第23話 たった一人で獅子奮迅

 司会者さんの言葉で、歓声と拍手がそこらかしこから上がる。

 それと同時に、ボクは中央へ。


「え、えっと、こ、こんにちは……」


 ボクは、なぜか昨日の特設ステージに再び呼ばれていた。

 なんでも、昨日の活躍が原因で、ボクは知らぬ間に有名人になってしまったらしく、こうして姿を見せてほしいと多くの要望が寄せられたとか。


 それで、学園側――というより学園長――が面白そうということで、こうして急遽突発的なイベントを企画したのだとか。

 ……学園長は何を考えているんだろう?


『いやー、すごい歓声ですね! やっぱり、昨日のが効いてるんでしょうね! さすが、ミスコンの優勝者なだけありますね!』

「あ、あはは……ありがとうございます……」


 褒められてるんだけど、ボク的にはあまり嬉しくはないかな……。

 まあ、嬉しいという気持ちがないこともないんだけどね……。


『それにしても、男女さん。今日はずいぶんとエッチな衣装ですね?』

「ふぇ?」


 突然の司会者さんの言葉に、思わず呆けたような声が出てしまった。


「え、えっと、たしかに元の衣装はそうかもしれませんけど……エプロンも付けてますし、そうでもないと思うんですけど……」

『いえいえ! むしろその反対ですよ!』

「え……ど、どういうことですか?」

『どういうこともなにも。そんなに露出が多い衣装にエプロンだと、傍から見たらただの裸エプロンですよ? だから、余計にエッチな衣装に見えちゃいますよ?』


 司会者さんがそう言うと、会場も少しざわつき始めた。

 それと同時に、この衣装を着ている時からずっと感じていた粘っこい視線を多く感じた。


「い、いいい……いやああああああああぁぁぁぁッッッ!!」


 そ、そうだったんだ!

 その事実に気づいたら、なんだかものすごく恥ずかしくなって、その場で座り込んでしまった。

 ものすごく体が熱くなってきた……あまりの恥ずかしさに、どうやら火照ってしまったみたい。


「う、うぅ……」

『……お気付きじゃなかったんですね』

「……はぃ」


 そっか……だからみんな、妙に顔を赤くしていたんだ……。

 納得はしたけど、この恥ずかしさは尋常じゃないと思う。

 人前にいることが恥ずかしくなってきた。


 ……あれ? ちょっと待って?

 ということは、料理しているときに、ボクのかなり露出していた背中とかじっくりと見られてたってこと……?

 ……その事実に気づいた瞬間、ボクは今まで感じたことのない羞恥心を感じ、死にたいという衝動にかられ始めていた。

 恥ずかしいよぅ……!


『ふぅむ、その衣装を選んだ人は、おそらく男女さんの性格とこうなるであろうことを予想して、その衣装を選んだんじゃないでしょうかね?』


 司会者さんの推測を聞いて、頭の中に、あの腐女子が思い浮かんだ。それも、イラっと来るような、とびっきりの笑顔が。


「あ、あはは……あははははははは! ……すみません。ちょっと用事を思い出しました」


 そのせいか、ボクの口からは乾いた笑いが漏れた。


『ア、ハイ』

「すぐに戻りますので、少々お待ちください」

『どうぞどうぞ』

「ありがとうございます。では」


 ボクは笑顔を浮かべながら立ち上がり、校舎を見据える。

 距離は……二十~三十くらいかな?

