第402話 サバイバルはすぐに不測の事態

 説明を聞き終わり、みんなで集まる。


「さて、サバイバルとのことだけど……どうやって調達する?」

「そうだねぇ……わたしはそこまで泳げないし、岩場か釣りかなぁ」

「オレは海に潜るかね。実家の修行でよく水中戦をやるし」


 水中戦をやる武術って何?

 たまに思うんだけど、態徒の実家ってどんな武術をしてるんだろう?

 すごく気になる……。


「俺は釣りに回ろう」

「じゃあ、私も釣りね。楽そうだし」

「うーん、うちはせっかくだし、海に潜ろうかな」

「じゃあ、ボクも海に潜るよ。得意だしね、こう言うの」

「「「「「だろうね」」」」」


 いい笑顔で、一斉にそう返された。


 うん、よくわかってるね、みんな。


 異世界に行っていた期間が長いからね。こういった、自然界でのサバイバル技術はそこそこあるつもりです。


「はははは! いやぁ、よく言ったなぁ、イオ!」

「え、し、師匠!?」

「そうだよな。あたしがみっちり仕込んだんだから、これくらい出来て当然だよな!」


 バシバシと背中を叩いてくる。


 い、痛い……。


 と言うか師匠、一体どこから現れたんだろう……?


「おし、ここは一つ、あたしも面白そうだし参加するかね」

「え、師匠も、ですか?」

「ああ。まあ見てな。美味い魚でも獲ってきてやろう」

「え、それってどういう……」

「じゃあ、あたしは先行ってるぞ」


 どういうことですか? と言い切る前に、師匠がそう言って海に飛び込んでいった。


「……ミオさんって変わってるんだね!」

「あ、あはははは……。師匠、結構おかしいから……」


 少なくとも、まとも、じゃないよね、感性は。


 でも師匠、一体海のどこで魚を獲るつもりなんだろう……?



 そんなわけで、それぞれ分かれて食材の調達。


 女委は未果ち晶と一緒に行動。


 ボク、態徒、エナちゃんの三人は海に潜ることに。


「すみませーん、銛をくださーい」

『お、御庭は男女たちと行動か。男女はともかく、変之には気を付けろよ』

「ちょっ、先生酷くないっすか!?」

『お前の行動を振り返ると、何とも言えんからな!』

「ぐうの音もでねぇ……」


 普段から、変なことしてるもんね、態徒。

 それがなければ、全然いいと思うんだけどね。


『それで? 銛は三本でいいのか?』

「あ、いえ、ボクは不要です」

『ん? そうなのか? だが、水中でやるには、銛がないときついと思うんだが……』

「大丈夫です。素手でもいけますから」

『そ、そうか。まあわかった。……ほれ、銛二本。取り扱いには気をつけるように。さすがに、林間・臨海学校で死傷者が出るとか本当に洒落にならないんでな』

「「「はい、ありがとうございます」」」

『よし、いい返事だ。じゃあ、行ってこい』



 銛を借り受けた後は、シュノーケルとフィンを借り(ボクは借りてない)て、早速海に潜る。


「依桜ちゃんは、シュノーケルとか必要ないの?」

「うん。向こうの世界でもよく生身で潜ってたから慣れてるの」

「でも、海でゴーグルとかシュノーケルがないって、結構まずいと思うんだけど……」

「いやいや、依桜なら問題ないんじゃね? なあ?」

「態徒の言う通りだよ。ちょっとした裏技を用いれば、目にダメージが行かずに済むから」

「そうなんだ。その裏技ってなーに?」

「えーっとね、ボクが魔法を使えるのは前に言った通りなんだけど、魔力もある程度の操作が出来てね。それを用いて、目を保護するの。イメージ的には、魔力で作ったゴーグル、かな?」

「へぇ~、依桜ちゃんって色々と便利なんだね!」

「まあ、こっちに帰ってきてからは、何かと役立ってる面も多々あるからね」


 普通に助かってます。


 身体能力が高いおかげで、みんなを守ったり、助けたりできるし、メルたちのことも養っていられるわけだからね。


 悪い事ばかりじゃなかったよ。


 同時に、いいことも限りなく少なかったけど。


「なるほどね~。じゃあ、そろそろ取りに行こう! どれくらい時間がかかるかわからないしね!」

「そうだね。じゃあ、そろそろ――って、あ、忘れてた。エナちゃん」

「なに? 依桜ちゃん」

「これを持ってて」

「これは……指輪? え、えーっと、依桜ちゃん……こ、これって……その……」


 あれ? なぜかエナちゃんが顔を赤くしてもじもじしだしたんだけど……どういうことだろう?


