第543話 異世界旅行の裏側2

 ミカたちに『言語理解』を習得させた後、あたしたちは一度クソ野郎に事情説明をするべく、食堂へ向かい、イオが今回の経緯をクソ野郎に伝える。


 その過程で、今回の旅行の前半戦はこの城にて寝泊まりすることなった。


「さて、話はこの程度にして、儂はそろそろ仕事に戻らねばな」


 そうして、一通りの事情説明を終えると、クソ野郎はどうやらまだ仕事があるようで、仕事に戻ると告げる。


「わかりました。それじゃあ、ボクたちはこれから観光に向かおうと思います」

「うむ。是非、この国を堪能して行って欲しい。そなたらのことは先ほど、ルルナたちを通じて場内の者たちに知らせてあるので、自由に出入りしてもらって構わない。門番の方にも、出る時に自身のことを伝えてもらえれば、向こうも覚えてくれるはずだ」

「ありがとうございます、王様。というわけらしいから、みんなは自由に行動しても大丈夫だよ」

「お父様、私も……」

「お前は仕事があるだろうに……。というか、今日の分どころか、昨日の分すら終わっていないであろう? それを終わらせてからでないと、同行はさせられんからな」


 イオたちが自由行動をすると知り、クソ野郎の娘が最後まで言葉を口にせずとも、イオたちと一緒に行動したいと願い出たが、呆れ顔を浮かべながら仕事が終わらない内は遊ばせない、とクソ野郎が娘の願いをバッサリと切り捨てていた。


 まあ、王族だしな。


「そんなっ……」

「そんなじゃないわ。まったく……」

「レノ、仕事はちゃんと終わらせないとダメだよ?」

「で、ですが……」

「むしろ、こう考えるの。お仕事を早く終わらせれば、その分遊べるって」


 こいつはまぁ、なんと言うか……甘いよなぁ。


 しかし、その考え方には大いに賛同するがな。


 仕事をきっちり終わらせた後の酒は美味いのと同じだ。


「――っ!」

「そうすれば、ボクたちとも行けるよ?」

「そ、そうです! ここはもう、昨日、今日の分だけでなく、明日明後日の分も……いいえ、それ以降のお仕事も終わらせればいいのです! お父様、私、すぐにお仕事に戻ります!」

「あ、あぁ、だが――」

「それでは失礼します!」


 身体強化系のスキルでも使ったのかと思わんばかりの速度を出したかと思えば、クソ野郎の制止をガン無視してそのまま食堂から出て行った。


 なんと言うか、随分とまぁお転婆なこった。


 とはいえ、これに関しちゃイオが以前偶然助けたことが原因と言えば原因だからな。


 仕方ないだろう。


「……おい、依桜の奴、こっちでも女を落としてたぞ」

「……そうね。しかも、お姉様呼びだし」

「いやぁ、依桜君のたらしっぷりには感服するよねぇ」

「まあ、依桜、だからな……」


 あれ、なんか四人が呆れたように話してるんだけど……どうしたんだろう?


