第437話 未果たちの二日目 上

 時間は遡り、朝。


「それじゃあ、ボクはギルドの方に行ってくるね。師匠、みんなのこと、よろしくお願いします」

「ああ、ガキどものことはあたしに任せな。しっかり仕事して来いよ」

「はい。それじゃあ、行ってきます」


 翌朝、全員がほぼ同じ時間に起床し、朝から随分と優雅なモーニングを食べた後、ほどなくして依桜はギルドの仕事に向かった。


 その間、若干の申し訳なさはあるけど、私たちは昨日に引き続きこの辺りの観光。

 一応、行こうと思えば他の街や村に行ける、ってミオさんが言っていたけど、さすがにやめておい

た。


 依桜が頑張っている時に、私たちだけで遠出をするって言うのも……。


 まあ、そんなわけで、ある程度の準備をしたら私たちは外へと出向いた。


 依桜がいないため、メルちゃんたちはちょっとだけ寂しそうだったけど、それでもこうして大勢で街を歩くことが楽しいのか、みんなでキャッキャとはしゃいでいる。


 依桜が見たら、さぞかしにやけていたことでしょうね。


 あの娘、メルちゃんたちのこと、大好きすぎるもの。


 なんと言うか、随分とシスコンになったわよね……依桜。


 本当に、将来が心配だわ。


「ふっふふ~ん♪ ぬぉ! あれは!」

「あ、ちょっ、女委! 勝手にどっか行かないで!」


 依桜のことを心配していたら、いきなり女委が駆け出した。


 それを私が慌てて追いかける。


 こういう時だけ、女委の足はかなり速い。


 欲望に忠実すぎない?


「おぉぉ! これ、すっごい気になる! おじさんや、これはなんだい!?」


 私が追い付くと、女委は何かの店に入り、そこの店主のおじさんと話していた。


『ああ、これは『複写機』だよ』


 女委が気になったのは、30×30×15センチくらいの箱のようなもの。


 複写機という名前だけあって、形としてはコピー機に似ている。


「ふ、複写機!? そ、それって、絵をコピーしたりするあれかい!?」

『おうそうだ。よくわかったな』

「いやー、似たようなのを見たことがあるもので! ねね、おじさんこれいくら!?」

『こいつか? そうさなぁ、こいつはあんまし出回ってなくてなぁ。でもな、こいつの用途ってのがあまりなくてよ。できても、絵のコピーだけ。基本的な価値感じゃ、こいつは絵をそのまま模倣するだけの何かになっちまう』

「ほうほう」

『だから、そうだなぁ……二万テリルってとこか』

「よし買った!」


 って、即断即決!?


「ちょっ、女委!? あんた、これを買って何に使うつもりなのよ!」

「え? 何って、ほら、わたし昨日出会った人たちに言ったじゃん? こっちの世界の言語に翻訳したものを渡すって」


 それってまさか……


「同人誌よね、それ!?」

「イグザクトリー!」


 ……だめだ。ストッパーがいないから、とんでもないことになってるわ、この時点で。


 というか、それの為だけに使うとか、馬鹿なんじゃないの?


「というかこれ、どうやって使うのよ。あと、こんな大きい物、運ぶのも一苦労よね?」

「いや、そこはあたしの『アイテムボックス』に入れておいてやるよ」

「おー! さすがミオさんだぜ! あざます!」

「いいってことよ。……ただ、あれだな。さすがに、いちいちあたしが入れておくのも面倒だしな……仕方ない。この際、簡易版の『アイテムボックス』でも作ってやるか。お前たち全員分の」

「え、ミオさんそれ大丈夫なのかしら?」

「問題ない。あたしを誰だと思っている。あたしだぞ?」


 うわぁ、無駄に説得力のあるセリフね、ほんと。


 正直、ミオさんほどこの世の中で規格外な人っていないんじゃないかしら。


 あぁ、規格外という意味で言えば、学園長もそうよね。


 異世界転移装置とか、フルダイブ型VRMMOを作っちゃうほどだもの。


 どうなってるのかしら。


「どれ、この程度の魔道具なら一分もかからんな。んじゃ、ちょっと待ってろ。すぐに創る」


 い、一分もかからないって……本当にどうなってるのかしら、この人。


『嬢ちゃん、こう言っちゃぁなんだが、いいのかい? こいつの使用用途はハッキリ言って模写にしか使えんし、所謂完璧な贋作しか作れない代物だぞ? 肥しになるだけだと思うんだが……』

