第22話 学園祭二日目
ボクが、本当の意味で異世界から帰ってきたあと、クラスに戻ると大忙しだった。
クラスに戻る途中にあった、サインを書いたり、握手をしたりと、色々な人に頼まれたのだ。
吹っ切れたボクは、料理を作りながら、様々なサービスをした。
その結果、初日のうちのクラスは、誰が見ても明らかなほど大成功。
そんな大成功を収めた次の日。
「め、女委……こ、これを着るの?」
ボクは、とある衣装を持って戦慄していた。
「うんうん! やっぱり、昨日とは打って変わった衣装が必要だと思ってね!」
「だからって……サキュバスの衣装はないよっ!」
そう。ボクが女委に渡された衣装は、露出度が極めて高いサキュバス衣装だったのだ。
正直、水着の方がまだ面積があるんじゃないかって言うレベル。
「ええー? でも、衣装それしかないよー?」
「だからって、これはないよ! 第一、これやめたんじゃないの!?」
ボクは必死に抗議する。
「え? たしかにやめたけど、だれも完全にやめるわけじゃなかったし? もともと、二日目でやろうと思ってたやつだしー?」
だけど、女委は柳に風と受け流す。
なのでボクは、未果に頼ることにした。
「未果! 未果も何か言ってよ!」
「そうね。女委。さすがにこれは、依桜が可哀そうよ? せめて、布面積がもう少し広いものにしたら?」
さすが、未果! やっぱり、未果はボクの味方――
「そうなると、未果ちゃんのを依桜君が着て、未果ちゃんが着ることになるけど?」
「依桜。時には諦めも肝心」
「未果!? 止めてくれるんじゃないの!?」
「私、それ着るんだったら、死んだ方がマシよ。命が惜しいもの」
「う、裏切り者っ!」
昨日のセリフは何だったんだと言わんばかりの手の平返し。
もう、手の平ぐるんぐるんだよ。
ボクがうなだれていると、女委がいやらしい笑みを浮かべて近づいてきた。
そして、
「さあさあ依桜君! あっちでお着替えしましょうね!」
「あ、い、いや、た、助けて……! あ、晶!」
未果が駄目だったので、晶に助けを求めるも、
「……すまん」
目を伏せ、ボクを助けることはなかった。
ブルータス、お前もか!
期待はできないけど……!
「態徒!」
「いやぁ、依桜のサキュバス衣装か……やっべ、興奮してきた!」
案の定だった。
変態はどこまで行っても変態だった。
「依桜君、無駄な抵抗はよしたまえ! 君は今、コスプレ王の前にいるのだ!」
「なんでちょっとム〇カ風なの!? あ、ま、待って、や、やめて……あ、ああ……きゃあああああああ……!」
ボクは更衣室に引きずり込まれ、抵抗空しくあれよこれよと、サキュバス衣装を着せられてしまった。
「さあさあ、みなさんお待ちどお! 銀髪碧眼の美少女サキュバスの登場だよ! どうぞ!」
バッ! とカーテンが勢いよく開け放たれ、ボクの姿がクラス中にさらされた。
『ありがとうございます!』
ボクが出てきた瞬間、男子たち(晶は除く)はみんなお礼を言って、鼻血を噴き出して倒れた。
みんな、とてもいい笑顔をしていた。
そんなある意味、大災害を引き起こしたボクの格好はというと。
「あ、あうぅ……恥ずかしいよぉ……」
まず、上半身はほとんどブラでしかないものしか身に着けておらず、しかも背中はほとんど裸も同然。唯一あるとすれば、サキュバスの翼だけだ。
下半身は、股間部だけを覆うようなほとんどパンツのスカート。そのスカート部分も、ほとんど透けているため、ボクの太腿があらわになっていて、とってもエッチ。
その上、悪魔の尻尾までついているという徹底ぶり。当然、角もついている。
脚部は、白と黒の縞々ニーソに、黒のショートブーツ。
あまりにも露出度が高すぎて、今にも顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。
それから、さっきから周囲の視線も酷い。
「い、依桜。それじゃ、なんと言うか……痴女ね」
「言わないでっ!」
「いやあ、依桜君、とってもえっちいよ! 素晴らしい!」
「素晴らしくないよっ! これ、すっごく恥ずかしいんだよ! これじゃあ、ボク、集中して料理できないよ!」
こっちはもう、あまりの恥ずかしさに顔は真っ赤だし、涙も出てきた。
『でも、依桜ちゃんとってもえっちで可愛いよ?』
『うんうん! 依桜ちゃん日本人離れした顔立ちしているから、とっても綺麗だし、なんだかんだで着こなしているしで……最高だよね!』
『私、ちゃんと異性が恋愛対象だったけど……依桜ちゃんならいいかも』
な、なんかボクの貞操の危機を感じる!
ま、まずい、クラスの女の子たちが同性愛者だらけになりそう!
