第227話 メルの今後
「それで、どこに行っていたのかしら? それから、今依桜にべったりな可愛い女の子は?」
「あー、えっと……その、四日間異世界に行っていて、それで、この娘は……魔王です」
「魔王? って言うと、世界の半分をやろう、的なあれかしら?」
「あながち間違いじゃないけど」
そんな、某有名RPGゲームに出てくるような魔王じゃないんだけど。
「まあ、それはいいとして。随分懐かれてるのね」
「なぜかね」
『ねーさま。何を話しておるのじゃ? あと、あそこの人間は?』
『えっと、ボクがどこに行っていたのか、って言うことと、メルが誰なのか、って言うことを話してるんだよ。あと、この人はボクの母さんだよ』
「おー、まったく知らない言語で話をしている依桜を見ると、すごく不思議な気分になるわ~」
「あ、ごめんね」
「本当に、自由自在なのね、言葉は」
「まあね」
まあ、スキルが原因なんだけど……。
師匠が何の問題もなく話せているのも、それが理由だしね。
ある意味、日常生活における中で、一番便利なスキルだと思います。
これがあれば、仮に外国人の人に話しかけられて、道を尋ねられても答えられるからね! あとは、手助けしやすくなるし。
そう言えばこれ、方言には効果あるのかな? 見たことないけど。
「それで、母さん。この娘……メルをこの家に住まわせてあげてほしいんだけど……いいかな?」
「もちろん、OKよ! 可愛いしね~。でも、言葉がわからないのはちょっと困ったわねぇ」
「あ、それについては、ボクの方でどうにかしてみるよ」
「あら、言葉を教えるの?」
「ちょっと違うけど……そんなところかな?」
「わかったわ。それじゃあ、任せるわね」
「うん」
スキルを習得してもらうだけだけどね。
『ねーさま?』
『あ、ごめんね。えっと、この家に住んでもいいって許可が出たよ』
『ほんとか!?』
『うん。それじゃあ、次は言葉をどうにかしないとね。さすがに、そのままだと日常生活に支障が出ちゃうから』
『わかったのじゃ!』
『じゃあ、ボクの部屋に行こっか』
『うむ!』
メルに『言語理解』のスキルを覚えてもらうために、ボクたちは一旦部屋に戻った。
部屋に戻り、まず最初にボクがしたのは、小学生の頃の教科書などを探すこと。
幸い、ボクは捨てないで部屋にある物置にしまっておいたので、意外とすんなり見つかった。
よかったよかった。
『はいこれ』
『これはなんじゃ?』
『これは、この世界の、ボクが住んでいる国の言語について学べる本だよ』
『なんと! これが本?』
『そうだよ。とりあえず、中を読んでみて』
『わかったのじゃ!』
パラっと、メルが教科書を読み始める。
最初は、嬉々として読み始めていたけど、次第に難しい表情になっていった。
『むー、よくわからないのじゃ……。ねーさま、これは、なんて発音するのじゃ?』
『これは、「あ」って発音するんだよ』
「あ……?」
『そうそう。それで、どうかな? 何かスキルを習得できた?』
少なくとも、ボクの予想では、一文字だけでも理解さえできれば、『言語理解』のスキルが獲得できるはず……。
『スキル……? この、『言語理解』っていうスキルのことかの?』
『そうそう!』
本当に習得できちゃったよ。
『これはどんなスキルなのじゃ?』
『これはね、どんな言葉も理解できる、っていうスキルだよ。向こうの世界じゃ、言語が二つしかないから、ほとんど意味がないかもしれないけど、こっちの世界では言語が多いからね』
『なるほど。じゃあ、ねーさまたちがさっき話していた言葉が理解できるのか!?』
『うん。試してみる?』
『うむ!』
「えーっと、じゃあ、メル。ちゃんと、言葉が理解できてるかな?」
「お、おー! わかるし、話せるのじゃ!」
どうやら、ちゃんと日本語が理解できているみたいだね。
よかったよかった。
それにしても、一文字だけでも理解できれば習得できる、なんていうスキルだけど、ちょっと不思議だよね……。
向こうだって、片方の言語は知っていても片方は知らない、って言う人は大勢いるはずなのに、なぜか『言語理解』を習得している人がいないんだよね……。
でも、ボクや師匠、メルはちゃんと習得できているし……もしかすると、他にも何か条件があるのかな?
