第278話 五月五日:異世界旅行2
光が収まり、目を覚ますとそこは……
「そ、草原……」
草原でした。
ただ、見覚えがあるので、多分ジェンパールに続いてるんじゃないかな?
『ほほ~、ここが異世界ですか……ふむふむ。やはり、観測装置で見るとの違いますねぇ! いやぁ、素晴らしい!』
「え、えっと、アイちゃん? 今はまだいいけど、周りに人がいるときは、あまりしゃべらないでね?」
『えぇぇ~? 別にいいじゃないですか。何故、しゃべってはいけないと?』
「少なくとも、こっちの世界にはAIどころか、機械なんてないし、スマホ……というか、端末を見せても魔道具って思われると思うの。そこから声が発されたら、周囲の人が驚いたり、怖がったりすると思うから、なるべくしゃべらないでほしいんだけど……」
『なるほど。いやぁ、事前にイオ様のパーソナルデータは閲覧済みだったんですけど、情報通り、優しい人みたいですね! いやぁ、アイちゃんとしても、理想の主人ですね!』
「そ、そうですか」
パーソナルデータは閲覧済み、というのがすごく気になったけど……聞かなかったことにしよう。
知らない間に、AIにボクの個人情報が見られたいたみたいだけど。
『イオ様、そろそろ街へ行きましょーよー。暇なんですよー。私の場合、イオ様が動かないと、先が見れないんですからー』
「あ、そ、そうだね。じゃあ、そろそろ行こっか」
なんだか、少し不安だけど……大丈夫だよね。
それから、ボクの予想通り、あそこはジェンパールへ続く草原でした。
転移位置から徒歩で10分くらいの位置にあったので、そのまま街の中へ。
あ、もちろん、ローブは着てますよ。
今のボクの服装って、こっちじゃかなり珍しい……というか、変だろうからね。
なにせ、Tシャツにパーカー、それからジーンズといった、かなりラフな服装。
Tシャツならまだしも、パーカーとジーンズはちょっとね……いや、服の材質がこっちと元の世界とじゃ全然違うから、Tシャツも変に思われそうだけど。
そんな今のボクは、かなり視線を集めていた。
ま、まあ、姿がわからないほどのローブを着込んでるからね、不審に思うよね、普通は。
『イオ様、今はどこに向かってるんです?』
「あ、うん。お城」
『ほほぅ、異世界の城ですか……興味ありますね、私!』
「そ、そっか。あ、あと、もうちょっと声を抑えてくれない?」
『おっとすみません。たま~に話しかけますが、まあ、基本はこっちでしずかーに見てますねー。何か聞きたいこととかがあったら、遠慮なくどうぞ』
「あ、うん」
マイペース……なのかな、アイちゃんって。
そう言えば、ボクのスマホに居付いちゃったけど、充電の消費量とかどうなるんだろう? ここまで感情豊かで、変な文字とかも使ってることを考えたら、ちょっと心配……。
まあ、泊まる場所を決めたら、その時に訊いてみようかな。
端末の方の充電方法も聞いてなかったし。
とりあえずは王様に挨拶しないとね。
「というわけで、二ヵ月ぶり、ですかね? 王様」
「いや、確かに久しぶりだが……今回はどうしたのだ? 召喚陣は暴走などしておらんし……」
「まあ、ちょっと、この世界と元の世界を行き来する装置が完成したので、その試運転でこっちに」
「そ、そうか……そちらの世界は進んでいるのだな……」
「いえ、ボクの世界が進んでるんじゃなくて、装置を創った人の頭がおかしいんです」
わずか一ヶ月ちょっとで創っちゃってたし。
そもそも、世界間を超えた通話をできるようにしたり、観測装置を創ったり、フルダイブ型VRゲームを創るような人だもん。
そんな人が、世界にいっぱいいたら、それこそ恐怖だし、異世界旅行が常識になっちゃうよ。
「そ、そうか。して、今回はどれほどの滞在を?」
「まあ、前回とは違って、今回はゆっくりできますからね。まあ、予定では一週間ほどです。七日目には帰還する予定ですよ」
