第25話 変態たちは、どうあがいても変態

「んん……ぅう……?」


 目を覚ますと、青空がすぐ目に入った。

 光が目に入り、眩しくなって思わず手で影を作った。


「あ、起きたみたいね? おはよう、依桜」

「ぅんー……み、か? あれ……? ここは……?」


 ボクは上半身を起こし、周囲を見回すと、校舎前の広場のベンチだった。


「気分はどう?」

「う、うーん、ちょっと後頭部が痛むくらいかな? えっと、なんでボク、ここで寝てるの?」


 記憶にもやがかかったように、何も思い出せない。


「な、なにもなかった、わよ?」

「どうしたの未果? 様子がおかしいよ? あと、まだ何も聞いてないよ?」

「え、う、ううん! な、何でもないわ!」


 視線がきょろきょろしてるし、それにちょっと声が上ずってる気がするし……。

 なんだろう? やっぱり何かあったのかな……?


「確かボクって……」


 何があったのかを思い出すため、記憶が飛んでるところから思い出し始めていた。

 あ、少しずつ思い出してきた。

 そうだ。ボクは、晶たちと一緒にお化け屋敷に入って、それで、えっと…………あ、思い出した。


「……ねえ、未果」

「な、なに?」

「ボクが気絶する瞬間にね、未果が見えたんだけど……気のせい?」


 ボクの記憶が正しければ、気絶する瞬間、視界の端に長い黒髪が見えた気がするし。


「き、気のせいじゃないかしらぁ?」

「……」

「あ、あは、あはははは……すみません」

「……まったくもう。ちゃんと謝ったので、とりあえずは許します」

「え、いいの?」


 ボクがすぐに許したことに対し、未果がきょとんとしながら尋ねる。


「んー、正直に謝ったからね。今度からは気をつけてね?」

「う、うん……ありがと」

「はいはい。……それで、ほかのみんなは? あと、未果のほうは集計とか終わったの?」


 脅かした件は置いておいて、ボクは気になっていたことを未果に尋ねていた。

 起きたころには、三人ともいなくなってたわけだし。

 あとは、集計のほうも気になるしね。


「三人は少し出店を回ってるわ。なんでも、『江口・アダルティー商会が開店しているだとぅ!? 女委、行くぞ!』『あたぼうよ!』って言って、晶がストッパーとしてついて行ったって感じね」

「……その商会、大丈夫? というか、それ許可ちゃん取ってるの? ものすごく不安な名前なんだけど……」


 だって、アダルティーだよ? どう考えてもアウトな気がするんだけど……。

 それに、それを申請したらしたで、名前を見ただけで一発アウトな気がするし。

 そんなことを未果に言うと、未果も眉に皺を寄せて一言。


「もちろん、申請で撥ねられてるわ」

「だ、だよねー……」

「ちなみに、販売しているのは、男女両方の更衣室の盗撮写真に、盗撮動画。あとは、抱き枕カバーとか、日常生活における男女の写真とかね」

「……その内容で申請したその生徒は、なんで通ると思ったの?」


 いや、そもそも盗撮写真に、盗撮動画って……思いっきり犯罪だよね?

 その前に、男子の盗撮写真とかも出回っちゃってるんだ……その人、本当に大丈夫?


 まあ、犯人はすぐに見つかると思うけど。

 監視カメラとか、校舎内に存在しているし。

 ……あ、でもかなり数があると考えると……くぐり抜けた可能性があるのか。

 一体どうやったんだろう……?


「さあね? ま、あれよ、闇営業みたいな感じね、その店は」

「いや、アウトだよね!? どう考えてもアウトだよね!?」


 学園祭でなんてことしてるの!?

 というか、あの二人は何しに行ってるのさ!


「あ、そう言えば、依桜関連のものも多く出回ってるみたいよ?」

「……ほんとに?」

「ん、ほんとほんと。ミカチャン、ウソツカナイヨー」


 なんで片言?


「嘘つかない云々は置いておくけど……ボク関連のグッズ……」


 う、嬉しくない……。

 これ、まだ女委のほうがましだったよね?