うーん……あ、もしかして、異世界人かどうか、って言うことが関わってくるのかな?
あっちの世界でのボクは異世界人だし、こっちの世界での師匠とメルは異世界人になる。
だから、一文字だけでも理解できれば、習得できている、ってことかな?
うん。それが一番可能性が高そう。
まあ、確認する術はないんだけど。
「ねーさま! 儂、ちゃんとねーさまのおかーさまと話してみたいのじゃ!」
「そうだね。それじゃあ、もう一度、下に行こうか」
「うむ!」
「と言うわけで、喋れるようになったよ」
「よろしくなのじゃ!」
「( ゚д゚)」
うん。まあ、そんな顔になるよね。
だって、覚えさせてくる、と言って、まだ一時間も経ってないもん。
それどころか、三十分も経ってないんじゃないかな、これ。
そんな短時間で、いきなり日本語ペラペラな状態で来たら、ポカーンってするよね。
ボクも、反対の立場だったら同じ顔になりそうだもん。
「とりあえず、メル、自己紹介して」
「うむ! 儂は、ティリメル=ロア=ユルケルじゃ! 一応、魔王じゃ! よろしくなのじゃ、おかーさま!」
魔王本人なのに、一応ってどうなの?
「お、おかーさま?」
「だって、ねーさまのおかーさまなのじゃろ? ならば、おかーさまじゃないのか?」
「――ッ! さ、最高よぉ!」
「うにゃ!?」
突然、母さんがメルを思いっきり抱きしめだした。
「あぁ、こんなに可愛い女の子におかーさまと呼ばれるなんてぇ! あぁ、可愛いわぁ! 本当に可愛いわぁ!」
「く、苦しいのじゃ……」
「か、母さん! メルが苦しがってるよ!」
「あらごめんなさい。可愛くてつい……」
母さんがメル離すと、メルはボクの所に来て、ぴったりくっついてきた。
「ね、ねーさま、かーさまは儂のことが嫌いなのかの……?」
「いや、あれは嫌いというより、むしろ逆だと思うよ」
「ほ、ほんとか?」
「うん。少なくとも嫌うようなことはないはずだよ。ね、母さん?」
「もちろんよ! 可愛い女の子を嫌うわけないじゃない!」
「ね?」
「う、うむ……」
あー、ちょっと警戒しちゃってるよ……。
まあ、いきなりあんなことをされたら、誰だって警戒するよね……。
ボクだって、小さくなった時はああやって抱きしめられるし……。
あれ、本当に苦しいんだよね。
「それで? メルちゃん、でいいのかしら?」
「うむ、問題ないぞ!」
「じゃあ、メルちゃん。歳はいくつ?」
「0歳じゃ!」
「そっかそっか。……って、え? 0歳?」
「0歳じゃ」
「依桜、マジ?」
「マジです。生まればかりの女の子です」
「え、でも、どう見ても小学四年生くらいよ? 依桜がロリっ娘になった時くらいの大きさよ? あと、知能だって……」
「異世界って、不思議に満ちてるんだよ、母さん」
「な、なるほど……。まあ、いいわ。依桜みたいな、不思議体質もいるわけだし……」
「まあ、あながち間違いじゃないけど……」
原因、先代魔王と、師匠だし……。
異世界が原因と言えば異世界が原因。
「でも、そしたらメルちゃんの学校はどうすればいいのかしら? さすがに、この見た目で学校に通っていないのは変よね?」
「そうだね。思考能力を考えると、ボクたち同じくらいでもいいと思うけど……さすがに……」
「そうよねぇ……うーん……」
困ったなぁ。
ちょっと勉強すれば高校生くらいにはなれると思うけど……それだと、年上ばかり、って言うことになりかねないし……いや、それを言ったら小学校に言っても同じようなことだけど。
「ねーさまねーさま。学校、とはなんじゃ?」
くいくい、と袖を引っ張りながら、学校についてメルが尋ねてきた。
「あ、えっと……同じくらいの年齢の子供たちが、同じ場所で勉強をする場所かな?」
