第229話 メル、学園へ

「おはよう」

「おはようなのじゃ!」

「おはよう、依桜、メルちゃん」


 リビングに行くと、いつも通り、母さんが朝ご飯をテーブルに並べていた。

 ちゃんと、メルの分もある。まあ、当然だよね。


「昨日の今日で、メルちゃんは授業があるんだったわよね?」

「うん。一応、一年生のフロアに、空き教室が一ヶ所あるみたいだから、そこでやるみたいだよ。その方が、休み時間とかにボクの所に来れるように、って言う配慮だって」

「まあ、依桜に一番懐いているみたいだものね」

「儂は、ねーさま大好きなのじゃ!」

「ふふっ、ありがとう、メル」

「ふあぁ~~、ねーさまのなでなではやっぱりいいのじゃぁ……」


 うん。和む。

 メルって頭を撫でてあげると、本当に気持ちよさそうにするんだよね。

 それが可愛い。


「メルちゃんもそうだけど、依桜って随分メルちゃんを構うのね」

「そ、そうかな?」

「ええ。普段の依桜からはなかなか考えられないくらい、メルちゃんに構ってるわね」

「う、うーん、あんまり気にしてないんだけど……」

「じゃあ、ほとんど無意識で構ってるってことね」

「そうなのかな?」

「ええ」


 そっか、全然意識してなかったけど……ボクって、メルに結構構ってるんだ。

 構ってるというより、甘やかしてる、が正しいのかな、これ。

 ……で、でも、我儘な子にならないよう気を付けないと……。


「さ、食べちゃって」

「「はーい(なのじゃ)」」



 朝ご飯を食べた後、ボクたちは荷物を持って学園へ登校。


 一応、昨日一緒に行ったとはいえ、慣れない街と言うこともあって、ボクはメルと手を繋いで登校している。

 ぷにぷにしてて柔らかい。

 子供の手、って感じがするよ。


 ちなみに、メルの荷物は、普通にカバンのみ。

 カバンの中には、筆記用具、ノート数冊、お弁当が入っている。


 休み時間はちょくちょくボクの所に来る、って言ってたからね。


 お昼も一緒です。


 一応、海外の親戚、ってことになってるけど、どちらかと言えば、海外、じゃなくて、界外だと思うよ、ボク。


 だって、魔王とその国の女王なわけだし……。


 あとは、学園長先生が装置を創ってくれれば問題はないかな。

 普通なら無理だと思うような物だけど、あの人だからなぁ……。

 本当に完成させそう。


「ねーさま、学校とは楽しいとこなのかの?」

「そうだね。勉強に運動はあるけど、同年代の子と仲良くなれれば楽しいと思うよ」

「そうかー。楽しみじゃなぁ」

「まあ、その前に色々と勉強しないといけないけどね。しかも、急ピッチで」

「頑張るのじゃ!」

「うん、頑張ってね、メル」

「うむ!」


 やる気十分だね。


 でも、ちょっと心配だなぁ……。


 国語とか英語なら全然心配いらないと思うけど……さすがに、算数とか、社会、理科とかは難しいかもなぁ、と思ってる。


 体育は……どうなんだろう?


 そういえば、メルのステータスってどうなってるんだろう?

 ちょっと気になるけど……見るのはやめておこう。

 ああいうのは、個人情報を盗み見るような物だから。


 ……まあ、ゲームの中では少しだけやっちゃったけど。


 でも、メルも一応生まれたてとはいえ、魔王だし、そこまで運動が不得手ってことはないと思う。

 一応訊いておこう。


「ねえ、メル」

「なんじゃ、ねーさま?」

「メルって、運動は得意?」

「うむ! 儂は、体を動かすのは好きじゃぞ」

「そっか。じゃあ、えーっと、あそこにある壁って壊せちゃったりする?」


 と、ボクはコンクリートの塀を指さしてそう尋ねる。


「うむ、できるぞ」

「そ、そっか。それが訊けただけで十分だよ。あ、絶対に壊しちゃダメだよ?」

「むやみに壊さないぞ、儂」

「そっか、えらいね」

「えへへー」

「それから、小学校に入るまでの間、ちょっと手加減を覚えようか」

「手加減?」

「うん。こっちの世界の人たちは、向こうの人たちよりも弱いんだよ。普通は壁は壊せないの。メルが壊せるってことは、少なくともこっちの人よりも全然強いんだ。もしかすると、怪我をさせちゃうかもしれない。だから、ちょっと手加減を覚えないとね」

「わかったのじゃ!」

「ありがとう」


 よかった、これでとりあえずは何とかなるかな?

