第228話 事情説明

「それじゃあ、メル、帰ろうか」

「うむ!」

「あ、依桜君、ちょっと待って」


 メルと帰ろうとしたら、学園長先生に呼び止められた。


「えっと、何か?」

「ええ、ちょっと話したいことがあるの。メルちゃん、申し訳ないんだけど、別の部屋で待っていてくれないかしら?」

「ね、ねーさまと離れるのか……?」

「別に、お別れになるわけじゃなくて、ちょっとだけ二人でお話がしたいだけなの。お願い」

「じゃ、じゃが……」

「メル、ボクからもお願い。多分、大事なことだと思うし……」

「……わかったのじゃ。すぐに戻ってくるのじゃぞ……?」

「うん。なるべく早く行くから」

「うむ……」


 寂しそうな顔をしてメルが学園長室を出ていった。

 一応、隣の部屋に行ったみたいだ。


「それで、話しって何ですか?」

「依桜君、さっきのメルちゃんって、どうやってこっちの世界に来たの? やっぱり、ミオみたいに、突然?」

「あー、それがですね……」


 ボクは、メルがこっちの世界に来た経緯を話した。

 それはもちろん、突然向こうに行ってしまったことも含めて。


「というわけでして……」

「なるほど……」

「それで、今回の件、学園長先生は関わっているんですか?」

「いえ、まったく関わっていないわ。知っていることと言えば、突然誰かがこの世界から消えて、約十二時間後に再び同じ場所に現れた、ってことだけ。これ、依桜君よね?」

「はい」


 なんだかんだで、その辺りはちゃんと観測とかはしてたんだ。

 さすがと言うかなんというか。


「それで、依桜君は原因については?」

「えっと、向こうに知り合い……というか、ボクが以前召喚されたもう一つのきっかけになった人が言うには、召喚陣の暴走、らしいです」

「暴走……?」

「はい。向こうの世界には、異世界の人を呼び出す魔法と、それを使うための魔法陣があるんです。今回、誰も使用していないはずなのに、唐突に発動してしまい、ボクが向こうに、と言った理由だそうです」

「なるほどね……」


 ボクの説明を聞いて、学園長先生が目を閉じて何かを考えるそぶりを見せた。


「となると……今後も、そう言った出来事が起こらないとは限らないのよね?」

「そうですね。幸いなのは、暴走によるものだった場合、二日あればいつでも帰還できるって言う点ですね。それに、転移場所は王城です。……まあ、言語がわからなかった場合、かなりきついですけど……」


 ボクの仮説が正しかった場合は、みんな『言語理解』のスキルを習得できるはず。

 ただ、もし外れていた場合は、そうならない。

 そこが心配なんだよね……。


「たしか、『言語理解』だったかしら? それがないときついのよね?」

「はい。言葉が理解できないというのは、下手をしたら死に直結しかねないことですから」

「そうね。まあ、この辺りはどうしようもないのよね……。抗う術なんてないわけだし……」

「そうですねー。どこかの誰かさんも、同じようなことしてますもんねー?」

「あ、あはははは……い、依桜君目が怖い……」


 どこかの誰かさんは、面白そうって言う理由で異世界に送ったとんでもない人だもんね。

 ……普通に考えたら、許せないことだと思うんだけどね。


「ま、まあ、話を戻すとして。一応、こっちでも色々と動いてみるわ」

「お願いします」


 できれば、ボクと同じような状況にならないことを祈るよ。

 さすがに、ボクの時ほど最悪なことにはならないと思うけどね。

 魔族の人たちはどうにかできるし。

 いい人しかいないしね。

 あ、思いだした。


「学園長先生、お願いがあるんですけど、いいですか?」

「あら、依桜君からお願いごとがあるなんて珍しいわね。何かしら? なんでも言って?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。えっと、たまに異世界に行かないといけなくなっちゃったので、できたらでいいんですけど、本当の意味で自由に行き来できる装置を創ってほしいなー、なんて……」

「本当に珍しいお願いね。ちなみに、理由を聞いてもいいかしら? ああ、別に創るのは確定事項だから、言いたくなければ言わなくてもいいわよ」

「……いえ、一応理由は言いますよ。恥ずかしいと言えば恥ずかしいですけど、言えないようなことじゃないですから」

「ありがとう。それで、どうして?」


 ボクは一度深呼吸をして、心を落ち着かせ、


「じ、実はその……向こうのとある国で、女王様になりました」

「………………Really?」

「は、はい」

「それは、Sの人が、Mな人をいじめるようなあれじゃなくて?」

「なんですかそれ?」

「あ、いえ、ごめんなさい。じゃあつまり、依桜君は国のトップってことになったの?」

「トップ、ではないですけど、まあえっと……二番目くらいになりました」

「ま、マジかぁ……」


 そう言いながら、学園長先生は机に両肘をついて、頭を抱えた。

 驚きすぎて、どうすればいいのかわからない、みたいな感じになってるように見えるよ。というか、実際そうだよね? これ。


「異世界で勇者な暗殺者をしているのは知っていたけど、まさか、女王になるなんて思わなかったわ……というか、王なのにトップじゃないってどういうこと? もう一個上がいるの?」