「問題なし! わたしはそういうのを探していたのさ! 完璧に同じ絵をコピーするなんて、すごいと思うしね! だから、譲ってほしいな! おじさん!」

『……そこまで言われちゃぁ、これ以上言うのは野暮ってもんだな。こっちとしても、不良在庫を抱えるようなもんだったしな。売れるだけ、ありがたいってもんさ』

「よっしゃ!」

『おっし、こっちも申し訳ねぇし、二万テリルのとこを、一万七千テリルで売ろうじゃねえか』

「お、いいのかい!?」

『いいってことよ! 嬢ちゃんの可愛さに免じて、ここは一つ値切って売ろうじゃねえか』

「やったぜ! ……あ、それからちょっと相談が……」


 ミオさんが魔道具を創っている傍らで、女委は複製機を購入していた。


 なんか、変なことを相談しているみたいだけど……何を話しているのかしら。


「ほれ、できたぞ。一人一個持っとけ。あぁ、あらかじめ言っておくが、一応容量に限りはある。あたしもまだまだでな。現段階だと……一般的な二階建ての家が四つ入るほどしかない。あと、オリジナルのように時間が停止しているわけじゃないんで、そこんとこ注意な。まぁ、外よりは長持ちすると思うぞ、食品系統は。何せ、ものに合わせて保存する際の音頭とか違うしな。……本当なら、オリジナルのように容量の制限がなく、時間を停止するようなものを創ってやれればいいんだが、まだまだそれは創れん……って、ん? どうしたガキども。鳩がメテオを喰らったような顔をして」

「「「「「「やっぱあんた(あなた)おかしいよ(ですよ)!?」」」」」」


 ミオさんの発言には、魔法とか能力などの知識がない地球組の私たちですら、全力でツッコミを入れていた。しかも、相談中だった女委ですら加わる始末。


 何なのこの人……。



 複写機を購入し、ほくほく顔で歩く女委。


 すると、さっき何かを相談していたのが気になったのか、美羽さんが話しかけていた。


「ねえ、女委ちゃん。さっき、一体どんな相談をしていたの?」

「お、美羽さん気になる?」

「うん、気になる」

「あ、うちも気になる! なんだかこそこそと話してたから!」

「ほっほーう。ならば、話そうじゃないか! えーっとね、さっきの魔道具店のおじさんと交渉したんだー」

「「「「「……交渉?」」」」」


 何かしら、その不穏な単語。


 いえ、普通なら全然不穏に感じることはない言葉なのだけど……女委の場合、ものすごく不穏に感じるんだから本当に不思議。


 私と同じ事を思ったのか、晶と態徒の二人は額に皺を寄せて難しそうな顔をしていた。


 まあ……普段から一緒に行動しているから、被害に遭う場面も多いものね……。


 私も、同じ気持ちよ、二人とも。


 ただ、美羽さんはそうは思っておらず、少しだけ面白そう、というような表情を浮かべていて、エナに関してはなんだかワクワクとした様子。


 ……まあ、こっちの芸能人二人は、友達とは言っても普段から一緒にいるわけじゃない(エナの場合はまだ日が浅い)から、そういう反応にもなるわよね……。


 女委と最初にある程度意気投合して、こうして女委が悪巧み(?)をしているところを見ると、大多数の人は二人のような反応をするし……。


 類は友を呼ぶって言うものね。


 ……いや、エナはともかく、美羽さんにそれは失礼かも。


 あ、これだとエナも変人ということになっちゃうわ。


 あー……でも、エナも十分変人よね。女委の行動を見ても、何にも疑問に思わないどころか、むしろそれを楽しもうとしている素振りがあるし。


 そういう意味では、間違っていないかもね。


「おうともさ! いやー、こっちの世界って娯楽が少ないじゃん? あっても、ラブロマンスな小説とか、英雄譚とかくらいじゃん? 依桜君曰く、演劇とかも一応あるらしいけど、それも史実の物を再現した物だったり、するみたいだしね」

「まあ、異世界はそういうもんじゃね? 知らんけど」

「そうだな……イメージ的には、あまり娯楽が普及しているようなものはないな。むしろ、身近にある危険のおかげで、娯楽にかまかけている余裕がないから、発展していない、というのが正しいのかもしれないが」

