第231話 一年生終了

 その日は何事もなく無事に終了。


 なんだかんだで、メルは可愛がられていた。

 お菓子をもらってたね。

 見たこともないお菓子を見て、目を輝かせながらお菓子を食べてる姿は、本当に、可愛かったです。

 リスみたいだった。

 どうやら、お菓子が気に入ったみたいです。


 魔族って太るのかな?

 だとしたら、ちょっと考えないとなぁ。

 うん。今度、カロリーとか少ないお菓子を作ってあげよう。


 日常的には、あまり変わらず、普通に時間が過ぎていった。


 やっぱり、平和だよ。


 まあ、そんなわけで、気が付けば卒業式。


 多分、ボクたちみたいな三年生と関わりのない人とかは、あまり積極的じゃないのは仕方ないけど、この学園は、どちらかと言えば、参加している方の生徒が多い。


 帰宅部の方が少数派かな、この学園は。


 卒業式を在校生の席から眺めていると、泣いているか、涙ぐんでいる人たちが多かった。


 この学園は、色々とあれなものの、かなり楽しいところだからね。思い出も多いだろうし。


 ボクもこの一年は楽しかった……のかな? いや、楽しかった……はず……。

 そう言えば、異世界へ行く前の入学式~九月頭まで何してたっけ?


 三年間も向こうにいたから、忘れてるような……。


 うん、まあ、いいよね。


 何もなかったよう気がするし。

 あったのは、球技大会くらいだった気がするし。


 うーん、卒業式かぁ……。


 ボクも二年後、向こうの席に座ってるんだろうなぁ。


 そう思うと、あと二年しかこの学園にいられないんだと思うと、短いなと思ってしまう。

 積極的に思い出を作りにいった方がいいかな。

 まあ、すでに色々と思い出が来てるんだけどね。


 少しだけ、色々と振り返りながら卒業式に臨んでいたら、気が付けば、卒業式は終わりを迎えていた。



 卒業式が終わると、三年生の人たちは、学園の敷地内で色々な話をしていた。

 一応今日はホワイトデーとあって、バレンタインのお返しをしている人たちもちらほら見かける。

 中には、顔赤くしながら、見つめあってる人もいる。上手くいったんだね。


「依桜」

「あ、晶。どうしたの?」

「これを。ホワイトデーのお返しだ」

「わぁ、ありがとう!」


 晶がホワイトデーのお返しと言うことで、小さな白い紙袋を渡してきた。

 すっごく嬉しい!


「依桜、オレからもだぜ」

「態徒も? ありがとう!」


 うわぁ、まさかお返しがもらえるなんて思ってなかったよ。

 あれは、日頃の感謝って言う部分もあったから。

 だから、お返しは別によかったんだけど、もらえると嬉しいなぁ。


「依桜」

「いーお君!」

「未果に女委」


 未果と女委も合流してきた。


「はいこれ。ホワイトデーのお返しよ」

「わたしもー!」

「え? いいの? 二人は男子じゃないのに」

「いいのいいの! 依桜君から、バレンタインにもらってるしね! お返しは当然!」

「そうね。日頃から助けられてるし、受け取っといて」

「でも、ボク二人のお返し用意してない……もらったのに……」

「気にしないで。依桜からは、現実でも、ゲームの中でももらってるから。それのお返しだと思って」

「そうだよー。いっつももらってばかりだからねー」

「未果、女委……うん。ありがとう、二人とも」


 優しいなぁ……。

 ボクなんか、お返しを忘れていたのに……。


「まあでも、大変なのはここからだろうけどな」

「え? それってどういう――」


 と、ボクは晶に聞き返そうとした時だった。

 唐突に、地響きに似た音がだんだんと近づいてきて、次の瞬間、


『『『男女!』』』

「ひゃぁ!?」


 大勢の男子がボクの所に集まってきていた。

 な、何!? どういうこと!?


「あー、やっぱりか……」

「まあ、今日が卒業式であり、ホワイトデーってことを考えると、こうなっても不思議じゃないわね」

「にゃははー。依桜君も大変だねぇ」

「うわー、あれはこえぇわ」


 み、みんなはなんで見てるだけなの!?

 お、落ち着こう。

 とりあえず、なんでこんなに人がいるのかを訊かないと……。


「あ、あの、えっと、なんでしょうか……?」


 少なくとも、目の前にいる人たちは、ブレザーにコサージュを付けているから、三年生だと思うので、敬語に。

 まあ、三年生じゃなくても、こんな風に突然来られたりしたら誰だって敬語になると思うけど。


『頼む、俺と……付き合ってください!』

『いや、俺とお願いします!』

『ここは俺と!』

「ふぇ……?」


 思考が止まった。

 え、何? えっと……これは、告白、ってこと……?