「えっと、ボクの上は魔王です」

「あー、なるほど、魔王ね……って、ちょっと待って? そう言えば、メルちゃんって魔王って言ってなかった?」

「はい、純粋に魔王ですからね」

「つまり……その国のトップって、メルちゃん?」

「はい」

「で、その次が勇者の依桜君?」

「そ、そうですね」


 考えてみれば、魔王の次の役職にいる人が、勇者なんだよね……。

 魔王と勇者が同じ国で、ツートップをやってるって、傍から見たら、何の冗談? って思うよね、普通。


「それで、依桜君は、向こうに行きたい、なんて言ったのね」

「はい。それに、メルは無断でこっちに来ちゃってて……」

「え、大丈夫なの? それ。だって、魔王なのよね? 魔王と女王が不在って、結構まずくないの?」

「ボクはともかく、メルがいないのはちょっとまずいかもしれませんね。なので、一応自由に行き来できるようにさえなれば、問題ないかな、って」

「たしかにそうね……。向こうの世界がどういったことになっているのかは、私はわからないけど、他ならない依桜君の頼みだしね。絶対、完成させるわ」

「ありがとうございます!」

「まっかせて!」


 よかったぁ……。

 学園長先生と言えど、さすがに無理かなぁ、なんて思ってたけど、どうやらできるようでよかったよ……。

 これで、あとは完成を待つだけかな?


「それでは、ボクはこれで失礼します」

「ええ、こっちの話も終わったし、もういいわよ」

「はい。それじゃあ、さようなら」

「ええ、気を付けて帰ってね」


 話も終わり、ボクは学園長室を出ていった。



 学園長室を出た後、すぐにメルと合流し、家に帰る。


 道中、いつも以上に視線が来たのが気になった。

 やっぱり、メルが可愛いからかな?

 今だって、ボクと手とつなぎながら、にっこにこ笑顔で歩いてるからね。


 はぁ~、癒されるぅ……。


 メルの癒し力はすごいと思いました。



 その夜。


「おい、イオ、ちょっと聞きたいことがあるから、飯の後、あたしの部屋に来い」

「あ、わかりました」


 夜ご飯を作っていたら、師匠にご飯を食べた後、部屋に来いと言われた。

 なんだろう?



 夜ご飯を食べた後、師匠の命令通りに、師匠の部屋に来た。

 メルは、リビングで母さんや父さんと話してる。

 なんとか、打ち解けているようで何よりだよ。


「師匠、入りますよ」

「ああ、入れ」

「失礼します」

「来たな。まあ、座れ」

「はい」


 師匠に言われ、ボクは中央にある座布団に腰を下ろす。


「単刀直入に訊くぞ。お前、どこ行ってた? いや、予想は付いているんだが、一応な」


 あ、やっぱり、その話なんだ……。


「む、向こうの世界です」

「やっぱりか……。んで? 原因はあれか? あのクソ野郎か?」

「い、いえ、今回は召喚陣の暴走が原因らしいです」

「マジで?」

「マジです。詳しいことはわかりませんけど、召喚陣の場所には、慌てた様子の王様しかいませんでしたよ」

「そうか……。まあ、ならいいんだ。てことは、今回の件はあのクソ野郎たちは無関係、と。わかった。じゃあ次な。あのガキは何だ? あれ、見た目こそ可愛い少女、って感じだが、明らかに……魔族だよな? というか、魔王っぽくないか?」

「あー、えーっと、その……ま、魔王、です」

「……そうか、魔王か」


 あ、あれ? 師匠が驚かない。

 というか、よく魔族ってわかったね、師匠。

 どう見ても、魔族じゃなくて、人間にしか見えないのに……。

 もしかして、何かあるのかな?


