第401話 臨海学校の説明

 というわけで簡易更衣室にて着替え。


 と言っても、ボク自身は下に着てるから、二十秒くらいで終わるんだけど。


『お、あんたまた胸でかくなったんじゃないなの~?』

『でしょでしょ! いやぁ、まだまだ伸びしろがあるってことだぜぇ!』

『くっそう、羨ましいぞ! このぉ!』

『あははっ! くすぐったいよ!』


 裏で、クラスメイトの女の子たちが、その……他人の胸を揉んでました。


 ……女の子って、よく平気でできるよね、そういうこと。


 ボクには無理です。


『でもさー、うちらがどんなに競っても、所詮は団栗の背比べだよね』

『そりゃあね。こっちは一般人。でも、あっちは逸般人』

『『『……やはり、大きい……!』』』


 なんだか、視線を感じる……。


 なんとなく後ろを振り返ると、クラスメイトの女の子たちがこっちをじっと見ていた。


「え、えっと、何かな……?」

『いやー、依桜ちゃんって、本当におっぱいが大きいなーって』

『何を食べたらああなるんだろう……?』

「あ、あははは……あんまり見ないでもらえると、嬉しいな……」

「いやいや、そうは言っても、ついつい見ちゃうよねぇ、依桜君のおっぱいって」

「ど、どうして?」

「だって、規格外なんだもん。形良し。張り良し。柔らかさ良し。大きさ良し。の四拍子揃った最高のおっぱいなんだもん!」

「へ、変なこと言わないでぇ! ボク、この胸結構気にしてるんだからぁ!」


 大きくても、いいことなんてないもん!

 むしろ、支障が出てるよ!


「えー? おっきいのもいいと思うんだけどなぁ」

「そもそも、ボク元男! もともとなかったものがあるのって、結構アウトなの!」

「それもそうよね。通常じゃあり得ないことだし。正論よね」

「依桜ちゃん、苦労してるんだねー」

「……本当にね」


 ボクの苦労をわかってくれる人って、果たしてこの世界にいるのかな……?



 着替えも終わり、簡易更衣室から出ると、すでに男子の人たちが待っていた。


 まあ、男子って着替え終わるの早いもんね。


 脱いで、穿いて、終わりだもん。


 本当、楽だったんだけどなぁ……男子って。


 ちなみになんだけど、臨海学校で着る水着は、学園指定のものじゃなくてもOKということになってます。なので、大半……というか、来ている人全員が自分の水着を着ています。


 ボクもそうだしね。


 ちょっと……学園指定の水着は好きじゃないので……。


 なんと言うかこう、ピッタリフィットする感じが苦手で。


 その代わり、露出が多いんだけどね、ボクの持ってる水着って。


 ま、まあ、パーカーを羽織るのもありなので……。


 それから、日射病や熱中症にならないように、帽子をかぶるのもありとなっていたり。


 それを知った女委が、なぜかボクに麦わら帽子を手渡してきた。被って欲しいとのことなんだけど……どうして、麦わら帽子?