 目の前には、大勢の男子がボクに手を出して頭を下げている。

 そんな、目の前の人たちに対してボクは、


「いや、えと、あ、あの……ご、ごめんなさいっ!」

『『『ぐはっ!』』』


 フった。


 だ、だって、ボク、さすがに知らない人を好きになるなんてできないし……。そもそも、どうも男の人に対して、恋愛感情がないような気がするし……。


 ドキッとこないんだよね……。


 そして、ボクにフラれた人たちは、みんな胸を抑えて倒れた。


「そりゃ、ああなるわな」

「そうね。依桜、最近百合の片鱗があるし」

「そもそも、元男なのに、百合は変じゃないか? 精神的部分で言ったら当然と言えるんだが……」

「TS百合、とは言うけど、普通に中身だけ見たらごくごく普通の恋愛になるからねぇ。まあでも、依桜君の場合、色々と怪しいなー、って部分はあるけど」


 なんだろう、みんなが離れたところで何か話してるような……。


 って、それよりも、目の前のこの惨状をどうすればいいんだろう、ボク。

 死屍累々なんだけど……。


 や、やっぱり、フラれた側ってダメージが大きいのかな……? お、大きいよね……。

 だって、かなり勇気を出して告白したわけだし……あぅぅ、心が痛いよぉ……。


「え、えと、あの、ぼ、ボクなんかと付き合ってもいいことはないと思いますし、きっと、ボク以上に相性のいい人が見つかると思うんです。それに、まだ十八歳ですよ? きっと、大学や会社でいい出会いがあると思います。だから、えっと……が、頑張ってください!」

『『『め、女神かっ……!』』』


 よ、よかった、とりあえず起き上がってくれた。

 世の中には遅い春、なんて言うものがあるけど、遅くても春は春。いい出会いがあれば、時間なんて関係ないもんね。

 いい人が見つかるよう、祈っておこう。


「うわー、止め刺すどころか、反対に励ましてるわ。しかもあれ、本気で言ってる上に、傷つかないように言ってるわ」

「さすがと言うかなんというか……。ああやって、信者を増やしているんだな、依桜は」

「その内、宗教とかできるんじゃね?」

「実際、ファンクラブが宗教みたいなものだと思うけどねぇ~」

「「「たしかに」」」


 うん? なんか今、みんなが何かに納得したような気が……気のせいかな?

 はぁ、でも、大変だよ……。



 あの後、まさかの女の子の方からも告白されました。


『依桜ちゃん、私と付き合って!』

『私も、お願いします!』

『わたしも!』


 こんな風に。

 男子の方とあまり変わらないような……?

 で、でも、なんだろう。

 普通にこうして告白されるのは嬉しいんだけど……


「「……」」


 なぜか、未果と女委から刺すような視線が来てるんだけど……。

 顔は笑顔なのに、なんでそんなに痛い視線を向けてくるの?

 ボク、何かした?


