第230話 学園拡大中

「い、依桜、あなた、いつの間に女王になったのよ!?」

「……つい、二日前くらいに……」

「二日前って言うと、十日だよね? 普通に家にいたような……」

「えっと、向こうでの二日前だよ。四日間いたから」

「国王になったりするっていうのは、異世界転生系、転移系の主人公によくあることだけど、魔族に生まれた人を覗いたら、魔族の国の王になる、って言うのはあんまり聞かないなぁ……そこも、結構テンプレから外れてるねぇ、依桜君」

「いや、テンプレって言われても……」


 ボクにも何が何だかわからなかったんだよね……この件については。


「てか、魔王がいるのに、女王がいるってどういうことだ? 同じじゃないのか?」

「えっと、魔族の国は、魔王が一番上なんだけど、政治的な意味でのトップで言えば女王らしいんだよ。まあ、地位的には魔王の方が上なんだけど」

「日本みたいね」

「ちょっと近いかな」


 ボクもそう思ったし。

 魔王は日本で言う天皇みたいなものだと思うし……。

 ボクは、ある意味総理大臣に近いと思う。


「国のトップがいなくて大丈夫なのか?」

「うん。ボクは何と言うか、象徴らしくてね。さっき名前を出した、ジルミスさんって言う人や、貴族の人たちが頑張ってくれてるみたい。よほど重要な案件がない限りはボクに仕事はないよ」

「それ、いるのか?」


 態徒が、ボクが最初の方でずっと思っていたことを言ってきた。

 うん。正直、ボクはいらないと思うけど……


「何と言うか、魔族の人たち全員の総意らしくてね……。ボクって、魔族からしても勇者で英雄らしいから」

「何それ、どういうこと? 普通仇とかじゃないの?」

「それが、魔族には、戦争反対派の人が圧倒的に多くてね。人間との共存を求めている人が多かったんだよ。で、反対に船倉を肯定していた人たち、というのが先代の魔王と一部の人たちだったみたい。ボクはその人たちをまあ……殺したことで、向こうからしたら、障害がなくなったと思ったみたいで……」