「そうかそうか。滞在場所は、やはり城以外か?」
「そうですね……。ボク自身、今回はちょっとした旅行という面もあるので、少しふらつきたいなと」
「そうか……。実はな、最近フェレノラやセルジュがお前に会いたがっていてなぁ。前回、召喚陣の暴走で来た際も、突撃をかまそうとしていて……。おかげで、大変だった」
「そ、そうなんですね……」
そう言えば、あの二人には会ってないなぁ……。
うーん、会ってもいいと言えばいいんだけど……不安しかないんだよね、あの二人……。
「まあ、個人的にはあまり会わせない方がいいのでは? と思っているが」
「あ、あはは……」
王様がそう言うって、相当な気がするんだけど……。
「というか、今のイオ殿の立場を考えると、むやみに会わせるのはどうなのかと。何せ、今は魔族の国の女王陛下だからなぁ」
「た、たしかにそうですけど、ボクなんて飾りのようなものですよ? 政治には関わっていませんし」
「いやいや、そうでなくとも、この世界におけるイオ殿の立場は、はっきり言ってかなり高位だ」
「え?」
「なにせ、人間側からすれば、人間を魔族から救った英雄であり勇者。そして、魔族の国でも同じような立場であり、そして女王。イオ殿が帰還した後、こちらではすぐに交易が始まってな。良質な果物や見事な装飾品などがこちらに入るようになったのだよ。もちろん、安全性も確認されている。そしてこれが、勇者であるイオ殿の功績だ、ということになっておる」
「い、いやいやいや、ボク、何もしてないですよ? やったのはあくまでも、ジルミスさんたちですし……」
そもそもボク、こっちの世界にはそこまで来てないし、来ていたとしても、政治などには関わってないよ?
なのに、なんでボクの功績にされちゃってるの?
「いやなに。今回それなりに安全性が確認できたことで、クナルラルと取引がしたいという国が増えてな。まあ、この国が取引を始めた後、帝国と皇国は割とあっさり取引を開始してな。それによって、国が少しずつ豊かになっているそうだ。まあ、そこは我が国も同じだが……。この国と、帝国、皇国は三大大国と呼ばれておってな……まあ、そんな儂らを見て、取引しようとする国が増えたのだよ」
「な、なるほど……でもそれ、やっぱりボク関係ないような……?」
『鈍いですねぇ、イオ様! このおひげさんは、こう言いたいんですよ。勇者であるイオ様が女王になったことで、魔族はイオ様のいわゆる配下になったこと。そして、魔王すらも姉妹のようになったことで、決して暴れださないよう止めてくれると思ったのでしょう。ついでに、イオ様はかなり美少女ですからね。まあ、その辺りも理由なんじゃないですかね?』
……アイちゃん、静かに見てるって言っていたのに、普通に声出してきたんだけど。
というか、言っている意味はなんとなくわかるけど、最後の部分に関しては違うような……?
…………あれ? なんでアイちゃん、言語がわかるの?
「む? 今、どこからか声がしなかったか? しかも、聞いたこともない言語だったのだが……」
「あ、い、いえ、気にしないでください」
「む、そうか。だがまあ、簡潔にまとめると、イオ殿のおかげで、クナルラルは安全であると広まり、あの演説を聞いていた者たちは見惚れたのだろうな。まあ、あれだ。なんとしてでも、クナルラルとの繋がりを得て、イオ殿に会いたいのだろう」
「なんでボクなんですか? ボクなんて、勇者だなんだと言われてはいますけど、それでもお飾りな王女なんですよ? ボクに会っても何もいいことはないと思うんですけど」
「なんと言うか……相変わらずなのだな、イオ殿は」
『ふっ……イオ様はあれですか、超鈍感ってことですか。なーるほどー、私の主人は、かなり鈍感なんですねぇ』
……どうして、AIにここまで言われるんだろう?
