第201話 スキー教室4

 しばらくゲームを楽しんだ後、夕食の時間も近くなったので、ボクたちは移動する。

 夕食を食べるのは、『四季の間』と言う名前の、宴会場。

 まあ、280人いるからね、この学年。

 そこそこの人数だから、広めの場所。


 夕食を食べる際は、部屋ごとに座って食べるみたい。

 一応、男女向かい合う形になっているようです。


 うーん、やっぱりボクが女の子側にいるの、ちょっと違和感……。


 いつものメンバーだけでの旅行とかなら、そこまで違和感を感じなかったんだけど、学園行事となると、さすがにちょっと……。


 元々男だったからなぁ、なんて。


 この先を考えると、このスキー教室で慣れておきたいところかな。


 というわけで、会場。

 この旅館では、各部屋に人数分の浴衣が置いてあるらしくて、ちらほらと浴衣を着ている人がいた。


 なるほど、浴衣かぁ……ちょっと気になるし、お風呂上りにでも着てみようかな? あんまり着る機会ないしね。


 そう言えば、女の子の方にも浴衣を着ている人がいるけど、妙に男子がそっちを見ている気がするのは気のせいかな? 主に胸元を見ているような……。


 まあ、気のせいだよね。きっと、そこに何かついていたんだろうね。


 なんてことを思いながら、座る。

 テーブルとイスじゃなくて、床に座る。

 うん。和式だもんね。やっぱり、床の方がいい。


 ボクの右に未果で、左に女委。

 向かい側には、晶と態徒がいる。

 どうやら、上手い具合にみんなで固まれたみたい。


「お、依桜たちの前か。ラッキーだ」

「そうね。まさか、固まるとは思わなかったわ。もしかして、依桜の運かしらね?」

「あはは、さすがにないよ」


 と、笑ってみるものの、正直ボクも否定できない。

 確率が低ければ低いほど当たる、と言うのが幸運値のシステム。

 仲のいい友達、それも普段からずっと一緒にいるような人たちと固まれるというのは、結構確率が低いんじゃないかな?

 なんて。


『えー、みなさん、目の前にはちゃんと料理がありますね? ……よろしい。さて、日中はかなり動いてお腹がすいていると思うので、長い話はしません。早速食べましょうか。では、いただきます』

『いただきます』


 一日目の夕食が始まった。


 ボクたちの前に並べられているのは、和食。

 白米。わかめと豆腐の味噌汁。天ぷら。筑前煮。湯葉。


 うん。いいね。和食。


 三年もの間、ボクは和食を食べる機会なんてなかったから、帰ってきてからと言うもの、しばらく和食ばかり食べてたなぁ。


 一番嬉しかったのは、白米と味噌汁だけどね。

 なんてことを思いながら、料理を食べる。

 あぁ、美味しいなぁ……。


「依桜、相変わらず美味しそうに食べるな」

「え、そ、そう?」

「幸せそうな表情浮かべてるぞ」


 言われて、なんとなく顔を触ると、たしかに、頬が緩んでる。


「依桜君って、食べてもらう側の時とかも、美味しいって言ってもらったら、すごく幸せそうな顔するよね」

「だ、だって、ボクが作った料理を美味しいって言ってもらえるのって、すごく嬉しいし……美味しいものだって、いつ食べられなくなるかわからないもん」


 実際、向こうじゃそうだったから。

 その日を生きるので精一杯、なんて人が多かった。

 戦争中は本当にそうだったらしい。

 だからこそ、ボクの像、なんて物が作られちゃったわけなんだけどね……。

 本当に恥ずかしかった。


「依桜はいいお嫁さんになりそうよね」

「ふぇ!? な、ななな何を言ってるの!? ぼ、ボクがいいお嫁さんだなんて、そんな……えへへ」

((((あれ? なんか、おかしくない?))))


 なぜかわからないけど、未果にいいお嫁さんになれる、と言われて、嬉しいと思ってしまった。


 ……あれ、これ大丈夫? ボク、なんかおかしな方向に行ってない?

 だ、大丈夫大丈夫。


「そっかそっか。依桜君でも、お嫁さんになりたい願望があるんだね」

「あ! ち、違うよ!? べ、別にお嫁さんになりたいわけじゃなくて、あの、その、えっと……あぅぅ」


 恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。

 なんであんなこと言っちゃんだよぉ、ボク……。

 やっぱり、ここのところ変、だよね?

