第127話 昼休み

 お昼休みになり、みんなでお昼ご飯。

 場所は、教室。


 昨日は態徒が、強制的に師匠の特訓を受けていたけど、今日はいる。

 この後の競技は、棒倒しだから、ちゃんと休息は取らないとね。


 棒倒しは、力も必要と言えば必要だけど、どちらかと言えば、策が大事。


 ……もしも、ボクが出てたら、策なんて意味なかったような気はするけど。


「とりあえず、これで私と女委が出る種目はなくなったわね。三人とも、午後は頑張ってね」

「おうよ! 棒倒しは、一回しか試合がないから、全力でやるぜ!」

「俺、そこまで格闘とかできるわけじゃないからな……まあ、やれるだけやるさ」

「ボクは……なるべく、こわさないようにがんばるよ」

「……依桜だけ、頑張るの方向性が違うわね」

「どんなのが出るかにもよるかもしれないけど、依桜君だと、壊しかねないもんねぇ」

「う、うん」


 今の状態は、コントロールがちょっと難しくなっているから、少し力の入れ方を間違えただけで、物が壊れる虞がある。

 そうなると、競技どころじゃなくなっちゃうからね。気を付けないといけない。


「そういや、午後の頭は、生徒・教師対抗リレーだったよな?」

「そうだよ~」

「たしか、出場する選手は、直前で知らされるみたいね。だから、まだ誰が出るかは定かではないらしいわよ」

「と言っても、教師のほうはもう決まっているそうだが」

「そうなの?」

「ああ。たしか、教師側のアンカーは……ミオ先生って聞いたぞ」

「……ほんとに?」

「本当だ」


 何とも言えない気持ちになった。


 ……師匠が出る以上、生徒側に勝ち目ないよね?

 あの人、世界最強であると同時に、最速な人だよ?


 対して、生徒側はどんなに速くても、全国レベル。

 世界最速が相手では、雲泥の差どころではない。


 亀がチーターに挑む様なものだよ。


「となると、生徒側が勝つには、一人一人が先生よりも速く走って、一周以上の差を付けないといけない、ってことね」


 それでも足りないと思います。


「……まあでも、さすがに先生も手加減はするんじゃないかなぁ? 大人げないし」

「どうなんだ? 依桜」

「う~ん……わからない、と言うのが本音、かな」

「どういうこと?」

「師匠って、いっぱん人あいてには、ちゃんとその人に合わせるんだけど……こと、しょうぶがからむとなると、ちょっとびみょうで……。だから、グレーゾーン、かな」


 それに、もしかすると、本体で参加するんじゃなくて、分身体で参加する可能性もある、からね、師匠。

 少なくとも、昨日とかは分身体を使って、ブライズを探していたみたいだったから。


 そう言えば、今日はブライズは出ないのかな?

