第436話 パワハラ上司に疲れたOLのような天使

「……えーっと、これはどういう状況?」

「……あたしにもわからん。なんだこれ」


 そして、その場所に到着するなり、ボクと師匠は酷く困惑していました。


 いや、だって……ね?


 ボクたちの目の前で行われているのが……その……


『まったく! そちらはなんでいつもいつも、人間の方々に迷惑なことをしでかしているんですかっ!』

『うっせーな。んなのオレらの勝手だろうが! 出しゃばってんじゃねーよ! 神の犬が! しかも、あいつら頭おかしいじゃねえか!』

『ちょっ、今言ってはならないことを言いましたね!? 確かに神様だって、なんか頭がぶっ飛んでる方ばかりですけど! それでも……え、えっと、せ、先代の管理神である、ミリエリア様はとても素晴らしい方だったんですからっ! 今の方はやべー方ばかりですけど!』

『おめえ、本当に眷属的にそれでいいのか!?』


 取っ組み合いの喧嘩だったから。


 えーっと……あの、え? いや、本当にこれはどういうこと?


「し、師匠……?」

「言うな。あたしも困惑している。今、あたしの本体もこの状況をあたしを介して視てるんだが……ああ、あたしからメッセージが来た」

「えと、何て言ってます?」

「知らん。だそうだ」

「えぇぇぇ……」


 師匠でも知らない状況って、相当問題なんじゃないでしょうか。


 それにしても、あの悪魔さんと取っ組み合いの喧嘩をしているのって、なぜか背中から白い翼が生えてるんだけど……あれって、もしかしなくても、あれ、だよね? だって、翼だけじゃなくて、頭の上にも輪っかが見えるし……。


「師匠、あれって……」

「……まあ、間違いなく、悪魔の天敵、天使、だろうな……」

「やっぱり……」


 師匠から聞かされていたとはいえ、天使、本当にいたんだ……。


「悪いんだが、こればかりはさすがに分身体であるあたしだと、対処が面倒なんで、ちょっと本体と変わる」

「大丈夫なんですか?」

「まあ、分身体と言えども、戦闘力に違いはほとんど出ないしな。……そんじゃ、入れ替わるぞ」

「わかりました」

「『交換』」


 師匠がそう唱えると、師匠が消えて、師匠が現れた。


 ……字面が不思議。


「まさか、天使がこっちに来ているとはな……まったくもって、面倒だ。あたし、あいつら苦手なんだよなぁ……」

「師匠が苦手意識を持つって……」


 それって相当なのでは?


 だって、この人が苦手だと思う存在がいるんだよ? この、全ての生物の頂点に立っていそうで、尚且つ苦手なものは何もない! みたいな感じの師匠が。


「あいつらは、あたしにとって唯一の苦手な存在だ。理由は……まあ、あいつらの性格、って言やいいのかねぇ……。お前、天使と悪魔の会話、聞いてたろ?」

「は、はい」

「その途中で、ミリエリアの名前が出て来ていたよな?」

「出てましたね」

「あいつらはまあ……神の眷属、みたいな存在でな。言ってしまえば、社長と社員の関係なわけだが」

「なんですか、そのビジネス的な関係は」

「いや、マジでそうなんだって。一応、神の指示で動くことはある。だがな、実のところ、ほとんどの神に対してはそこまで忠誠を誓っているわけじゃないんだよ、あいつら」

「天使なんですか? それ」


 天使なのに、明らかに性格的なあれこれが天使じゃない気がしてならない……。


 そう言えばさっき、今の神様は頭がぶっ飛んでる、とか言っていた気が……。


「いやまあ……あいつら、いい神にはものすごい忠誠を誓うんだぞ? それが嫌でなぁ……」

「……それってもしかして、ミリエリアさんのこと、ですか?」

「……ああ、そうだ。ミリエリアはマジで異常なくらいに善神だったからな……。あいつ、天使がこっちに降りてきている度に崇拝されていたぞ」

「す、崇拝って……」

「例を挙げるとすれば、例えばあいつがここにいた場合、天使たちはミリエリアの前で跪き、『ミリエリア様! 本日もご機嫌麗しゅうございます! なにかしてほしいことはありますでしょうか? あるのならば是非我らにお任せください! ミリエリア様の命とあらば、悪魔どもを滅することだってしますので!』って言うんだぞ?」

「それは……まあ、まだマシ、なんじゃないですか?」

「何を勘違いしているかわからんが、あいつらあれだぞ? 一体だけじゃなくて、それが数百、数千以上の規模で言うんだからな? それでもお前、マシとか言えるか?」

「……すみません、全然マシじゃなかったです」


 想像しただけでも怖すぎる……。


 天使って、もしかして想像しているよりもものすごい存在なのかな……?