 それなら、身体強化は二倍くらいでいいかな。


 ボクは足に力を入れて、校舎まで一度の跳躍で到達する。

 その際、お客さんたちの頭上を跳んだので、かなり見られたと思うけど、この時のボクはそのことをすっかり失念していた。

 怒りで我を忘れるというか、そんな状態なため。


「ふぅ……」


 着地して一息ついてから、さらに四階に向かってさらに跳躍。

 小さなでっぱりや、窓の縁などを掴んで、今度は一年六組の窓へ到着。

 そのまま、窓を勢いよく開け、中に飛び込む。


「きゃっ!」


 その際、いきなり入ってきたボクに未果が小さな悲鳴を上げていたけど、今のボクには関係ない。

 それと、お客さんたちも呆然としたようにボクを見ているけど、関係ない。

 ボクは中を見回して、目当ての人を見つける。


「い、依桜君……?」

「ねえ、女依。何か言うことはないかな?」


 最大限の微笑みを浮かべて、ボクは女委に質問した。

 そんな女委は、何の悔いもなさそうな笑顔を浮かべて一言。


「大変眼福でした!」

「お仕置きだよっ!」

「うぴゃっ!?」


 ボクは女委の首筋に細い針を刺した。

 すると、おかしな声を出して、痛そうにしていたけど、すぐに痛みが引いたみたいで、キョトンとした顔をした。


「あ、あれ? なんともない? まいっか!」

「よくないよ! まったく……こっちはすっごく恥ずかしいんだよ?」

「だって、依桜君すっごくエッチ――痛い!?」


 エッチと言った瞬間、女委の体に激痛が走ったみたいで、顔をしかめていた。


「い、依桜君? な、何かした?」


 女委の反応を見て、にっこりとボクは笑う。


「もちろん。女委は明日になるまでは、エッチと言ったり、下ネタじみた発言をすると、体に激痛が走るようにしたからね」


 この技術、なぜボクが知っているかというと、向こうでそう言った技術を師匠が教えてくれたから。

 なぜ師匠がこんな技術を知っていたのか、すごく疑問だったけど、何かと便利かなと思ったから、身に着けた技能。

 まさか、本当に役に立つとは思ってなかったけど。

 同時に、友達に使うことになるとは思わなかったけど。


「く、くぅ……わたしからエロを取ったら何も残らな痛い!」


 う、うーん、やっぱり女委って馬鹿なのかな?

 勉強はそれなりにできるんだけどなぁ……。


「はっはっは! 女委、本当にドンマイだな!」


 と、ボクたちのやり取りを見ていた態徒が笑いながら近づいてきた。


「あ、態徒もこの件、一枚噛んでるよね?」


 そんな態徒にも話しかける。

 当然、態徒もこの話に関わっているだろうからね。


「へ?」

「お・し・お・き❤」

「え、ちょ、まっ……ぐぺっ!?」


 女委と同じように首筋に細い針を刺した。

 まるでお決まりかのように、態徒もおかしな声を出していたけど。


「それじゃあ、ボクは戻るね。あ、お客様方、お騒がせしました。それでは、ごゆっくり」


 お客さんに謝罪の言葉を言ってから、ボクは再びステージへと向かった。



『――男女依桜さん、ありがとうございました! 皆様、盛大な拍手をお願いします!』


 そんなこんなで、無事にイベントが終了。

 イベントと言っても、昨日の特技披露でやったことをもう一度やるだけの簡単な物だったので、気負いすることなくこなすことができた。

 おかしな無茶振りとかされなくてよかった……。


『えー、これにて、本校の青春祭のイベントがすべて無事終了となります! と言っても、まだ青春祭は続いておりますので、時間が許す限り、目一杯楽しんでくださいね!』


 司会者さんがそのセリフを言い終わると同時に、歓声が上がった。

 うん。楽しんでもらえたならよかったかな。

 さて、ボクも戻ろうかな。



「ただいまー」

「あ、依桜お帰りなさい。どうだった?」


 ボクが戻ると、未果が反応しイベントに関して尋ねてきた。


「うん、問題はなかったよ。それで、こっちは今、どんな状況?」


 いなかった間がそれなりに長かったので、こっちがどんな状況なのか把握していない。

 リーダーをやっているのだから、その辺りはちゃんと把握しておかないと。


「えっと、まずサイドメニューは完売。残っているのは、ハンバーグが三十食ほど。カレーは……四十人前ね。天ぷらは今作っているので最後。デザート系は、アイスとクッキーがあと十くらいね。ケーキは、あと十七食ってとこかしら」