 だって、女委は改変して使うからね。いや、それはそれでだめな気がするけど。


「んー、たしか抱き枕カバーとか、パンチラ写真とか、谷間の写真とか、料理中の写真、何気ない日常風景の写真とかねー」

「…………ちょっと待って。今、すごく寒気がしたんだけど……」


 というか、いつパンチラ写真とか、谷間の写真とか盗られたの!? 自分で言うのもあれだけど、人の気配とか、そう言うのには敏感だからすぐわかるんだけど。そんなボクに気取られないとか、本当にこの学園はどうかしてるよ!


「モテモテねー」

「モテモテじゃなくて! というか、いやなモテ方だからね!?」


 明らかに悪意しか感じないよ!

 どうなってるの、この学園祭!?


「噂じゃ、学園長も通ってるみたいねー」

「なにしてるの、あの人!?」


 教育者が犯罪に加担しちゃってるじゃん!

 普通、止めたりする側だよね!? なんで止める側が逆に通いに行っちゃってるの!?


「まあ、幸いなことにアウトな写真は少ないのよねー」

「無いんじゃなくて、普通にあるんだね……」


 ……もうやだぁ、この学園……。

 ……どうして認可しちゃったのかなぁ、この学園。

 明らかに学園のトップが変態なのに……もしかして、賄賂、とか? ……さ、さすがにない、よね?

 ……なんだか、すごく心配になってきたよ……。


「まあ、あっても更衣室で着替え途中の写真くらいね」

「な、なんでそんな写真が売ってるのっ!?」

「なんでって……まあ、売れるから?」

「そうじゃなくてっ! それに、着替え途中って……」

「うん、当然下着姿ね」

「もうやだぁっ!」


 あと、未果! にっこり微笑みながら言わないでぇ!

 あぅ……涙出てきたぁ……。


「まあまあ、これも人気者の幸せ税ってやつよ」

「それ、励ましになってないよぉ……というか、幸せになってるのはボクじゃなくて、勝手に商売している人とか、それを買ってる人だよぉ……」

「……ごめん」


 謝られた。

 さすがに、幸せ税という部分に申し訳なさが出たみたい。

 ……だったら、最初から言わないでほしいんだけどね。言っても無駄だから、未果。


「…………………………実は、私も一枚かんでるとは、口が裂けても言えない」


 あれ? 今、未果が何かを言っていたような……? 気のせい、かな?


「――いやー、買った買った! 大満足だぜ!」

「だね! わたしも、欲しかった材料手に入ってラッキー!」

「俺、もう付き合わないからな……」


 と、三人が戻ってきた。

 態徒と女委は満足したのか、ほくほく顔でこっちに向かって歩いているけど、対照的に晶の顔には疲労が浮かんでいた。

 よく見ると、態徒と女委は何やら怪しげな紙袋を持っている。


「ただいまー……っと、なんだ依桜、起きたのか?」

「依桜君大丈夫―?」

「おかげさまでね。……それで、二人とも? 何を、買ったのかなぁ?」


 にっこりスマイル。当然、営業スマイル。

 その瞬間、態徒と女委が笑顔を顔に張り付けたまま冷や汗をだらだらと流し始めた。


「え、えーっとね……」

「な、何も買ってない……ぞ?」

「………………」


 無言の圧力。笑顔でボクはその圧力をかけていた。

 すると、滝のように冷や汗を流す二人。

 未果と晶はご愁傷様と言わんばかりに、二人に憐みの目を向けていた。


「見せてもらっても、いいよね?」

「お、おう……」

「う、うん……」


 二人は抵抗することなく、買ってきたものをボクに差し出した。

 それを笑顔のまま受け取り、中身を確認する。

 態徒の購入品:生着替え写真(ボク)・メイド服写真(ボク)・サキュバス衣装写真(ボク)・USBメモリ・抱き枕カバー(サキュバス衣装のボク)