「だからまあ、ミリエリアと一緒に過ごしている時は、あいつらから逃げることも多くてなぁ……。なのに、あいつらミリエリアのストーカーなんじゃないか、ってレベルで場所を把握、特定してくるんだよ。だから、逃げるのも大変でな。ミリエリアが神気を全力で使用して、あたしが隠蔽・隠密系スキルを使用して逃げる、ということをしていたからな……ちなみに、あいつらは神気がある奴を特定することができてな。まあ……あれだ。神気がある奴は、あいつらにとって近くにいればすぐに存在に気付く、ってわけだ」

「へぇ~、そうなんですね~……って、うん? 師匠、それってもしかして……ボクたちに気付くんじゃ……」

「お、いいことに気づいたな。この距離だと、あいつらは絶対に気づくな。ま、あたしは今全力で隠蔽しているがな」

「ちょっ、それずるくないですか!?」


 師匠だけ逃げようとしてるんだけど!?


 ボク、神気の隠し方とか知らないんだけど!


『むっ、この懐かしい気配は……! はっ、そこの方! もしや、神気をお持ちですか!?』


 あぁっ! 気付かれた!


 ぐりん! っていう勢いで天使の人がこっち見たよ!


 待って、怖いんだけど!


『邪魔です、悪魔! 帰ってください!』

『ごぶぁぁぁぁぁぁっ!?』


 あぁ! 悪魔さんが理不尽にも殴られた! しかも、吹き飛ばされた先に変なゲートが出て来てるし……って、き、消えた!?


 もしかしてあれ、魔界的なものと繋がってるの!?


 えぇ!?


「あの! 少々よろしいでしょうか!?」

「うひゃい!?」


 い、いつの間にこっち来たの!? き、気づかなかったんだけど!


 嘘でしょ……?


「あの、なぜ神気を持っているのでしょうか!? しかも、どこか懐かしいような気配を感じますし……一体なぜ神気を!?」

「お、落ち着いて! 落ち着いてくださいっ!」

「はっ! こ、これは失礼しました。……こほん。自己紹介が先決でしたね。私は、天使のノエルと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ノエルと名乗る天使さんは、何と言うか……美形だった。


 長い金髪に十字のような模様が浮かんでいる金色の瞳。


 顔立ちは神々しいような雰囲気を持つ、綺麗な顔立ち。


 着ている衣装は、基本的に白一色のもので、何て言えばいいんだろう。よく絵画に描かれているような、昔のローマとかギリシャ辺りの衣装、って言えばいいのかな。ちょっと、目のやり場に困る……。しかも、スタイルがいいし……。


 身長はボクより高くて、師匠より少し低いくらいだから……大体、166センチとかかな? 師匠、170越えだし……。


 う、羨ましい……。


「え、えと、あの、お、男女依桜、です……」

「素晴らしいお名前ですね! では、依桜様と呼ばせていただきますね!」

「なんで様付けなんですか!?」

「なぜ、と言われましても、神気を持つ方は、我々天使にとって敬うべき方なのですから」

「いや、あの、ボクは偶然神気が身に宿るようになってしまっただけで……その、一緒に暮らしていた人がたまたま持っていて、それがボクに染みついてしまっただけの人間なんですけど……」