 コンクリートに関しては、割と簡単に言ってたから、結構ステータスは高めと思っていいかも。


 ボクや師匠ほどじゃないかもしれないけど、生まれたてで、コンクリートが壊せるレベルってことを考えると、結構凄まじいような気がする。


 どういう感じで教えようかと言うことを考えながら、ボクたちは学園へ向かった。



 で、学園に到着したんだけど……。


『な、なんだあの娘、すっげえ可愛い』

『隣にいるの、女神様、だよな?』

『仲良く手を繋いで歩いてるところを見ると、妹、とか……?』

『それにしては似てなくね?』

『美少女と美幼女の組み合わせ……いいわぁ』

『可愛いに可愛いをかけると、最高ってことね!』


 やっぱり、注目を集めてしまっていた。

 さすがに、小学生くらいの女の子と一緒に登校してたら、当然注目を浴びるよね……。

 それに、メル可愛いし……。

 変な人に絡まれないよう、気を付けないと。



 一旦、学園長室に行って、メルを預けてきた後、教室に来た。


「おはよー」

「おはよう、依桜」

「おはよう」


 いつも通りの二人。

 ……あ、考えてみれば昨日って、ボク欠席してたよね、これ。


「依桜、昨日はどうしたの?」

「あー、えっと、ちょ、ちょっと色々あってね……」

「……ああ、その反応で大体察した。概ね、向こう関連だろう?」

「うん」


 さすが晶、察しが早くて助かるよ。

 未果も晶の言葉に、納得してる。

 事情を知っているから、わかってくれるもんね。

 よかったよかった。


「おーっす」

「はよー」


 と、いつものように、二人が登校してきた。


「お、依桜。昨日はどうしたんだ?」

「また、向こうかい?」

「うん。ちょっと色々あってね……」


 女委もさすがと言うべきか……一瞬でわかったよ。


「まあ、それはそれとして。依桜君、また噂になってるよ」

「今度は何……?」

「なんか、紫髪のツインテール美幼女と手を繋いで歩いてたとかなんとか」

「あ、あー……それね」


 もう噂になってたの? あれ。

 う、うーん……言っていいのかどうか……。

 でも、どのみちお昼とか休み時間には会うことになるんだよね……


「えーっと、実は――」

「ねーさま!」


 ボクがメルのことを言おうとした直後、メルが飛び込んできた。


「め、メル? どうしてここに?」

「うむ、がくえんちょーとやらが、時間になるまで、ねーさまと一緒にいてもいいっていたので、急いで来たのじゃ!」

「そっか」


 学園長先生が言ったのなら問題ないね。

 いや、問題ない、の?