「うむうむ、わたしもそう思うぜ! ミオさん的にはどう思ってるんで?」

「ん、ああ、大体はアキラの言っていることで合っているぞ。こっちの世界には、あまり娯楽と言えるような物がない。原因はと言えば……あたしの考えだと、こっちには『科学』という概念がなく、発展方法が『魔法』だから、だと思うな」

「それはどういう意味?」


 なんだか気になるわ。


 ミオさんの説明ってわかりやすいし、ものすごい説得力があるからしっくりくるのよね。


 他のみんなも気になっているのか、ミオさんをじっと見ていた。


 まあ、メルちゃんたちはよくわからなくて、首を傾げていたけど……。


「あー、立ち話もあれだし、どっか喫茶店にでも入るか。たしか、以前イオが普及させた料理とかも出すようになって、普通の料理からスイーツ系までレパートリーが増えているからな」


 何してんのよ、あの娘。


「んー……お、あそこがちょうどいいか。あの店に入るぞ」

「「「「「「「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」」」」」」」


 スイーツという言葉に反応した、メルちゃんたち小学生組も元気のいい返事をしていた。


 可愛いわ。



 というわけで、喫茶店。


「ここはあたしが代金を持とう。好きなものを食べろ。金なら全く心配はいらんからな。満足するまで食っていいぞ」


 という、ミオさんの太っ腹な発言により、全員遠慮なく注文した。


 まあ、まだお昼前ということもあり、飲み物とか軽食系なんだけど。


 私たち地球組は、異世界の料理を食べることにした。


 だって、気になるし。


「……んじゃまあ、さっきの話の続きと行こうか。まあ、別にどうということもない、あたしなりの考察なんで、大して面白くはないと思うんだがな……」


 そんなことはないと思うけど……。


 こういう、変なところで謙虚なのは、依桜と同じね。


 さすが師弟。


「んじゃま、軽く話していくか。こっちの世界に娯楽が少ないのは、大雑把に言えば、さっきアキラが言ったもので大体合っているだろう。こっちの世界には、日常的に危険が潜んでいるからな。例えば、誘拐だとか、魔物だとか、だな」


 依桜から聞いた話だと、本当に酷い場所だと犯罪率がとんでもないことになっている場所もあるみたいで、なんでも誘拐、窃盗、暴力沙汰など、日常的に発生するらしいし。


 ある意味、異世界らしいと言えばらしいんだけど……できれば、悪い方面じゃないほうで異世界らしい部分を知りたかったわー……。


「場所によっちゃ、犯罪も少なく、魔物の被害も大して多くないんだが……それは基本的にでかい国であり、尚且つ王都やその近郊にある街や村がほとんどだ。あとは、高位の貴族が治めている街もそれに該当する」

「なるほどー。やっぱり、貴族ってあるんだね」

「まあ、そうだな。お前らも知っていると思うが、イオはこっちの世界において割とでかい権力を持っているからな? まあ、それを言ったらメルもなんだが」

「む? 儂がどうかしたのかの?」

「いやなに。メルはすごいんだぞ、ということを言っていただけだ。イオ共々な」

「儂はまだまだじゃ! ねーさまの方がもっとすごいのじゃ!」

「ま、そりゃそうだな。メルはまだ生まれたばかりらしいからな。あいつは、あれでも一年間あたしの本気の修行についてこれてるんで、弱いわけがない」


 この人の依桜に対する評価って、高いのか低いのかいまいちわからないのよね。


 本人がいる前では、低めで見ているけど、いないところではかなり高く見ている気がする。


 ……もしかして、面と面向かって褒めることに対して照れてるのかしら?


 あり得るわ。


「あの、依桜ちゃんが大きい権力を持ってるって、どういうことなんですか?」

「あぁ、そういやエナだけは、イオのこっちでの立場についてはそこまで知らないんだったな」

「はい! 依桜ちゃんが勇者で英雄さんなのは知っているんですけど、それ以外は知らないです!」

「お前、本当に元気だよな。まあ、いいことだが」

「ありがとうございます!」

「ほんと、こいつくらいの元気が、今のガキどもにあればな……」


 ミオさん、すごく年寄り臭いこと言ってるわ。


 何か感じてるのかしら。


「っと、話を戻すか。まあ、他の面子もイオがどういう立場なのかは、大雑把にしか知らんだろうし、ちょうどいいか。軽く話しておこう。まず、エナのためにおさらない。あいつは、こっちの世界において、人間、魔族関係なく、この世界に生きる知恵ある者たちからは、勇者であり英雄だと思われている」

