第200話 スキー教室3

「どうも、今回みなさんのインストラクターを務めます、伊藤です。よろしくお願いします」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」


 ボクたちの班のインストラクターは、伊藤という男性の人だった。

 二十代後半くらいかな?

 優しそうな感じの人。


「この中で経験者の人は」


 と、伊藤さんが尋ねてきた。

 そして、ボクたち五人で手を挙げたのは、


「あれ、みなさんあるの?」


 全員だった。


 実を言うと、ボクたち五人、何気にスノーボードとスキーは経験していたり……。

 中学生の時もあったからね、スキー教室。

 叡董学園にもあったことにはびっくりしたけど。

 五人とも経験があったことにびっくりしたようです。


「ちなみに、どこまでできる?」


 と言う質問にみんな答える。

 というか、みんな同じレベルで、基礎はできる。

 ボクは……まあ、うん。ちょっと色々と。


「なるほど……そうなると、僕は何をすればいいか……」


 ボクたちが基礎はできると言うことで、伊藤さんが悩むそぶりを見せる。

 その結果、とりあえず滑ってみよう、と言うことになった。



 そうして、色々と滑ってみること数分。


「たしかに、基礎はできているね。そうなると……僕の出番はないなぁ」


 と、苦いになる伊藤さん。

 なんだか、すごく申し訳ないというか……。


「まあ、とりあえず自由に滑ってみていいと思うよ。僕は見守る方に徹しよう」


 そうなった。



 というわけで、自由に滑る。


 斜面の途中に、なぜかジャンプ台があったのはあれだったけど。


 まあでも、久しぶりにスノーボードをやるから、普通に楽しい。

 滑っている時に感じる風が気持ちいいなぁ。


 ……ボクが全力で走っている時の方が速かったりするんだけど。

 スピードとか、全然緩めてないけど、ものすごいスピードが出てる……のかな? 正直、亜音速レベルのスピードを知っているから、そこまで速いとは思えてなくて。


 ボクたち以外に滑っている人たちが、やけに後ろに行っちゃうんだけど。

 なんでだろう?



 えー、私たちは、すでに経験者だったこともあって、自由に滑ることになったんだけど……。


「あれ、やばくね?」


 そんば言葉を漏らすのは、態徒。

 正直、私たちの心情を表しているかのような反応。


 実際、私もそう。


 さっきから、私たちも一応滑ってはいたけど、何と言うか……依桜がとんでもなかった。


 見てて思ったのは、小さくなった名探偵のクオーター的な映画のあれ。


 バランス感覚がいいなんてものじゃない。


 例えば、木の枝(結構大きめの)を軽く跳んで回避(オーリーって言うのかしら?)するし、人にぶつかりそうになれば、枝を回避した時以上に高く跳んで宙返りするし。


 それ以外だと、普通にスイッチランはするし、壁があればそこでターンもする。


 ジャンプ台があれば、ものすごいスピードで飛んで、なんか、360度全方位に回転して、そのまま着地するしで、完全に人間離れしたような動きしてるんだもの。


 何あれ。


 見た目可愛い系のスタイル抜群美少女が、プロ顔負け……どころか、プロ以上の技を平気でやっているんだけど。


 しかも、ものすっごい楽しそうな表情してるし。

 見てよ。隣にいる伊藤さん。


「……あの娘、すごいね」


 呆然としちゃってるわよ。


 聞けば伊藤さん、全国大会の常連らしくて、優勝した経験もあるとか。

 そんな人が呆然とするレベルの技量持った依桜よ。


 正直、スポーツに関しては誰も勝てないわよね、あれ。


 例えば野球。

 最速で投げられた球は、雷を動体視力で見極めることができる時点で、遅すぎるから、簡単に打てる。

 仮にホームランになりそうな打球は、ジャンプで捕れる。


 サッカー。

 単純に、開始地点からゴールめがけてシュートすれば普通に入る。

 ゴールキーパーだって、身体能力が異常だから、どんな状況でも捕れるでしょう。


 テニスなんて、スマッシュ打てば勝ちよ。


 バスケ。自陣のゴールから投げても普通に入るわね、絶対。


 バレーボールも、スマッシュ打てば勝ち。というか、スパイクで勝てるんじゃないの?