「め、女委! これ以上はまずいよ!」
本当に、身の危機を感じ始めたボクは、女委に詰め寄る。
「じゃあ……とりあえず、エプロンでもしておく?」
「ああ、うん……もうそれでいいよ」
エプロンで妥協することにした。
渡されたのは、胸部の部分がハートマークになっているタイプのエプロンだった。
「こんなの、アニメとかでしか見たことないよっ!?」
「売ってたからね」
「女委って、本当にどうなってるの……?」
でも、それ以外体を隠す方法がないし……背に腹は代えられないよね……。
ボクは仕方なく、渡されたエプロンを身に着けた。
幸いなのは、大きさが、ボクの下腹部よりも下、太腿の中間くらいまでだったことだと思う。
「に、似合うわね……」
「これはこれで……いいね!」
「うんうん! さっすが女委だぜ!」
「確かに似合っているんだが……」
((((どう見ても、裸エプロンですよね?))))
四人とも、みんな同じことを思った気がした。
「……とりあえず、これで少しはマシになるよ」
「……おい。まずいぞ。依桜のやつ、さっきの状態よりも、自分がエロい格好していることに気づいていないぞ?」
「……いやでも、本人が気づいていないんだし、指摘するのは……」
「……未果。お前、楽しんでないか?」
「あ、バレた?」
「ふっふっふ! 未果ちゃんも、ノリノリだねぇ!」
「当然! 面白い方がいいじゃない? それに、依桜って可愛いもの。慌てふためく姿が、ちょっと見て見たくてね!」
「……はぁ。俺は知らないぞ?」
「いやいや、言わない晶君も、十分ギルティだよ?」
「晶よ。お前、興味ないふりして、本当は楽しんでいるんじゃないか?」
「そんなことはないぞ……ちょっとしか思ってない」
「思ってのかよ! やっぱり、晶も男だな!」
うーん、みんな何話してるんだろ?
さっきからこそこそとしてるし……なんか、妙にちらちらとこっちを見ている気もする。
「う~ん?」
何もわからず、ボクが首をかしげていると、放送が始まった。
『生徒の皆さん、おはようございます! お客様もご来場いただき誠にありがとうございます! 今日は青春祭二日目、そして最終日です! 昨日は、突発的なイベントが起こり、かなり熱狂したと思います! その結果、昨日のイベントが噂を呼び、昨日より来場者が増えているとのこと』
「ま、あれだけ派手なことすりゃあな」
「そうね」
「というか、あれで噂にならない方がすごいと思うが」
「依桜君、大活躍だったもんねー?」
「あ、あはは……」
この四人は、あの件を話したから、ボクがなぜ必死にやっていたのかを知っているしね。
あれ、本当は、学園存続の危機どころか、下手をしたら世界戦争の引き金になりかねない事態だったからね。
幸いだったのは、ボクが異世界帰りだったことくらいだと思う。
でも、学園長が興味を持たなければあんなことにはならなかったし、ボクも女の子になるなんてことはなかったと思うんだけどね。
……まあ、今はちょっと気に入っちゃってる部分もあるんだけど。
『ですので、生徒の皆さんは昨日よりも忙しくなる可能性が大いにあるので、覚悟してくださいね! それでは、青春祭二日目……開幕です!』
忙しい二日目の火ぶたが、放送によって切って落とされた。
「お待たせしました! 魅惑のサキュバスの誘惑おにぎりです!」
『あ、こっちにもあれを!』
『こ、こっちにも!』
『はいはい、ただいま!』
『依桜ちゃん、おにぎり三つ!』
「う、うん! 今すぐ作るね!」
二日目が始まり、ボクたち、一年六組のコスプレ喫茶は大忙し。
昨日のミス・ミスターコンテストでボクと晶が優勝したことで、お客さんが殺到。
昨日いなかった人も、学園の公式サイトの写真(ボクと晶の写真)がわりと本気でバズったことが大きな理由みたい。
ちなみに、それによって学園に昨日より多くのお客さんが入った。過去最高らしい。
で、二日目のお店の開店前には、ボクたちのクラスの前に大行列が出来上がっていた。
ボクは見ていないけど、ほかの人が見たら、曲がり角よりも先まで続いていて、よく見えなかったそう。
ボクが見ていないのは、単純にみんなに止められたから。
なんでも、ボクが顔を出すと大騒ぎになるから、だそう。
……否定できないのがなんとも。
ちょっと複雑だけど……仕方ないね。
それで、今日ちょっとしたメニューを追加。
追加と言っても、昨日売っていたおにぎりの名称を変え、ボク専用のメニューにしただけなんだけど。
これを考えたのも、もちろん女委と態徒。
名前を変えただけで? とお思いかもしれないけど……まあ、ボクも思った。
ところが、いざ売ってみると、ぼろ儲けのレベルだった。
なんと、これだけで、昨日の売り上げの四割ほどに匹敵する。
つまり、異常なまでの売れ行きということ。
まだ、開始して三時間ほどしか経っていないのにこの売れ行き。
軽く恐怖を覚える。
ケーキセットの方も順調。
ケーキもボクたちの手作り。ただし、本日も謎解きが必須! なので、しっかりと謎解きをして、ケーキを味わってもらう。
美味しくなかったら、骨折り損のくたびれ儲けなんだろうけど、今回はこだわったからね! かなりの自信作。
甘いものが得意じゃない人でも、果物の酸味を少し強めにしたケーキも選べる。
ちなみに、一番難問な問題を解くと、お値段がタダになる。
もちろん、問題はランダム。
その問題の一つが、こんな感じです。
『汝は焔を眺める。焔は森の中。汝は地上で日輪の恩恵を授かる。その物質、腐食せず、電気を通し、錆び難い。汝、足りないものを探求す。さあ、汝は何処へ向かう?』
という問題。
何を言いたいのかわからない文章でしょ? 文面だけ見たら、たしかにわけわからないよね。
しかもこれ、文章にはなんの共通性がないんだ。
でも、ちゃんと法則性はあるよ。
ただし、最後から三文目が一番わからないと思う。
ここだけ、ちょっと化学の問題にしてみたよ。
つまり、この問題は謎解きを二つほど行わないかぎり、答えにはたどり着かないという問題。
難しく作ったつもりはないんだけど……それなりに頭を悩ませているみたい。
ちなみに、この問題の答えは『月』。
理由は至ってシンプル。
まず、この文章全部に、星の名前が隠れているんだ。焔であれば、『火』。汝は『水』。森で『木』。地で『土』。日輪はそのまま『日』。
そして、最後から三番目の答えは『金』。
金は、文中では腐食しない、って明記されているけど、本当は腐食や錆びに非常に高い耐性を持っているだけで、完全に耐性があるわけじゃないよ。あと、電導性もかなり高いよ。
ちょっとした化学の問題。多分、中学生くらいなら知ってるんじゃないかな?