 なるほど。やっぱり、サイドメニューが先に無くなっちゃったか。

 でも、減り具合はおおむね予想通りかな。

 ただ、予想よりもケーキの減りが早かったかな。まあ、それを言ったら、ほかのもなんだけど。


 ふと、ボクは調理班のみんなを見る。

 よく見ると、みんな疲労が色濃く顔に出ている。

 うーん、考えてみればボクは外に出ていることが多かったし……それに、みんなはこういった体力勝負みたいなことをあまりしないもんね。

 ボクは、向こうで嫌というほどやったから問題ないけど、慣れてないと余計に疲れちゃうもんね。

 ……よし。


「みんな、お疲れ様。あとはボクに任せて、自由に見て回ってきていいよ」


 ボクは、一人でやるという旨をみんなに伝えた。


「え、でも依桜。それだと、依桜一人で作るってことよね?」

『さ、さすがに悪いよ!』

『それに、依桜ちゃん、ミスコンに出たり、さっきのイベントに出ていたりするじゃん!』

『むしろ、依桜ちゃんが休むべきだよ!』


 ボク以外のみんなが、ボクに休んだほうがいいのではと提案してくれる。

 多分、ボクの体を気遣っての提案なんだろうね。

 そう言う厚意はすごく嬉しい。

 でも、


「心配してくれてるのは嬉しいけど、みんなの方が疲れてるように見えるよ? それに大丈夫だよ。体力は無尽蔵のようにあるからね」


 伊達に、向こうで三年も過ごしてないよ。

 それに、料理を作るくらい、向こうでの師匠の修行に比べたらね。


『ほんとにいいの?』

「いいよいいよ。ボクは、あまりこっちに関われてないしね」

「……依桜がそう言うなら、お言葉に甘えて、休憩させてもらうわね」

「うん。それじゃあ、あとは任せて!」

「ありがとう。それじゃあみんな、行きましょうか」

『わかった。ありがとう、依桜ちゃん』


 一人が代表してお礼を言ってから、みんなは出ていった。

 さて……。


「頑張ろう!」


 気合を入れて、ボクは調理にかかった。



「依桜、カレー二人前! それから、ハンバーグが三人前入った! できるか?」

「もちろん! 伊達に、鍛えてないよ!」


 入ったものを、素早く且つ丁寧に作っていく。

 カレーに関しては、ただ温めるだけで済むので、かなり楽できる。

 ハンバーグも実際はほとんど焼くだけなので、大して問題もない。


 まあ、こうなるようにメニューを設定したんだけどね。

 天ぷらに関しても、もう売り切れているから、やる必要性もない。

 これだったら、ボクだけでもなんとかなるしね!