 どうしちゃったんだろう?


「まあ、気の迷いだよね? 依桜君?」

「そ、そうだよ! 一瞬、お嫁さんも悪くないかなぁ、なんて思っちゃっただけで……って! ああぁぁぁ……違うのにぃ!」


 本当に何言ってるんだろう、ボクは……。


 おかしい。絶対おかしい。


 こんなこと、今まで一度もなかったのに……。

 なんだか、男の考え方、心と、女の子の考え方と、心が変な感じに混ざってるような気分だよ……。

 男の考え方はまだあるのに、女の子としての考え方も混在しちゃってる、みたいな。

 どうなってるんだろう。


 ……料理の味がよくわからなくなってきた。


「可愛いな、依桜」

「可愛くないよ!」

「いやいや、その反応が可愛いと思うぜ? なあ」

『うんうん』


 と、未果たちだけでなく、周囲にいたクラスメートや、他クラスの人までもが頷いていた。

 なんで!? 盗み聞き!?

 いや、ここって普通に広いから、聞かれてても不思議じゃないけど!


「ね?」

「ね、じゃないよぉ……」


 普通なら、楽しいはずの夕食が、なぜか恥ずかしい夕食になってしまいました……。

 どうにかしないと……。



 夕食を終えたら、少しだけ休憩して、お風呂の準備。


「……ねぇ、ボクも行かないとダメ?」

「「ダメ」」

「だ、だよねぇ……」


 ボクは、一緒にお風呂に入らないとダメ? と訊いていた。

 そしたら、満面の笑みで却下されました。


 ……はい。見ての通り、ボクが元々男だからです。

 だって、申し訳ないんだもん。元々男だったのに、クラスメートの女の子の裸を見ることになるんだよ? 絶対にいい気分しないよ……。

 いや、未果と女委に関しては、温泉旅行に行ってるけど……あの時は、バスタオル巻いてたし……。

 あと、もう一つ言うなら……


「その……は、恥ずかしい、んだけど……」


 裸を見られるのが恥ずかしい。

 未果と女委だったら、まあ……なんとなくは大丈夫、なんだけど……。さすがに、クラスメートとか、他のクラスの人となると、その……恥ずかしい。


「何言ってんのよ。依桜みたいな、顔はいい、髪は綺麗、肌だって、染み一つない真っ白な肌。スタイルだって、出るとこは出て、引き締まるところは引き締まってる、なんて、世の女の子からしたら、すごく羨ましい存在なのよ?」

「そうだよ、依桜君。もうちょっと、自分に自信を持ってもいいんじゃないかな?」

「そうは言うけど……」


 ボク自身は、あんまり基準とかもわからないから、何とも言えないんだけど……。


「うじうじしてないで、さっさと行くわよ! 女委、手伝って!」

「はいはーい!」

「え、あ、ひ、引っ張らないでぇ!」


 がしっと、両腕を二人に掴まれて、ボクは引きずられるようにして温泉まで連れていかれました。

 ちなみに、着替えとか道具などは、玉井さんと神山さんが持ってきてくれました。


 ……ぐすん。



 はい、と言うわけで、脱衣所です。

 すごく、目のやり場に困ってます、ボク。


 ……わかってるんです。お前も女だろ、とか言いたくなる気持ちはわかります。


 でも、考えてみて下さい。

 元々男だった女の子が、服を脱いでクラスメートの女の子を見て、平常心でいられますか? 答えは無理です。


 なので、さっきからなるべく見ないようにと、目を瞑ってます。


 あまりにも恥ずかしいと思ったボクは、他の人がお風呂に入っていくのを見計らってから脱ぐことにしました。

 そんなことをしてたら、未果と女委が呆れてたけど。


 こればかりは、許してほしい。

 そろそろ脱ごう、と思っていたら、


「何してるんだ、イオ」


 師匠の声が聞こえてきた。


「あ、あれ? 師匠……? なんでここに?」

「なんでも何も。あたしが一緒に入るからに決まってるだろ。教師だぞ? あたし」


 どうやら、ボクたちの入浴時間に一緒に入る先生は、師匠だったみたいです。


「んで? お前は何してるんだ?」

「そ、そのぉ……は、恥ずかしくて、ですね? で、できれば裸になりたくないなぁ、なんて」

「ああ、なるほど。お前、心は、一応、男だもんな」


 今、なんで、一応が強調されたの?