「おや? それはおかしいですね」

「え?」


 ボクが神気を得てしまった理由を伝えると、ノエルさんは一瞬首を傾げてそれを否定して来た。


 その返答に、ボクは思わず呆けた声を出してしまう。


「あの、師匠? どういうことですか?」

「いや、なんつーか……まあ、あれだ。別に知らなくてもいいだろ」

「いやいやいや! これ、ボクの体のことなんですけど!? 知っておかないと、なんか色々と問題がある気がするんですけど!?」

「別にいいじゃねえかよ。あって困るもんじゃねえし……」


 この人、なんでこんなに適当なんだろう……。


「あの、依桜様? そちらの方は……って、あら? あの、あなた、数百年程前にお会いしていませんか?」

「………………気のせいだろ」

「いえ、気のせいじゃありませんよね? あなた、ミリエリア様と一緒にいらした方ですよね? 私、憶えていますよ?」

「………………絶対気のせいだって。あたしは……あれだ、ミリエリアと一緒に暮らしていたわけじゃない……」

「やっぱりあの時の方ですよね? この世界において、ミリエリア様を呼び捨てで呼ぶのは、その親友の方の、ルヴェ――」

「その名前はやめろ」


 何かを言おうとしたノエルさんだったけど、師匠の本気の発言により、そこで遮られた。


 エ、って何、エって。


「あ、す、すみません!」

「ったく……。数百年前も言ったろ、あたしの名前はミオ・ヴェリルだと」

「つ、つい……」

「まあいい。……はぁ。自分で墓穴を掘っちまった。あぁ、そうだよ。数百年前、ミリエリアと一緒に暮らしていたミオだよ」

「やっぱり! ずっと探していたのですよ? ミリエリア様の親友ならば、我々天使にとっても敬うべき存在ですから」

「やめろやめろ。あたしはそれが嫌でお前たちの捜索網から逃れ続けていたというのに……」


 あ、それが理由なんだ。


 でも、なんとなく理由はわかるかも……。


 なんと言うか、ちょっと反応に困るよね、これ。


「そう言えば、依桜様はヴェリル様のことを『師匠』と呼んでいましたが、師弟なのでしょうか?」

「え、えと、そうです。ボクの暗殺者としての師匠で……」

「なるほどなるほど! これは素晴らしいです! まさか、ミリエリア様の親友であるヴェリル様のお弟子様だとは……これは、我々天使は依桜様を本気で敬わなければ!」

「やめてくださいよ!? ボク、そんなにすごい人間じゃないですからね!?」


 最近、異世界人の子孫だって言う事実が発覚しちゃったけど!


 それでも、ボクは普通の人間だから! ギリギリだけど!


「そうは言いますが、神気を持っている時点で色々とおかしいと言いますか……まあ、ヴェリル様が持っているのはある意味当然として、どうして依桜様が持っているんでしょうか……」

「あの、そんなにおかしいんですか?」

「その質問に対する答えとしては、YESです」

「じゃ、じゃあ、一緒にいただけじゃ宿らないんですか?」

「そうですね」

「……師匠、どういうことでしょうか?」

「さっきも言ったろ? 知らなくてもいいことだってあると」


 何でもないようにそう言う師匠。


 なんだろう、何かを隠しているような気がしてならない……。


「おい天使。ノエル、だったよな?」

「はい、なんでしょうか、ヴェリル様」

「……ヴェリルじゃなくて、ミオでいい。家名で呼ばれんのはむずむずする」

「わかりました。では、ミオ様と」

「ああ、それでいい」

「それで、ミオ様。何か御用でしょうか?」

「ちょっとこっち来い」

「あ、はい」


 師匠はノエルさんを連れて、ボクから少し離れていく。


 師匠はなぜか結界を張って、その中で会話を始めた。


 ……どれだけ聞かせたくないんだろう。


 ちょっと釈然としないなぁ……。


 師匠に対し、ちょっとだけ不満げに思っていると、師匠とノエルさんがこちらに戻って来た。


「師匠、何を話していたんですか?」

「いやなに。ミリエリアの昔話をな」

「やはり、共通の話題というものは、話に華が咲きますから」

「そ、そうですか」


 ミリエリアさんのことを……。


 うーん、師匠曰く、女好きの人だったり、なぜかベッドの上で縛ったり縛られたりするような人だったから、あまりいいイメージが沸かないというか……本当に、どういう神様だったんだろう。


「それにしても……本当に不思議と縁を感じます、依桜様からは」

「縁、ですか? でも、ボクに天使の知り合いはいないはずなんですけど……」

「ええ、私共の方でも、依桜様に会ったという天使はいないと思います。ですが、どこかで会ったような気がしてなりません」

「うーん……そう言われましても」


 こんな派手な人と会っていたら、確実に記憶に残るはずだし……やっぱり気のせいなんじゃないかな。


「そんなことはどうでもいい。それで? 天使がこっちにいる理由はなんだ? 正直、お前らは人間に危機が迫っているか起こっていない限りは、人間界には降りてこれないだろ」