「あれ? ミオさんミオさん」

「なんだ?」

「あの、魔族って敵だったんですよね? なのに、どうして依桜ちゃんは感謝されているんですか?」

「いい質問だ。これに対する答えは簡単だ。イオはな、よほどの悪人を除けば、戦争相手である魔族すら殺さなかったんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「そうなんだ。あいつは底抜けのお人好しというか……まあ、優しすぎるんだよ。これだけだとわかりにくいと思うんで、感情を見やすく数値化したもので表すと……こうなる」


 そう言いながら、ミオさんは空中に棒グラフのような物を投影した。


 そこには『イオ 感情グラフ』という名称のグラフが書かれていて、それぞれ『怒り』『悲しみ』『喜び』『恐怖』『憎しみ』『優しさ』の六項目で分けられていた。


「まあ、優しさの部分に関しちゃ、これは『愛情』、もしくは『愛しみ』だな。まあ『慈しみ』の方でもいい。どっちにしろ、相手を思いやる気持ちに変わらんしな。で、だ。こいつに対し、あたしが感じているイオの主な感情を表すと、こうなる」


『怒り』……48

『悲しみ』……37

『喜び』……40

『恐怖』……2(相手が幽霊の場合、49)

『憎しみ』……1(親しいものに危害が加えられた場合、44)

『優しさ』……∞


「となる」

「「「「「「…………」」」」」」


 全員沈黙した。


 あー……なるほど。これは何と言うか……ヤバいわ。


「ちなみに言うが、この数値は、基本的なものだ。まあ、例外によってはバカみたいに数値は伸びる。あと、これの最高値はあくまでも50くらいで考えておいてくれ。ちなみにこれ、あたしの主観も混じっているには混じっているが微々たるもんだ。ほとんど、スキルの応用により出来上がったものだから、ある程度は正確だろう」


 その説明に、尚更沈黙。


 こんなとんでもないグラフを見せられるとは思わなかったわー……。


 ただ、心の底から納得した。


 特に、私と晶は。


 この中で最も付き合いが長いのは私で、その次に来るのは晶。


 態徒と女委もそこそこ長いけど、それでも私たちよりかなり短い。


 まあ、だからと言って優劣があるわけじゃないのは当然のこと。


 でも、これは何と言うか……行き過ぎな気がする。


「まさか、こういう結果になるとはあたしも思ってなくてな、ちとスキルを使用したのを後悔したぞ。初めて見た時なんて『は!? ∞!?』ってなったし」

「……なんかよ、依桜だからすぐに納得できちまうんだよなぁ……」

「そうだな……。依桜の優しはある意味異常だが、数値化するとこうなるとは……」

「いやー、依桜君はすごいねぇ。わたしもびっくり!」

「依桜ちゃんだから、ここまで優しくても納得」

「うんうん。うちも納得かな。だって、見ず知らずのうちのお願いをきいて、一緒にアイドルやってくれたくらいだもん」

「その通りだ。あいつはまあ、ちょっと異常なんだよなぁ。特に優しさと怒りの項目か。まあ、異常という点で言えば、憎しみの部分も異常と取れるんだがな」

「言われてみれば、怒りはカンストすれすれだし、憎しみに至っては例外じゃない限り、限りなく0に近いわ」


 どうなってんのかしらね、あの娘の感情。


 一周回って怖いわ。


 別段、依桜に対しての恐怖心とか気持ちの悪さは全然感じないけど。


「そうそこだ。これを見てわかる通り、あいつはなんか……優しすぎるんだよ。その結果かはわからないんだが、優しさが突き抜けるあまり、他の部分が微妙に低くなっている気がするんだ。そのため、仮に敵対したとしても、よっぽどの愚か者じゃない限りは絶対に殺さない。敵にすら変に優しを向けるからな。その結果、あいつは戦争中だと言うのに、ド畜生な奴らじゃない限りは、絶対に殺さなかったんだよ」