「それで、お前はまだ服を脱いでいないわけか」

「そ、そうです」

「……はぁ。まったく、手のかかる愛弟子だ」

「……師匠、その手の動き、なんですか?」


 なぜか、師匠がため息を吐いた後、手をわきわきさせてるんですが……そしてその手を、ボクに向けてきてるんですが……ま、まさか、ってことはない、よね?


「さて……このあたしが脱がしてやろう」

「あ、急用を思いだしました!」


 ボクは師匠から逃げ出した。


「甘い!」


 しかし、回り込まれてしまった!

 逃げようとしたボクを、師匠が一瞬で肉薄し、ボクを捕まえた。


「は、離してくださいぃ~~!」

「だが断る!」


 そう言いながら、嫌がるボクを無視して、師匠がボクの服をすべて剥ぎ取りました。

 う、うぅっ……酷いよぉ……。


「ほれ、服は脱がしてやった。さっさと入ってこい。あたしもすぐ行くから」

「……い、行かないとダメ、ですか?」

「ダメだ」

「……はい」


 最後の悪あがきをするも、結局、入る羽目になりました……。



 ガラガラと音を立てながら、扉を開けて中に入る。

 そこには、やっぱりクラスメートや、他クラスの女の子たちがいました。

 ……もちろん、裸です。

 そして、入口が開いた音を聞いてか、視線がボクに集中。


『『『ほぅ……』』』


 という、謎のため息が一斉に漏れた。

 え、なに? 何今の?

 ……それにしても、恥ずかしい……。

 見てはいけないものを見てる気分だよぉ。


「依桜、名に突っ立ってるの? こっち来なさい」

「あ、み、未果」


 入口の前で立っているボクに、未果が話しかけてきた。

 浴場内を見回すと、シャワーの所に未果がいた。よく見れば、女委もいる。

 ボクはそこまで行き、未果の隣に腰を下ろす。


「まったく、今は同じ女なんだから、そこまで恥ずかしがらなくてもいいでしょうに」

「で、でも、やっぱり悪い気がして……」

「依桜君をそういう風に見ている人はいないと思うよー」

「……そうかな……」

「そうだよ」


 ……一応、ボクが男だったことは、学園長先生が周知させたことで、学園に通っている人はみんな知っている。

 とは言っても、このことが外部に漏れないように、ちゃんと口止めはされているみたいだけど。

 だから、この場にいる人はみんなボクが男だったことを知っているわけで……ね?

 やっぱり、恥ずかしいんです。

 というか、すごく緊張しちゃうんだよ……。


「それにしても、依桜って女になったことで、小さくなったわよね」

「……言わないで。それ、気にしてるんだから」

「まあでも、こんな体で、あんなすごい動きをしてると思うと、依桜君ってすごいよねぇ」

「……かなり頑張ったからね」

「依桜が否定しないのって、身体能力くらいよね」

「それを否定しちゃったら、ボクのあの三年間を否定するようなものだからね……」


 遠い目をしてそう言うボク。

 そんなボクを見て察したのか、未果と女委は苦笑いを浮かべていた。


「さ、早く洗っちゃいましょ。依桜、温泉楽しみにしてたんでしょ?」

「……まあ、一応」


 肩こりにいいらしいから。

 できれば、普段の肩こりをどうにかしたいんです。


「なら、早く済ませるわよ」

「うん」


 なるべく、未果と女委の裸も見ないようにしつつ、ボクは体を洗った。

 いや、うん。正直慣れた。



「はふぅ~~……気持ちぃ~~……」


 露天風呂に入るなり、ボクはそんな声を漏らしていた。

 いや、本当に気持ちいいんだもん。

 体はポカポカするし、心なしか、肩も軽く感じる。


『お、おっぱいってお湯に浮くって、本当だったんだ……』


 同時に、変な視線も感じました。

 というか、胸をガン見されているような……?