「え、そうなんですか?」

「はい、ミオ様の言う通りです。我々天使は、人類に何らかの危機が訪れない限りは、こちらの世界に降りてくることができません。そう言う制約が設けられているのです」

「えっと、理由は?」

「クソ上司――もとい、我々の上司に当たる神様方が定めたルールに、人間には不干渉、というものがあるのです。それにより、我々はよほどの事態が発生しない限りは天界の方で静観を決め込んでいるんです」

「あの、今クソ上司って言いませんでした?」

「滅相もない。確かにあの方々は割とクソ――じゃなかった、頭のねじがぶっ飛んでいますが、決して敬わないわけではありませんよ? ミリエリア様が素晴らしすぎただけで……月と鼈、雲泥の差、天地の差、なだけで」


 どうしよう、所々に毒が見える。


 やっぱり、天使にも色々あるのかなぁ……。


 ちらりと師匠を見れば、『あー、わかるわかる。あいつらクソだよなぁ……』って顔をしていた。


 ……本当に、神様ってどういう存在なの?


「チッ、あのクソ上司……こっちが下手に出ていれば調子に乗りやがって……くっ、力があれば下剋上をするのに……!」


 うわぁ、天使とは思えないテンションと口調……。あと、目が死んでるし……。


 ……天使の人を見ていたら、なんだか、パワハラをする上司の相手をするのに疲れたOLを髣髴とさせるんだけど……。


「あの、大丈夫ですか? もしよかったら、その、愚痴とか聞きますけど……」

「……あなたは女神か!」


 あまりにも不憫に見えて、愚痴を聞くと言った瞬間、バッ! と顔を上げて、ものすごく感激したような表情をボクに向けながら、そう叫んでいた。


「いや人間です」

「いいえ、我々のような社畜に優しい言葉をかけて頂ける時点で、我々天使としてはまさに女神です!」

「女神の基準安すぎません!?」


 どれだけ今の神様って酷いの!?


「あぁ、今日はなんという良き出会いでしょう! ミリエリア様のような素晴らしい心の持ち主である、依桜様に出会えるなんて……。依桜様を我々の主神として崇めたい……」

「崇めるのは勘弁してください!」

「ですが、我々に優しい言葉をかけている時点で、相当な優しさの持ち主なのですが……」

「……すみません、あなたたち天使の周りにいる方たちって、どういう人なんですか……」

「そうですね……今のクソ上司は、有給など与えてくれず、従属神の方もまるでパシリのように扱い、何らかの問題が人間界で起きたらそれを休日であろうがなんだろうが出動させ、極めつけは多くの神様たちの目の前で芸をやらされるんです……しかも、お酒の席で……ちなみに、休日出勤でも代休はありません……」

「ど、ドブラック……!」


 天界のお仕事事情、明らかに日本のブラック企業みたいになってるんだけど!


 というか、どうなってるの!? 天界って!


 人権なんてものが全く存在していない気がするんですけど!


「うっわマジかよ。あのクソ神共、あんだけあたしが以前制裁を加えてやったと言うのに、懲りずにまだそんなことしてんのかよ……さすがのあたしでも、こいつらに同情するぞ……」


 師匠が同情するレベルって!


 これもう、天使の人たち過労死しちゃう気がするよ!


「……ともかく、その話は一旦置いておくとして。天使であるお前がいるってことは、人間界に何か問題でも起こるってのか?」

「あ、そうでした、その話でしたね。……はい、ミオ様の言う通りで、近々問題が起きそうでして……」

「それはあれか? お前がさっき取っ組み合いの喧嘩をしていた悪魔どもと関係あるのか?」

「そうです。どういうわけか、最近悪魔たちの動きが活発になってきているんです。つい最近は、法の世界の方にも出現したようですが……そちらはなぜか、すぐに消えました」

「法の世界?」


 なんだか聞きなれない名前が出てきた。


 法の世界って何?