「えっと、どうしたの?」

「あ、あの、ね、依桜ちゃん……こ、この指輪って……ぷ、プロポーズ、なのかな……?」「…………ふぇ!?」


 一瞬、エナちゃんの発言に理解が追い付かなくて固まったけど、瞬時にどういうことなのかを理解。そして、顔を赤くしながらのエナちゃんに負けじと(?)ボクも顔を一気に赤くさせ、いつもの変な声を出す。


 ぷ、プロポーズ……。


「まあ、突然指輪を渡されたら、そう思うよなぁ」

「い、いやいやいやいや! ふ、普通に考えてよ! 今は変わっているとはいえ、お、女の子同士、なんだよ……? さ、さすがに、その……ま、間違えない……はず……」

「自身無くすなよ、依桜。そこはほら、ちゃんと否定しないと、お前がそう言う趣味だって思われるぞー」

「そ、そうは言っても……ボク、どちらかと言うと、女の子の方が好き、と言えば好き、だし……」


 ドキッとさせられたりすることを考えたらね……。


 未果や女委たちに散々言われているから、ボクもそうなんじゃないのかな? って思うようになってきちゃったし……。


「……え、えと、依桜ちゃん。こ、これは結局、どういう意味……なのかな……?」

「そ、その……す、少なくとも、プロポーズ、ではない、です……」

「……そっかぁ。うん……そうだよね。ごめんね、変なこと言っちゃって」


 な、なんでエナちゃんはこんなに残念そうにしてるんだろう……?

 そのちょっと泣き笑いのような表情を見せられると、すっごく胸が痛い。


「じゃあ、プロポーズじゃないのなら、これって……?」

「それはね、魔道具だよ」


 胸の痛みを抑えて、普通にエナちゃんと会話する。


「魔道具? 魔道具って、あの、よくファンタジー作品に出てくる、魔法の道具?」

「そうそう」

「これが……」


 さっきまでの泣き笑いの表情がなくなり、一気にエナちゃんの表情が明るくなっていく。


 そして、


「すっごーい! これ、本当にそうなの!?」


 と、目をキラキラと輝かせてずいっと体を乗り出してきた。


「う、うん。実はこれ、未果たちも持っているもので、こっちで言うところの携帯電話みたいなものかな? 本来なら、魔力を用いて使用できるんだけど、この魔道具はちょっと特殊で、魔力なしの人でも使用できるの。それから、これの有効範囲は実質無限みたいなものだから、もし何かあった時はこれでボクに連絡して」

「いいの? うちなんかに……」

「いいのいいの。エナちゃんだから渡すんだよ。大切な友達だもん。だから、何か危険が迫った時は、これでボクを呼んで。すぐに助けに行くから。絶対に」

「依桜ちゃん……うん! ありがとう!」

「うっわー、依桜の奴、ナチュラルに殺し文句を言うんだもんなぁ……そりゃ、女子も依桜に惚れるわけだ」


 あれ? なんか、態徒が今言っていたような……。

 それに、なんだろう。あの生暖かい目は。


「ってか依桜。その指輪って、オレたちの土産分しかなかったんじゃないのか?」

「あ、うん。確かにそうなんだけど、創った」

「創った!?」

「うん。『アイテムボックス』っで、すぐにね」

「……お前、自分で『ボクはチートじゃない』とか言っていたけどさ、十分チートじゃね?」

「いや、うん……こっちに帰ってきた直後……というか、師匠がこっちに来るまでは、そこまでチートじゃなかったんだけどね……」


 本当、随分と手持ちの能力やスキル、魔法が増えたものだよ。

 しかも、どんどん便利な方向に進んでいくんだもん。


「……ともかく、そろそろ獲りに行こっか」

「うん! 体を冷やさないように、ちょこちょこ休もうね!」

「だな。海にずっと入りっぱなしはまずいしな。んじゃ、オレは先に行くぜ」


 そう言うと、態徒は海に入っていった。

 経験があるみたいだし、態徒は大丈夫そうだね。


「じゃあ、ボクたちも行こ」

「頑張って、いい食材を獲ろうね!」

「ふふっ、そうだね」

「しゅっぱーつ!」


 そう言いながら、ボクたちは海に入っていった。



(上から見ても綺麗だったけど、水中はもっと綺麗……)


 海に入り、少し先に進んだところに行くと、そこには多くの魚が群れを成して泳ぎ、サンゴ礁もある。


 ある意味、すごい。


 同時に、水中に差し込む光でとても幻想的に見える。


(って、いけないいけない。見てるだけで時間が経っちゃいそう。捌く時間も含めないとだしね。なるべく早めに終わらせちゃおう)


 そんなこんなで、臨海学校のサバイバルな学習が開催され、生徒たちは各々好きな方法で昼食の食材を獲る。


 女委は未果たちの近くで、岩場にいる貝などを採取。未果と晶の二人は釣竿を借り受け、のんびりと釣りをしている。


 態徒と恵菜の二人は、人間の範疇内による漁のようなことを行っていた。


 そして、常人ではない、依桜はと言うと……


(ふっ!)


