第26話 次の準備
「えっと……あ、まだあった」
寄るところというのは、ボクたちのクラスが使用していた調理室のこと。
なんで酔ったかというと、材料の在庫確認のため。
確認に来てみると、昨日作った分がまだ残っていた。
「う~ん、これどうしよう……」
結局気づかずに放置してしまったボクが悪いし……かといって捨てるっているのも忍びない……。
「本当にどうしよう」
考えてもあまりいい案は出てこない。
今更料理してもなって感じだもんね……。
「……とりあえず教室に戻ろ。あんまり遅いと、心配かけちゃうしね」
妙案が出なかったボクは、一旦後回しにして教室に戻った。
「えーっと、いない人いるー?」
クラスに戻ると、すでに全員集まっていた。未果のことだから、あらかじめ声をかけていたのかも。
さすが、クラス委員長。
とはいえ、もしかしたいない人がいるかもと考えて、ちゃんとクラスメイト達にいない人がいるか聞いている。
が、やっぱりみんないたのか、誰一人声は出さなかった。
「ん、みんないるわね。それじゃ、今から紙を配るから、適当に近くの人に回して―」
そう言ってから、未果はA4サイズの紙を配りだした。
各々一枚とってから、近くの人に回していくと、ボクのところにも来た。
一枚とって、隣にいた佐々木さんに渡す。
「行き渡ったわね。はい、じゃあみんな紙を見て」
言われて、みんな手元の紙に視線を向ける。
紙に視線を向けると、そこには売り上げの集計結果について書かれていた。
え、これあの時間で作ったの?
あ、そう言えばPC系の資格持ってたっけ、未果。
「収入に関しては、見ての通り。一応、現時点でのミス・ミスターコンテストの優勝賞品である、全クラスから二割ずつの売り上げの分も加算されているわ。といっても、まだ学園祭が終わってないから、ここに書かれている金額は、あくまでも暫定的なものだけどね。ま、あと一時間程度だから、そこまでではないと思うわ。だから、そうね……変動するのは、十万~四十万の間ってとこね。もしかしたら、もっと行くかもしれないわ」
説明を聞きながら、集計結果を見ていく。
『1―6 コスプレ喫茶 予算:百万円』
って、予算百万円ももらってたの!?
だ、だからあんなに内装とか、それなりに質のいい食材とかが仕入れられたんだ……。
普通、ここまで出さないよね? 多分、数万程度だと思うんだけど……。
そこはまあ、あの学園長だもんなぁ……。
『収入内訳 料理:二百万円 写真集:七十万円 ブロマイド:五十万円 写真単品:二十万円 臨時収入(コンテスト優勝賞品):五百八十万円 総計:九百二十万円』
……な、なに、このバカげた総収入は。
学園祭の出し物くらいで、こんなに稼げる? 普通……。
たしかに、来場者は多かったけど……いや、一番気になるのはそこじゃない。
この、写真集とかブロマイド、写真単品っていう項目。
……まさかとは思うけど。
そう思って、ジト目を未果に向けると、未果はサッと目をそらした。
「こ、この集計に関して、質問ある人―?」
スッとボクは無言で手を挙げた。
「……依桜」
「ねえ、未果。ちょぉぉぉっと、聞きたいんだけどね……?」
「な、何かしら?」
しどろもどろになりがら、未果が聞き返す。
心なしか、声も上ずっているうえに、冷や汗を流している。
……この反応ということは。
「ここに書いてある項目に、『写真集・ブロマイド・写真単品』って何? かなり売れてるみたいだけど?」
にっこりと笑顔を浮かべながら、未果に問い詰める。
問い詰めると、一層冷や汗を流す未果。
態徒たちにしたように、無言の圧力をかける。
蛇に睨まれた蛙のように、未果は動けなかった。
「もちろん、説明してくれるよね……?」
「はい……」
それから、未果の説明が始まった。
料理を出すだけでも、元の予算の倍は稼げるということはある程度予想していたらしく、それならほかにも何かやってみよう、と思ったみたい。
そこで、態徒と女委、学園長の行動に目が留まったらしい。
一日目、つまり昨日の時点でそれは始めていたみたい。
一日目、態徒は何してるのかな~、って思っていたけど……なるほど、写真を撮ったり、写真集を作ったりしていたんだね……。
道理で、仕事中に写真を取られたりしたわけだよ。
二日目の今日、昨日準備したものを早速販売したらしい。
ただ、ボクはクラス内で売っていたのを見てないんだよね。
気になって、どこで売ったのか問うと、
「……江口・アダルティー商会」
「なんでボクの写真とかが、そこで出回っているのかなと思ったら……」
出回っているもののうち、盗撮系は多分、商会を作った人か、それにかかわっている人なんだろうなぁ。
ということは、あれかな。その商会がこの学園祭でやっていたのは、様々な人や店から商品を集めて、それを売り、出品料を少しもらっていた、ってことかもしれないね。
……市場だよね、どう考えても。
そう考えると、盗撮系を出品した人がいるのかも。
うーん、そうなると、今度から着替え中は気配に気を配らないと。
いけない、思考が脱線した。
「それで、写真とかの在庫は?」
「……ものの見事に完売です、ハイ」
「手遅れかぁ……」
あぅ……完売しちゃってるとなると、回収は無理だよね……。
「はぁ……なんでボクの親友たちは、勝手に友人を売るんだろう?」
「「「HAHAHA!」」」
「アメリカンナイズに笑わないの! まったくもう……」
本当に、この三人には呆れるほかないよ。
決して性格が悪いんじゃなくて、勝手にいろいろとやっちゃうだけだからね。
……あれ、結構ダメなんじゃ……?
