、癒しだし、落ち着く。
一日頑張ろうという気にさえなるよ。
「それじゃあ、行って来るね」
「いってらっしゃいなのじゃ、ねーさま!」
「うん、行ってきます」
メルに見送られながら、ボクは学園へ向かいました。
「おはよう、依桜君。ささ、乗って乗って」
「はい」
学園に到着すると同時に、学園長先生が車に乗って待っていた。
ボクに気付くなり、すぐに乗るよう指示されたので、車に乗りこむ。
「今日はありがとね、大事なゴールデンウイークなのに」
「いえいえ。別に大丈夫ですよ。この件に関しては、ボクからお願いしたことでもありますしね」
「まあ、それを抜きにしても、貴重なこっちでの一日を無くしちゃうわけだし、申し訳ないのよね……」
「今更です。それに、こっちでの一日が向こうでは七日になるんですし、ボクからすれば、休みが延びたような物ですよ」
「それもそうね」
「それに、学園長先生がボクに何らかのお願い事をするのなんて、いつものことです。慣れてますよ」
「それは……本当に申し訳ない……」
まあ、学園長先生のおかげでできるようになったこともあるから、ボクとしてももういいんだけどね。
車内では、楽しく話ながら会社へ向かいました。
それから三十分ほどで目的地である、学園長先生の会社に到着。
前来た時のように、隠し扉から研究施設の方へ移動。
『あ、社長、依桜君! お待ちしていました!』
「準備は出来てる?」
『もちろんです! こちらへどうぞ!』
研究所に入るなり、研究員の人がボクと学園長先生の所へ駆け寄ってきて、ついてくるように言ってくる。
ボクと学園長先生はその人について行き、奥へ。
すると、以前転移装置があった場所に、アタッシュケースのような物が置かれていた。
「学園長先生、もしかしてこれが……」
「そ。異世界とこの世界を自由に行き来するための装置!」
自信満々に言いながら、学園長先生がアタッシュケースにパスワードのようなものを打ち込んでいくと、なぜか煙を出しながら、ケースが開いた。
「あの、なんで煙が?」
「演出よ、演出。ほら、SF系の作品だって、こういうのを開けるとき、煙が出るじゃない? あれ、ちょっといいな~と思ってて、試しに入れてみたのよ。どうどう?」
「……まあ、煙だなー、くらいですね」
「むぅ、依桜君、ロマンがないなぁ」
頬を膨らませながら、そんなことを言う学園長先生。
そんなこと言われても……。
「ともかく、これが異世界転移装置二式だよ!」
声高々に言いながら、アタッシュケースの中から出てきたのは……
「えっと、スマホ?」
スマホだった。
「ノンノン。これはね、新型の異世界転移装置! さ、使い方を教えるから、持って持って」
「は、はい」
促されるままに、ボクはスマホらしきものを手に取る。
重さも質感も、スマホなんだけど……。
「使い方ね。その端末の横に、ボタンがあると思うんだけど、それを長押しすると画面が点きます」
そう言われて、端末の横のボタンを長押し。
すると、画面に『起動中です!』という文字が、ポップな字体で映し出された。
……右下に、デフォルメされた女の子のキャラクターがいるのが気になるけど。
それから、起動が完了すると、四つのアイコンが表示された。
「それで、四つのアイコンが表示されたと思うんだけど、順番に説明するね。一番左側にある、青い羽根が描かれたアイコンは、異世界に行くために使うアプリ。そこをタップすると、行き先って出ると思うの。今はまだ二つしか設定されてないけど、今後異世界を見つけ次第、アップデートして行くね」
え、まだ異世界を探すの?
そんな疑問を抱いているボクをよそに、説明を続ける。
「それじゃあ、次はその隣。緑色の羽根が描かれたアイコンは、こっちの世界に帰ってくるためのアプリ。一応、帰還位置はこの研究所と、依桜君の自宅、それから、学園の屋上に設定してあるけど、今回はこの研究所に帰ってきてね」
「わ、わかりました」
「次。その横にある、灰色の歯車が描かれたアイコンは、よくある設定アプリね。ためしに、そこをタップしてみて」
「は、はい」
なんだかちょっと怖いので、そーっとタップ。
すると、いくつかの項目が出てきた。
えっと……『音量』『明るさ』『字体』『ユーザー登録』『音声入力』に……『AIサポート』?
