第258話 魔王なメル
メルと師匠の服を作り終えた後、メルが外に出て戦ってみたい! と言いだしたので、とりあえずボクとメルで草原エリアに行くことに。
武器に関しては、
『むぅ、お城に魔王専用の武器があるのじゃが……遠くて行けないのじゃ……』
とのことらしいです。
杖に関しては、ヤオイに渡しちゃってて、持ってないんだよね……。
まあ、【魔王】の称号のおかげで、杖なしで魔法を使うことができるみたいだけどね、メルは。
魔王って、色々とすごいね。
生まれた時から高いステータスを持ってて、強い能力やスキルを持ってるんだもん。
それから、靴は用意しました。
あれは、【裁縫】で作れないので、購入することになったけど。
何らかの形で作れればいいんだけどなぁ。
意外と、作れるようになるスキルを習得できるクエストとかありそうだし、その内さがしてみようかな。
それはともかく、それなりにいいお店で靴を買って、メルにプレゼント。
と言っても、メルってかなりお金を持ってる方だから、ちょっと微妙かもしれないけどね。
ちなみに、靴に関しても、専用の物があるとかなんとか。
その辺りは、魔族の国が実装されてからなんじゃないかな?
……と言うか、もしかすると人知れず実装されてさえいそう。
移動は主に馬車になると思うけど。
「ねーさまねーさま!」
「どうしたの?」
「ここは、あっちを模してるんじゃったよな?」
「うん、そうだね。全部とまではいかないけど、基本となる土台は全部向こうだからね」「じゃあじゃあ、ここは本当にある人間の街なのか!?」
「そうだよ。ここは、リーゲル王国にある、ジェンパールっていう王都だよ」
「人間の国はこうも発展しておったんじゃなぁ」
と、メルは街を見て、キラキラ目を輝かせながらはしゃぐ。
そう言えば、メルは生まれたばかりで、ずっと魔王城で暮らしていたんだっけ?
だから、クナルラルから出たことがないのか。
それなら、こんな風にはしゃぐのも納得。
実際、こっちの世界って結構発展してたからなぁ。
日本とかで標準設備なお風呂とかシャワーとか、こっちの世界にあったしね。
建築などはボクの世界の方が上かもしれないけど、あっちは不思議な材質の木材とか石材を使っていたし、何より頑丈だったからね。
魔法で強化されているから、仮に馬車が衝突して来てもそこまでの被害が出ない。
お風呂にシャワーがあった時はびっくりだったけどね。
だから、ボクの世界と異世界の生活水準はほとんど同じだったんだよね。
唯一難点があったとすれば、移動かなぁ。
転移魔法とかがあるとすごく便利だったけど、あれを使える人は少なかったしね。
馬車とか、道がガタガタしててお尻が痛くて……。しかも、『立体機動』がない時は、本当に乗り物酔いが酷くて、辛かったよ。
師匠の下で鍛えてからは、自分で走った方が早いと言う理由で走って移動してたけどね。
それでも、知らない間に馬車の揺れが少なくなっていたんだけど。
「ねーさま、あれはなんじゃ?」
「えーっと……あ、アンレルだね」
「アンレル? どういうものなんじゃ?」
「甘い飴でリンゴを覆った、お菓子だよ」
言ってしまえば、りんご飴です。
「甘い飴……リンゴ……お菓子……!」
再び目を輝かせながら、ボクを見るメル。
「食べる?」
「いいのかの!?」
「うん。この中なら、いくら食べてもお腹には入らないし、虫歯にもならないからね」
「やったのじゃ!」
ある意味、ダイエットになりそうだよね、このゲーム。
さすがに、運動自体は現実でしないといけないけど、甘味制限をしている間、こっちで食べればいいわけだし。
ボクは露店に寄って、アンレルを一つ購入して、メルに手渡す。
「はい、落とさないでね」
「わーいなのじゃ!」
「ふふっ」
なんだかほほえましいよね。
「あむ……んっ~~~~! 甘くて美味しいのじゃ!」
一口かじった瞬間、メルは花が咲いたような笑顔を浮かべる。
どうやら、口に合ったみたいだね。うん、よかった。
「ねーさまも一口食べるかの?」
「いいの?」
「うむ!」
「じゃあ、一口だけもらおうかな」
「はーいなのじゃ! じゃあ、あ~んじゃ!」
と、メルがボクにアンレルを差し出してくる。