「うむ! ねーさまのおかげで、魔族にも平和が訪れたのじゃ!」


 胸を張って誇らしそうに言うメル。

 それには苦笑い。


「けどよ、依桜も戦争に参加していた以上、なんていうか……殺したんだろ? なのに、なんで恨まれてないんだ?」

「あー、えっと……ボク、戦った魔族の人の一部を除いて基本的に逃がしてたんだよ」

「……ちなみに、なんで?」

「だって、全然殺気を感じないし、むしろ自分が死ぬ気で来てたんだもん。さすがに、そう言う人を殺すのは……そう思って、殺したように見せかけて逃がしたんだよ」

「なるほどー。さすが、女神様、と呼ばれるだけあるねぇ、依桜君」

「それでも殺した人はいるよ。……まあ、後から聞いたら、ボクが殺した魔族の人たちは、みんな戦争肯定派で、どうしようもない人たちみたいだったんだけど」


 ボク的には、幾分か気持ちが軽くなったよ。

 殺したことに変わりはないから。


「依桜は、どんどんおかしな方向に進んでいくな……」


 晶が苦笑い交じりにそう言ってきた。

 いや、うん。


「それは、ボクが一番思ってるよ……。だって、気が付いたら、今まで敵だった人たちの国で、女王様になってるんだよ? 一番戸惑ったよ、ボク……」


 しかも、いきなりボクの前に来たと思ったら、跪くんだもん。あれは、本当に混乱したし、困惑した。

 知らない人たちに跪かれるっていうのは、本当に困ることなんだね。


「依桜君って、本当に波乱万丈な人生送ってるよねぇ」

「好きで送ってるわけじゃないよ……」

「そりゃそうよね。女になるわ、小さくなったりするわ、有名人になるわ、果ては女王様だものね。ほんと、どうかしてるわ」

「あ、あははは……」


 もう乾いた笑みしか出ない……。


 ……ふと思いだしたんだけど、異世界観測装置でゲームを作ったりしてるってことは、この件が反映されてたりする……んだろうなぁ。


 なんか、変な称号が追加されてそうだよね……。


 その内、確認しておかないと。


「ところで、一つ気になったんだけど、どうして、メルちゃんがこの学園で補習を受けてるのかしら? それなら、普通に小学校に通えばいいと思うのだけど」

「あー、これって言ってもいいのかな……」


 正直、勝手に言っていいかどうか迷う案件だよね……。

 一応、学園長先生に訊いてみようか。

 ボクはスマホを取り出して、学園長先生に電話をかける。


『もしもし、依桜君? どうしたの?』

「あ、はい。えっと、メルに関する学園の件って、言ってもいいですか?」

『それは、初等部やら中等部やらのあれこれ?』

「はい」

『んー、言う相手は、いつものメンバーよね?』

「そうです」

『なら、口外しないって約束してもらえるならいいわよー』

「わかりました。ありがとうございます」

『いえいえ。それじゃねー』

「はい。……じゃあ、許可が下りたから、言うね。えっと、一応誰にも言わないでね? 秘密らしいから」


 そう言うと、みんなはこくりと頷いた。

 メルは、もきゅもきゅとご飯を食べてる。

 うん。可愛い。


「実はこの学園……四月から、初等部と中等部が開校されるみたいなんだ」

「「「「……え?」」」」

「それで、四月からメルは四年生として、初等部に通うことになるんだけど……ほら、メルって、異世界の人だから、事前に勉強をしないとちょっと問題でしょ? だから、今日からこの学園で補習をしてるの。補習と言っても、ほとんど授業だけど……って、みんなどうしたの?」


 ボクが事情を説明していると、四人が固まっていた。


「いや、なんつーか……初等部と中等部って、なんだ?」

「え? 小学校と中学校だけど?」

「うち、そんなのないわよね?」

「そのはずだったんだけど、四月から開校するみたいだよ? と言っても、ボクもこのこと知ったのは、昨日なんだけどね」


 本当に驚いたよ。

 だって、いきなり初等部と中等部を作るなんて言ってきたんだもん。


「でも、そんな兆候見られなかったわよ? 第一、校舎だって……」

「えーっとね、あんまり気付かなかったかもしれないんだけど、この学園、敷地が少しずつ広がっていたみたいでね……ほら、あっち見て」


 と、ボクがある方向を指さすと……


「あれ? あんなのあったかしら?」


 まごうことなき、校舎が建設されていた。


「いやいやいや! おかしくね!? あれ、どうみてもオレたちもわかるレベルで建ってるよな!? 普通、気付くよな!?」


 うん。態徒のツッコミの通りだよ。


 普通、気付くよね。


 なんで気付かなかったんだろうと思った時、ボクはあることを思いだした。


 ……そう言えばこの学園、立体ホログラムを作ったりしてたっけ、と。


 多分だけど、それと同じような技術を使ってたんじゃないかなぁ……。


 だって、おかしな技術持ってるんだもん、あの人。


 人知れず工事を進められるようにする技術を使っていたって不思議じゃないよ? 異世界転移装置を創ったり、異世界観測装置を創ったりすることに比べたら、まだ可愛いものな気がするもん。


 あれ? なんで今見えるの?

 普通に考えたら、あんな大きなもの、学園中大騒ぎになってもおかしくないんだけど……。


 ……あ、なるほど、そういうことか。


 考えてみたら、この学園って監視カメラが至る所にあるから、それを活用してボクたちの様子を見てるってことかな。


 で、それを確認してる学園長先生がボクたちだけに見えるようにした、ってことかな?

 ……うん。あり得る。


「まあ、うん。学園長先生だし……」

「その言葉の意味をオレは知りたい」

「色々あるんだよ、あの人」


 少なくとも、何らかの問題が起こったら、あの人を疑った方が確実だもん。


「それにしても、すごいねぇ。まさか、初等部と中等部ができるなんて思わなかったよー」

「それはボクもだよ……。都合が良すぎる気がするんだけど」

「いいんじゃないのか? 同じ学園にいるのなら、メルちゃんも依桜に会いやすいだろうからな」

「……そうだね。もし、メルをいじめるような子が現れたら、すぐにお仕置きできるもんね」

「いや、何か違くね?」

「え?」


 何かおかしなところあったかな?