「あの、学園長先生、この『ユーザー登録』と『音声入力』と『AIサポート』って……?」
「もちろん、説明するわ。まず、『ユーザー登録』は、単純にその端末の使用者を設定することよ。登録方法は、指紋と音声の両方。だからつまり、二重パスワードみたいなかんじかしら?」
「な、なるほど」
「とりあえず、今登録しちゃって。他の説明はその後でね」
「わ、わかりました」
『ユーザー登録』の項目をタップすると、指紋登録が最初に出てきた。
端末の下側に、人差し指の第一関節くらいの大きさの円形があった。
どうやら、ここに指紋を登録するみたい。
そこに数秒ほど指を置くと、『登録完了』の文字が出てきて、直後『音声認証』が出てきた。
音声認証は、五秒間ほど、あ、と言えばいいだけらしく、あ、と五秒間伸ばし続けてみると、『登録完了』の文字が出てきた。
「うん、無事できたみたいだね。じゃあ、説明を続けるわ。えっと、『音声入力』というのは、まあ、簡単に言うと、声で操作できるようにするためのものだね。まあ、楽と言えば楽だけど、ちょっと恥ずかしいかも。周囲に人がいたら、なんか変なこと言ってる人、みたいに思われるし」
「なるほど……」
なら、なんでそんな機能つけたの?
「それで次。『AIサポート』っていうのは……まあ、アクティベートさせた方が早いかな。とりあえず、使ってみて」
「わかりました」
学園長先生に言われて、『AIサポート』をタップして、OFFからONにすると、
『初めまして! 本端末、『異世界転移装置二式』通称『異転二式』のユーザーをサポートします、アイと申します! 以後、お見知りおきを!』
起動時、右下にいたデフォルメの女の子が画面に出てきて、可愛い声で、そんな挨拶をしてきた。
というか、略称『異転二式』って言うんだね……。
な、何とも言えない名前……。
それから、アイって名前、単純にAIをローマ字読みしただけのような……?
『まず最初に、ユーザー様のお名前を教えてください!』
「え、えっと、依桜です」
『はい! えっとイオ様、ですね?』
「いや、違うからね!? 依桜、だよ!?」
『ふふふ、冗談です! ユーザー名をイオ様で登録します……完了しました! これからよろしくお願いしますね! イオ様!』
「あ、う、うん。よ、よろしくね」
『それと、『AIサポート』こと、アイちゃんは基本的にずっとつけっぱなしであることをお勧めします! 何せ私、感情もあるスーパーAIなのですからね! ふふんっ!』
……ど、どうしよう。なんか、とんでもないAIが目の前にいる気がするんだけど……。
「が、学園長先生、なんでこのAI……アイちゃんは、こんなに感情豊かなんですか……?」
「んー、偶然の産物」
「え、ぐ、偶然……?」
「ええ。いやー、本当だったら、Doogle翻訳とか、車のナビみたいな感じにする予定だったんだけど……まあ、悪乗りしちゃってね、研究員が。色々とプログラムを弄りに弄ったら、なんかそんなAIが誕生しちゃってね……まあ、決して悪い存在じゃないから、安心して! ……多分」
……今、最後にすごく不安になること言わなかった?
『ふっ、私は偶然で生まれた存在じゃないですよ! ちゃんと、必然で生み出されたのです! そこのところ、お間違えの無いよう!』
「……ほんと、珍妙なAIが出来たわね……」
アイちゃんには、さすがの学園長先生も苦笑い。
アイちゃんを作ったのは、どうも研究員の人たちらしいけど、学園長先生の研究所に所属しているだけあって、面白いことが大好きなんだね……。
まさか、感情のあるAIを作るとは思わなかったけど……。
「ま、まあ、ともかくこのアイがいれば大抵のことはサポートしてくれるから、困ったことがあったら、アイに訊いてね」
『お任せください! このアイ、イオ様を全身全霊、猪突猛進、勇往邁進、唯我独尊、百鬼夜行の精神で頑張っちゃいますよ!』
「あの、最初の三つはまだしも、後半二つはだめじゃない? というかボク、ぬらりひょんじゃないよ?」
『ちょっとした、アイちゃんジョークってやつです! あ、先に言っておきますけど、猪突猛進は別に、どっかのマンガに毒されたわけじゃないですからね? 私あれ、嫌いなので』
「あ、うん。そうですか」
アイちゃんって、つい最近生まれたばかりなのに、なんで生まれる前のこととか知ってるの? しかも、好き嫌いまではっきりしてるし……。
『おっと。イオ様、ちょっとスマホの電話番号とメアド教えてください』
「え、何するの?」
『いいからいいから! 悪いことはしないので、安心してどうぞう!』
「あ、う、うん。えっと……」
口頭で、アイちゃんにボクのスマホの電話番号とメアドを教える。
すると、ピロリン♪ という音がスマホから鳴る。
ふと気になって、スマホを取り出すと……
『はいどーもー! 完全無欠! スーパーAI、アイちゃんどぇす!』
ボクのスマホに、アイちゃんがいた。
「「……」」
『ふっふっふー。イオ様のスマホに私のお家作りましたので、今後、こっちでもサポートできますぜ! やったねイオ様! 家族が増えるよ!』
「おい馬鹿やめろ!」
最後のセリフを聞いた瞬間、学園長先生が普段のよりも荒い口調で、そんなツッコミを入れていました。
どういう意味なんだろう?