 女委の購入品:生着替え写真(ボク&晶)・メイド服写真(ボク)・サキュバス衣装写真(ボク)・巫女服写真(未果)・燕尾服写真(晶)・USBメモリ×2・抱き枕カバー×2(メイド服のボクとサキュバス衣装のボク)


「……」


 言葉にできないとは、まさにこのことだと思うんだ。

 親友だと思っていた二人が、まさかここまでの変態だったなんて……。


 未果と晶も微妙な顔をしていた。

 ある意味では、態徒の方がましかもしれない。

 ……まあ、二人からしたら、だけどね。


「ねえ、二人とも」

「「は、はい!」」


 ボクが二人に話しかけると、どちらも肩をびくっと震わせてから気をつけの姿勢を取った。


「二人とも、自分たちが何を買ったのか、理解してるの?」

「あ、あのだな……」

「理解、してるのかな?」

「……エッチな物です痛いっ!」


 エッチと言う単語を言った瞬間、女委が激痛に顔をしかめる。

 あのツボ押しは、この二人にはかなり効果覿面だね。


「まったくもぅ……。あのね、そう言うのが欲しいのなら、盗撮とかじゃなくて、面と面向かって言ってよ」

「なに!? ってことは、あれか? 頼めば写真や動画を撮らせてくれるのか!?」

「え、依桜君、ほんとに!?」


 わ、すごく食いついてきた……。

 ボクなんかの写真でここまで食いつく? 普通……。


「い、いいけど……で、でも、あまり過激なのはだめだよ? 少なくとも、健全なものであれば、ボクも協力するし……」

「よっしゃぁ! ありがとう、依桜!」

「依桜君、素材提供ありがとう!」

「……それでも、今日はだめね」

「「ええ~?」」

「ええ~、じゃないよ! さすがに、昨日今日で色々あって疲れてるんだから……」


 疲れていると言っても、疲れているのは肉体じゃなくて精神の方だけどね……。

 なにはともあれ、さすがにそんな状態だと写真撮影とかは無理だし。


「依桜は甘いな……まあ、そこが依桜のいいところではあるか」


 ボクたちの話を聞いていた晶が、苦笑いを浮かべていた、


「ボクって甘い……?」


 さすがに、甘いと言われたのにはちょっと気になった。

 なので、四人に尋ねた。


「「「「甘い」」」」

「そうなんだ……」


 息ぴったりに断言されてしまった……。

 そっか。ボクって甘かったんだね……。


「非情になりきれてないってだけだろうが……依桜はやるときはやるからな。ま、あまり欠点にはならないと思うぞ?」

「そ、そっか……」


 微妙な反応のボクを見てか、晶がフォローを入れてくれた。

 ほかの三人も頷いているところを見ると、本当にそう思っているのかも。

 それならまあ……いい、かな?


「それで、未果? 集計のほうはどうなってるの?」

「あ、そうだったわ。集計が終わったから、一旦教室に戻るわよ」


 やっぱり、集計は終わっていたみたいだ。

 でなきゃ、ここにこれないもんね。


「了解。戻るか」

「だなー」

「ういういー」


 う、うーん、あんまり遊べなかったなぁ。

 でもいっか。あと二回も学園祭があるわけだしね。

 それに、この学園は学園祭みたいな行事が多いし。


「依桜、行くぞー」

「あ、うん」


 立ち止まっていたボクに、晶が声をかけてきた。

 それに応えて、少し先のほうに行った晶たちのところに駆け寄っていった。


「あ、態徒に女委? その購入品は没収ね」

「「そんなぁ~……」」


 ボクの言葉に、二人はその場でがっくりとうなだれた。

 その様子を未果と晶が笑いながら見ていた。

 被害者の二人からしたら、いい気味なんだろうね。


「あ、ボクちょっと寄るところがあるから、先に行ってて」

「そう? どれくらいで戻る?」

「んー、確認だけだからすぐに終わるよー」

「わかった。じゃあ、先に戻ってるわね」

「ありがとう。また後でね」


 そう言って、ボクはみんなから離れて、目的の場所へ足を向けた。

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