「うーむ、やはりどこからか声が聞こえてくる……イオ殿、何かいるのか?」
「あ、あはは……え、えっと、き、気にしないでください」
こっちの世界の人に、スマホを見せてもわからないだろうし、AIであるアイちゃんを見せたら、怖がられそうだもん。
「まあ、そんなわけでな。イオ殿はかなり高位の存在として認識されておる。変なことを考える輩はほぼいないだろうが……旅行中は是非とも、気を付けてほしい」
「わ、わかりました」
「しかしなあ、姿が目立つからなぁ、イオ殿は」
苦笑いを浮かべながら、そう言われる。
まあ、銀髪碧眼なんて、この世界にはいないもんね……。
でも、今のボクにはどうにかできるからね。
「大丈夫です。今回のために、師匠から能力とスキルを一つずつ教わってきましたから」
「ほほう。して、それは?」
「『変装』と『変色』ですね。髪を短くして、髪色を変えようかなと」
「なるほど。たしかに、それならばバレにくいかもしれぬな。服装は少々あれかもしれないが……まあ、大丈夫であろう。何かあったら、ここへ来ればいい。その時は力を貸そう」
「ありがとうございます。それじゃあ、ボクはそろそろ行きますね」
「ああ。気を付けてな」
「はい」
最後にそう言って、ボクは窓からお城を出ていった。
人が少ないところで、『変装』と『変色』を使用。
肩より少し下までに髪を短くし、黒に染める。一応、目も黒色に。
体格は……うーん、消費魔力量を考えたら、やめておこう。これでもし、魔力を使って、何かに巻き込まれた際、魔法が使えなくなっちゃうしね。
と言っても、ボクの場合は特に必要なかったりするんだけど。
黒髪黒目にして、さらに眼鏡をかける。ちなみに、アンダーリムの赤い眼鏡です。
うんうん。これで、変装は完璧。
その状態で、今日は街中を軽く歩いて、本格的な旅行は明日からにしようということに決めた。
お昼ご飯を食べて、書店や装飾品などを売っている雑貨店など、色々なところに寄っていると、だいぶ日が落ちた。
前回に続き、宿泊場所は『キリアの宿』。
あそこの料理美味しかったし、部屋も綺麗だったからね。気に入ってます。
『いらっしゃい! 宿泊かい?』
「はい、とりあえず、一日お願いします」
『あいよ! そんじゃ、名前を書きな』
渡された紙に名前を書こうとして、ふと思う。
……この姿で本名を書くのって、まずいような……。
う、うん。偽名にしておこう。
そう決めたボクは、紙に『サクラ・ユキシロ』と書いた。
声優のお仕事のために考えた名前だけど、まあいいよね。
『ふむ……お客さん、勇者様じゃないのかい?』
「え」
『黒髪黒目で、髪の長さも違うが……声は同じだし、顔立ちも同じ。まあ、ちょっとした変装なんだろうが、あたしの眼は、誤魔化せないよ?』
笑いながらそう告げてきた。
いや、あの……一瞬でバレたんだけど。
『ああ、安心しな。あたしは客を覚えるのが得意なだけさ。だから、心配しなくても、あんたが勇者様だなんて気づきやしないよ』
「そ、そうでしょうか?」
『ああ。おっと。そう言えば、今は女王様でもあったか』
「あ、い、いえ。今回はちょっと旅行でこっちの世界に来てるだけなので、気にしないでください。それに、ボクは飾りみたいな王女ですからね」
苦笑いでそう伝えると、女将さんは安心したような笑みを浮かべた。
『そうかい。まあ、勇者様がそう言うんなら、平等かね。まあ、名前はこれでOKにしておくから、ゆっくり休んでいっとくれ』
「はい、ありがとうございます」
『ああ、飯は食堂でね、安くしとくよ』
「利用させてもらいます。ボク、ここの料理好きなので」
『そうかいそうかい。勇者様そう言ってもらえて、光栄だね。そんじゃま、部屋のカギだ。前使った、二階の奥の部屋を使っとくれ』
「はい」
鍵を受け取ると、ボクは部屋に向かった。
部屋のベッドに寝転んで、ほっと一息。
『イオ様って、こっちじゃ本当に有名なんですねぇ。情報としては知っていましたが』
「ま、まあ、一応勇者という立場ではあったからね」
『外見はどちらかと言えば弱そうなのに、不思議ですね異世界。普通だったら、筋肉ムキムキになってそうなものなのに』
「ひ、酷くない?」
アイちゃんって、結構ストレートに言うね……なんだか、胸が痛い。
「……そう言えば、王様と話している時、メルのことも言ってたけど……何で知ってるの?」
『簡単な話です。ちょっと、創造者の会社のメインサーバーに侵入して、情報を見てました。おかげで、色々と知ることができましたよ。いやぁ、私の主人が元男というのはなかなか面白いですねぇ。ぜんっぜん! そんな風に見えませんし』
「うぐっ」
『もともと男だったのは事実なんでしょうけど、この様子だと、さぞ女の子っぽかったんでしょうね。いやぁ、まあ、私はそう言うの嫌いじゃないですよ! 男の娘! 最高ですもんね!』
……すみません。サポートAIがサポートするんじゃなくて、ボクの心にダメージを与えて行ってるんですけど……。
『まあ、アイちゃんジョークは置いておくとして。イオ様、何か訊きたいことがあるんじゃないんですか?』
「あ、うん。えっと、異世界転移装置を使うのに、二、三時間のインターバルが必要って言われたんだけど……この端末の充電ってどうやってやるの?」
『あ、それですか。えっとですね、充電方法は二つあります。普通に充電口から充電する場合と、まあ、こっちが基本的な充電方法になりますが、日の光が当たるところにおいておけば、それだけで充電されます。ソーラーパネル内臓ですからね、これ』
「そ、そうなんだ……」
……これ一つに、様々な最先端技術が使用されてない?
