第284話 五月五日:異世界旅行8
翌日の朝。
『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHH! 朝ですぜぇぇぇぇぇ! 起きてください! 朝ですよ! カンカンカンカン! 朝です朝です! さあさあ、希望の明日へ向かって、レッツ異世界旅行! ハリーハリー! イオ様ハリー! 起床の時間ですよ! さっさと起きないと、気持ちよさそうにしている上に、若干涎垂らしてるイオ様の可愛い可愛い寝顔の写真が、未果さんたちに送られちゃいますぜぇ!』
「それはやめて!?」
朝から、かなりの騒音を放つアイちゃんに起こされました。
というか今、普通に脅しかけてきたんだけど!
それよりも、どうやって撮ったの!?
も、もしかして、たまたま取りやすい位置にあったとか……?
あ、待った。たしか、寝る前に、
『あ、イオ様。スマホ、ちょっと立てかけるように置いてください』
って言われたっけ。
それで、画面がボクの方を向くようにしておいたんだけど……あの時は、何か不審者が入ってこないか見張るためとか何とか言ってたけど……もしかして……
「……ボクの寝顔を撮るために、置き方指示したの?」
『いえいえ。そのようなことがあろうはずがございません。もちろん、イオ様がすご~~く心配で心配で、見張りをしていただけですとも、ハイ』
「……じゃあ、ちょっと、フォルダ見せてもらうね」
怪しく感じたので、ボクはスマホを手に取ると、フォルダを操作。
すると、
「……『相対性理論』?」
こんな仰々しい名前のフォルダあったっけ?
ちらっと、右下を見れば、
『ひゅ~♪ ひゅひゅ~~♪』
アイちゃんが口笛を吹いてました。AIって、口笛吹けるんだ。
……それにしても、このフォルダ、怪しい……。
うん。見てみよう。
『あ、イオ様! その先には、心霊系の写真が!』
「その手には乗らないからね。絶対、ここに何か――ひぅっ!?」
フォルダを開いて、一番上の写真を開いた瞬間、そこに写っていたのは、頭から血を流して、顔が蒼白で、鬼の形相でこっち睨む女の人の写真でした。
「き、きき……きゃああああああああああああああっっっ!」
……朝から、特大の悲鳴が響き渡りました。
「う、うぅ……こ、怖かった、よぉっ……ひっく……!」
『だから、心霊系の写真があると言ったのに……』
「だ、だってぇ……」
『イオ様が心霊系が苦手なのは知ってましたけど、まさかあの程度で泣くほどとは……』
「な、泣いてないもんっ……泣いてないもんっ……ぐすん……」
『いや、泣いてるでねーですか』
ち、違うもん……これは、目から汗が出てるだけだもん……。
ぜ、絶対に、泣いてるとかじゃ、ないもん……。
『いやはや、これが世界最強の暗殺者の弟子とは……。昨日はあんなにかっこよかったというのに、たった一枚のちょっとした恐怖系写真で泣くとは』
「な、泣いてないっ、もんっ……!」
『か、可愛いっ……! くっ、これが、元男の娘だというのか……!』
「か、可愛くないもん……ふ、普通、だもん……」
『いやあの、すでにものっそい可愛いんですが。正直、私が人間で、尚且つ、男だったら、ついつい襲っちゃってるところですよ』
「おそ、う……?」
『……あれ、通じてない。……あ、そう言えば、イオ様って、超ピュアでしたっけ……。今度、そう言う映像も仕込んでおこうかなと思ったんですが……やめておきましょう。天然記念物ですし……』
「天然……?」
『あ、いえいえ、こっちの話です。あの、とりあえず、泣き止んでもらっていいですか?』
「泣いてないっ、もんっ……!」
『……』
ちょ、ちょっと怖くて、目から血が出てただけだから……。
……で、でも、本当に怖かった……。
うぅ、夢に出てきそうだよぉ……。
結局、十分以上かかりました。いつもの調子になるのに。
調子も戻り、アイちゃんに尋ねる。
「そ、それで、なんで、あんなフォルダが……?」
『いえね? イオ様のお化け恐怖症と、とあることに関する知識を入れようかなーとか思っていたんですが……なんだか、可愛さが激減しちゃいそうだったのでやめました。イオ様の個性! それが無くなるとか、人類の損失ですよ!』
「いや、何を言ってるのかわからないんだけど……」
『えぇぇぇ? 普通、わかるところですぜ? ま、イオ様ですからね! 色々と大人っぽい部分もありますが、やっぱり、一部はまだまだ、子供ですねぇ~~?』
「…………チェンジするけど、いい?」
『すんません』
「よろしい」
なんだか、アイちゃんとの付き合い方がわかってきた気がする。
……まあ、アイちゃんをチェンジする気は、ボクにはないけど。
だって、なんだかんだで色んなことを教えてくれるし、言動はちょっとだけイラッとくる時もあるけど、いいAIと言えば、いいしね……。
それに、一人の時の話し相手にもなってくれるからちょうどいいというか……ね?