 武術系なんてもってのほか。勝てるわけないわ。


 そして、スノボは見ての通り。

 スキーも同じでしょうね、この調子だと。


 ……異世界ってすごいのね。


 そう言えば、依桜。あの技術やらなんやらは、ミオさんに仕込まれた、とか言ってたわね、さっき。

 そんな、依桜の、すべてにおける師匠である、ミオさんと言えば……


「ふははははは!」


 なんて、魔王みたいな笑い声を上げながら、腕組状態で、滑っていた。

 ちなみに、オーリーとかって、ボードに手をやっているけど、それすらしない。ほぼほぼ仁王立ちの状態で滑っていっている。


 スノボって、膝を曲げたりしてるわよね? いや、普通に垂直に立った状態で滑っている人もいるにはいるけど、あれってゆっくりだったり、起伏がほとんどない場所じゃない?


 でも、ミオさん、凸凹した地形でもその状態だし、なんだったら、ジャンプ台で飛んだ時とかもずっと腕組、垂直立ちよ? まあ、さすがに、跳ぶ際には、足を曲げたりはしてるけど。


 怖い。異世界組が怖い。


 才能の塊なんてものじゃなかったわ。


「あの二人、普通にオリンピックとかに出れば、勝てるんじゃね?」

「勝てる……でしょうけど、あの二人の場合、オリンピック総なめにできるわよ。異常なんだもの」

「それもそうだな。正直、あれはマネできる気がしないな」

「いやいや、そもそもマネしようだなんて、普通は思わないと思うよ、晶君」


 なんて、端の方で会話する私たち。


 何と言うか、依桜とミオさんがすごすぎてね……。


 あれ、どうなってるの? ってくらいに。

 しかも、一番おかしいのミオさんの方。


 なんであの人……木を垂直に登っちゃってるの? あれ、どうやってるの?

 と言うか、それを使って、スケボーみたいなことをしないでほしい。


 伊藤さんなんて、


「……」


 ポカーン通り越して、あほ面晒しちゃってるわよ。大丈夫? これ。


 それに伴い、周囲の人の反応も様々。


『何あの二人、ヤバ』

『依桜ちゃんが才能の塊なのは知ってたけど、まさかプロみたいなことができるなんて……』

『依桜ちゃんとミオ先生かっこいい……』


 とまあ、女子は完全に見惚れちゃってるわね、二人に。


 うん。正直、私もちょっと……というか、かなりかっこいいと思ってる。

 私なんて、何度依桜のかっこいい姿を見せられていることか。


 ……本音を言ってしまえば、私は依桜が好きだったりする。


 それはもちろん、男の時から。下手したら、幼稚園の時くらいかしらね?

 まあ、自覚したの、つい最近だけど。


 あれよねー、依桜の笑顔って本当に癒されるし、本当に優しいんだもの。


 あれで惚れるな、って言う方が無理よ。


 それに、命の恩人だしね、依桜は。


 女子になっても、普通に好きだから、あれなのよねぇ……私ってば、女委と同じ、バイなのかしら?


 いや、単純に依桜が好きだから、ってだけで、バイじゃないわよね! 多分あれよ。百合に目覚めただけよ。

 ……それはそれで、問題よね?


 まあ、私のどうでもいい心情は置いておくとして、男子側の反応ね。


『男女パネェ』

『あれ、男の時だったら、さぞかしモテてたんだだろうな』

『いや、あっちの女子たち見ろよ。目がハートになってんぞ』

『まあ、実際かっこいいしな、男女。正直、下手な男よりかっこいいぞ』

『そりゃ、元男だしな』


 この通り。


 どちらかと言えば、依桜の動きに感嘆しているって感じね。


 まあ、わかるわ。

 依桜かっこいいもの。


 正直、イケメンなアクション俳優なんかよりも、圧倒的にかっこいいわよね。

 なんて、そんなことを思う相手の依桜は、いつの間にか下に降りていて、再びリフトに乗っていた。



 みんなでスノーボードを楽しんでいたら、気が付けば終了時間である四時になっていた。


 一日目は、お昼の一時から始まり、夕方の四時に終わることになっていた。


 大体の人の一日目は、基礎に費やされる場合が多く、実際そう言う人の方が多かったよ。

 ボクたちの班が例外すぎるだけで。


 ボクも久しぶりだったから、つい調子に乗って、色々やっちゃったけど……大丈夫、だよね? うん。大丈夫なはず。

 やるにしても、人間が頑張ればできる範囲で収めた、よね?