「まあ、あいつが魔王なのは理解したが、確かお前、魔王は倒した、とか言ってたよな? まさかとは思うが、そいつじゃないだろうな?」

「いえ、全然違います」

「本当か?」

「本当です。少なくとも、あんなに素直ないい娘じゃなかったです」

「……そうか。んで? なんで、その魔王が一緒にこっちの世界に来てるんだ? もしかしてあれか? あたしとかみたいに、強制的にこっちに来たあれか?」

「それが、ですね……。ボクと離れたくない、って言う一心で、魔族の国を抜け出して、ボクに気付かれることなく同じ馬車に乗り、召喚陣で帰還! って言う時に、抱き着いてきて、そのまま一緒にって感じです……」

「なるほど? ……って、ちょっと待て。お前が気付かなかった?」


 と、師匠が珍しく驚いたような顔をしながら、そう尋ねてきた。


「は、はい。なんでも、『偽装』っていうスキルを使ったとかで……」

「……『偽装』か。なるほど。たしかにそれなら、依桜を欺くことができるな……いや、それどころか、成長すればあたしすら欺けるか?」

「え、師匠を!?」

「ああ。まあ、仮にわからなかったとしても、別に問題はない」

「し、師匠らしいです」


 わからなくても問題ない、って本当にどうなってるんだろう? この人。


「……それから、なんでお前が、魔王に懐かれてる? というか、何があった? それから魔族の国だと?」

「え、えーっと、非常に言いにくいんですけど、そのぉ……」

「なんだ、はっきりしろ」

「……ボク、魔族の国の女王になっちゃいました」

「……………………はぁああああああああっっ!?」


 さ、さすがの師匠でも、素っ頓狂な声を上げるほど驚くんだ、これ。

 だ、だよね……。


「ちょっと待て。たしか、魔族は人間と戦争していたんだよな? お前が魔族軍を壊滅させ、魔王を倒したから平和になったんだったよな、あの世界は」

「は、はい」

「なのに、魔族の国の女王とは、どういうことだ? むしろ、お前は恨みを買ってるんじゃないのか?」

「じ、実は、ですね――」


 ボクの三年目にしていた出来事と、魔族の人たちのことについて、すべて話した。

 その話を聞いていた師匠は、終始頭の痛そうな顔をしていた。


「はぁ~~~……なるほどな……。まさか、お前が魔族をほとんど殺さず、逃げるのを手伝っていたとは……。いや、それよりも驚きなのは、魔族が人間を匿い、保護していたことだ」

「ボクもびっくりでしたよ」

「だろうな……。あたしですら、驚きだ。……しかも、百年以上前って言えば、その間にあたしが邪神と戦った時期だよな。あの時点で、魔族たちに戦争をせず、共存を望むような奴らが出始めていた、ってことか……」

「そうみたいです」

「……ってことは、元凶は魔王とその思想に毒されていた奴らってわけで、他は共存派だったのか」

「はい」

「……で、その障害を取り除き、戦争していた魔族の奴らも助けたことで、魔族たちからも、勇者やら英雄やら呼ばれていた、ってわけか。それも、いい意味で」

「みたいです」

「はああぁぁぁぁ……」


 う、うわぁ、すっごく大きなため息……。

 や、やっぱりそう言う反応になるよね……。


「だが、まさか、たった数ヶ月の間に魔王が復活しているとは思わなかったな……」

「それは、ボクも思いました。まあでも、妹みたいで可愛いメルが魔王でよかったですよ」

「……なあ、イオ。お前、あの魔王のこと、どう思ってる?」

「え? そうですね……可愛い妹、ですね」

「他には?」

「他って言われても……。ボクのことを『ねーさま』って呼んで慕ってくれてるみたいなんですよね、メルって。しかも、ちょこちょこついてきますし、基本的にべったりですけど、そこが可愛いというか……。もちろん、あの見た目も可愛いですよね。髪の毛は綺麗だし、目は宝石みたいだし……。一応、学校に通うことになったんですけど、もしいじめるような子が現れたら、お仕置きしますね。絶対」

「あ~……そうか。まあ、なんだ。よかったな」

「?」

(マジか……。この世界の常識人枠だった、あのイオが……まさか、こんなに姉馬鹿だったなんてな……。世の中、わからないものだ。いや、まて。この場合、イオは、姉馬鹿になるのか? それとも、兄馬鹿? ……いやこの際どうでもいい。少なくとも、イオは魔王を溺愛してやがる。さっきちらっと見たときに、『魅了』とかのスキルがなかったってことは、素で溺愛してるな。しかも、向こうも純粋にイオを慕っているみたいだし。……勇者に懐く魔王とは一体……)


 あ、あれ? なんか、師匠が疲れたような顔をしているような……?

 どうしたんだろう?


「まあ、わかった。とりあえず、お前は魔王の面倒を見てやれ。あたしも、見た感じ素直なガキみたいだしな」

「師匠、ガキじゃなくて、メルって呼んでくださいね?」

「いや、別にいいだ――」

「メルです」

「だから――」

「メル、です」

「わーったわーった。メルな」

「はい」


 まったくもぅ、師匠はいつも子供をガキって呼ぶんだから……。

 未果たち以外ならまだしも、さすがに、メルは許容できないよ。


(……こいつ、すげえ過保護じゃん……)


 なんか一瞬、師匠が呆れたようなことを思った気がするけど……気のせいだよね!

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