『ね、ねえ、依桜ちゃん。なんでそんなにおっぱいが大きいの?』

「な、何でって言われても……ボクにもよくわからないよ? だって、朝起きたら、女の子になってて、胸もこうだったし……」

「でも、まだ大きくなってるのよね?」

『マジで!?』

「え、えと……す、少し……」

「何が少しよ。今年中にはH行くでしょうが」

『で、デカイ……』

『高校一年生で、Hに届きそう……?』

『う、羨ましい……』

「あの、そこまでいいものじゃない、よ?」


 しどろもどろになりつつ、ボクの周りに集まってきた女の子たちに言う。

 大きくても肩こるだけだもん。

 それに、運動する時とかも、揺れて痛いし……。

 大きくてもいいことはない、と言うことを伝えると、


『くっ、嫌味かこんちくしょー!』

「ええ!? どうしたの!?」

『羨ましい! こんなに胸が大きいのに、そのくびれ!』

『依桜ちゃん、どんな生活してるの!?』

『その抜群のプロポーションの秘訣って!?』

「そ、そそそそそんなに詰め寄らないでぇ!」


 見えてる! 見えちゃってるからぁ!

 バスタオルなんて巻いてないから、本当に生まれたままの姿が見えちゃってるよぉ!

 胸とか、下の方とか!


『教えて、依桜ちゃん!』

「わ、わわわわかったから、落ち着いてぇ!」


 顔を真っ赤にさせながら懇願すると、ようやく落ち着いてくれた。


「え、えっと、秘訣って言われても……ダイエットとかしてないし……やっていることと言えば、家事くらいだよ?」

『ほ、ほんとに? ほんとにそれだけ?』

「う、うん」

『未果、本当?』

「本当よ。まあ、この辺りは遺伝じゃないかしら? ほら、依桜って隔世遺伝だし」

『あー、そう言えば北欧系の?』

「う、うん」

『……でも、いいなぁ、こんなに胸が大きいのに、ウェストは細いし……。しかも、肌なんて雪みたいに真っ白じゃん』

『元男なんて、信じられないよねぇ……』

「あ、あはは……」


 それはボクも思ってます。

 なんで、こんな姿になったんだろうね、って。

 男の時の面影があるとすれば、髪と目くらいだよ。

 なんて、ちょっと遠い目をしていたら、


『すきあり!』

「ひゃぁんっ!」


 突然胸を揉まれた。


『お、おー……なにこれ、すごい……』

「な、なにをっ、んぅ、や、やめ、てぇ……!」


 やめてと言うも、一向に止める気配がない。

 というか、さらに胸を揉んできた。

 うっ、へ、変な気分に……。


『あ、ずるーい。私も依桜ちゃんのおっぱい触ってみたい!』

『私も!』

『わたしも!』

「な、何を言ってっ、るの……!?」


 今度は、別の女の子たちがボクの胸を触り始めた。


「や、やめっ……あんっ」

『や、柔らかい……!』

『なにこれ、ふわふわしてるし、それでいて弾力があるんだけど!』

『こ、これが本当におっぱいなの……?』

『くっ、しかも、大きいだけじゃなくて、形もいいなんて!』

『くそぅ、羨ましいぃ!』

「み、みんなっ、や、やめ……んっ、へ、変な気分っ、に、なっちゃう、からぁ!」


 あ、だめ。また頭の中が白く、ぼーっとしてきた……。

 こ、このままいったら、なんか戻れなくなりそうな気が……。


「あなたたち、そろそろやめた方がいいわよ」

「そうだよ。悪いことは言わないから、やめておいた方が……」


 ようやく止めに入ってくれた未果と女委が、そんなことを言った直後、


「ん、何だお前たち、あたしの愛弟子に何してるんだ?」


 ここで師匠が登場。

 その瞬間、かなり抑えられた威圧が飛んできた。


『あ、ご、ごめんなさい!』

『い、依桜ちゃんのおっぱいがすごくて、つい……』

『依桜ちゃん可愛くて……』

「あー、そんなにびびらんでもいいぞ。愛弟子が手遅れになりそうだったんでな」


 師匠が来たことで、ようやく離れてくれた。

 それを見てボクは思わず、


「し、師匠!」


 師匠に抱き着いていました。


「お、おお? どうしたイオ」


 なんだか怖くて、つい抱き着いてしまったけど……なんだろう、すごく落ち着く。

 ……さっきの服を強制的に脱がせたことなんて、すっかり忘れてたけど。


『す、すごい、リアル百合』

『あ、あれが百合……』

『なんだろう。あの二人のカップリング、いい……』

「依桜って、もしかして恋愛対象は女子……?」

「おー、依桜君が百合に……」


 後ろで何か言われているような気がするけど気のせいだよね……?