「はい、カレー二人前! ハンバーグはあと三分で出せるよ!」

「サンキュ!」


 出来上がった料理をお皿に盛り付け、カウンターに並べていく。

 すると、すぐに晶たち、ホール組がどんどん料理を運んでいく。

 よく見ると、みんな忙しなく部屋を歩き回っている。


 注文を取っている人や、料理を運んでいる人に、お会計をしている人、みんな一生懸命に動き回っている。

 みんな大変そうだけど、すごく楽しそう。

 ボクも、かなり楽しい。

 負けてられないね。


「さあ、どんどん作るよ!」


 みんなを見て、一層気合が入ったボクは、さらに作るスピードを上げていった。


『や、やべえ、なんだあの娘!』

『なんて速さだ……速いのに、めちゃくちゃ丁寧だしよ』

『すげえな……しかも、メッチャカワイクね?』

『ああ、動くたびに、揺れてるしな……素晴らしい光景だ……』

『俺、あんなに待ってよかったぜ……』

『だな……最初並んだ時は、たかだか学生の模擬店でなんで、と思ったが……あれが見れた上に、料理はメッチャウマいし、並んだ甲斐があったってもんだ!』


 うん。なかなかに高評価みたいだけど……やっぱり、変に粘ついた視線が気になる……。

しょうがないんだろうけどね……。

 そんな事を思いつつ、ボクはたくさん入ってくる注文を、素早く丁寧に料理を作っていく。

 そんなことを続けて、約一時間。


「ありがとうございました!」


 最後のお客さんを見送ってから、OPENの看板をCLOSEにひっくり返す。


「お、終わったぁ……疲れたぁぁ……」


 女委がそう言いながら、床にへたり込んでいた。

 見ると、ほかの人も大体同じようなことをしている。

 ファミレスなどでバイトをしている晶は、みんなほどではない見たいだけど、疲れた表情をしている。


 態徒のような裏方作業をしている人も、材料運びなどがハードだったこともあり、かなり疲れた様子。

 態徒なんて、うつぶせに倒れている。

 武術をやっているのに、情けないなぁ。


「しっかし……依桜はすごいな」


 と、そんな態徒がボクを見ながらそんなことを言ってきた。


「すごいって……え、えっと、何が?」


 何を褒められているのかわからなかったので、思わず聞き返していた。

 その光景を見ていたみんなは、なぜか心底驚いた表情をしていた。


「普通、あの作業量を一人でこなすとか、無理だって。だから、依桜はすごいんだよ」

「たしかにな。俺のバイト先でも、たまに一人でやっている人がいるけど、かなり慌てて作ってるぞ? 依桜みたいに、冷静にできてないな」

「そうなんだ?」


 ボクとしては普通のつもりだったんだけど……。

 いやでも、ボクは向こうで三年過ごしてるわけだし……。


「それに、依桜君。全然疲れた様子がないんだもん」

「うーん、これくらいだと、百メートルをを一回だけ全力で走るくらいかな?」

『えええぇぇぇぇ……』


 あ、あれ? なんか、みんな化け物を見るような顔をしている?

 なんでだろう?


「まあ、依桜だからな」


 ボクだからってどういう意味なんだろう?

 しかも晶が、なんだか呆れたような表情をしているんだけど。


「そう言えば、未果は? たしか、集計があるから、店じまいにする前に呼んだはずだけど……」


 ボク以外の調理班の人は、友達と楽しく談笑している。

 だけど、未果の姿だけは見当たらない。


「ああ、未果ちゃんなら、裏で売り上げの集計してるよー」


 ボクの疑問に、女委が答えてくれた。

 裏にいるんだ。

 ということは、ボクが作っているときに戻って来たってことかな?

 結構集中していたから、多分そうだよね。


「そう言えば、ほかのクラスはどうなってるんだ?」


 ふと、晶がそんな疑問を口にしていた。

 言われてみれば、確かに気になる。

 ボクたちのクラスは、完売という形で終わっちゃったけど、ほかのクラスが現状どうなって言うからは気になる。


「えーっと……あ、あったあった」


 女委がタブレットPCを取り出して、何かのアプリを開く。

 一体何だろう?


「女委、そりゃなんだ?」

「これ? これはね、この学園のメインサーバーに侵入して手に入れた、現在の収益状況と、お客さんの出入りの状況だよ」


 ……え、それって


「め、女委? それって、犯罪なんじゃ……?」


 侵入って、普通にハッキングだよね……?


「だいじょぶだいじょぶ! まだ一度もバレてないからね!」

「いや、そう言う問題じゃないと思うんだけど……」


 ハッキングのことを、何でもない風に女委は言ってけど……本当に、女委って何者なんだろう?

 そんな疑問を、どうやら晶も思ったらしく、疑問に満ち溢れている表情をしていた。

 同じような表情をしていたボクに気づいて、お互いに頷きあった。


 つまり、触れない方がいい、と二人して思ったから。

 意外と、闇が深いかもね、女委は。

 って、一度も? もしかして、前科があったりする……? 

 うん。考えるのはやめよう。


「それでね、どうやらこのタイミングで店じまいをしているのは、三年生に一クラスだけみたい。それ以外はいないね。つまり、今のところ、うちを含めても二クラスしか終わってないね。ほかは、今も営業中みたいだよ」

「へー? じゃあ、うちはすごいってことか?」

「だね。上級生を差し置いて、青春祭が終わる前という早いタイミングの店じまい。普通なら、上級生たちは、面白くないと思っているかもしれないね。まあ、多分誰もそう思ってないと思うけどねん」

「どうして?」


 普通、今年初めてのクラスが、上級生よりも早く店じまいなんて、嫉妬とかすると思うんだけど……。

 そんな疑問からくる、ボクの一言だったけど、女委はニヤリと笑った。


「まあ、依桜君がいるからね!」

「え、ボク?」

「それもうそうか。依桜は、昨日の件で一躍有名人。これ以上ないくらいの宣伝だったわけか」

「言われてみれば。依桜は可愛いし、昨日みたいなすごいことができるからな! 確かに、人気も出るよな!」

「あ、あはは……」


 晶と態徒の言っていることに、思わず苦笑い。

 なんというか、複雑な心境だよ……。


 ボク自身はあまり思ってないけど、周囲から見たボクと言うのはかなり美少女に見えるらしい。

 性転換が起こる前も周囲から可愛いとは言われてたけど、今なんて、その時の比じゃないもんね……。


「ああ、それと、オレも気になったことがあるんだけどよ」

「ん? どったの?」

「いやよ。昨日のコンテストで、晶と依桜が優勝したじゃん? その時の優勝特典の中にほかのクラスの売り上げの二割がうちに入ることになってるだろ? それって、どれくらいなんだ?」