で、この問題の答えは、『月』ということになる。
なんて、ちょっとした問題で、そんなに難しく設定したわけじゃないんだけどね。
多分、単純すぎて絶対これじゃないだろ、みたいな風に思っているだけだと思う。
そんなわけで、ケーキセットの余興も大成功。
色々なことを企画したら、全部が目を疑うほどに当たっている。
こう言うのは、本当に素晴らしいよね。みんなで頑張った結果が、こうして実ったんだから。
「はい、おにぎり三つ!」
「じゃあ、運ぶぞ!」
「うん、お願いね!」
こうして、料理をしているのも楽しい。
本当に、いい学園祭だよ。
今のボクにはもったいないくらいの、いい学園祭だよ。
「……ねえ、態徒君」
「なんだ、女委?」
「依桜君、絶対気づいてないよね? ものすごく清々しい表情しているけど……」
「ああ。だな。自分が後ろを向いている時、嫌という視線を集めていることに気づいてないな」
ん? なんか、態徒と女委が話しているような……?
そういえば、今更だけど、なんだか視線を感じるような……?
『や、やべぇ……あのサキュバス衣装の娘、めっちゃエロい……』
『しかも、あんな衣装にエプロンとか……妙な背徳感が……』
『あ、あの後ろ姿……眼福です!』
『い、いい……あの丸くて真っ白いお尻……! なんて素晴らしい光景!』
『いやいや、あの背中だろう! 見ろよ、あの綺麗な背中!』
『違うだろ! むしろ、あのエプロンの横から見える、おっぱいだろ! 横乳だろ!』
『ああ……なんて素晴らしい存在……!』
『しかし、なぜアイドルとかとして活動しないんだ?』
『うぅむ……ネット拡散して、広めるか?』
『いいな!』
う、う~ん? やっぱり、視線を感じるような……?
それに、妙に粘っこいというか、粘着したような視線が……。
でも、料理に集中しないと、お客さんに出す料理が駄目になっちゃうから、ちゃんとやらないと。
「はぁ……まったく、依桜のやつは、もう少し自分に対する周囲の評価を気にした方がいいんだけどな……」
「でもぉ、それが逆にいいと思うんだけど? だって、ああいう家庭的な女の子ってなかなかいないし、鈍感なのもいいアクセントだよ!」
「わかるぞ。あれだろ? いざ、周囲の人が自分に感じているエロい感情に気づいて、それで恥ずかしがったりする、っていうのがいいよな!」
「そうそう! それで、顔を真っ赤にしてプルプル震えてさ、泣きそうな表情には、背徳感を感じるよね!」
「まったく……二人は、もう少し自重した方がいいぞ? 依桜が、軽く人外的な能力を有していることを考えると、バレた時がシャレにならないからな」
「そんときゃそん時さ」
「そうそう。今は、楽しむ! これ、常識!」
あれ、今度は晶も話してる?
本当に、何を話しているんだろう?
ボクが女の子になった途端、ああやった、未果も含めて四人でこそこそと話していることが増えた気がする。
……むぅ。仲間外れみたいで、ちょっと寂しい。
それにしても、ちょっとスース―するよね、この格好……。
大きく露出しているから、背中とかが特に。
エプロンをしているから、前は大丈夫なんだけど、後ろがね……。
やっぱり、ほとんど背中には布がないから、結構スースーする。
正直、今でもこの衣装を恥ずかしいと思っているし。
……なんでボク、こんな格好してるんだろう?
そんな風に疑問を感じつつ、時間は過ぎ、
『と、言うわけで、昨日のイベントの立役者! 男女依桜さんです!』
まさかの、再びステージに立つという事態になった。
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