「あ、あの……ご、ごめんなさい!」


 なんだか、未果と女委が怖くて、フった。

 と言っても、未果と女委が怖い視線をボクに向けなくても、フることに変わりはなかったんだけど……。


 少なくとも、今は恋愛をするつもりはないし……それにやっぱり、知らない人と付き合うなんて、ボクにはできないよ……。


 これで、相性とかが合わなかった場合、傷つけちゃうかもしれないんだもん……。

 それはさすがに可哀そうだし……それに、何と言うか、ボクは色々と普通から外れちゃってるし……精神的にも、肉体的にも。


 だから、何と言うか……付き合えない。


 そんな、ボクにフラれた女の子たちは、やっぱりだめかー、みたいに、苦笑いを浮かべていた。


『突然ごめんね。チャンスは今日しかない! と思ったからつい』


 聞けば、他の人も理由は同じだそう。

 う、うぅ、心が痛い……。


 そんな、涙をこらえながら苦笑いをされると、本当に心が痛くなるよ……。

 で、でも、これくらいの痛み、フラれた人たちに比べたら可愛いものなはず……。


 フった人数が三年生ほぼ全員だとしても、全然大丈夫……。


『それじゃあ、卒業まで頑張ってね、依桜ちゃん!』


 最後にそう言って、先輩たちが去っていった。

 い、いい人だ……。

 変人しかいない学園だけど、それでもいい人は多かった。



 それからほどなくして、自然と解散となった。


 あの後、クラスメートのみんなからバレンタインのお返しをもらってしまった。


 すごく嬉しいんだけど、量がとんでもないことになったので、帰ってる時に、こっそり『アイテムボックス』に収納しました。


 本当に、『アイテムボックス』楽だよ。

 どんなに大荷物でも、楽々簡単に運べちゃうんだもん。

 いい魔法だよ。


 ちなみに、今日は卒業式だったので、メルは家でお留守番。

 一緒に行きたがっていたけど、さすがに卒業式に連れていくわけにはいかなかったからね……。

 ちょっと駄々をこねられたけど、そこは心を鬼にしました。

 なんだかんだで、メルは素直ないい娘なので、最終的には言うことを聞いてくれたけど。


 帰ったら、美味しいお菓子を作ってあげよう。



 卒業式が終わってから数日。


 三月十九日、終業式。


 今日で一年生は終わり。


 長かったようで短かった……なんて思えるわけはなく、ボクからしたら、三年間も一年生をしていた気分なんだけど。


 うーん、本当に長かった……。


 でも、これで次の年からは普通の二年生として過ごせるはず。

 きっと、おそらく、多分。


 ……だ、だよね?


 すごく心配になりながらも、終業式は普通に終わった。



「いやぁ、次来るときは二年かぁ」

「そうね。なんだか、短かった気がするわね」

「そうだな。特に九月からは、色々なことがあったからな。本当に、あっという間だった」

「それにしては、一月~三月って、やけにさらってしてなかった? なんかこう……何もやることがなくて、すっ飛ばしたような、そんな感じの」

「何言ってるのよ、女委。色々あったじゃない、スキー教室とか、節分とか、バレンタインとか色々」

「んー、だね!」


 終業式が終わった後、ボクたちは教室でいつものように雑談をしていた。

 一年生として話すのは、今日が最後だからね。

 まあでも、結局進級するだけだから、そこまで感傷に浸ることはないんだけど。


「でも、態徒は進級できてよかったよね」

「そうね。テストとかほんっと赤点すれすれだったものね」

「ほんとだぜ。マジで留年を覚悟したぞ、オレ? はっはっは!」

「態徒君、笑い事じゃないと思うよ?」

「そうだぞ。来年は、もう少し勉強をした方がいいぞ」

「面目ねぇ」


 晶がそう言って、態徒は申し訳なさそうにした。


「でも、みんな無事に進級できるようでよかったよね」

「できれば、同じクラスがいいわね、全員」

「そうだな。他クラスになると、寂しいものがあるからな」

「でも、五人全員同じクラス、って結構確率低いよねぇ」

「だな。まあでも、依桜がいるし、大丈夫なんじゃね?」

「ま、まあ、確率が低ければ当たりやすくなるからね」


 できれば、ボクもみんなと同じクラスがいいよ。

 みんなと一緒が一番楽しいから。

 だから、神様。どうか、同じクラスにしてください。


「そういや、春休みの予定とかあるのか? お前ら」

「ボクは、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行くよ」

「私も、ちょっと旅行があるわ。と言っても、二泊三日程度だけど」

「わたしは、同人誌を書きまくる予定だよー」

「俺も一度海外に行くつもりだな」

「ああ、お母さんの?」

「ああ」

「ってことは、やっぱみんな予定があんのかー。オレも、道場の方で色々やんなきゃいけないからなー」


 みんな、それぞれ予定があるんだ。

 まあ、春休みだしね。


 一応宿題は出されたけど、そこまで量はなかったからもう終わらせちゃったんだよね。

 最終日辺りに、態徒が泣きついてきそうだけど。


「ねーさま!」

「メル、お帰り。今日もちゃんと勉強してきた?」

「うむ! もう三年生の内容をやってるのじゃ!」

「早くない!?」

「そうかの? 結構簡単だったぞ?」

「そ、そっか。これなら、問題なく学校に通えそうだね」

「うむ!」


 メルは結構頭がいいみたいだね。

 それなら、心配はいらないかな。

 これなら、三月が終わる前に事前授業が終わりそうだよ。


「ねーさま、儂はお腹が空いたのじゃ……」

「あ、もうすぐお昼か。時間もちょうどいいし、みんなでお昼ご飯を食べに行く?」

「「「「賛成!」」」」


 ボクの提案に、みんなが賛成し、ボクたちはお昼ご飯を食べに、学園を出た。

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