「まったくもぅ……。アイちゃん、朝起こすときは、普通に起こして? さすがに、いきなり大音声で起こされると、心臓に悪いよ」
『いやぁ、あはは! ついね?』
「つい、じゃないよ。普通に起こしてくれれば、ボクもちゃんと起きるから」
『うぃす! 了解っす!』
「ほんとかなぁ……」
なんだか心配になりつつも、普通に起こすという約束をしたので、多分大丈夫なはず。
『それじゃあ、旅行の続きと行きましょう!』
「うん、そうだね」
……あれ? 何か大事なことを忘れているような……うーん……まあ、忘れちゃったし、多分そこまで大事な物じゃないよね。
『よし、写真は永久保存』
『『『ありがとうございました!』』』
朝、朝食を宿屋で食べて、旅行の続き。
村を出る際、村の人たち全員でお礼を言われながら、見送りをされました。な、なんだか恥ずかしい……。
ボクは軽く会釈をしてから、そそくさと村を出ていきました。
『いやぁ、人気者は大変ですねぇ?』
「や、やめてよぉ……。ただちょっと、悪い領主さんをお仕置きしただけだよぉ」
『……普通、それは世間一般では、ちょっと、とは言いませんよ。結構大それたことですからね? 権力に能力がないと、絶対できませんからね?』
「そ、そうかな……?」
『そうですよ』
そうなんだ……。
でもボク、暗殺者時代は、よく悪徳貴族の人たちにお仕置きしてたし……ちょ、ちょっと感覚がおかしくなってるのかな?
『にしても、旅行しに来ただけなのに、二日目でいきなり面倒ごとに巻き込まれるって、本当に面白い体質してますよねぇ~。トラブルホイホイってやつですかね?』
「ボクをGホイホイみたいに言うのやめて……」
『でも、似たような物ですよね? なにせ、ちょっといるだけで、そこにトラブルが舞い込んでくることが多いわけですし?』
「そ、そうかもしれないけど……」
否定できない……。
アイちゃんの言う通り、ボクにはいつも変なことに巻き込まれる。それこそ、アイちゃんが言ったように、そこにいるだけで、トラブルが……。
『とにかく、イオ様少々、用心をした方がいいかもしれませんねぇ。と言っても、今更感半端ない忠告ですが』
「そ、そうだね……」
たしかに、今更、って感じがする忠告だよ……。
だって、去年の九月にはもう、すでに色々なことに巻き込まれていたわけだしね……。
どうしよう。まだ三日目なのに、かなり心配になって来た。
「ま、まあ、さすがに……さすがに次の場所では、ない……よね?」
『さあ、どうでしょうね?』
……ないよね?