ボクは、髪を軽くかきあげると、一口かじる。
甘い飴とみずみずしいリンゴの甘みと酸味が口の中に広がる。
「うん。美味しい」
「それはよかったのじゃ!」
「ありとがとね、メル」
「いいのじゃ!」
そう言うと、ぺろぺろと舐めたり、かじったりしてアンレルを食べるメル。
夏になったら、夏祭りに連れて行ってあげないとね。
その時は、浴衣を買ってあげよう。
心の中でそう思いながら、ボクたちは手を繋ぎながら、草原へと向かいました。
草原に到着後、ボクとメルはなるべく人が少ない場所に向かう。
あのイベント以降、ボクはそれなりに顔が知れちゃったから、気が付くとボクの周囲に人が多く集まっちゃって……。
そうなると、やりづらくなっちゃうんだよね。
だから、なるべく人が少ないところ……できれば、人がいないところがいい。
まあ、最近は少しずつ『New Era』が流通しだしているからプレイヤーも増えてきてるみたいだから、ちょっと難しいんだけどね……。
初心者の人たちがまず最初にレベル上げに来るのは、この草原だからね。
出現するモンスターの平均レベルは1~7。
稀に、ボクがサービス開始の日に倒した、キングフォレストボアーが出現することもあるんだけど。
あれは、レベル12で、初心者の人たちが10人くらいのパーティーで倒しているところをよく見かける。
と言っても、そこまで出現するわけじゃないから、早い者勝ち、みたいなところがある。
暗黙の了解として、プレイヤーの間では、ボスモンスターは基本的にレベル12以下の人たちに譲る、みたいなものがあるので、初心者の人たちで取り合いになるって言う場合が多い。
「んーと……うん。この辺りならちょうどいいかな」
少し歩くと、運よく人がいなくてモンスターがそこそこいる場所を見つけた。
「それじゃあ、早速体を動かしてみよっか」
「うむ!」
「とりあえず、あそこにいるフォレストボアーに向かって何か魔法を撃ってみて?」
「わかったのじゃ! じゃあ……《ファイアーボール》!」
と、メルが右手を突き出して魔法名を言うと、メルの手からバスケットボール大の火の玉が出現すると、かなりの速度で火の玉がフォレストボアーに向かって飛んでいき、
ドォォォォンッ!
という、爆発音を発生させ、フォレストボアーが鳴く前に消し飛びました。
「あ、あー……」
な、なるほど……メルが魔法を撃つとこうなるんだ。
レベル1で、なおかつ初級魔法の一番最初の魔法でこれって考えると、強くなった時どうなるんだろう。
「ねーさまどうじゃ?」
「う、うん。すごいね、メル」
褒めてほしそうな顔をするメルを褒めながら、頭を撫でる。
いつものように、目を細めて気持ちよさそうにするメル。
「んゅ~……気持ちいいのじゃぁ」
メルは、頭を撫でると、いつも気持ちよさそうにするから、ボクとしてもついつい撫でちゃう。
まあ、ボクもメルの頭は撫で心地がいいから実は気に入ってたり……。
さらさらでふわふわだからね、メルの髪。
「それじゃあ、この調子でどんどん倒していこう」
「はーいなのじゃ!」
とりあえず、メルの魔法やスキルの検証をメインに行っていくと、ある意味今回の目玉のスキルを使用する時になった。
「それじゃあメル、【魔王化】を使ってみてくれるかな?」
今回、一番ボクが気になっていたのは、このスキル。
メルに説明文を読んでもらったんだけど、『自信を魔王に至らせるスキル』って言う事らしくて、他はよくわからなかった。
わかっているのは、ある程度の効果なんだけど……。
「わかったのじゃ! 【魔王化】!」
と、メルがスキル名を唱えると、メルの体から紅いオーラが迸る。
すると、メルの両耳の上からいかにも魔王です、と言わんばかりの角が二本生えてきて、背中からは悪魔の翼のようなものが生える。
よく見ると、瞳にうっすら魔法陣が浮かび上がっている。
紅いオーラを体から発していて、角に悪魔の翼。
うん、いかにも魔王様、って感じ。
「お、おー、これは儂が魔王モードになった時の姿じゃ」
「魔王モード?」
「うむ。儂が本当の魔王になった時のことじゃ。夢の中でも変身できるみたいじゃ」
なるほど。そういう感じなんだ。
と言うことは、この姿は切り札みたいなものなのかな?
