第400話 寝ぼけ依桜ちゃん

 翌朝。


「すぅ~……すぅ~……」

「ん~? なんだかあったかいなぁ……って、はっ! 何この状況!?」


 朝、謎の温かさと柔らかさに目を覚ますと、依桜ちゃんがうちを抱きしめながら気持ちよさそうに寝ていた。


 お、おー、柔らかいし温かいし、いい匂い……。


「えへへぇ……。エナちゃ~ん……」

「はぅぁっ!」


 な、なんですかこれは!


 て、天国? ここは天国なの!?


 あと、依桜ちゃんの着ている浴衣がはだけて、真っ白でおっきなお胸が見えちゃってるよ!


 と言うか、依桜ちゃんって寝る時はもしかして……ノーブラ派!?

 見たところ、全然ブラジャーが見えないよ!?


 ノーブラ派の娘って本当にいるんだ!


 なるほど~、だから依桜ちゃんって天然系エロ娘って言われてるんだね!


 すっごく納得したよ!


「うむぅ~、でも、これはどうすれば……」


 うちとしてはすっごく天国。


 大好きな依桜ちゃんが、うちに抱き着きながら気持ちよさそうに寝ているんだもん。


 しかも、腕は胸元に抱いているし、足の方は自分の足で挟み込むように絡めてるから、余計に嬉しい。


 はわぁ~~……最高だよぉ~……。


「……なるほど。やっぱり、依桜は抱き着いたわね」

「だねー」

「あ、未果ちゃんに、女委ちゃん! おはよー!」

「ええ、おはよう」

「おっはよう!」

「えーっと、未果ちゃん。やっぱりってどういうこと?」


 起きて来た二人に挨拶をして、さっき未果ちゃんが行っていたことが気になったので尋ねてみる。


「あー、依桜はね、こうして集団で眠っていると、誰かに抱き着いているのよ」

「じゃあ、抱き着き魔?」

「んー、多分だけど、親しい人限定なんじゃないかなぁ? スキー教室の時からだけど、その時はクラスメートの子には抱き着いてなかったしねー」

「なるほど……つまり、うちは親しいと思われてるってことだね!」

「そうなるわね。あとは、寝言で大体判明するんだけど……」


 と、未果ちゃんが言った直後、


「エナちゃん、好きぃ~~~……すぅ……すぅ……」

「ありがとうございますっ!」

「……やっぱりか。依桜ってば、どうも抱き着いている相手がわかってるっぽいのよね。だから、その相手に対して、寝言で好きとか言って来るのよ。十中八九、本心だとは思うけど」

「そ、そうなんだ。でも、あれだね! すっごく嬉しいね!」

「「わかる」」


 そっかそっか、依桜ちゃんってうちのことが好きなんだね!


 なんだか、すごく安心したよ!


 うちが内心舞い上がっていると、ふと気になったことが。


「ねえねえ、親しい相手にこうして抱き着くのなら、依桜ちゃんが男の娘だった時も、晶君や態徒君に抱き着いてたのかな?」

「「……そう言えば、どうなんだろう?」」


 うちが口にした疑問に、未果ちゃんと女委ちゃんの二人が疑問顔になる。


 あ、二人も知らないんだ。


「依桜君と同じ部屋班だった人曰く、『服がはだけてて、なんかエロかった』って言ってたよ」

「男のなのに、はだけてエロいって……なんでもありじゃない、依桜。まあ、女装姿で女子更衣室に入って怒られないレベルと考えると、ある意味納得だけど」

「天性の才能だよね、ほんとに」


 たしかに、依桜ちゃんって、謎……。


「んぅ……はれぇ……?」

「あ、依桜ちゃん、おはよう」

「わぁ~、エナちゃんだぁ~……むぎゅぅ~~~!」

「!?」


 眠たげな顔をしながら、むくりと依桜ちゃんが上半身を起こしたかと思った次の瞬間、そのままうちの首に手を回して抱き着いてきた。


 どういう状況か理解できず、そのまま後ろに倒れ込む。


 わ、依桜ちゃんの胸、すっごーい……。


「すぅ……すぅ……」

「……この流れも同じ、と」

「うーん、依桜君って、朝は強い方なんだけど、こういうシチュエーションになると、途端に弱くなるよねぇ。あー、でも、弱いって言うわけじゃないのかな? なんと言うか、普段は早起きしてるから神経使ってるけど、今はオフ! みたいな」

「なるほど。その可能性はあるわ。多分、心置きなく寝れる! みたいな考えになってるんでしょ。だから、こうして親しい人に抱き着いている、と」

「あ、あの~、考察してるところ悪いんだけど、手伝ってほしいな~、なんて」


 だって、浴衣から覗く依桜ちゃんの真っ白な胸が、とってもエッチなんだもん!


 同性のうちですら、すっごくドキドキだよ!


 可愛い寝顔なのに、体つきは可愛くないんだもん!


 どうやったらこんなアンバランスなことになるんだろう?


「……うーん、こうして依桜ちゃんの可愛らしい寝顔とかを見ていると、こう……今年の夏にあるイベントでも手伝ってほしいなぁ、とか思っちゃう」

「意外と、寝言ではOKくれるかもしれないわよ?」

「さすがにないと思うなぁ。依桜ちゃん、あんまり目立ちたくない、って言ってるもん」

「んー、じゃあ試してみよっか。わたし、スマホで録音してるので、エナっち、ちょっと訊いてみて?」

「それって卑怯な気が……」


 だって、寝ている間にした約束を有効化させるってことだもんね?