 ありがたいからいいんだけど。


 でも、日射病や熱中症を防止するために持ってきたのなら、未果に渡した方がいい気がする。だって、未果って黒髪だもん。


 ボク、銀髪だから黒髪ほどあまり熱は吸収しないしね。


 色々と疑問になりつつも、とりあえず貸してもらった麦わら帽子を被る。


『何あれ、似合いすぎだろ……』

『清楚系美少女っていうのが、ビシビシと伝わってくるぜ……』

『銀髪碧眼で、パーカー羽織ってて、パレオタイプのビキニを着て、麦わら帽子を被ってるとか……なんだあれ、可愛さの権化かよ』


 あれ? なんだか視線が多いような……。


「……女委、もしかしてなんだけど、依桜に被せるために持ってきたんじゃないでしょうね?」

「にゃははー! それはもっちろん!」

「まったく……あなたはいつも、依桜を目立たそうとするわよね」

「女委ちゃんって、結構お友達を売るタイプ?」

「失敬な! わたしはそんなんじゃないよ! じゃあ二人に訊くけど、麦わら帽子を被った依桜君って、すっごく可愛くない?」

「「とっても可愛い」」

「でしょでしょ? ほら、ああいう美少女が麦わら帽子を被って、つばの部分に触れながら、こう、前屈みになって覗き込むような絵とかあるじゃん?」

「「ある(ね)(わね)」

「依桜君って、まさにそれが似合いそうだったから、麦わら帽子を持ってきました! どうよ?」

「写真が欲しいわ。あるのなら、言い値で買うわ」

「うちも。あの依桜ちゃんの破壊力はすごいよー」

「ふっ、じゃあアイちゃんに頼んどくぜ」

「……依桜のサポートAのはずが、変なことに使われるようになったわね、ほんと」


 うん? 未果たちが集まって何か話してるけど……何の話をしてるんだろう?


「おっすー」

「ここにいたのか」


 未果たちに話しかけようかなと思ったタイミングで、晶と態徒がこっちに来た。

 それに気が付いたのか、未果たちも話を中断してこちらに。


「……二人とも、何気に筋肉質よね」

「だねぇ。態徒君は武術をやってるからわかるけど、晶君もとなると、面白いね」

「わー、シックスパック! 特に、態徒君はすごいね!」

「そうか? ハハハ! いやぁ、武術やってた甲斐があるってもんだな!」

「まあ、鍛えておいて損はないからな。俺も、たまにジムに通ってるし。日常的に筋トレもしているからな。多少の自信はある」

「なるほど……でも、筋肉があるのはちょっと羨ましいなぁ……。ボク、なくなっちゃったから。特に割れてた腹筋がなくなったのがちょっと……」

「「「「「いや、依桜(君)(ちゃん)の腹筋がバキバキとか想像できない」」」」」

「……そんな、声を揃えて言わなくても……」


 ボク、そんなに腹筋が割れてたイメージない……?


 ……ない、よねぇ。自分でもないと思うもん。


 何せ、全体的に華奢だったし、脂肪もほとんど付かなかったし、体力もなかったし、体も弱かった。そんな体だったのに、筋肉があった、何て言われてもピンとこないよね……。ボクも、もし逆の立場だったら、絶対に否定してると思うもん。


 男に戻りたい……と思っても、もう無駄なこと。


 災難な人生だよね……本当に……。


 遠い目をして、ちょっと自分の人生に嘆いていると、


 ぷに。


「ひゃぅっ!?」

「おー、依桜君のお腹、すべすべでぷにぷにだー」

「め、女委っ、く、くすぐったっ……あははっ!」


 不意に女委にお腹を触られて、それぐがくすぐったくて、思わず笑い声を出してしまう。


「へぇ、どれどれ……うわ、本当にすべすべぷにぷにね……。なにこれ、いつまでも触っていたくなるわ」

「あ、うちも気になる! ……わぁ、すごく触り心地がいいね! 依桜ちゃんのお腹、最高だよ!」

「さ、三人ともっ、や、やめっ……あはっ、あははははっ! お、お腹っ、よ、弱いのぉっ……!」


 三人いっぺんに触られて、くすぐったさが倍増された結果、人目もはばからずに笑い声が出てしまう。それだけでなく、体の方もくねらせる。


 周囲からの視線がすごいよぉ……!


「その辺にしといた方がいいぞ。周囲がまずい」

「「「周囲? ……あ」」」


 晶の発言に、みんなが一瞬動きを止めると、周囲を見て『あ』と声を漏らした。


 ボクも、お腹を触られることで悶絶していたけど、息を整えつつ周囲を見る。


『や、やっぱ破壊力が半端ねぇ……!』

『……あの体つきにあの動きはダメだろ』

『やべぇ、まともに立てねぇ』


 周囲を見れば、なぜか男子の人たちが前屈みになっていた。


 うーん? なんで、前屈みになってるんだろう?


 未果たちを見れば、みんな納得している様子。


 あれ、エナちゃんでも理解できてるの……?