「とりあえず、動いてみて」
「わかったのじゃ!」
メルが元気よくそう言うと、なんと翼を動かし始め……
「わわっ……とと。お、おー、飛べたぞ!」
なんと、宙に浮きだした。
その後、翼を上手く動かして、並行に移動したり、上昇したり下降したりする。
しばらく飛んでいると、メルがボクの所に戻ってくる。
それと同時に、角と翼、オーラが消える。
「あ、時間切れじゃ」
「やっぱり、時間切れはあるんだね」
「うむ。今はまだ30秒しかあの姿にはなれないのじゃ」
「そうなんだ。それで、えっと、次に使えるようになるまで、どれくらいかかる? それから、何かデメリットとかはあるのかな?」
「んーと、次に使えるまでに、380秒かかって、MP回復速度が10分の1になって、聖属性ダメージが1.5倍になっちゃうのじゃ」
「あー、結構デメリットが大きいね……」
「それから、使用する時は、儂のMPを全部使わなくちゃいけないんじゃ……」
「となると、本当にピーキーなスキルなんだね」
デメリットがそれだけ大きいと言うことは、反対にかなり強力なメリットがあるはず……。
「メル、とりあえずまた使えるようになったら、もう一度使ってこの辺りにいるモンスターを攻撃してみようか」
「わかったのじゃ」
「それじゃあ、ちょっと休憩しよう」
「はーいなのじゃ!」
少し休憩した後、また使用可能になってから、再びメルが【魔王化】を使用。
さっきと同じく、角と翼が生え、瞳には魔法陣が浮かび上がり、紅いオーラを発す。
「それじゃあメル、攻撃してみて!」
「わかったのじゃ! 《ファイアーボール》《ウィンドカッター》《ウォータースプラッシュ》《アースショット》《ダークアロー》!」
メルが一気に様々な魔法名を唱えると通常時に使っていた《ファイアーボール》よりも二倍くらいの大きさの火の玉が発生し、
ドゴォォォォォォォォンッッッ!
という爆発音を発生させながら、複数のフォレストボアーが焼かれた。
さらに、その直後に唱えられた魔法が次々に発生し、フォレストボアーを切断したり、滝のような水で潰され、拳大の礫がいくつも発生しフォレストボアーたちを射抜いて、さらには、黒い矢が次々とフォレストボアーの頭や心臓を貫いていく。
その光景は、まさに天災。
炎が上がり、鋭い刃のような風が発生し、滝のような水が辺りを濡らし、石が次々と穿ち、闇の矢が飛び回ると言う光景。
しかも、未だに魔法を唱え続けるメル。
「……………………え?」
そんな間の抜けた声が、思わずボクの口から漏れて、ボクは呆然としていました。
そして、スキルの効果が切れて、メルがボクの所へ小走りで戻ってくる。
「ねーさま、どうじゃった!?」
「あ、う、うん。すごかったよ。本当に、すごかったよ……」
あの様子を見せられると、さすがに苦笑いするほかないよ……。
でも、メルがすごいのは事実だし、魔王って言うことを考えたら、ある意味当たり前と言えるかも。
「えへへぇ」
……うん。可愛いからいいかな。
「メル、【魔王化】って魔法が撃ち放題になるの?」
「そうじゃ!」
「えっと、とりあえず効果を全部教えてもらえると嬉しいかな」
「わかったのじゃ。んーと――」
と、メルが【魔王化】の説明をしてくれる。
簡単にまとめると、発動中は、DEXとINTが二倍になって、他のステータスは1.5倍。さらに、制限時間が続く限り魔法が撃ち放題になって、連射速度も高くなる。
しかもこのスキルは、空中を飛んで魔法を放つことができるので、高いところからひたすら魔法を撃ち続けるだけで、ある意味無敵の砲台のようなことができる、と。
それと、この間は魔法以外のスキルは使えないみたい。
……それならたしかに、あのデメリットもうなずけるよ。
それに、MPを全部使うって言うことは、今後MPを上げてもあの状態になるのに、結局全部使うことになるんだよね。
ある意味、そこもデメリットだね。
もしかすると、師匠の持つ【神化】も同じような感じなのかも。
「なるほど。ありがとう、メル」
そうなると……これは、みんなと相談して色々と決めた方がいいね。
さすがに、色々と問題になりそうだし。
「うん。大体の確認はできたし、そろそろ戻ろっか」
「うむ!」
大方、予定していたことはできたので、ボクたちはみんながいるギルドホームに向かった。
あの蹂躙で、メルのレベルは見事4に上がってました。
そして、みんなに【魔王化】のスキルを相談した結果、本当にピンチになった時に使うことになりました。
ただし、ギルド対抗戦のようなイベントの時は、ここぞと思った時に使う、という例外は設けたけどね。
本当、メルは頼もしいね。
《CFO公式掲示板 匿名プレイヤーたちのお話広場》
143:お前ら、これ見てくれ!