そんな心配をしつつ、次の街へ。
まあ、何もないと思っていた……というより、期待していたんだけど……
『勇者様だ! 勇者様が来たぞ!』
『勇者様―――!』
『ありがとうございました!』
「…………えぇぇぇ?」
なぜか、ボクは街の人たちからすごく歓迎されていました。
というか……なんで、ボクの正体がすでにバレてるの?
え、待って? たしか、ここまで来るのにすでに半日経ってるけど……その間に一体何が……。
『勇者様!』
と、いきなり子供が出てきた。
……あ、あれ? この子……ボクが助けた子供じゃ……。
『勇者様、子供を助けてくださり、ありがとうございました……』
『俺の所もです。本当に、なんとお礼を言っていいやら……』
……あ、あー、なんとなく理解した。
昨日助けた子供たちの住んでいた場所って、この街だったんだ……。
全員ってわけじゃないと思うけど、半数近くはここだったんだろうね。
でも……でもさ、ボク休み休み来てたけど、子供たちなんて……あ。そう言えば、途中馬車が何両か通っていったような……。
もしかして、あの中にいたのって……子供たち?
そう言えば、あの場にいた人たちは、ボクが勇者だって知ってるんだっけ……。
も、盲点だった。
いや、むしろこんなこと予想できるわけないよ!
というか、早くない!? 昨日の今日で、いきなり住んでいる場所見つけちゃったんだけど! どうなってるの!?
こ、これに関しては、後日王様に尋ねよう。絶対。どうやったのか、すごく気になるもん!
い、いや、今はそうじゃなくて、目の前のことに集中……。
「え、えっと、もしかして、君たちが、その……ボクが勇者だ、って言ったのかな……?」
『うん!』
『だって、勇者様に助けてもらったんだもん!』
『お父さんたちに、自慢したくて』
そ、そうですか……。
じ、自慢、ね……。
まあ、子供だしね……。普通、勇者と言えば、子供からすれば憧れの存在なわけで……そんな人に助けてもらったら、子供は自慢したくなるよね……。
いや、ボク自身、全然憧れになれるような存在じゃないけど。
子供たちは、勇者がかなり過酷なものであると知らないんだろうね……。
今は知らなくてもいいことだけど、大人の人たちは、絶対に知っているはず。
だけど、あえて教えないんだろうね。当たり前だけど。
この世界に勇者、という名の職業はない。
まあ、魔王は存在しているけど。
魔王、職業なんだ、って最初は思ったけどね……。
この世界で言う勇者って、召喚者の事を指すらしいけどね。
『さあ、勇者様、こちらへどうぞ!』
「え、あ、はい」
なんて、色々と考えていたら、唐突に一人の六十代くらいのおじいさんについてくるよう言われ、ボクはおじいさんの後について行く。
おじいさんに案内されたのは、やたら豪華な宿泊施設の一室。
なんでも、
『この街で一番のお部屋をご用意いたしました! どうぞ、ごゆっくり!』
だそうです。
いや、あの……クイーンサイズのベッドを一人で使うのって、結構辛いんだけど……。
無駄に、天蓋付きなんだけど……。
ど、どうしよう。こんな状況、戸惑いしかないんだけど……。
しかも……部屋に備え付けられている家具、全部高級品に見えるんだけど……というか絶対、高級品ですよね?
こ、こういうのが嫌だから、王城で過ごさないのに……!
あぁ、『キリアの宿』が恋しい……。
あそこは何と言うか、素朴でありながら、高品質の家具で構成された部屋だったから、すごく過ごしやすかったんだよね……。
フーレラ村の宿もいい感じだったし……。
一応、元の世界では一般家庭出身なんだよ? なのに、上流階級の人が宿泊してそうな部屋に案内されても、ボクとしては困惑するだけだし、逆に緊張しちゃうんだけど……。
『ほっほ~。なかなかに豪華な部屋ですねぇ~。いやぁ、勇者って、すごい立場なんですね、これを見ると』
「いや、あの、さすがに辛いんだけど……」
『まあ、一人でクイーンサイズのベッドはねぇ?』
「で、でしょ?」
『高所恐怖症ならぬ、広所恐怖症の人にとっては、まさに地獄みたいなベッドですよね』
「ほんとだよ……」
しかもこれ、絶対ボクがクナルラルの女王だから、って言うのもある気がするのは気のせい?