「さて、それでは儂は仕事に……っと、あぁ、そうだ思い出した。イオ殿、少しいいか?」


 ものすごい勢いで走り去った娘を思い苦笑いを浮かべつつ、自身も今度こそ仕事へ行こうと席を立とうとした瞬間、何かを思い出したようで、イオに話しかける。


「なんでしょうか?」

「いや、実はイオ殿に依頼が来ておってな……」

「依頼、ですか」

「……おいクソ野郎。テメェ、まさかうちの愛弟子に、殺しをさせようってんじゃないだろうな?」


 クソ野郎はどうやら、イオに対して依頼が来ていると伝えてきた。


 しかし、あたしはそれを聞いた瞬間、殺気と共に殺人をさせようとしているのではないかと問いかける。


 イオの職業が暗殺者であることは、このクソ野郎も知っている事だし、イオがしてきたことも知っている。


 そして、イオが元の世界では平穏に暮らす、ただの少年だったことも。


 イオはもう、暗殺者としての仕事からは解放されている。


 またこいつが人殺しをするような事態になりゃ……こいつの精神はそれこそ不味い所まで行ってしまうだろう。


 だからこそ、もしもこいつが……いや、こいつらがイオにそう言うことを指せようと言うのならば、あたしは全力で滅ぼす。


 そう思っての問いに対し、クソ野郎は顔を真っ青にものに変え、そしてガタガタと震えながら答える。


「そ、そそそそそのようななことは、あ、ああぁありませぬ!」

「本当かァ?」

「ほ、本当です! 神に誓って! ミオ殿に誓ってぇッ!」

「……チッ、ならいい。……殺し損ねたか」


 本当なら、この国に対して――いや、国王に対してはあんまし良い印象を持っちゃいないんで、できることならば殺したかったが……ま、そんなことをすりゃ、イオに嫌われちまいそうなんで、もちろんしないが。


「ふぅ……」

「それで、えっと、依頼って何ですか?」

「あぁ、その事なんだがな? イオ殿は、冒険者ギルドを知っているか?」

「ええ、まあ。たまに冒険者の人たちとも協力しましたし……なんだったら、三年目の大規模の戦闘の時だって、連携してましたしね。知ってますよ」


 当時のことを思い出してか、イオは苦笑いを零す。


「依桜君依桜君!」


 と、おそらく冒険者、という言葉に反応したであろうメイが、きらきらとした瞳でイオの体をちょんちょんと突いていた。


「何?」

「もしかして、冒険家ギルドってあれかな!? 異世界転生・転移系作品のテンプレ! お約束な組織!」

「うん、そうだよ。えーっと、説明いる?」

「「「「「「いる!」」」」」」


 説明がいるかどうかイオが尋ねると、法の世界組がそれはもう期待と夢が詰まったような瞳で説明を願い出ていた。


 まぁ、あっちの世界じゃ空想上であり、メジャーなファンタジー要素だからな。


 そりゃそうなるか。


「えーっとじゃあ、軽く……。えっと、冒険家ギルドと言うのは――」


 そう切り出し、イオが冒険者ギルドについての説明を始める。


 つってもまぁ、あたしらからすれば身近にある何でもないような物なんで、左から右へと受け流すが。


「――というのが、冒険者ギルドの概要だね」

「なるほど……本当によくある冒険者ギルドなのね」

「そうだな。まさに、テンプレ」

「いやぁ、このテンプレ具合がいいんだよ! やっぱり、異世界と言えば、冒険者ギルドだよね!」

「それな! 憧れとかあるぜ!」

「冒険者ギルドかー……うーん、演技のいい参考になりそう」

「うちは純粋に面白そう!」


 適当に出された茶でも飲みながら、終わるのを待っていると、ようやく説明が終わったらしく、様々な反応を見せていた。


「それで、王様。その冒険者ギルドがどうかしたんですか?」


 簡単な説明を終えたところで、イオはクソ野郎にその冒険者ギルドが一体依頼と何のかかわりがあるのかを尋ねる。


 そこはあたしも気になるところだが……。


「いやな? そこのギルドマスターが儂の知り合いでな。つい先ほど、何か問題が起きないようにと、イオ殿のことを伝えたのだよ」

「なるほど。なんだかすみません、お手数をおかけしたようで……」

「いやいや、別に構わないんだよ。ただまあ……そこのギルドマスターが、一日でもいいので、受付嬢をやってくれないか、と」

「う、受付嬢、ですか」


 なるほど、クソ野郎がイオに持ちかける依頼ってのは、冒険者ギルドにおける受付嬢をやってほしいということか。


 だが、なぜ受付嬢なんだ?