と、ユキのギルドについて話したりしていると、一人のプレイヤーが唐突に一枚のスクリーンショットを投稿してきた。
そこには、メルがユキに対してアンレルを食べさせている姿が映っていた。
144:なんだこれ、尊すぎん……?
145:ゴスロリ美幼女が美少女に対してあ~ん……
146:何と言う素晴らしい光景でござるか
147:どっちかと言えば、男が多いこのゲーム一番の癒しになりそうンゴ
148:目の保養じゃぁ……
149:しかも、この女神様の微笑みよ。ちょっと顔を赤くして、髪をかき上げる姿が可愛すぎる!
150:わかるぞ! このスクショは永久保存せねば
151:うむうむ。当然でござるなぁ
152:やっぱ、このゲームで一番有名なんじゃね? 女神様って
153:まぁ、とんでもない強さを持っているのに、びっくりすぎるくらい性格がいいしなぁ
154:しかも、自身の容姿を鼻にかけないし
155:ボクっ娘ってのもポイント高いンゴ
156:あと、料理美味い。服も作れる。笑顔が可愛い
157:銀髪碧眼で家庭的で、妹思いな美少女……非の打ち所がねぇ
158:神に愛されておるのぅ
159:そんな次元じゃないだろ、あれ
160:いやー、マジでこの姉妹いいわー
161:ほのぼのとした姿でいいぜぇ
と、しばらくユキとメルの二人について話が盛り上がっていると、
195:……なあ、オレ、とんでもねーの見ちまった……
やや暗めのテンションのプレイヤーが現れた。
196:どうした
197:とりあえず、この動画を見てくれ。マジで、目を疑うから
そう言って、そのプレイヤーは一つの動画を投稿する。
その動画には、魔王化したメルがひたすら魔法を乱射しながら飛び回っている姿が収められていた。
198:……う、うん?
199:え、なにこれ
200:……これ、魔法、だよな?
201:見た感じ、初級魔法のさらに初期の魔法っぽいけど……
202:威力、おかしくね?
203:いやいやいや、ツッコムところ違う! 見ろ! このゴスロリ妹ちゃん、角に翼が生えて、紅いオーラ出してるからな!?
204:いやまあ……女神様の妹なら、不思議じゃないかなと
205:……わかるンゴ
206:見た感じ、魔王っぽいけどさ、別に女神様の妹さんなら、魔王になれても不思議じゃないかなと
207:そうかもしれんが! てか、魔法の威力が異常だし、とんでもない速度で連射し続けてるのに、一向にMPが切れる様子ないし! 一応、30秒程度で消えたっぽいけど、異常じゃね!?
208:……言われてみれば、そうじゃな
209:これ、ラスボスに見えるでござる
210:ある意味、ラスボス
211:こんな可愛いラスボスなら、全然あり
212:……まあ、女神様の妹だし
213:なんでもありだなー、これ
214:あれだな。称号【魔王】とか持ってそう
215:いやいや、そんな称号はないだろー
216:このゲームはサービス開始からそこまで時間経ってないし、そんな変な称号は当分先だろうなー
217:まあ、とりあえず、俺たちは見守る方向でいいだろ。そうだろ? おもいら
218:うむ
219:当然でござる
220:あー、女神様のギルドに入ってみたいわー
この後も、ユキとメルの話題で盛り上がった。
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