「それ、俺も気になるな」

「あ、ボクも」


 態徒の疑問ももっともだよね。

 たしかに、ボクもその辺りは気になってた。

 なにせ、二割と言っても、クラスによって売り上げは様々だし。


 飲食店以外でも、うちは基本的にお金を取るような仕組みだからね。

 だからこそ、どれもクオリティが高いんだけど。

 そんなクオリティの高いものを作ったとして、どれくらいの金額が入るものなんだろう?


「ちょっと待ってねー。んー……お、なるほどなるほど」


 タブレットを操作する女委は、なんだか納得したようなことを呟いていた。


「えっとだね。最低でも一クラス二十万くらいだね」

「は? ま、マジで!?」

「ん、マジ!」


 最低で二十万って……ということはそのクラスの売り上げは、百万?

 最低でもそれだけ稼げるって……うちの学園祭も甚だ疑問だよ。

 普通、学園祭って子供だましのような面が強いから、うちの学園みたいに馬鹿みたいにお金もかけないから、そんなに収益がないはず。

 にもかかわらず、全クラスある中でも、最低百万稼げるって、相当だと思う。


 まあ、そのクラスの予算にもよるけどね……。

 あ、でも、どちらかと言えばこの学園がぶっ飛んでる、んだよね?

 むしろ、うちみたいな学園がいっぱいあったら、それこそ恐怖だよ。


「みんなお待たせ! 集計が終わったわよ!」


 と、未果の方の集計が終わったらしく、元気よく出てきた。

 それと同時に、教室にいた全員……って、あれ? よく見ると、ボクたちのグループ以外、人がいない。


「あら。どうやら、みんな遊びに行ったみたいね」


 未果の言う通り、みんな各々遊びに行ったようだ。

 調理班のみんなも行ったみたい。


 そう言えば、みんな意中の人がいるって言ってたっけ。

 もしかすると、その人と行ったのかも。

 ……上手くいくといいね。


「まいいわ。私はこれから、集計結果を学園長に提出してくるから、依桜たちも遊びに行って来たら? どうせ態徒以外、碌に見てきてないでしょ?」


 どうやら未果は、ボクたち(態徒は除く)に気を遣ってくれているみたいだ。


「うん。わかった。じゃあ、お言葉に甘えて」

「わたしも、ありがたいよー」

「ああ、俺もあまり回れてなかったしな」


 それを察したボクたちは、その厚意に甘えることにした。

 こういう時、本当に未果は頼りになる。

 多分、断ったら断ったで無理やりに行かせようとするのは分かっているしね。

 それに、ボクの場合、昨日の一件もあるし。


「そんじゃあ、オレたちでどっかいかね?」

「うん、いいよ」

「わたしも賛成!」

「なら、どこへ行く?」


 本当は、未果も一緒だといいんだけどね……。

 いつもこのメンバーで遊んだりしていたわけだし。

 やっぱり、初めての学園祭も五人で遊んだりしたかったんだけど……。


「依桜、安心しなさい。どうせ、提出するだけだから、すぐに追いつくわ」


 どうやら、ボクのことは見透かされていたみたい。

 なんだか、気恥ずかしくなって、顔が熱くなった。


「おーい、依桜! 行こうぜー!」

「ほら、呼んでるわよ。早くいかないと」

「うん。ありがとう。じゃあ、またあとでね!」

「ええ。いってらっしゃい」


 そう言って、ボクたちは一旦、未果と別れた。

 早く合流することを期待していよう。

 それと、サキュバスの格好で出歩くわけにもいかなかったので、一応着替えました。

 ただ、制服がなぜか消え去っていたので、仕方なく、昨日のメイド服を着ることになった。

 ……解せぬ。

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