 たしかに、イオはこっちの世界においても世界一と言っても過言じゃないくらいの美少女だ。


 性格良し、顔良し、スタイル良しの三拍子揃った優良物件。


 そう言う意味じゃ、受付嬢をやるのは何らおかしくはないが……。


「うむ……。別に、断ってくれても構わない。本来、イオ殿は友人たちと共に、旅行に来ているわけだからな。さすがに、仕事をさせると言うのも……」

「あ、あはは……。でも、どうしてボクに? 前にチラッと見ましたけど、普通に人手は足りているように見えたんですけど……」

「う、む……それなんだがな? 実は――」


 自分たちの落ち度であることを表情に表わしながら、クソ野郎が事の経緯を話し出した。


 要約すると、魔族との戦争が終わり、平和な状態が続いてきたが、それが理由で冒険者の中に粗忽者やチンピラじみた奴らが多く出始めているらしい。


 まぁ、わからんでもないな。


 人ってのは、危機的状況に陥りゃ、争うことを止めて一致団結するのかもしれないが、いざその危機が去った場合、その後には確実に調子に乗る小悪党が現れるのも事実だ。


 まったく、面倒なことになってんなぁ。


「なるほど……」

「受付嬢は、何と言うか……容姿がよく、仕事もしっかりこなす者を雇っていてな? もちろん、男の受付もいる。まぁ、こっちも大体は容姿がよかったりするんだが……。いや、それはいいんだ。受付をしている者のほとんどは、戦闘経験のない、所謂一般の者たちとも言えるのだ。なので、戦うことをメインにしている冒険者たちを振り払う力などはなくてな。そこで、勇者であるイオ殿に、どうにかしてもらい、というのだ」


 事の経緯を説明した後、クソ野郎はなぜ受付嬢である必要があるのかを説明する。


 たしかに、冒険者ギルドの受付嬢ってのは、言っちまえばギルドの顔役であり、同時に最も接する機会の多い職業だ。


 となれば、極力見目の良い者を置きたいと思うのは何ら不思議じゃないし、何より冒険者の士気が上がる一因にもなる。


 特に、男なんざ単純だ。


 美人であったり、可愛らしかったりする受付嬢に対し、仕事で自分をアピールしてあわよくば……なんてことを狙うほどだ。


 受付嬢がおだてれば仕事に行く奴は多い。


 ちなみに、男の受付もいて、女性冒険者向け、と言ったところか。


 こっちも受付嬢に対する男の冒険者たちの反応と大差ないが……ハッキリ言って、こっちの方がある意味厄介と言える。


 なんせ、水面下では男を巡っての、昼ドラのようなドロドロの三角関係が繰り広げられてることなんざざらだしな。


 ってか、三角関係どころか、人数が倍以上に増えることも多いがな。


「そうだったんですね。……うーん………………あの、仕事って実際何をするんですか? さすがに、冒険者ギルドに在籍したことはないですし……」


 依頼の内容を聞き、イオはしばし考えた後、仕事内容について尋ねる。


 ま、基本だな。


「なに、仕事は簡単だ。主に、クエストの受注、報告を受けることだな。そのほかの業務だと、事務作業などや鑑定作業がある。あと、イオ殿の場合は、もしギルド内で荒事が発生した際、それを止めてもらえると助かる、だそうだ」

「なるほど……えーっと、ボクがやるのもやぶさかではないですけど、さすがに素顔でやるのって、結構問題じゃないですか? その……ボクって一応、有名人と言えば有名人ですし……」


 眉を八の字にしながら、そう答える。


 まぁ、勇者が受付嬢をしている! なんて状況は、まず異常だし、いろんな奴が押し寄せて来るなんてことは簡単に想像できる。


「あぁ、そうだったな。イオ殿が受付嬢なんぞをやれば、即座に冒険者たちが集まるだろう。それどころか、近隣住民が揃って押しかけそうだ」

「あ、あはは……」


 イオもクソ野郎に言われて思い至ったようで、苦笑いで頬を引き攣らせつつ、乾いた笑いを漏らす。


 こいつは、基本的に目立ちたくない、なんて人間だからな。


 暗殺者としちゃ、模範的ではあるが。


「しかし、そうだな……どうするか……」


 バレると問題になると考えたクソ野郎は、口元に手を当てて良案が無いか考え込む。


 そんなクソ野郎を見てか、イオが一つの提案をする。


「それで、なんですけど、いっそのこと覆面調査、みたいにしてはどうかなと」

「ふくめん、とは何だ?」

「覆面調査と言うのは、簡単に言えば、素性を隠して内部を調べることですね」

「つまり、スパイのような物、と?」

「間違っていませんけど、スパイとは違って、敵に流すわけじゃなくて、そこの大元の人に情報を渡すんです。職場をよりよくするために。それ以外だと、犯罪組織に潜り込んだり、とかですね」


