第297話 ミオの考察

 アメリカでのあれこれも終了した後は、適当に家でだらだらする。


 やはり、世界中を回るというのは、なかなかに疲れるのだ。


 気候が全く違っていたりするせいで、結構負担がかかるからな。だがまあ、それはそれでいい修行になるんで、全然ありだ。


 そう言う意味では、この世界はいいかもしれん。酒も美味いし、料理も美味いしな。


 向こうはどうにも、いまいちなものが多くてなぁ。


 やはり、いいものだ。


 ……おっと、暇ついでに、あの本でも軽く読むとするか。


 どれどれ。


『この世界において、ステータスは誰しもが持つもの。それは、どこにでもあり、誰にでもある。ない人はいない。ステータスは偶然、生命に生じたバグのようなもの。でも、それを見て面白がった神が、正常に作用するよう調整したものがステータス』


 ……バグ、ねぇ?


 なかなかに面白いことが書かれているじゃないか、この本。


 ミリエリアは一体なぜ、こんな本を書いたのか。まったくわからん。


 しかし、ステータスがあるのは当たり前だと思っていたが、なるほど、バグなのか。


 ……ん? じゃあまてよ? 能力とか、スキルとか、魔法ってのはなんだ? いや、そもそも、ステータスに表記される数字も意味がわからん。


 そう言うものだと思ってはいたが、よく考えればおかしな話だ。


 とりあえず、続きを読むか。


『ステータスに表記されるものはすべて、その人が持つ基本的なものを数値化し、見やすくしたもの。でも、それはあくまでも基本的なものであり、何らかの形で増減する場合もある。映し出されているものが真実とは限らない。職業は、実質的に、その人が持つ才能を示す。才能が最もある職業が真っ先に頭に浮かび、人は直感的にそれを選ぶ。これには、人間も魔族も、そして動物も関係ない。能力、スキル、魔法の内、能力とスキルは神が作成したものではなく、バグによって生じたものが奇跡的に事象改変を施せるようになったものが相当する。つまり、世界に干渉し、書き換えができるものが、能力とスキル。これらは、本人の才能により干渉力が左右され、才能がある者に対し、才能がない者の方が劣ってしまう。そのための、魔法。魔法は、才能があってもなくても、結果的に努力次第で埋めることができる。それにより、才能ある者に、才能ない者が勝利することが可能になる。能力とスキルの違いは、才能の有無。能力は職業という名の才能によって習得できるのに対し、スキルは才能ない物の内、才能があるか、扱えるものが習得できる』


 ……なんだこれ。


 軽く読もうと思ったつもりだったんだが、どうやら、この世界どころか、あたしが謎だと思ったステータスについて書かれているじゃないか。


 しかも、相当重要じゃないのか? これは。


 まさか、能力とスキルの違いが、才能の有無だったとはな……。


 イオで例えるのならば、あいつの才能は暗殺者であり、逆に才能がなかった職業の能力が得られている、ということになるわけだが……そうなってくると面白いな。


 あいつには《戦士》の職業の才能はなかったが、その中に含まれていた『身体強化』の能力に対し才能があったか、もしくは単純に使えたかによって、習得できた、というわけだな?


 他にも、『無詠唱』であれば、《賢者》が持つ能力だ。

 となると、一つ疑問が生まれる。


 あたしがあいつに対して能力とスキル、魔法を習得させるのには、『感覚共鳴』を使用する。その場合、能力と魔法に関しては習得可能なんだろうが、一体なぜ、スキルの習得もできているんだ?


 あいつはたしかに、多才だ。


 ハッキリ言って、向こうにおいては天才と称されてもおかしくない。


 武器に関しては扱えるものとそうでないものがあったりはするが、それでも最低限は使用可能だった。むしろ、使用可能にした、というべきか。努力でな。


 だが、そうは言っても、あいつにだってできないことはあるはずだ。


 この説明を読んでいると、どうやらスキルの存在は、才能がないが故に習得できるものらしいのだが……あいつにあった才能はたしか、《暗殺者》、《料理人》、《裁縫士》、《演芸人》の四つだったはずだ。


 逆に才能がなかったのは《戦士》《武闘家》《槍術士》《斧術士》《錬成士》《魔道士》の六つ。


 他の職業は、才能があったわけでもなかったわけでもない、普通のものばかり。


 それらはおそらくだが、才能なしと判断されるんじゃないか?