「なるほど……依桜らしいわ」


 平和主義者だしね、依桜は。


 平和主義にしたって、限度はある気がするけど、そこはそれね。


「あー、ここからはあたしの感想な。これ、絶対にあいつに言うなよ。多分、気にする」


 そう言うと、この場にいる全員が神妙な面持ちになった。


「あたしはあいつが好きだ。それはもちろん、人間性も含まれているし、家族的なものや、弟子に対する愛情もあり、そして……恋愛感情も含まれている」


 うっわ、さりげなく依桜が好きだと言ったわ、この人。


 さすが、世界最強の暗殺者は違うわー……。


「と同時に、あたしはあいつが心の底から心配だ。だから、正直に言う。あいつは、どこか歪んでいるんだよ」

「歪んでいる?」


 ミオさんの正直な感想に、晶が聞き返す。


「ああ。一番いい例なのは……そうだな、ミカの一件だろう」

「私?」

「そうだ。たしかお前、去年の学園祭とやらで撃たれたんだろ? テロリストに」

「え、ええ」


 今でも思い出すわ。


 必死に私に呼びかけて、見たこともない形相で私を助けようとした時の事。


 あれは……本当に記憶に残っている。


 あとから聞いた話だと、依桜はどうやら事前にテロリストが来ることを知っていたらしい。だと言うのに、動けなかった、というのが後々になって気になったこともあった。


 依桜はその時、事前に知っていたにもかかわらず、私を危険にさらし、他の来場者にも危険が及んだことに対して酷く後悔していたわ。


 ただ、私はものすごく疑問に思うことがある。


 今までの依桜を見ていると、依桜が事前に動けなかった、とか、警戒を怠っていたことに対して、ものすごく疑問に感じた。


 なんて言えばいいのかしら。


 変なことを言うようだけど、何らかの外的要因があったんじゃないかなと。誰かにそう動くよう誘導されていた、とか?


 って今はそんなことはどうでもいいわよね。


 こんな変な事を思っているのは私だけだろうし。


「あの時、お前はたしかにテロリストに撃たれ、命に危機に瀕した。というか、あともう少し遅れていたら確実に死んでいただろう」

「そう、ね」

「で、あいつはそれにキレてテロリスト共を一瞬で蹴散らした。そうだな?」

「そうっすね。あん時の依桜の怒りようは半端なかったっすよ……」

「わたしも、あればっかりは怖いと思ったねぇ」

「だが、あいつは殺さなかっただろ?」

「……言われてみれば」


 確かにそうだ。


 依桜はあの時、私に流れ弾が当たり死にかけたにもかかわらず、誰一人として殺していなかった。


「普通の奴なら、殺してもおかしくないんだが……あいつはしなかったしな。他で言えば、さっきも言ったように、あいつが魔族をほぼ殺さなかったことだ。だから、あいつは異常だ。歪みまくっている。だが、決して悪い意味ではないんだ。あいつはあれでも嘘を見抜けるからな。ただ……あいつはちょっとなぁ……優しすぎて、こう、自分が疎かになるだろ? それで倒れそうになるしよ……」

「「「「あぁ、わかるわかる」」」」

「だろ? だから心配で仕方ない。だから、お前らにはあいつを支えて欲しいなと」


 この人の依桜に対する過保護っぷりもすごいわね。


 何のかんの言って、依桜大好きなのよね、ミオさんって。


「当然よね。依桜は大事な幼馴染で、親友だもの」

「ああ。依桜は一人で抱え込み過ぎるからな……できれば、もっと頼って欲しいところだ」

「まあ、依桜君だもんねぇ。やばそうだったら、わたしたちで止めてあげないとね!」

「だな! ってか、支えるのが親友ってもんだしよ!」

「私は……親友、と思われているかわからないけど、友達だし、当然助けるなぁ」

「依桜ちゃんすごいもんね! うちたちも頑張って支えないとね!」

「そうか。あいつは、マジで友人に恵まれてんだなぁ……。いいことだ」


 しみじみとした様子でうんうんと頷きながら呟くミオさん。


 そして、次にこの一言を言い放った。


「まあ、あいつにとってメルたちがものすごい癒しになってるんで、割と心配いらなそうだけどな」

「「「「「「たしかに!」」」」」」


 最近、妹たちで体力を回復してそうな素振りがあるしね、あの娘!


 そういう意味じゃ、無敵だわ。マジで。


 全員、全力で肯定していた。


 ……そういう次元になっちゃったわけだものね、あの天然エロ娘。

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