 それとも、師匠が分身体で倒して回ってるとか。

 うん。その可能性のほうが高いね。


 昨日、佐々木君に憑りついていたのは、師匠の索敵網を潜り抜けた存在だったらしく、師匠が興味深くしていた。


 ボクも、その話を聞いて驚いた。


 だって師匠、『気配感知』のほかに、『聞き耳』と『音波感知』も使っていたらしいんだもん。

 師匠の索敵網を潜り抜けるなんて、あり得ない。

 それくらい異常なことだった。


 ただ、異常だったのはその隠密性の高さだけであって、強さは大したことはなかった。

 それに、師匠が言っていたけど、


『パターンは把握したから、次からは見逃すことはない』


 とのこと。


 ……すごいなぁ、師匠。


「なら訊くが、ミオ先生が本気を出すような相手ってどういう人なんだ?」

「神様、とか?」

「……つまり、神様以外には本気を出さない、って言うわけね」

「最強すぎじゃね? ミオ先生」

「神を殺せる人が、教師やってる時点で、色々おかしい気がするがな」

「何でもありなのは、ミオ先生の特権だもんね」


 嫌な特権だよ。


 でも、意外と師匠って面倒見がいいから、向いていると言えば向いている。

 ……まあ、かなり理不尽なことをやらせたりして来るけどね。


「まあ、ミオ先生が出るのはいいとして……結局のところ、今日の目玉のアスレチック鬼ごっこって、具体的に何するんだ? 未果も知らないんだろ?」

「ええ。それが、何も知らされなかったのよ。当日のお楽しみ、って言われるだけで」

「この学園だしね、すっごく大掛かりな仕掛けとか用意してるかもしれないよね」

「ほんとうにありそうでこわいよ……」


 だって、学園長先生だし……。


 少なくとも、動画サイトとかでよく見る様なアスレチックを用意していてもおかしくないもん。


 そもそも、アスレチックで鬼ごっこをするって言うことがおかしいんだけどね。

 普通にやればいいと思うんだけど……。

 どうにも、学園長先生の考えは読めない。


「依桜なら大丈夫だろ! ミオ先生の弟子なんだからな!」

「ものによるけど……少なくとも、しょうがいぶつがあるいじょうは、まけられないかな」

「お、珍しい。依桜君がやる気だ」

「うん。さすがに、アスレチックでまけるわけにはいかないよ。じゃないと、師匠にころされちゃうし……何より、ボクにもプライドがあるからね」

「それもそうよね。だって、一年間、死に物狂いで修業したんだから。それで負けることがあったら、屈辱だわ」

「たしかに。素人に負けるほど、詳しいものはないもんね。わかるよ、依桜君」


 女委も、実際プロみたいなものだから、うんうんと頷いてくれた。

 女委って、結構売れてるみたいだしね、同人誌。

 ……ジャンルは、あれだけど。


「オレたちも頑張らないとな、晶」

「そうだな。少なくとも、鬼ごっこに関しては依桜がいるから、ほとんど心配ないだろうが、オレたちのほうは、どうなるかわからないからな……」

「そうね。棒倒しは、カードの組み合わせ次第で色々と決まるもの。運も必要だわ」

「たしか、棒倒しも学年ごとなんだっけ?」

「おう。一年と三年じゃ、実力が違うからな! やるならフェアじゃねえと」

「……そう考えると、うちのクラスは、全種目を通して、全然フェアじゃなかった気がするな」


 晶がそう言うと、みんなボクをじーっと見つめてきた。


 うん。言いたいことはわかるよ。


 ボクだって、それを言われちゃうと、全然フェアだと思えないもん。むしろ、アンフェアだと思ってるよ。


 美天杯なんて、ボクの独壇場みたいなものだったしね……。

 命を懸けた戦いをしている人と、命なんて懸けない、平和な闘いをしている人とじゃ、実力は全然違う。


 実際、向こうの世界だって、命のやり取りをしたことがある人と、武術を習い、極めただけで命のやり取りをしたことがない人とが決闘をしているところ見たことがある。


 実力的な面で言えば、後者のほうが高かったけど、勝負は命のやり取りをしたことがある人のほうだった。


 違いは、覚悟だと思う。


 一戦一戦を真剣に臨む人と、別に負けてもいい、と思う人とでは、覚悟の仕方が違うからね。

 ボクは……さすがに、美天杯ではそこまでの覚悟を持って臨んではいなかったけど、それでも今までの経験とかがあったから。


 ……まあ、予選はちょっとあれだったけどね。ボク、何もしないで勝っちゃったし。


「二年生進級時のクラス分け、先生たちは頭を悩ませそうね」

「そうだな。依桜をどこのクラスにするかで色々と変わりそうだからな」

「さ、さすがにそこまでじゅうようじゃない、と思うよ?」

「……実際、学園祭後くらいから、神社に祈願しまくってる生徒がいるらしいぞ、他クラスに」

「そ、そんなに?」

「依桜君と一緒のクラスになれば、お近づきに。そして、あわよくば恋人に! ってところだと思うよー」

「ボク、恋人は作らない、みたいなこと言わなかったっけ?」

「似たようなことは言っていたな、ミスコンの時に」

「そうだよね。……きいてなかった、とか?」


 司会の人に訊かれて答えた質問だったし……それに、ミスコンには、その日参加した人全員がいたわけだから、聞いてない、なんてことはないはずなんだけど……。


「多分、アタックすれば行ける! みたいな考えなんじゃね?」

「そうね。……まあ、そもそも、依桜を落とすのはかなり難しいと思うし。だって、鈍感だし、ピュアなのよ? 難易度高すぎるでしょう」

「その割には、隙だらけだがな」

「ぼ、ボクはどんかんじゃないし、すきだらけでもないよ! あと、ピュア? でもないし……」

「「「「そんなまさか」」」」


 心底驚きました! みたいな風に言われてしまった。

 ……ボク、鈍感で、ピュアで、隙だらけじゃない、よね? そうだよね? 大丈夫だよね?


「まだ先だけど、来年も同じクラスだといいよなぁ。中一からずっと同じクラスだったしよ」

「態徒、気が早いわよ。まだ、あと四ヶ月もあるのよ?」

「そうは言うけど、時間って早く経つもんなんだぜ? 四ヶ月なんてあっという間だぞ」

「態徒君の言いたいことはよくわかるよ。わたしも、ついこの前入稿したなぁと思ったら、次の締め切りが近づいていたもん」

「……それはちょっと意味合い違う気がするな」


 女委の言ってることに、晶がツッコミを入れていた。

 それは、単純に追い込まれてるだけだと思うよ、ボクも。


「とりあえず、依桜が願っておけば、叶うんじゃないかしら? すごく運がいいしね」

「あ、あはは。ボクのばあいは、たんじゅんにかくりつがひくければひくいほど当たりやすいだけで、五年れんぞくで同じクラスになるかは……あー、なるかも、ね」


 否定の言葉を並べている最中に、実際になるような気がした。

 だって、五年連続で五人が同じクラスになる、って相当な確率だと思うよ?

 あまり接点がない人と三年間同じクラスになる、って言うのはよくある話だけど。


「でしょ? だから依桜、お願いしといてね」

「うん。ボクも、みんなといっしょがいいし、おねがいするよ」


 ボクが女の子になっても、いつもと同じように接してくれたの、家族と師匠を除いたら、この四人くらいだもん。


 学園長先生は……関りを持ったのは、女の子からになってからだから、ちょっと違う、かな。あ、戸隠先生も前と変わらない接し方だったかも。


「そろそろいい時間ね。グラウンドの方に戻りましょうか」


 未果の言う通り、もうすぐ再開の時間だったので、ボクたちはぼちぼちグラウンドに出る準備をした。



 そして、生徒・教師対抗リレーはと言うと……


「よーし。依桜、やるからには、本気を出せよ」

「あ、あは、あはははは……」


 ……ボクが生徒側のアンカーになってました。


 師匠の満面の笑みが怖いです……。

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