第232話 春休み 上

 春休みが始まり、気が付けば三月下旬。


 みんなとなかなか予定が合わず、遊べない日が続いた中、ボクは家族でおじいちゃんとおばあちゃんの家に向かっていた。


 春休みと言っても、教師に休みはない、らしいんだけど、学園長先生が気を利かせてくれたのか、師匠を休みにしてくれた。


 色々と手伝ってもらってるお礼とのこと。


「いやー、うちもかなり大所帯になってきたなぁ」


 運転中の父さんがふとそんなことを言い出した。


「そうねぇ。依桜が異世界に行ってから、ミオさんやメルちゃんが住みだしたものねぇ。賑やかでお母さん嬉しいわ~」

「そう言ってもらえると、あたしとしてもありがたいよ」


 師匠も久しぶりの休みと言うことで、ちょっと嬉しそう。


 服装はさすがに奇異にみられると言うことで、Tシャツにカーディガン、それからジーンズを穿いている。

 いつもよりも露出が少なくていいよ。


「この四角い箱はすごいのぅ。どんな魔法で動いておるのじゃ?」


 メルは、車に興味津々で、そんな疑問を口にしていた。


「メル、これは、車って言って、動力は魔法じゃないよ」

「そ、そうなのか?」

「うん。エンジンって言う、機械かな?」

「機械……たしか、よくねーさまが掃除をするのに使って、あのゴー! って音がするあれか?」

「そうだよ」

「こっちの世界はすごいのじゃなぁ……魔法がないのに、ここまで発展しているとはのぅ」


 それを言ったら、科学がないのに、発展している向こうがすごいと思うよ、ボク。

 魔法っていう、不思議なもので生活が高水準になってたんだもん。


「こうして見ると、男はお父さんだけになっちゃったわねぇ。ハーレム的な状況になってどう思ってるの、あなた?」

「いやぁ、はっはっは! 個人的には、すごく嬉しい光景なのだが、俺は母さん一筋だからなぁ」

「あら、いいこと言うじゃない」

「当然。……そう言わないと何されるかわからないし」


 今、父さんの本音が聞こえたけど……聞かなかったことにしよう。



 しばらく車に揺られ、だんだんと人工的な建物が減っていき、代わりに自然が増えてきた。

 窓の外を見れば、田んぼや畑が多く点在し、澄み切った大き目の川も流れている。


 早咲きなのか、桜も咲いていて、とても綺麗。


 この辺りの家は、基本的に木造で、暖かみがある。


 うん。やっぱり、こう言う田舎はいいなぁ……。

 山もあるし川もある。

 自然豊かでいい場所だと思うよ。


「お義父さんとお義母さん、元気かしら」

「多分元気だろ。父さんと母さんは、普段から畑仕事をしてるわけだしなぁ」

「それもそうね」


 おじいちゃんとおばあちゃんかぁ。

 会うのは、夏休み以来かな。

 毎年、夏休みと春休みにしか行かないから、なかなか会えない。

 今となっては、やろうと思えば、走って行けるんだけど。


「でも、今の依桜を見て、腰抜かさないかしら、二人とも」

「それは心配だが……あの二人は、結構孫可愛がりだったから、意外とすぐ受け入れるんじゃないか?」

「私たちがそうだったし、そうかもしれないわね」


 そっか、二人に今の姿を説明しないといけないんだっけ……。

 だ、大丈夫かな。

 信じてもらえるといいんだけど……。

 それに、今回は師匠とメルもいるから、余計心配。

 少しだけ、不安に思いながらも、車はおじいちゃんとおばあちゃんの家へと向かって走る。



 そして、お昼頃に到着。


 一階建ての結構広めな家。

 裏には山があって、なんでも所有しているそう。

 昔、馬を飼ってた、なんて噂もあったりする上に、かなりの広さの土地を持っていたらしいんだけど、それを街に寄付した、なんてことをしていたらしいです。

 そう考えると、父さんって結構お金持ちの家に生まれたのかな?