……ううん。ここは親友を信じよう。
「今更何を言っても写真とかは出回っちゃったし……今回は不問にするけど、今度からはちゃんとボクに言ってね? 絶対にやっちゃダメ、っていうわけじゃないんだから」
「「「すみませんでした」」」
「うん。許すよ」
「……はぁ。依桜、あれが甘いと思われる原因だって、つゆほどにも思わないんだろうな」
晶が何か言っていたような気がするけど……多分気のせい、だよね。
一応、今回の件は許したけど、江口・アダルティー商会はちょっと調べたほうがよさそうかも。
もしかしたら、何かよからぬことをしてそうだからね。
……いやまあ、盗撮写真やら盗撮動画を扱っている時点でよからぬことをしてるんだけど。
かも、じゃなくて、確実に調べたほうがいいね、この商会に関しては。
……でもなぁ、学園長が関わってるぽいんだよね……。
教育者が関わっちゃだめだと思うんだけどね。
「な、何はともあれ、その紙に書かれているのが、暫定の売り上げ。一応、この金額でみんなに山分けする金額を計算したわ。一人頭、六万九千円ってとこね」
『おおおおおぉぉぉぉっっ!』
未果の口から出た金額に、クラスのみんなが歓声を上げる。
暫定でその金額なら、学園祭が終わった時の金額は……少なくとも七万後半くらいかな? それはそれとしても、高校生には十分すぎる金額だよね。
無駄遣いさえしなければ、かなりもつだろうしね。
「そこで、みんなに提案。現時点では六万九千円がもらえます。で、そのあと、賞品のほうの最終集計もするんだけど……増えた分を、打ち上げに充てようかなって思ってるんだけど、どうかしら? といっても、さすがに予定合わせとかが難しそうだし、学園祭終了後に行われる、売れ残りの叩き売りで料理とかを買うことになると思うけど」
どう? と未果がみんなに尋ねる。
「俺はいいと思うぞ」
「いいねいいね! そっちのほうが楽しそう!」
「だな!」
『わあ、楽しそう!』
『あたし賛成!』
『夜とか空いてないし、俺も賛成だぜ!』
『じゃあ、今のうちにリサーチとかしようぜ』
みんな乗り気みたいだ。
もちろん、ボクも賛成。
うちの学園、学園祭本番自体は生徒じゃない人――保護者や、OB・OGなども参加できるけど、それはあくまでも本番の時までで、本番が終わると生徒だけの学園祭に早変わりするらしい。
生徒だけになると、残った商品、飲食店などなら調理した料理、雑貨店みたいなお店をやっているところは、売れ残った雑貨などを安売りしだすのだ。
お化け屋敷などのアトラクション系統は、元の値段よりもかなり安くして入れるようにしているみたい。
どれくらい安くなるかは、今年初めてだったりするからわからないけど。
本来は、飲食店や雑貨店は本番時に売り切るほうがいいんだけど、中にはあえて本番は売れ残るようにして、少し値段を下げて残ったものを売りさばく、ということをしているクラスもあるらしい。
そう言うクラスの目的のほとんどは、生徒向けに作ったり、打ち上げ用に用意するといったこと。
うちも最初はそうしよう、という案があったみたいだけど、みんなボクを見てから、『無理』と結論を出して断念した。
なんでだろう?
あ、後から知ったことなんだけど、コンテストの優勝賞品である売り上げ加算は、本番終了時刻――午後四時までの売り上げの二割が加算されるみたい。
しかし、そうなると譲渡分の金額が入るのが遅くなるということで、五分前までの金額を提出し、そのお金がこちらに送られるとのこと。
本当、すごいシステムだよね、この学園祭。
「もう少し材料用意しとけばよかったわねー」
ふと、未果がそんなことをぼやいていた。
「どうして?」
「どうしてって……決まってるじゃない。もっと売れたのよ」
「そうかな?」
「そうよ! だって、依桜が作った料理よ? どう考えても売れるじゃない! それに、うちは依桜と晶がコンテストで優勝してるから、宣伝ばっちりだったし……はぁ。やっぱり、もう少し作るべきだったかしらね?」
そんなに売りたかったんだ。
「あー、えっとね、未果」
「なに?」
「あのね、実は少しだけなら残ってて……」
「え、ほんとに!?」
ボクが残っていることを伝えたら、未果だけじゃなく、ほかのみんなもざわつきだした。
「う、うん。えっとね、初日の売れ行きを見てて、途中で売り切れちゃうかな、と思って一応ある程度は作っておいたんだけど……やっぱり、気づいてなかったんだね」
「なんて気配りができるの、依桜……!」
といっても、ボク自身、見に行くまで気づかなかったけどね。
あ、そっか。
食材どうしようかと思ってたけど、いっそのことほとんどは売っちゃって、クラス用に残しておけば、打ち上げに使えるか。
うん。そのほうが、食材を無駄にしないで済むかも。
「それでね、みんなさえよければなんだけど、打ち上げ用に販売する料理を作ろうかなって」
ちょっと気恥ずかしかったのか、無意識に手の指だけ合わせるような行為をしていた。
(((可愛い……)))
見ての通り、ボクは精神面も女の子化が進行していた。
無意識にこういう仕草が出てしまうらしい。
一瞬、クラスのみんなが同じことを思ったような気がするけど……多分気のせい、だよね?