 メルが大事なのは当たり前だし……。


「おい、依桜の奴やばいぞ」

「……そうね。小首をかしげてる姿を見ると、どうも依桜は、メルちゃんに対して、かなり過保護になってるみたいね」

「……正直、常識人というか、一番まともだと思っていた依桜が、まさか過保護だったとはな……」

「びっくりだよねぇ。まあでも、のじゃろりなメルちゃんだもん。依桜君もああなるよね」

「いや、それは関係ないでしょ。まあでも……意外よね。依桜があれって」

「……まあ、一人に肩入れをする、って感じじゃないからな、依桜は。確かに、意外だ」

「みんな、何話してるの?」

「な、なんでもないわ」


 なにを話してたんだろう?

 まあ、こう言うことはよくあるしね。

 なんかもう、慣れたよ。

 慣れちゃいけない気はするけど。


「でも、初等部と中等部ねぇ? まさか、そんなことを進めてるとは思わなかったぜ」

「次の四月からってことだが、生徒数的にはどうなるんだ? さすがに、一年生からになるんじゃないのか?」

「えーっと、どうやら、全国の小中学校に募集したみたいでね。もう決まってるみたい」

「マジか。ってことは、あれか? 全国的にここに登校することになる、ってことか?」

「うん。一応、一クラスの辺りの人数はボクたちの所と変わらないみたいだよ」

「へぇ~。ということは、二千五百二十人が新しくこの学園に通うってことかなー?」

「そうだね」

「そんなにか……。これ、マンモス校ってレベルにならないか?」

「敷地はかなり広いし、初等部~高等部を合わせたら、三千三百六十人になるから、あながち間違いじゃないんじゃないかしら?」


 そっか、人数はそうなるんだ……。


 お、多いなぁ。


 ……でも、こんな無謀ともいえるようなことをしようとした理由が、単純に小さい子を見たいだけ、って言う理由なんだよね……。

 学園長先生は、本当におかしいと思うよ、ボク。


「全国から通うって言うことは、遠くに住んでる生徒たちはどうするんだ?」

「学生寮が作られるみたいだよ。というか、もうほとんどできてるとか」

「でも、敷地内にそれらしい建物はないけど?」

「えっと、美天市内にあるアパートやマンションを買い取ってそこを寮に改築したみたい」

「……この学園、おかしくね?」

「……そうだな。まさか、そんな大掛かりなことをしてるとは思わなかった」

「いつからそんな計画があったんだろう?」

「二年前らしいよ」

「そこそこ前ね……」

「一応、春休みが最終工程らしいよ。と言っても、三月中には終わらせる、みたいなこと言ってたけど」


 でも、どうするんだろう?


 この学園ってかなり広いけど、小中高合わせた学園になるってことでしょ? それなら、プールとか、講堂とか、体育館とか、いくつか必要になってくる気がする。


 ……いや、あの人の場合、いろんなところに作ってそう。


 実際、作ってる途中の校舎を見えないようにするレベルの何かを使ってると考えると、身近なところで作ってる可能性が高い。


 だから、目に見えてる学園が、そのすべてじゃない可能性があるってことだね。

 ……これ、もう学園がやることじゃないよね?

 あの人の頭の中、本当にどうなってるんだろう?


「あ、そういやなんか、駅の改修工事してなかったか? あと、道路とかよ」

「あー、あったね。たしか、駅は少し老朽化してきたから、って言う理由らしいけど……それにしては、随分大掛かりに見えた気がするよねぇ」

「……まさかとは思うけど、それも学園拡大によるものだったりするのかしら?」

「……今の話を聞いた限りだと、可能性はあるな。人数が増えるって言うことは、必然的に電車通学や徒歩、自転車通学の生徒が増えるってことだ。しかも、かなりの人数が増える。そうなったら、今のままだと狭いだろうな」

「いよいよもって、この学園が本当に謎になって来たわね」

「だ、だね……」


 ボクも、すごく謎だと思ってるよ、この学園。

 いや、一番謎なのは、学園じゃなくて、学園を運営している学園長先生なんだけどね……。

 ある意味、謎は深まるばかりだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る