 どうなんだろう。


「おぉ、源次に桜子さん。よう来たなぁ」


 と、車を駐車場に停めて車を降り、荷物を持って家に行くと、ちょうどおばあちゃんが畑仕事から帰ってくるところに出くわした。

 いきなり、会ったらさすがにまずいということで、ボクは父さんたちに呼ばれるまで、車で待機。


「久しぶり、母さん」

「お久しぶりです、お義母さん」

「元気そうで何よりだよ。じいさんやー、源次たちが帰って来たぞー」

「おーう。久しぶりだなぁ、源次に桜子さん」

「父さんも、元気そうで何よりだよ」

「畑仕事ですか?」

「んだよぉ。して、依桜はどーした? 久々に孫に会えるとおもぅて、楽しみにしとったんだが……」

「んだなぁ。わたしも会いたいのぉ」


 つ、ついに来た。


「あー、えっと、父さんに母さん。あんまり驚かないでほしいんだが……」

「なんだぁ? もしや、依桜に何かあったんか?」

「なに!? そ、それは一大事だぁ! ま、まさか、事故とかかぁ?」

「事故じゃない。事故じゃないんだが……まあ、見てもらった方が早いな。依桜―」


 父さんに呼ばれ、ボクは車から降りると、二人の前に姿を見せた。


「ひ、久しぶり、おじいちゃん、おばあちゃん」

「おや、この綺麗なお嬢さんはどなただぁ?」

「母さん。依桜、なんだ、この娘は」

「おかしいなぁ。確か、わしの記憶では、依桜は男だったと記憶しとるんだがな……」

「あー、えっと、色々とあって、依桜が女の子になっちゃいまして……こんな姿ですけど、依桜です」

「あんれまぁ。本当に、依桜なのかい?」

「う、うん。ちょっと、複雑な事情があって、色々と変わっちゃったけど、ボクだよ、おばあちゃん」

「な、なんとまぁ……えらく別嬪さんになったんだなぁ、依桜」

「んだなぁ。わしらの可愛い可愛い孫が、ここまで可愛くなるとはなぁ」


 あ、あれ? なんか普通に順応しちゃってるような……。


「え、えっと、ボクが言うのもあれだけど、二人とも、信じてくれるの?」

「そりゃそうだ。源次はともかく、桜子さんや依桜が言うんなら、本当だろうからのぉ」

「ちょ、母さん!?」

「とりあえず、事情を聞かせてもらえると、わしらとしてもありがたい」

「ええ、もちろんです」

「んだば、家にお入り」

「あ、ちょっと待ってお義母さん。実は、もう二人、一緒に来てる人がいるんです」


 中に入ろうと促すおばあちゃんを、母さんが引き止める。


「二人?」

「はい。ミオさん、メルちゃん」


 と、母さんが師匠とメルを呼ぶと、車の中から、二人が出てきた。


「おやおや! 綺麗な人だなぁ。しかも、可愛らしい娘まで……源次の愛人とその子かの?」

「違うぞ!? こっちの黒髪の人は、依桜の恩人で、こっちの小さい女の子はメルちゃんと言って、まあ、養子だ!」


 おばあちゃんのとんでもないセリフに、慌てて父さんが訂正を入れる。

 愛人とかはまずいよ!


「源次おめぇ、いつの間に家族を増やしたんだ?」

「それも含めて話すから、早く中に入ろう! さっきからご近所さんたちが見てるから!」

「それもそうだべな」

「さ、なーんもないところだが、ゆっくりしてってな」


 父さんとおばあちゃんたちのやり取りに、師匠とメルは思わず笑っていた。



 それから、お茶を飲みながら、おじいちゃんとおばあちゃんにボクが女の子になった事情を説明。

 一応、師匠とメルも向こうの世界の住人であると教える。


「なるほどなぁ。てーことは、依桜は神隠しにあって、その時に色々と助けてもらったんが、そこにいる、ミオさんと言うわけだな?」

「うん。そうだよ」

「んで、そっちにいる可愛らしい女の子が、最近依桜が連れてきた子だと」

「うん」

「我が孫ながら、えらい人生になっておるなぁ」

「そうだな、ばーさん」


 車内で話していた通り、本当に受け入れちゃったよ。

 父さんの能天気な部分は、この二人譲りなんだろうなぁ……。


「まあともかく、ミオさん、うちの孫を助けていただき、ありがとうございました」

「あ、いや、あたしとしてもほとんど気まぐれみたいなものだったから、礼はいいよ」

「いい人だのぉ、ミオさんは」

「メルちゃんも、自分の家だとおもーて、くつろいでいってなぁ」

「わかったのじゃ!」

「うんうん、元気で何よりだよ」


 どうやら、師匠とメルの二人は、この二人と打ち解けられたみたいだね。

 よかったよ。

 正直、こっちの世界の人間じゃないことを考えたら、受け入れてもらえるかわからなかったけど、何とかなってよかったよ。


「さてと……依桜、少し歩いてきたらどう? 久しぶりだし、ミオさんとメルちゃんに町を案内してあげたら?」

「それはいいな。あたしもお願いするよ」

「儂も!」

「わかりました。それじゃあ、ボクたちはちょっと町を歩いてくるね」

「ああ、きぃつけてなー」

「うん。行って来ます」



 というわけで、三人で町を散歩することになった。


「ここは、自然が多くていいな。気持ちがいい」

「儂も、クナルラルとは違った雰囲気があって好きじゃなぁ」


 町を歩いていると、二人がそんなことを呟いた。

 気に入ってくれたみたいだね。


 ボクとしても、この町は好きだから、そう思ってもらえて嬉しくなる。

 この町には小さい頃から何度か来ていたため、知り合いもそれなりに多い。


 というより、おじいちゃんとおばあちゃんの顔が広いから、この町にいる人とはほとんどが顔見知りだったり。


 商店街の関係が近いかな?


 でも、こんな姿になっちゃったから、多分わからないよねぇ……。

 ちょっと寂しいかも。


「しかしまあ、お前の祖父母はすんなり信じたな」

「あはは……ボクも、まさか信じてもらえるとは思ってませんでしたよ。こんな突拍子のない話、普通は信じませんって」

「そうだな。あたしとしても、まさか異世界に来ることになるとは思ってなかったから、最初は驚いた」

「儂もじゃ!」

「メルは、ボクに飛びついてきて、それでこっちに来たよね? 突然ってわけではないような」

「細かいことは気にしないのじゃ、ねーさま!」

「そ、そっか」


 それにしても、ボクたち三人、全員、向こうに関わってるからなぁ。

 なんか不思議。


 師匠は異世界人だし、メルは人って言うより……魔王だし。


 世界最強の神殺しの暗殺者と、生まれたばかりの魔王に、異世界では勇者と呼ばれてるボク。

 うん。何この三人組。

 自分でも奇妙な三人組だと思うよ、これ。


「ところでイオ。なんか、妙に視線を感じるんだが」

「それはそうですよ。だって、師匠は美人ですし、メルもすごく可愛いですから。それに、ボクは銀髪碧眼で目立ちますからね」

「それはそうなんだが……特に、お前とメルに視線が行っていないか?」

「そうですか? メル、どう?」

「んむぅ、言われてみれば、ちょっぴり視線が多いかもしれないのぉ」

「メルがそう思うのなら、そうなのかな?」


 でも、言われてみればたしかに、視線が多いように思える。

 やっぱり、髪色とかが目立つのかなぁ。

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