「楽しそうじゃ!」
「多分、メルと気の合う子もいると思うよ」
「ほんとか!?」
「うん」
メルって、みんなから愛されるような感じがあるし、別に問題はない気がする。
そうなると、やっぱり小学校かなぁ……。
「行ってみたいのじゃ」
「そうだね……。うん、わかった。ちょっと、相談してみよっか」
「相談? 誰にじゃ?」
「異世界を研究してる人」
と言うわけで、学園長先生の所に、ボクとメルの二人でやってきた。
「なるほどねぇ……。異世界の娘。それも、魔王と来たかぁ……。まあ、依桜君なら不思議じゃないか」
「どういう意味ですか?」
「そう言う意味よ。それで、えっと、メルちゃんかしら?」
「うむ!」
「とりあえず、戸籍の方はこちらで何とかしましょう。あとは、学校だけど……まあ、この際だから、依桜君に言っても問題はないわね」
なんだろう?
何かあるのかな?
「実を言うと、この学園、高等部だけじゃなくて、中等部初等部を新設しようとしてるのよ」
「え、そうなんですか!?」
「ええ。ほら、一応この学園って、偏差値が高めでしょ? なら、少しでも入りやすいように、小学校から作っちゃおうかなー、って思っててね」
「な、なるほど……それで、どうして突然?」
「別に、突然じゃないのよ。一応、この新設計画、結構前からしてて、今も進んでてね。というか、完成間近よ」
「ええ!?」
何その、急展開すぎる情報!
タイミング良すぎない!?
「ほら、最近学園内の工事を色々なところでやってるでしょ? 敷地外もそうだし」
「言われてみれば……」
思い当たる節がある。
体育館とかプールとか、講堂とか、あと何もない敷地を工事していたり、学園周辺の至る所を工事していた気が……。
え、あれ、そう言うことだったの!?
「で、でもなんで今更?」
「さっき言ったことと、あとは単純に……私が、ロリやショタを見たかったから」
「……」
未だかつて、そんなしょうもない理由で、大掛かりなことをした人がいただろうか。ボクは、この人以外に、知りません。
……もうやだっ、この人っ……!
「だって、小さい子供って可愛いじゃない? やっぱり、間近で見たいし―?」
「見たいしじゃないです!」
「冗談よ冗談。一割くらい」
「残った九割本気じゃないですか!?」
「細かいことは気にしない」
「細かくないです!」
この人、本当になんで学園の運営とかできちゃってるんだろう……?
「まあ、この際私の願望は置いておいて」
「あ、願望って認めてるんですね」
「一応、今月中には完成するのよね。一応、新年度から開校するする予定よ」
「早すぎません……?」
「いや、二年くらい前から進めてた計画だもの。むしろ遅いと思うけど?」
二年も前からやってたんだ……。
「ねーさま、このおねーさんの言ってることがよくわからないのじゃが……」
「あー、ごめんね、メル。でも、わからなくてもいいことしか言ってないから、気にしなくていいよ」
「わかったのじゃ」
うん。素直でいいね。
「まあ、そんなわけで、一応開校するわけよ」
「でも、生徒はどうするんですか? さすがに、いないんじゃ……?」
「一応、全国の小学校と中学校には、少し前から伝えていたのよね」
「ぜ、全国ですか?」
「ええ」
「でも、さすがに、そんな小さいうちじゃ、集めるのは難しいんじゃ?」
「そのための、学生寮」
「あれ? この学園に寮なんてありましたっけ……?」
たしか、それらしきものは無かったはずだけど……。
「もう準備はできてるわ」
「つ、作ったんですか?」
「ええ」
「でも、学園内にそんな場所なかった気が……」
たしかに、この学園はすごい広いけど、そんな場所あったかな……?