「あ、もしかして依桜様はご存じないですか?」

「はい……聞き覚えはない、ですね」

「それなら、あたしが説明しよう。師匠だしな」


 ボクがわからないことを伝えると、師匠が説明に名乗り出てくれた。


 師匠の教え方はわかりやすいからすごくありがたい。


「そうですか。ではミオ様、お願いします」

「ああ。まず、法の世界ってのだが……まあ、簡単に言えば、お前やミカたちが出身のあの世界のことだ」

「あ、そうなんですね」

「で、こっちの世界は『魔の世界』という名前が付いている」

「なるほど……その名前の由来って知ってるんですか?」

「まあ、あくまで仮説だが、その世界において使われている力から来ているんじゃないかと思う」

「力?」

「そうだ。魔の世界なら、その名の通り、魔力――魔法などによる発展だな。こっちは、魔力が豊富だから、それで発展してきている。そして、法の世界。こっちは、物理法則や自然法則などによる発展がメインだな。言ってしまえば、科学による発展だ」

「なるほど……」


 そんな名前が付いていたんだ。


 初めて知った。


 ……でも師匠、なんでそのことを知っているんだろう?


 さすが師匠、と言いたいところだけど、余計に謎が深まった気が……。


「その通りです。ミオ様は博識なのですね」

「いや、これについてはちと知る機会があってな」

「なるほど……」


 やっぱり謎だ……。


「それでは、ある程度理解されたところで、続きを。法の世界では、悪魔がすぐに消えたのですが、どうにもこちらの世界では、悪魔の出現が頻発しているようで……」

「……そう言えば、今日悪魔と遭遇しましたよ?」

「ほ、本当ですか!? あ、あの、お怪我とかは……」

「あ、いえ、一回だけ蹴り飛ばしたら、そのまま消えました。勝てるわけない、って言って。どうにも、ボクのことが向こうの悪魔さんたちに知られていまして……」

「それはどういう……」

「えーっと、ちょっと言い難いんですけど……法の世界に現れた悪魔を倒したの、ボクなんです……」

「そ、そうなのですか!?」

「は、はい……」


 ほとんど成り行きだったけど。


 あの時は、メルたちが狙われたからやむなしにね。


 でも、メルたちを狙った時点で、ボクの中で倒すことは確定事項だったから、後悔とかは一切ないんだけど。


 周囲にいた一般のお客さんにボクの魔法とかバレかけたけどね。


「なるほど……そのようなことが。依桜様、悪魔たちがなにをしていたか、ご存じでしょうか?」

「それが、軽いいたずらくらいの被害だったんですよ。向こうの世界では、ちょっと危なかったんですけど、こっちの世界だと落書きとか、物を盗んだりとか、あとは畑を荒らしたり、っていうような本当にしょうもないような物ばかりで……」

「……何やってるんですか、悪魔たちは……」


 ノエルさんも呆れていた。


 天使でも呆れるレベルなんだね……あれって。


「はぁ、どういった被害が出ているのかはわかりました。他の所ではどうなっているのかはわかりませんが、人的被害が出ていないとも限りません。我々天使で事に当たりましょう」

「ありがとうございます、ノエルさん」

「……何でしょう、こう正面切ってお礼を言われるのは、とても胸に沁みますね……」

「……どれだけ神様からお礼を言われてないんですか」

「かれこれ数百年くらいでしょうか」

「あの、殴ってもいいと思いますよ? それ」

「……そうですね。思い出したら、本当に殴りたくなってきました。泣くまで殴ろうかと思います」

「頑張ってください」

「依桜様は本当に素晴らしい方ですね!」


 ……うーん、なぜかはわからないけど、ノエルさんのボクを見る目がどんどん崇拝ようなものに変わっている気が……き、気のせいだよね! うん!


「それでは、私はこの辺りで失礼します。依桜様のことは、天使の間で共有しておきます!」

「え、ちょっ、どういう意味ですか!?」

「それでは!」


 突然空が光り、あまりの眩しさに目を覆ってしまう。


 そうして、次に目を開けたらノエルさんはその場から忽然と姿を消していました。


 その場には、呆然としているボクと、面白そうな、それでいて呆れたような表情を浮かべる師匠が残っていました。


「……お前、天使にすら懐かれだしたな」

「……何も言わないでください」


 本当に、どうなっているんだろうね、ボクの人生……。



 この後は、みんなと合流してお城に帰りました。


 ……これから先の旅行が、不安でしかないです。

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