『向こうはこう思ったんでしょうね? 人類を救った勇者様だ! しかも、最近クナルラルの女王になった……ならば、この街で最高の部屋を用意しなければ、粗相に当たる! おい、急ぎ最高の部屋を! みたいな』
「う、うわー、そう言ってる人の姿が目に浮かぶー……」
この世界、割とそう言うところがあるから、全然否定できない……。
『いやはや。勇者になるというのも、大変なんですねぇ。あとこれ、イオ様の容姿もかなりいいのがそれをさらに助長させちゃってますよね。おそらくですが、ごく一般的な男子高校生が世界を救っても、ここまではならないかと』
「い、いや、さすがにないと思うけど……。でも、だれであろうと、勇者になれば、ボクみたいになる、と思うよ……?」
『それは、性転換も込みでですか?』
「……それは言わないお約束」
今でも思う。
あの時の油断をなかったことにできたら、って。
そうすれば、女の子になることもなく、元の世界で元の暮らしに戻れたかもしれないのに。
……でも、最近この性別もちょっと気に入ってるところもあるんだよね……。だからこそ、今はあまり戻りたい、という意志が薄くなってきてるわけで……。
いや、それでもまだ、戻りたいとは思ってるけど。
でも、師匠のミスのおかげで、ボクは二度と戻れないしね。
人にやってもらって、他人のせいにするのは……よくないね、うん。もとはと言えば、ボクの油断が招いた状況なわけだし……。
『こうなっては、イオ様に対する縁談話とか、相当来そうですよね。勇者だし、美少女だし、王女だし』
「そ、それは……さすがに困る……美少女じゃないけど」
『……もはや、認めないこと自体がお家芸になりつつありますよね、イオ様。それで、縁談とかって来たことあるんです?』
「ま、まあ、一応ね……。以前、二度目の異世界訪問の際に、お城のパーティーでちょっと……」
……あの時、一応ボクが断っていたけど、ボクは気づいていた。
裏で師匠がとてつもない殺気を放っていたことに。
あれ、なんでだったんだろう……?
『やっぱりいるんですねぇ。いやはや、おモテになるようで。で? 今日はどうするので?』
「なんだか疲れちゃったよ……。あれよあれよという間に、こんな部屋に通されるんだもん。いるだけで疲れちゃうよ、これ。今日は、夜ご飯を食べて、お風呂入って、そのまま寝るよ……」
『ま、ですね。それじゃあ、明日の朝は?』
「そ、そうだね……。とりあえず、朝四時に起きて、宿泊代を置いて、そのまま出ていこう。それで、そのままクナルラルへ向かう、って言う感じかな」
『了解でっす! それじゃあ、私が起こしますね!』
「お願いするけど……昨日とか今日みたいに、騒がしい起こし方はしないでね? 軽く、バイブレーションで起こすくらいでいいから」
本当に、うるさかったからね、昨日と今日のアイちゃんの起こし方……起こされた時、不機嫌になったりしないボクが、不機嫌になりそうな起こされ方だったもん。絶対、嫌です。あれは、ボクの堪忍袋に多大なダメージを与えてくるので。
『OKです。じゃあ今晩、股の辺りに置いときます?』
「? なんでそこなの? 枕元じゃなくて?」
『……なんか、下ネタが通じないって、ちょっと寂しいものがありますね』
え、今のって下ネタだったの?
うーん、どの辺りがそうだったんだろう……? というか、意味もわからなかった。
なんだかんだで、知らないことが多いね、ボク。
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