 ……あぁ、覆面調査ってあれか。


 あたしもその場面に出くわしたことがあったな。


 あれはたしか……ああ、そうだ。海外でとあるテロ集団が多くの人質を取り、立て籠もるなんて事件の時だったか。


 あたしも偶然そこに居合わせたもんで、面白そう、なんて理由で混じったんだよなぁ。


 その時、覆面調査をしていた奴らと会って、そいつらがやられそうになったからあたしがそいつらを助け、そしてテロ集団共をのしたんだったな。


 あれは面白かった。


「ほう、そのようなものがあるのか。……うむ、それはいいな。イオ殿、それで頼めないだろうか? もちろん、給金は発生する」

「わかりました。何事も経験ですしね。それに何より、戦争が原因でそう言ったことが怒っているのなら、お手伝いさせてもらいます。でないと、受付の人たちや、街に住む住民の人たちも安心できないでしょうから」


 さすがと言うべきか、こいつは本当にそんな性格をしてるよなぁ。


 弟子の分け隔てない優しさを見てあたしは苦笑し、同じこと思ったのか、ミカたちもあたしと同じような表情をしていた。


 考えることは同じだ。


「……本当に、イオ殿は人ができておるな。……あー、イオ殿は、そちらの世界でもこんな感じなのか?」


 最初は呆れた様な感心したような、そんな顔と声音のクソ野郎だったが、すぐにイオが法の世界でも同じなのか、同郷であるミカたちに問いかけると、


「「「「「「「おっしゃる通りで」」」」」」」


 それはもう、見事なハモリでもって答えた。


「そうか……。まあいいか。ともあれ、仕事は明日頼めるかな?」

「大丈夫ですよ。それで、時間は何時頃ですか?」

「基本、朝の八時にはギルドは開いている。なので、七時頃に行けば問題はなかろう。向こうにもそう話しておく」

「わかりました。それじゃあ、その時間に」

「すまないな」

「いえいえ。……あ、明日は一応、姿を偽って行くので、その事も伝えておいていただけるとありがたいです」

「あいわかった。さて、こんなところか。それでは儂は仕事に……っと、あ、いかん。もう一つあった」


 今度こそ仕事に、と思えば、まだ何かあったらしい。


 うっかりか、このクソ野郎は。


 そんなんで国王が務まるってのか? え?


「これは別にお願い事などではなく、ある種の注意だ」

「注意、ですか」

「ああ。聞けば、そちらの世界はこちらとは違い、争いのない平和な世界と聞く。ならば、ほとんどは戦闘能力を持たない者ばかりであろう?」

「そうですね。魔物類もいませんし」


 ……まぁ、魔物はいなくとも、ブライズなんてやべーのが一時期いたんだが……そこはいいだろう。


 あの問題は解決したし、な。


 その代わり、悪魔が出現したが。


「そうか……。ならば、言っておかねばな。……どうも近頃、正体不明の人型の生物らしきものが目撃されていてな、今のところは大した被害は出ていないのだが、気を付けておいた方がよいぞ」

「……わかりました。忠告、ありがとうございます、王様」

「なんの、イオ殿には本当に世話になったからな。……それでは、儂は今度こそ、仕事を再開させるとしよう。では、楽しんで行ってくれ」


 最後ににこやかに笑ってそう告げ、クソ野郎は出て行った。


 ……しかし、正体不明の人型、ねぇ?


 こりゃ、こっちの世界に悪魔がいるかもしれないな。



 王様たちへの事情説明が終わると、あたしたちは王城を出て、早速観光へ向かうことにした。


 が。


「悪いな。あたしは別行動を取らせてもらうぞ」


 今回、あたしは別行動を取ることを決めていたため、王城を出てすぐに別行動を取ることをイオに切り出した。


「あれ? 師匠は一緒に行かないんですか?」

「ま、久しぶりの元の世界だからな。あたしもちょいと、見て回ってくるよ。あぁ、何かあったらスマホで連絡しな。一応、お前のスマホだったら、あたしのスマホに繋がるようにしておいた。じゃあな」