「学園の外よ」
「と言うことは、美天市内ですか?」
「そうそう。ある程度のアパートやら、マンションやらを買い取って、準備してたの」
「え、えぇーー……」
なんかもう、驚く気になれない……。
この人、いつの間にそんな大掛かりなことしてたの……?
全然気づかなかったんだけど……。
考えてみれば、学園内の工事は、色々なところを少しずつしていたんだよね……もしかして、それが原因……?
「そ、それで、受験したいって言う人はどれくらい……?」
「そうねぇ……一応、転入などもOKにしてるのよ。ちなみに、一学年七クラスで、一クラスにつき、四十人よ。まあ、この辺は今の高校生と変わらないけど」
「そ、そうなんですか」
「それで、受験人数だったわね。えーっと……まあ、ざっと一万人くらいいたわね」
「い、一万人も!?」
「ええ。だって、最終的に入れる人数、二千五百二十人ですもの」
つい先日の、一億人に比べたら、そこまで多いように思えないけど、受験のためだけにそんなに集まるなんて……やっぱりおかしいよ、この学園。
「ちなみに、もう受験は終わってるわよ」
「い、いつの間に……」
「一応、全国から応募があったから、オンラインでの受験にはなったけどね。まあ、問題ないしよ」
「そ、そうですか」
「それで、話を戻すとして……メルちゃんは、初等部の四年生くらいに編入になるかしらね?」
「え、いきなり四年生ですか?」
「もちろん、入学までの間、補習のような形で勉強することにはなるけど……」
まあ、当然と言えば当然だよね。いきなり四年生になって、授業について行けるわけないし。
「メル、どうする? あまり時間はないけど……」
「やるのじゃ! 学校とやらに行けるのなら、頑張るのじゃ!」
行くかどうかを尋ねたら、即答してきた。
やる気満々みたいだ。
「わかりました。それじゃあ、メルちゃんは……そうね、依桜君の海外の親戚、って言うことにしましょうか。一応、名前は変えておいた方がいいのかしら?」
「あー、そうですね……メルの本名は、結構長めですし、もしそれでいじめに出も発展したら嫌ですし……」
「あら、随分メルちゃんを心配するのね?」
「普通だと思いますよ? まあ、いじめをするような子が現れたら、ちょ~~~っと、お仕置きしちゃうかもしれないですけど」
「……あー、前言撤回。ただの過保護ね」
「か、過保護じゃないですよ」
……多分。
で、でも、普通じゃない? 妹みたいな娘がいじめられていたら、普通お仕置きするよね? 例えば……嫌いな食べ物が食べられるようになるまで、延々と食べさせる、とか。
もし、嫌いなものがなければ、お尻百叩きとか。
それくらいすると思うんだけど……。
「まあ、依桜君が過保護なのはこの際置いておくととして……依桜君の言う通り、いじめに発展したら嫌よねぇ。ちなみに、メルちゃんの本名って、なんて言うのかしら?」
「ティリメル=ロア=ユルケルじゃ」
「あー、確かに長い。となると……やっぱり、男女ティリメル、ってことになるのかしら?」
「ちょっと語呂が悪いし、変ですけど、まあ、それならいいんじゃないでしょうか? どうかな、メル?」
「オトコメ、というと、ねーさまの家名?」
「そうだよ。こっちの世界では、ロア=ユルケルの代わりに、男女姓になるんだけど、どうかな?」
「それがいいのじゃ! ねーさまと同じ家名なら嬉しいのじゃ!」
ボクと同じ家名と言うことで、喜びだすメル。
そう思ってもらえたならよかったよ。
「それじゃあ、戸籍上はそういうことにしておくわね。あとは……勉強する期間だけど、メルちゃんの学力次第になるわね。まあ、一応入学させるって言った手前、仮に身につかなかったとしても、通っている間に勉強したり、依桜君の方で教えてあげれば問題はないでしょう」
「そうですね」
「じゃあ、この話は終わり、と」
というわけで、無事、メルの学校に関することが決まった。
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