 うーん、依桜ちゃんに申し訳ないような……


「エナ、夢って言うのは、自分の深層心理が現れる物なの。だから、外部的要因から見る夢だって、その中で答えていればその人の本音よ」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「つまり、寝言はその人の本心、ということよ」

「なるほど……じゃあ、ちょっと訊いてみるね!」


((あれ、意外とちょろい……?))


 んーと、それじゃあどうやって訊こうかなぁ。


 ……うん、あれだね!


「依桜ちゃん依桜ちゃん。今度、イベントに一緒にアイドルとして出て欲しいんだけど、お願いできるかな?」


 ストレートに行こう!

 まあ、依桜ちゃんのことだし、さすがにことわ――


「んぅ……エナちゃんとなら、いいよぉ~……」


 なんですと!?


「おー、本当に答えた! しかも、了承してる! つまり、依桜君的には、アイドルは別に嫌じゃないってことだね!」

「……まあ、依桜がアイドルをしている時って、若干生き生きととしているような感じがしたし、別段嫌と言うわけじゃないんでしょ。しかも、あの姿は変装しているものだし」

「やったねエナっち! 今録音した音声データを依桜君に聞かせれば、多分了承してくれるよ!」


 どうしよう、すごく魅力的……。

 でも、やっぱりこれって卑怯だよね……よし、なし!


「ううん、止めておくよ。さすがに、依桜ちゃんが可哀そうだし、仮に出てもらいたいんだったら、自分でお願いしてみるから!」

「エナって、本当にいい娘よね」

「えへへそうかな?」


 褒められるのは素直に嬉しいね!


「そっかそっか。エナっちはさすがだね。じゃあ、削除っと」

「あら。女委なら、もうちょっとごねるかと思ったんだけど」

「未果ちゃん、わたしを何だと思ってるんだい? これでも、エナっちとは親友なんだよ? それから、依桜君ともね! ならば、わたしがふざけたことをするはずないじゃないか!」

「……そう言っている人間が、去年の学園祭でサキュバス衣装を着せ、冬〇ミで微妙にエロいメイド服を着せていたわけなんだけど?」

「ひゅ~♪ ひゅひゅ~♪」

「おいこら。目を逸らしながら口笛吹かない。微妙に上手いから腹立つのよ」


 女委ちゃん、去年そんなことしてたんだ。


 でも、サキュバス衣装に、エッチなメイド服……ちょっと見てみたかったかも。


「ともかく、早く依桜を起こすわよ。もうすぐ朝食の時間だし、着替えないといけないし」

「おっと、そうだったねー。じゃあ、起こそう! エナっちよろしく!」

「え、うち?」

「まあ、そうね。そうなっている以上、エナが起こした方がいいでしょ。とりあえず……耳に息を吹きかければ起きるわ」

「どうしてその方法?」

「「依桜(君)耳が弱いから」」

「あ、そうなんだ。じゃあ、試しに……ふぅ~」

「んひゃぅっ!?」


 耳に息を吹きかけたら、本当に起きた。


 ただ、ちょっとエッチな声を出していたけど。


「な、何!? 何事!? ……って、え、エナちゃん!?」

「起き抜けなのに元気だね、依桜ちゃん!」

「あわわわわわ! ご、ごめんね! すぐに離れるからぁ!」


 今の状態を理解した瞬間、依桜ちゃんがすごい勢いで起き上がった。

 うーん、もうちょっとだけあのままでもよかったんだけどなぁ。

 まあ、仕方ないね。



「……さて、依桜が起きたことだし、着替えて朝食に行きましょ。全員、私腹を持ってきてるわよね?」

「あったぼうよ!」

「持ってきてるよ!」

「もちろん」


 エナちゃんにのしかかるように眠っていた(らしい)ボクが起きると、未果が私腹を持ってきているかどうかの確認をしてきた。


 補足なんだけど、この林間・臨海学校では、私服での行動が許されています。


 制服や体操着だと暑いし、面白くないよね! だそうです。


 紛いなりにも主催者の人なんだから、もうちょっと言葉を選んだ方がいいんじゃ……と思ったけど、学園長先生には今更だよね。


 あの人、年中おかしいもん。


 あ、ちなみに林間学校の方では、なるべく動きやすい服装で、と言わています。


 一応、薄着でも問題ないと言えば問題ないけど、蜂に刺されたり、特定の植物によってかぶれてしまうこともあるので、そう言う意味では学園側も長袖長ズボンを推奨していたり。


 ボクは……まあ、大丈夫です。


 蜂の毒は効かないし、漆の方も、どういうわけか『毒耐性』である程度無効化できるので。


 なんでだろう?


 あれって、毒って言う分類なのかな?


 うーん……よくわからない。


 ともあれ、早く着替えて行かないと。



 それから着替えを済ませて朝食を摂った後は、あらかじめ決めていた林間・臨海学校にそれぞれ分かれて、実習場所へ。


 ボクたちは見事に同じグループだったの、一緒に行動することに。


 移動はバスで、大体十分程度。


 地域的に、朝から暑いということもあり、海水浴が始まる時間が割と早い。


 と言っても、事前の準備やらなんやらで時間が進み、結果的に到着するのは九時半くらいなんだけど。


 一応、今着ている私服の下に水着を着るのもありです。


 ボクは……そのタイプ。


 あんまり見られたくないので……。


 そう言えば、臨海学校のグループの集合場所に行ったら、やけに周囲の人たち(主に男子生徒)が喜んでいたんだけど、なんであんなに喜んでたんだろう?


 やっぱり、意中の女の子が臨海学校のグループにいたからかな?


 それならすごく納得。


 ともあれちょっと気になることはありつつも、バスに乗ってボクたちは移動した。


 ちなみに、バス内ではなぜか再び、ボクとエナちゃんによる謎ライブが開催されました。


 なんで?

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