 なにせ、この才能がない職業の中に含まれていないものがあったからな。


 『毒耐性』のスキルならば《毒使い》がたしか習得できたはずだ。

 ある意味、暗殺者に近い能力ではあるというわけか。


 ……待てよ? そうなると、耐性系はもともとそれに合わせた職業が持つ能力だった、ということになるな。


 耐性は割と習得しやすいものではあるが、能力として身に付けている奴はいなかった気がする。


 ……ふむ。スキルに存在する耐性系というのは、職業とは別に分離された、という可能性もあるな。


 だとすると、非常に面白い。


 だが、ここでもう一つ不思議に思えてくることがある。


 たしかに、この世界には魔法なんてなかった。いや、無いと言うより、魔力回路が生成されるほど、この世界には魔力が満ちていないからだ。


 そうは言っても、魔力はそこそこある。あくまでも、魔力回路が生成されるほどの魔力がないからであって、あたしら異世界の人間が魔法を使うのには問題ない。


 魔力回復は、大気中にある魔力を体が吸収し行われる。


 まあ、そこはいいとしてだ。


 問題は、ステータスがなぜ、この世界には普及していないか、だ。


 イオは、向こうの世界で初めてステータスというものを知ったらしい。


 それはつまり、こっちの世界にはステータスなんてないと思っていたんだが……この本によると、どうやら誰もが持つものらしい。


 ならば、ステータスが存在していても不思議じゃない。


 ならどうして、こっちにはないのか。


 ……いや待てよ? こっちの世界においては、ステータスが必要になる場面がない。いや、ステータスというより、能力とスキルの方が正しいか。


 そもそも、こっちは向こう程生活が危険にさらされているわけじゃない。魔物という存在がいるからな。


 だからこそ、対抗策が必要だった。


 対抗策があるがゆえに、能力とスキルがあったわけだが……こっちにそれがないのは、それが原因か?


 とりあえず、読むか。


『――が見ているのは、主に魔の世界。魔力が満ちている。こちらでは、ステータスは問題なく動いている。しかし、――が見ていない、法の世界は、どうやらステータスという概念が広まっていないらしい。原因を探ってみたら、魂の在り方にあった。向こうの世界は常に命の危機にさられる。だからこそ、魂が生きようと働き、ステータスを視る、能力とスキルが発現しやすくなる、というものだ。しかし、もう片方の法の世界は、基本的に命の危機にさらされることが少なかった。これにより、法の世界の人間たちは平和であることが多いことが原因で、魂が生きようとする働きが弱まり、ステータスが視れず、能力とスキルが発現しにくくなった』


 どうやら、大方あたしの考えは外れていない、か。


 しかし、魔の世界に、法の世界、か。

 魔は魔法の魔で、法は法則の法ってか?


 二つくっつけたら、魔法世界になるのかもな。


 ……いや、マジでそんな名前になりそうだな。


「まあ、それはともかく、いやはや、面白い本だなぁ」


 世界の謎について書かれてやがる。


 にしても、ステータスが出来た理由がバグってのは面白いな。


 いや待てよ? いっそのこと、世界そのものを鑑定してみたら、どうなるんだ?


 なんとなくで除外していたが、どうなるか気になるな……。


 ふむ。ちょいと試すか。


 あたしは自身の部屋の窓から出て、家の屋根に上る。

 なんとなく、『鑑定(極)』を使ってみると、


『法の世界 ―ゅ――2年 魔力10000000/5000000』

「……は? なんだこれ?」


 一部文字化けしてるが、魔力がおかしいぞ?


 おそらく、五百万というのが、この世界の本来の魔力なんだろうけど……千万という数値は、明らかにその倍。


 なんで増えているんだ?


 あと、この二年という数字と上の見えない文字が気になるところではある。


 ふーむ。いやぁしかし、まさか『鑑定(極)』で、世界そのものを鑑定できるとはなぁ。すげえな、これ。というか、こんなことをしたら、なんか『鑑定(極)』が強化されそ――


『スキル『鑑定(極)』が、スキル『鑑定(覇)』に変化しました』


 おぉう、本当に強くなっちゃったよ。


 え、何これ? 鑑定って、極の上になると、覇になるの? 鑑定関係なくね?