「イオ、抱き着いてくるのは嬉しいんだが、そろそろ風呂に入らせてくれ」

「あ! す、すすすすみません! そ、その、師匠を見たらなんだか安心しちゃって……」

「お、おうそうか……まあ、あたしならいつでも歓迎だから、遠慮なく抱き着いてもいいぞ?」

「……ありがとうございます」


 なんだかんだで師匠は優しい……。

 理不尽なところはあるけど、師匠は好き。


「さて、風呂入るぞ、イオ」

「は、はい」


 ボクは入ってたんですが……。

 まあ、飛び出したのはボクだから、何とも言えないけど。

 と言うわけで、師匠も交えて再び湯船に浸かる。


『ミオ先生って、スタイルいいですよね』

「ん、そうか?」

『はい! 依桜ちゃんとは違った意味で綺麗です』

『やっぱり、努力と化してるんですか?』

「いや? あたしは、太らない体質でな。昔からこれだよ」

『やっぱり、美人は努力をしなくても綺麗……?』

「さあな。あたしとイオは、あんまり参考にならんぞ。特殊だからな」


 師匠。その特殊って、異世界に関係していることを言ってるのかな?

 というか、師匠は神様みたいなものだから、容姿が変わらないんだよね?

 それってやっぱり、そこが関係してるのかな。

 師匠が一体どれだけの年数生きているのかは知らないけど……。


 ……それにしても、師匠の裸を見ても、あんまり動揺しない……。

 修業時代とかに、散々見たから?

 ……多分そうだよね。師匠、お風呂に乱入してくる時とかあったもん。


 あの時は本当に焦ったなぁ……と、過去のことを思い出しながら師匠を見る。

 そこには、生徒と楽しそうに会話する師匠がいる。

 なんだかんだで、慕われてるよね、師匠は。

 いいことだよ。


 ……いいことなんだけど、どうもモヤモヤするような……まあ、気のせいだよね。


 それにしても……うん、やっぱり気持ちいい……。

 なるべく、周囲を見ないように、ボクは露天風呂で思う存分くつろいだ。



 ところ変わって、男湯。

 そこでは、何やら不穏な動きがあった。


『で、本当にやるのか?』

「決まってるだろ。男たるもの、やはり覗きはしたいものだ!」


 本当に不穏だった。


『だ、だがよ、変態。一応教師もいるんだぜ?』

『ああ、やめた方がいいって』

「何言ってんだ。この壁の向こうには、依桜がいるんだぞ? たしか、ミオ先生もいたはずだ。未果と女委だっている。まさに、パラダイスだろ?」

『……たしかに』

「見たいだろ? 依桜の裸」

『見たい! 超見たい!』

『あのたわわに実ったおっぱい! マジで見たい!』

『あのくびれた腰つきとか、いいよな!』

「だろ!? やっぱ、覗きはしたい」


 態徒たちがいるのは、露天風呂の壁の辺り。

 壁と言うより仕切りに近い。

 よくあるような、竹でできた仕切りだ。

 その壁の前に、多くの男子生徒……もとい、変態達がいた。


「……悪いことは言わない。やめておいた方がいいぞ」


 そして、晶はもちろん参加していることはなく、態徒たちを諫めていた。

 晶の名誉のために言うが、決して晶はヘタレなどではない。

 単純に、紳士なだけだ。


「うるせえ! お前はイケメンだから、ちょっと甘い言葉を言えば女子の裸が見れんだろ!?」

「いや、何を言ってる」

『そうだそうだ! イケメンは徳しかしないだろ!』

「そうでもないぞ?」

『信用できるか! 俺たちは覗く! それだけだ!』

「そうだ、同志たちよ!」


 晶はこれ以上注意をするのをやめた。

 言っても無駄だと思ったからだ。


 勝手にしてくれ、と思って、晶はくつろぎだした。


 ちなみにだが、この時、女湯の方では、依桜が胸を揉まれて喘ぎ声を出している時だったりする。


 つまり、


『ひゃぁんっ!』


 とか、


『な、なにをっ、んぅ、や、やめ、てぇ……!』


 とか、


『や、やめっ……あんっ』


 とか、


『み、みんなっ、や、やめ……んっ、へ、変な気分っ、に、なっちゃう、からぁ!』


 とかみたいな、思春期男子には非常に悩ましい声が聞こえてくるわけだ。


 その結果。


『『『ぶはっ!』』』


 撃沈した。


 こうして、知らず知らずのうちに、依桜は自身の喘ぎ声を聞かれるのと引き換えに、変態達による覗きを未然に防ぐことに成功した。

 彼らの将来は大丈夫なのだろうか?

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