「へ、変ね……。アイは、端末内でしか存在できないはずのAIなのだけど……」
『ふっ。私はスーパーAIですよ? スマホ如きに侵入するなど、朝飯……いえ、充電前ですよ!』
ドヤァ! と、そんなロゴがアイちゃんの後ろにでかでかと表示された。
「……どうやら、本当にとんでもないAIが誕生しちゃったみたいね。なんと言うか……ちょっとうざい」
『失敬な! 私をプログラミングしたのは、研究員の人たちじゃないですか!』
「いや、たしかにそうだけど……」
『それを私のせいにしないでください! もぅ、ぷんぷん、ですよ!』
な、なんだろう。今まで、ボクが出会ったことがないタイプの人だなぁ……あ、人じゃなくて、AIだけど。
『まあ、生後五日くらいですが、中身的には割と学習してるので、どうぞ、私を頼ってくだせぇ!』
「……ま、まあ、とりあえず、話を進めましょうか。えーっと、端末を見て、一番右側に、赤い爆弾のアイコンがあると思うけど……それ、自爆装置ね」
「って、また自爆装置ですか!? なんで、付けるんですか、そんなもの!」
「えー? だって、こういう秘密兵器的な何かって、必須じゃん? 自爆装置」
『たしかに! やっぱり、バリッバリの機密情報ですもんね! この端末! 私のようなスーパーAIもいるわけですし、狙われたらたいへ~ん! アイ、困っちゃう!』
「「……」」
う、うん。本当に、反応に困る……。
本当にAIなの? って思えてくるくらい、感情表現が豊か。
『まあ、そんなわけで、必須なわけですね! さあさあ、そろそろ異世界に行きましょうよ! 私、観測装置から向こうの世界を見てるんですけど、すっごい楽しみなんです! さあさあ、イオ様! 早く転移転移! 時間は有限! 貴重なんですよ! ハリーハリー!』
「わ、わかったから、ちょっと落ち着いて、ね?」
『わーい! さあ、早速行きましょう!』
「う、うん。……と、というわけなので、学園長先生。そろそろ行きますね」
「え、ええ。なんと言うか……騒がしくなるかもしれないけど、きっと頼りになるはずだから」
「は、はい」
「それと……はいこれ」
「えっと、これは?」
急に、学園長先生にUSBを渡された。
しかも、ボクのスマホの充電口に刺さるよう、変換コード付きで。
「異世界間で電話できるようにするためのプログラムが入ってるわ。それを使えば、向こうでも異世界、私たちと通話できるはずよ」
「そ、そうですか」
「もちろん、並行世界ともね。あ、今の内に入れておいて、一瞬で終わるから」
「わ、わかりました」
……本当、色々とおかしいよね、学園長先生って。
まあ、もう慣れたし、諦めたけど。
とりあえず、学園長先生に言われた通り、プログラムをインストールする。
すると、新しいアイコンが出てきて、『異世界通話』と書かれたいた。
まあ、そうだよね。
「それに、電話番号を入力すれば、それで通話ができるからね!」
「わ、わかりました」
……あれ、そう言えば、こっちと向こうで時間の流れが違うけど……その辺り、どうなってるんだろう?
……ま、まあ、大丈夫だよね。うん。
『イオ様、早くー! 私、さっきからずっとスタンバってるんですけどぉ』
「あ、ごめんね。それじゃあ、行こっか」
『はーい! それじゃあ、操作、お願いしまーす!』
「うん。それじゃあ、学園長先生、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
ボクは端末を操作すると、転移先に異世界を選択。
次の瞬間、端末から強い光が発され、浮遊感を感じるのと共に、ボクのその光で埋め尽くされた。
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