「あの、どうして男子のみんなは前屈みになってるの?」

「「「「「依桜(君)(ちゃん)は、知らなくてもいいこと」」」」」

「そ、そですか」


 そう言う風に断言されちゃったら、聞くに聞けない……。


 でも、みんなが知らなくてもいいって言ってるし、本当にそうなのかも。


 ちょっと気になるけど……いいかな。


「じゃあ、そろそろ行こ。もうすぐ説明があると思うからね」

「そうだな」


 周囲を気にせず、ボクたちは引率の先生方がいるところに向かった。



『よし、全員集まっているな。では、臨海学校について説明する。まず、この臨海学校で学ぶことは……実を言うと、そこまでない』


 先生のその発言に、話を聞いていた生徒全員がずっこけた。


 いや、うん。まさかいきなりそう言われるとは思わなかった……。


『一言で言えば、遊ぶ、だ。実質的に、この林間・臨海学校は、旅行のような面が強い。基本的に生徒が自由に過ごす、という行事だ』


 学園長先生が考えてるんだもんね、学園の行事は。

 うーん……自由。


『希望者がいればマリンスポーツなどもできる。バナナボートや、ジャイアントブッバ、他にもシュノーケリングや、ボディーボードなんかもできるので、遠慮なく言うように』

『『『おおー』』』


 本当、お金かかってるね、この行事。


 あのおかしな考え方や、頭のおかしい行動さえしなければ、本当に生徒想いのいい人なんだけどなぁ……。


『あとは、浮き輪やビーチボール、ビーチフラッグなどの道具類もあるので、使用したい生徒は教師に言うように。そして、今日の昼食の話だ』


 昼食。


 そう言えば、各自でどうにかする、って言う話だったんだけど、あれってどういう意味なんだろう?


 いやまあ、なんとなく予想はつくんだけど……。


『臨海学校での昼食の調達方法だが……要はサバイバルだ。まあ、この辺りは今の三年は知っているだろう。二年前も行っているのでな。だが、今の二年と一年は知らないだろう。なので、簡単に説明する。よーく聞くように。調達方法は、大きく分けて三つだ。一つ。岩場などで、貝や蟹、魚類を捕獲する方法。二つ。釣り。三つ。素潜り。この三つだ』


 あー、やっぱりそう言うタイプなんだね。


 まあ、サバイバルと言っていた時点で確信してたけどね。


 だって、海だもん、場所が。


『それぞれの補足として、一は、まあ、比較的簡単だ。だが同時に、運も必要だ。一応、向こう側に岩場があり、小さな水槽のようになっている場所がいくつもある。そこに食べられる生物がいるかどうかは、運次第だ。そして二つ目。まあ、こっちが最も堅実と言える。各釣りスポットにて釣りを行い、魚を獲る、というものだ。餌や釣竿はこちらで用意してあるので安心してくれ。そして三つ目の素潜りだが……これが一番難しいだろう。海に潜り、貝やタコ、イカなどを捕獲する。一応、銛などもあるので、必要に応じて貸し出す。ただし、なるべく人と人との間隔を多めにとるように。人を殺しかねないからな』


 銛だもんね。


 でも、よく用意できたね、銛なんか。


 あ、でも調達するくらいだったら問題ない、のかな?


 問題なのは、銛を調達することよりも、学生が使用することの方だもんね、この場合。


『とまあ、補足はこんなものだ。万が一、食材が獲れなかった者には救済措置はあるので、安心して欲しい。……だからと言って、サボると……昼食が抜きになるので、気をつけてな。調理場は、向こう側にあるので、そちらを使うようにしてくれ。調達は今からしても構わない。それから、あまり運動が得意でなかったり、体が弱い者、それから体調が悪い者と怪我がある者は、こちらに言うように。制限時間は一時半まで。それ以降は、調理や自由時間とする。万が一、早く調達できてしまったら、その時間以内に調理を初めても問題ないぞ。あと、一応こちらに食材は見せるようにしてほしい。間違っても、毒のある魚や貝は食べるなよ。以上だ。では、解散!』


 説明が終わり、先生が解散と言うと、一斉に生徒たちが動き出した。


 こう言うのは、ボクの修行時代の経験が一番活きそうだね!

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