 ……まあ、いっか。


「って、あれ、みんなどうしたの?」


 みんなに話をしようと思って、みんなの方へ向いたら、ポカーンとしていた。


「い、依桜、その娘は、誰?」

「あ、えっと、みんなに紹介するね。メル、お願い」

「うむ! 儂は、男女ティリメルじゃ! 儂のことは、メル、と呼んでくれ! よろしく頼む!」

『『『うえええええええええええええええええっっっ!?』』』


 朝から、絶叫に似た驚きの声がボクのクラスから聞こえてきた。



「マジで、誰!?」

「えっと、メルだけど」

「いや、そうじゃなくて! 依桜って一人っ子だったわよね!?」

「うん」

「なのに、なんでねーさま呼びされてるの?」

「えーっと、メルは海外の親戚でね。ちょっと色々あってボクの家に住んでるの。男女姓なのは、まあ、養子、だから?」


 ということになった。


 今回、メルの戸籍を作るにあたり、色々と設定を作ったのは知っての通り。

 その過程で。親がいないと言うのはどうなんだ、ということになり、父さんと母さんがメルの父親、母親となることで解決した。

 その結果、メルはこっちの世界では戸籍上、ボクの妹、ということになった。


「てことは、依桜の妹?」

「まあ、そうなるね」

「ねーさまと姉妹なのじゃー。嬉しいのじゃー」

「ボクも嬉しいよ、メル」

「わーいなのじゃ!」

「ふふっ」


 こんなに嬉しそうだと、こっちも嬉しくなるね。


「……あれ、依桜ってこんなキャラだったかしら?」

「……見た感じ、メルちゃんを溺愛しているように見えるんだが……」

「おー、依桜君がすっごいいい笑顔してる」

「あの姉妹いいな」

「ん、どうしたの? みんな」

「あ、い、いえなんでもないわ。にしても、随分仲がいいのね」

「まあ、色々あってね」


 魔王だし、メル。


 ボクは、そこの女王だし。


 ……一応、みんなには言っておいた方がいい、のかなぁ。

 昨日の件は絶対聞かれると思うし……い、いや、やっぱりやめておこう。


 さすがにちょっと恥ずかしい。


『じゃあ、依桜ちゃんが昨日休んでたのは、メルちゃんのため?』

「あ、う、うん。そんなところ」

『そっかー、よろしくね、メルちゃん』

「うむ! よろしくなのじゃ!」


 人見知りしないみたいだね、メルは。

 これなら、小学校に通い始めても問題ないよね。

 うんうん。


「おらー、席着けー。ん? おお、男女。今日は来てるな。んで、そっちにいるのが……あー、たしか、お前の義理の妹だったか? 連絡は受けてる。とりあえず、補習が始まるまでは男女……だと言いにくいな。じゃあ、男女姉と一緒にいていいぞ」

「わかったのじゃ!」

「んじゃ、HRするぞー」


 順応性高いね。



 その後、何事もなく、ゆるやかに時間は過ぎ、昼休みとなった。


 メルが受け入れられるかちょっと心配だったけど、杞憂でよかった。

 さすがに、これで受け入れられなかったら、かなり困ってたよ。


 昨日の件を話さないといけないので、ボクたちは屋上に出てきた。

 まだちょっと寒いけど、もう三月中旬だからね、少しずつあったかくなってきてる。


「それで? メルちゃんは、本当に親戚なの?」


 屋上でお昼を食べ始めた瞬間、未果が早速そう切り出してきた。


「え、えっと、実は親戚じゃなくて、メルは……魔王、なんだ」

「「「「マジで!?」」」」

「ま、マジです」


 ボクがメルの正体を告げると、みんなはそろって驚いた。

 だ、だよねー……。


「え、あれ? でもたしか、魔王は倒した、って依桜言ってなかった?」

「それとは別の魔王で、あの後、新しく生まれたのがメルなんだよ」

「でも、魔王って敵じゃないの……?」

「あー、えっと、それがね……どうやら、魔族の人たちってすごくいい人ばかりで、今は人間と共存しようと頑張ってるんだよ」


 ジルミスさん主導で。

 ボクは飾りみたいなものだけどね。


「その辺りは、テンプレートじゃないんだね」

「うん。国も綺麗だったよ」

「ま、マジか。魔族の国が綺麗とか……」

「……ん? ということはつまり、肝心のトップがいない、ってことにならないか? それ」

「……本当は、メルとは一旦お別れだったんだけど……」

「儂は、ねーさまと一緒じゃなきゃ嫌じゃったので、一緒に来ちゃったのじゃ」

「え、それ大丈夫なの?」

「うん。前国王のジルミスさん、って言う人が今は頑張ってくれてるからね」


 すごく有能な人だし。

 ボクなんかが女王にならずとも、ジルミスさんがずっとやればいいんじゃないかな、なんて思ったけどね。


「へぇ~。前国王ってことは、今は別の人が王様ってことなの?」

「そ、そうなんじゃないかな? ぼ、ボクは会ってないからわからないよ」


 会ってない、というのは間違いじゃないからね。


 だって、ボクだもん。


 ボク自身なら、会ってることにはならない……はず。

 この件については、しばらく隠しておこう。


 そう思っていたんだけど……


「何を言っているのじゃ? ねーさまが今は女王じゃろ?」


 メルが爆弾を投下した。


「……え、メルちゃん、今なんて?」

「じゃから、今の魔族の国の女王は、ねーさまじゃ」

「「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」」」」


 みんなが驚愕の声を上げる中、ボクは額に手を当てて空を仰いだ。

 い、言っちゃったよ……。

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