 しっかしこれ、一体何が見れるんだ?


 ふぅむ、まあ、試しにもう一度、世界を鑑定してみるか。


『法の世界 魔の世界の対世界 ―ゅ――う2年 世界魔力10000000/5000000 均衡 平 環境 平』


 ふむ。これでもまだ、変化はしない、か。


 だが、情報がかなり詳細になったな。


 これなら、イオの種族と固有技能の項目が少しは見れるかもしれんな。


 この本がなければ、世界を鑑定しようなんざ思わなかったし、まあ、結果オーライってやつだな。というか、謎が増えちまったが、まあ、仕方ない。


 しかし、この均衡、という項目はどういう意味なんだ?


 何かのバランスだと思うんだが……まさか、あれか? 魔の世界とのバランスってか? なんでそんな項目があるのか知らんが、まあ……いいだろ。


 この鑑定結果で一番気になるのは、魔力量に、2年という年数、それから均衡、か。


 謎だらけだなぁ、世界ってのは。


 面倒なことこの上ない。


「まあ、情報なんてこんなもんだよな。そう簡単に答えが出りゃ意味がない」


 『アイテムボックス』の中から取り出した酒を飲みながら呟く。


 仕事は多いしなぁ。まったくもって、面倒なことしかない。


 いやまあ、こっちの世界は向こうよりも面白いことが多いのが、救いってところか。あとは、イオと一緒に住めるから。


 あ、そういやもうそろ一年が終わるとか言ってたな、イオが。


 一年の概念が向こうと同じってのは、面白いな。やはりそこも、対、か。


 ……あ、そういや、イオが面白いことを言ってたな。


 たしか、向こうでの一週間は、こっちでの一日、とか。


「対なのなら、時間の流れは同じはずなんだが……」


 一度目の転移自体は、神が同じ時間に戻したからだと考える。


 一応、向こうの時間は進んでいない、とは言っていたが、さすがに時間停止をさせていたとは思えない。


 ならば、なぜ、二度目以降は時間の流れが違う?


 こっちで一週間経つと、向こうでも一週間経過している。


 なのに、あいつが向こうの世界に行き、一週間過ごすと、こっちでは一日しか経っていない。


 変だ。かなり、変だ。


 少なくとも、あいつが無意識で戻る際の時間を変更しているのなら、話は別なんだが……そもそも、時間操作系の能力やスキルなんてあったか? あるとすれば、神辺りが持っていそうではあるが……。


 だがなぁ、そうなるとこっちで経過した時間と向こうで経過した時間が同じというのがわからん。


 ……やっぱあれか、誰かがある程度時間が戻るよう設定しているとかか? 一体何の目的で?


 まあ、とりあえず、整理するとして、だ。


 まず、イオが異世界へ行き、一週間過ごしてから帰還。すると、こっちの世界ではなぜか一日しか経過していない。だが、向こうの世界では同じ時間の経過をしている。


 というのが、イオの体験だが、あたしの仮説を組み込むと、こうか?


 一週間過ごし、帰還すると元の世界では一日しか経っていない。これはおそらく、誰かが時間操作で帰還する時間を、出発した次の日にしていると考えられる。


 そうなってくると面白いのが、帰還した次の日、それと同じ時間の進み方をしている異世界には、出発して次の日のイオが異世界にいることになる。


 そうすれば、時間の辻褄合わせができるな。


 ややこしいな……。帰還した次の日のイオは、向こうで七日過ごした後で、その時間の異世界には、出発後のイオがいるわけだしな。


 つまり、同時間にイオが二人、それぞれの世界にいることになるんだが……まあ、あくまで仮説だ。間違っている可能性が高い。


 それ以前に、時間操作系の能力かスキルがないと、成立しない説だ。


 まあ、机上の空論ってか?


「ははは、やはり、楽しい世界じゃないかな、この世界も、向こうの世界も」


 少なくとも、無駄に長く生活し、ただ酒を飲んで飯を食うだけの生活よりかは、圧倒的に楽しいな、これは。


 この本も色々と面白いことが書かれてるしな。


 これは、もうちょい調べたいところだな。


「ふぁあぁぁ……眠い。よし、今日は寝て、明日の仕事に備えるかな」

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