 正直、360度回転は、やりすぎたような気がするけど……。


 うん。明日は気を付けよう。


 師匠に関しては、何を言っても無駄だと思うけどね!


 さて、一日目のスキー、もしくはスノーボードが終わったら、夜の七時まで自由時間。


 六時半~七時半までが夕食になります。

 八時~十時までが入浴時間。


 人数も多く、クラスも七組あるので、男女別々、と言う風には分かれていないとか。


 男湯と女湯でほぼ同時、とのこと。


 さすがにそれだと覗きをする生徒が出るのでは? と思ったんだけど、どうやら教師も数人、一緒に入るみたいです。


 覗き防止ですね。


 態徒と女委が言っていたんだけど、覗きは宿泊系行事じゃ、テンプレ! なのだとか。そんなテンプレ、無くなってしまえばいいと思います。


 というか、覗きをされる側にいるはずの女委がテンプレって言うのは、ちょっと変じゃない?

 その辺りどうなんだろう?


 まあ、それはともかくとして、旅館に戻ってきたボクたちは、夕食まで部屋でくつろぐ。


 あ、もちろん、部屋着に着替えてますよ?

 部屋着と言っても、黒のTシャツに、黒の長ズボン。それから、黒のパーカーと、黒ずくしの服装だけど。


 暗殺者生活が長かったせいか、黒の服はなんだか落ち着くんだよね。

 うん。不思議。


「依桜、黒いわね」

「未果ちゃん、その言い方だと、依桜君が腹黒いみたいな言い方だよ?」

「でも、あながち間違いじゃないと思うけど」

「あ、それもそっか」

「え、ボクって黒いの?」

「「黒い」」


 どの辺りが黒いんだろう……?

 普通に生活しているだけなんだけど……。


『自由時間だけど、何するー?』

「そうね……カードゲームとかある?」

『あ、私持ってきてる』

「ナイス愛希ちゃん」

『私に抜かりなし!』

「ちなみに、何を持ってきたのかしら?」

『トランプ、UNO。あとは、人生ゲーム』

「いや、なんで人生ゲーム持ってんのよ。というか、何処に入れてたの?」

『旅行バッグさ!』

「あ、うん。理解したわ」


 というわけで、ボク含めた五人でゲームをすることになった。



 はい。結論から行きます。

 ボクの圧勝です。全部。


 トランプとUNOは、いつかの温泉旅行でやった時と同じような状況です。


 真剣衰弱をすれば、ボクのターンで全部回収。

 ババ抜きをすれば、最短回数で上がり。

 七並べも、手札には、7と8、6しかない。

 ポーカーをすれば、初期手札が仮に悪かったとしても、ロイヤルストレートフラッシュ、もしくはフルハウスが出てくる。最悪の場合は、ファイブカードすら出てくる始末。


 続いて、UNO。

 まあ、うん。マジックカードばかり。数字カードが一部。

 ドローフォーとドローツーの枚数がおかしい。

 その結果、ドロー系が回ってきても、ボクがさらに上乗せして返すという展開が発生。やっぱり圧勝。


 そして、人生ゲーム。

 最終的に、銀行にあったお金を全部回収。

 銀行のお金が無くなった瞬間、ゲームが終了しました。銀行が破産して勝ったよ。


 ね? 圧勝でしょう?

 うん。ボクもどうなってるんだろうなー、と思いながらやってました。

 ……自分の幸運値が憎い……。


「あー、やっぱり、依桜には勝てないわ……」

「依桜君、運ゲーが強すぎるもんね。これは無理―」

『か、勝てるビジョンが見えないっ……』

『依桜ちゃん、恐ろしい娘ッ……!』


 ごめんなさい。

 ボクは内心謝りました。

 まあでも、楽しかったです。ゲーム。

 ずっと勝つって言うのは、なんかあれだけどね……。


 ……はぁ。どうにかできないかなぁ……。

 なんて、心の中でため息を吐くボクでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る