 人を見ていないのをいいことに、『武器生成魔法(小)』で針を大量に生成、そしてそれを水中で投げて魚を獲っていた。


 先ほども、自身で投げた針で近くにいた鰺の脳天を真横からぶっ刺し、捕獲している。


 あまり獲り過ぎても生態系によくないとしっかり考えているので、依桜は必要量だけ獲っている。


 もっとも、それでもそれなりに獲っているのだが。


 そして、気が付けばかなり深い所に依桜は進み……


(あ、スズキ)


 高級食材である、スズキを発見していた。


(んー、あれがあれば、多くの人に振舞える、かな?)


 そう考え、依桜は速攻でスズキを捕獲した。


 なんと言うか、釣りではなく、普通に素潜り漁による魚の捕獲など、本当に笑えない。


 これが、異世界で鍛えまくった人間の末路である。

 身に付けているものが水着のみだと言うのに、何もなしで獲っているのも、本当に酷い。


 最も、獲るための道具自体は生成しているが。


 まあ、そんなもの持っていないに含まれるだろう。


 ちなみに、捕獲した魚は、一時的に『アイテムボックス』に入れている。

 戻る時、一応網を生成して、それに入れて戻ってくるつもりである。


 依桜自身、割と深い所に行っているので、そろそろ戻ろうかと思った時、


(い、依桜ちゃん助けて!)


 そんな危機迫った恵菜からの助ける声が、依桜に届いた。


 それを聞いた瞬間、依桜は水を蹴って、恵菜の反応がある場所に向かった。



 さて、なぜ恵菜が依桜に助けを求めたかと言うと……


(さ、鮫……)


 まさかの、鮫である。


 しかも、ホホジロザメという、なかなかにヤベー鮫だ。


 幸い、まだ気づかれてはいないが、気づかれるのは時間の問題だ。


 本来ならば、この辺りにいた鮫――主に、人を襲うタイプの鮫はあらかじめ処理して会ったのだが、どうやら、ここに別の個体が来てしまったらしい。


 あとは、恵菜が少し流されてしまった、というのも問題の一つだろう。


 本来なら鮫が出ることはないが、今年初めて、鮫が出てしまった。


 今までは一度も出ていない。


 最悪だ。


 そして、ついにホホジロザメが恵菜に気付き、まさに襲い掛かる、と思った時、


 ドッゴォォォォンッッッ!


 ホホジロザメが吹っ飛んだ。


 それも、水面から飛び出し、ものすごい勢いで彼方に飛んでいった。


 そんな異常事態に、恵菜を襲うとしていた他のホホジロザメたちは、スーッと逃げていった。


 本能的に敵わないと思ったのだろうか。


 どちらにせよ、多分二度と来ることはないだろう。


 なぜなら……


(にっこり)


 綺麗な笑顔で、人ひとり軽くそれだけで殺せるほどの殺気をホホジロザメにぶつける存在がいたからだ。


 まあ、依桜である。


 先ほどまでいた場所から、水中で縮地もどきを用いて瞬時にこちらに来たのである。


 依桜は恵菜を抱えると、そのまま水中を飛び出して、まさかの水面を走り出した。


 もちろん、お姫様抱っこである。


 ちなみに、なぜ依桜が水中移動ではなく、水面を走る方を選んだのかと言えば、水中だと体に負担がかかってしまうからだ。


 それによって、怪我を負わせるのは嫌だったので、依桜は水面を走る方を選んだのである。


「い、依桜ちゃん……」

「早速さっきの指輪が役にたってよかったよ。こうして、エナちゃんを守れたんだから」

「依桜ちゃん……」


 エナは依桜のイケメンな発言と、可愛らしい笑顔によって、きゅんと来た。

 ただでさえ惚れているのに、余計に惚れさせるのは……ある意味、罪作りな女である。



 この後、依桜は浅瀬付近で足を止めると、その付近で再び水中に戻り、二人は陸に上がった。


 それと同時に、海で謎の水飛沫が上がり、鮫が吹っ飛んでいく様は、遠目に見えていたため、生徒たちはそれはもうぎょっとした。


 あとは、この辺りには水面を走る何かがいる、とか噂されるようになり、依桜は思わず苦笑いをした。


 早速目立ちそうになる依桜だった。

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