機密情報って言っていたけど、たしかにこれは……機密すぎる。
だって、ソーラーパネルとスマホが融合しちゃってるし、異世界を行き来できるし、感情があるAIもいるし……。
う、うーん。
なんだか、アイちゃんを所持するのが怖くなってきたんだけど。
『まあ、この端末はアップグレードされますし、多分充電方法も幅が広がるんじゃないですかね? 創造者に乞うご期待!』
「あ、あはは……そ、そうだね」
『ところでイオ様。イオ様って、この端末に何かこう、魔法とかって付与できないんですか?』
「多分できるけど……どうしたの?」
『いえね。ほら、私ってイオ様のサポートをする、完全無欠、超高性能スーパーAIじゃないですか。でも、私がサポートできるのって、異世界転移に関することと、ちょっとしたスケジュール管理と、豆知識を授けたりするくらいなんですよ』
「それで十分じゃない?」
『いえ、やはりこう、スーパーAIたるもの、いついかなる時も、主人を助けたいと思うのは当然です。ユーザーが頼んだことしかできないAIとはわけが違うのです。主人がしたいことを先読みしてこそのAIですよ!』
「そ、そっか」
普通のAIでも、十分すごいような……?
だって、今のAIって、使用者の生活・行動傾向から、次に何が必要か、とかを理解して教えてくれるほどに、性能が高いAIもいるし……。
でも、それで満足しないのが、アイちゃん。
この場合、どうすればいいんだろう。
「じゃ、じゃあ訊くけど、一体どういう魔法を付与して欲しいの?」
『ふ~む……まあ、敵を感知するのは必須ですね。やっぱり、教えたいし。あとは、この世界の地図ですかねぇ。わかります?』
「うーん、前者はボクの能力を付与できればできると思うけど、後者は……難しいかな」
『そうですか……。まあいいです。観測装置からある程度の情報は得てましたからね。それで何とかするとしましょう』
……じゃあそれ、ボクに訊いた意味なくない?
色々とすごいんだけど、色々と反応に困るね、アイちゃんって……。
……あ、そう言えば。
「ねえ、アイちゃん」
『はい、なんですか?』
「王様と話している時、明らかに王様の言葉を理解していたような気がするんだけど……あれって、どうして?」
『ああ、言語ですか。ふっ、私はスーパーAIですよ? 言語を解読し、理解することなんて充電前ってやつですよ! ちょっとばかり苦労はしましたけどね。まあ、観測装置とかも使ってある程度事前に解読してたので。さっきの生の会話を聞いて、ついに全部の解読に成功しただけです! さっすがアイちゃん! スーパーAI最強!』
「そ、そうなんだ……」
……学園長先生、本当にとんでもないAIができちゃってます。
多分、世界の最先端どころか、未来を先取りしすぎた何かです。
……まさか、異世界の言語を解読するとは思いませんでした。
『あ、それじゃあ、気配だけを察知する能力の付与、お願いしますね!』
「……うん。わかったよ」
まあ……いいかな。
性格自体は色々と難ありかもしれないけど、決して悪いAIじゃない……と思うしね。
大丈夫……大丈夫。
この後、アイちゃんに付与魔法を使って『気配感知』を付与しました。
無事に付与されてテンションがかなり高くなったけど……まあ、うん。いいと思います。
ちなみにですが……アイちゃん、もうすでに端末からボクのスマホに引っ越したので、付与したのはボクのスマホです。
……なぜか、こっちの世界の地図がボクのスマホにアプリで入っていたけど……なんだかもう、気にしたら負けな気がしたので、考えるのをやめました。
一応、端末とスマホを行ったり来たりできるらしいので、切り替えは可、とのことです。
明日からの旅行が、すごく心配になってきました……。
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