 矢継ぎ早にそう話すと、あたしはイオたちから離れ、転移魔法で移動する。


「……っと、ゲーム以外じゃ、久々に帰ってきたな」


 イオたちと別れてまず最初にやってきたのは、あたしの家だ。


 ここに帰って来るのは、去年の……あー、体育祭前だったから、ざっと九ヶ月ぶりくらいか? 気が付けば、随分と向こうの世界にいたもんだな。


 とは言っても、あたしとしちゃこっちの世界にいるよりかは、遥かに向こうにいる方が楽しいし、美味い物も多いんで、全然気にしちゃいねぇけどな。


「ふむ……なんか、あたしが最後に来た時よりも整理されてんな……そういやあいつ、なんか掃除したとかなんとか言ってた気がするが……」


 まったく、甲斐甲斐しいと言えばいいのか、お人好しと言えばいいのか……だが、整理してもらったのは素直にありがたいし、後で礼を言っておくとしよう。


「とりあえず、あたしの持つ最も強い装備類を持っていくとしよう。今後、何があってもいいように」


 ここへ来たあたしの目的は単純だ。


 この家に残る、あたしの最強装備を持ち出すためだ。


 その装備類はあたしが頻繁に活動していた頃の物であり、そしてあたしとミリエリア、そしてとある人物との三名による合作で、生涯最高の出来、と言っても過言ではないくらいの装備類だ。


 それのおかげで、あたしは今を生きてられている、と思っていいほどに。


「さて、問題の装備だが……」


 一応、この森が割と凶悪な場所である上に、あたしが張った『神ですら壊すのに難儀する結界』がある以上、盗みに入るような不逞の輩はいないとは思うが……念のためと言うことで、あたしの装備類はかなり強力なセキュリティで守られている。


 それに、この家自体、あたしが認めた相手以外は入れないようになってるしな。


 現状入れるのは、あたしとイオ、それからミカたちに、メルたちだ。


 まぁ、イオの身内なら無条件で入ることが可能だ。


 そして、さらにそこから別のギミックがある。


 あたしが住むこの家は二階建てだが、実は地下室という物が存在し、そこへ入るにはあたしの魔力パターンと指紋、それから定期的に組み変わる、パスワードのようなものを入力する必要がある。


 正直、あたし的には面倒ではあるが、盗まれないようにするためには、これくらいのことをしなければいけないくらい、こっちは普通に窃盗がある。


 ……とはいえ、最近はこの森の魔物があたしの家を守護してるらしいんで、猶更心配はいらないんだがな。


「さてさて、久々の最強装備、お目見え~、っと」


 面倒なセキュリティを全て解除し、あたしは数百年ぶりくらいに自身の相棒とも呼ぶべき装備との再会を果たした。


 黒く、光を一切反射しない作りの箱に入った、二振りの漆黒の刃と純白の柄のナイフと、それとは真反対の純白の刃と漆黒の柄を持つナイフだ。


 この二振りこそが、あたしの相棒とも呼ぶべき武器。


 そして、防具類。


 こっちは黒のローブに漆黒の籠手、それからブーツに、あとは数種類のアクセサリーがある。


 これらはどれも強力無比な力を持っている。


 どれか一つでも何の才能もないごく普通の村人が持ったとしても、強者に対して渡り合うことが可能なほどだ。


 言ってしまえば、そうだな……修業時代のイオにこの装備品をフル装備させた状態であたしと組み手をすれば、イオが勝つ可能性がかなり高まるほどだ。


「……よし、これらは『アイテムボックス』にしまっておこう。これさえありゃ、どれだけ不測の事態に陥ったとしても、まぁ問題はないだろう」


 もちろん、油断する気なんざ、さらさらないがな。


 油断とは、この世で最も恥ずべき行為だと思っている。


 どんなに相手が格下であったとしても、自身の方が強いと驕れば足元を掬われる、なんてことはよくあることだ、


 そこにある違いは、ある意味覚悟だろうな。


 格下はたとえ死んだとしても、相手に一矢報いる、その強い意志と覚悟によってジャイアントキリングを成す。


 だからこそ、強者は油断してはならない。


 ……もっとも、どこかの愛弟子は、最後の最後で呪いを貰っちまってたがな。


「よし、装備品の回収も済ませたし、次に行くか」


 ここでの目的を済ませたあたしは、次なる目的地へ行くべく、転移魔法を行使した。

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