うん。気のせい。
だから、男子のみんなが、どことなく赤くなっているのも気のせい、だと思う。
「もちろんいいわよ! これで、もう少し売れるわ!」
「ありがとう。じゃあ、早速取り掛かっちゃうね」
「お願い!」
というわけで、料理することになった。
「それじゃあ、ちょっと材料を持ってきてもらいたいんだけど、誰かお願いできるかな?」
「それなら俺が行くぞ」
「それならオレもだ」
真っ先に二人が名乗り上げた。
こういう時、大抵この二人が最初に名乗り上げる気がする。
二人とも、優しいからね。
「うん、ありがとう。えっと、あと二、三人欲しいんだけど……」
『あ、じゃあ俺行くぜ』
『なら、僕も行こうか』
声をかけると、真田君と金井君が行くと言ってくれた。
真田君は不良のような外見だけど、本当は優しくてとてもいい人。
金井君は眼鏡をかけた、ちょっと厳しいけど気配りができるいい人。
「ありがとう! えっと、調理室にボクたちのクラスのところに置いてあるからね」
「了解。それじゃ、ちょっと行ってくる」
食材の場所を伝えると、四人はすぐに取りに行った。
と言っても、同じ階だからそんなにかからないはず。
戻ってくる前に、ボクは料理の準備。
エプロンを着けて、ボウルを取り出す。
昨日の仕込みに関しては、カレー以外を作っていた。と言っても、ハンバーグだけは中途半端になってしまったけど。
んと、ボクの記憶が正しければ、まだこねる前だったはず。
そのためにボウルを用意した。
いつでも来ていいように、ボクはフライパンなども準備。
天ぷら鍋に入っている油も、交換する。
「取ってきたぞ」
準備が終わったタイミングで、四人が戻ってきた。
「依桜、ハンバーグの種が完成してないみたいだが」
「大丈夫だよ、ここで作っちゃうからね」
記憶通り、成形前だったみたいだね。
「そうか。じゃあ、ここに置いとくぞ」
「うん、ありがとう。三人も、適当に置いておいて」
指示を出して、ボクは材料に向かう。
えっと、時間は……うん、十五分くらいかな?
時間を見てから、材料を全部ボウルに投入。
「早速始めよう」
ビニール手袋を着け――ようとしたところで、
『待った!』
待ったがかかった。
え? 視線を前方に向けると、男子たち(晶は除く)が何やら詰め寄っていた。
ど、どういう状況?
「頼む依桜! 手袋はしないでくれぇ!」
「ふぇ?」
あまりに突拍子のない願いに、呆けた声が出てしまった。
一瞬、何を言っているのかがわからなかったが、すぐに言っている意味を理解した。
「ちょ、ちょっと待って? さすがにそれはダメだよ。手袋をするのは、食中毒を出さないようにするためなんだけど……」
『んなもん関係ねえ!』
「いやあるよ!?」
怖い、怖いよみんな!
食中毒を関係ないって……。
『いいか、男女! 俺たちはなぁ、美少女の綺麗な手で直接こねられたハンバーグを食べて食中毒になってもな…………後悔はないんだよッ!』
うんうんと、男子たちが頷く。
あ、あの……こう言ったらなんだけど、頭は大丈夫なの?
「というか、それで食中毒なったとしても、オレたちは本望だ!」
『よく言った!』
『さっすが変態だぜ!』
『よっ! 俺たちの希望!』
「へへ、よせやい、照れるだろ?」
得意げにしてるけど、どう考えても貶されているようにしか聞こえないよ?
いいの? それで。
それはともかくとして、さすがに素手で作っちゃいけない気がするボクは、男子たちの後ろ、女の子たちのほうに視線を向ける。
「私はいいと思うけど」
『まあ、未果はそうよねー』
『でもでも、依桜ちゃんだったら別に構わないと思うよ!』
『依桜ちゃん、可愛いしかっこいいし!』
ブルータスお前もか、というセリフがボクの脳裏に浮かんできた。
まさに、今その状況だと思うんだよ。
いつもは態徒たちのことを、変態と言ってきたり、不潔、などと言ってくるような女の子たちが、まさかの男子側。
つまり……
「やるしかないよね……」
そういうことだよね……。
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