第424話 欠落した二日間1 上
「あ、あの、すみません。ボクは、なんでお礼を言われているんでしょうか……?」
突然村人総出でお礼を言われる事態が発生して、思わず面食らい、どうしてお礼を言われたのかを尋ねる。
『いやいや、何をおっしゃいますやら。九ヵ月ほど前、我々の村にふらりと訪れて、魔物の群れに困っていた我々を助けていただいたではありませんか』
「え、ま、魔物の群れ……?」
さらに戸惑う。
ボクに対して説明(?)をしてくれている人は、見たところ村長さんのようで、歳は……大体六十代後半くらい、かな? おじいさんと言った風貌で、なんだか優しそうな顔をしている。
そのおじいさんが、まるで孫に向けるような笑顔を顔に浮かべて、魔物の群れから助けてもらったと言ってきた。
……あ、あれ? ボク、いつそんなことしたっけ……?
九ヵ月前と言うと、多分、ボクが異世界転移装置の試運転をした時、だよね?
「あ、あの、それって本当にボク、なんですか?」
『ええ、そのお姿、見間違えようがありません。間違いなく、女神様だと断言できます』
村長さんの言葉に、後ろにいる村民の人たちもうんうんと頷いている。
その表情は、個人差があれど、明らかにこちらに感謝しているような表情を浮かべている。
……ま、待って? 本当にいつ、ボクがそんなことをしたの?
「依桜、これ、どういうこと?」
「そ、それが、ボクにもさっぱりで……来たことはない、はずなんだけど……」
「じゃあ、依桜のそっくりさんが現れた、ということなのか?」
「それはないと思う」
「ん? それはなんでだ? 異世界なんだろ? 依桜みたいな髪色の人とかいてもおかしくなくね?」
「そうじゃなくて、この世界には銀髪碧眼の人っていないみたいなんだよ」
「え、マジ?」
「うん、マジ」
『女神様の言う通りですな。この世界には、女神様のような銀色の髪に、翡翠の瞳を持った人間、及び亜人はおりません。……ところで、そちらの方々は?』
ボクのセリフに補足をするように村長さんが言う。その後に、ボクと一緒にいる未果たちに気づくと、何者なのか尋ねて来た。
「あ、はい。えっと、ボクが住んでいる世界にいる友達です。それで、こっちはボクの妹たちです。……と言っても、妹たちについては、こっちの世界出身なんですけどね」
『なんと。界渡りとは……。おや? そちらの黒髪の少女は……もしや、リル、か?』
「そう、だよ、村長、さん」
『なんと! ある日突然誘拐されてしまったリルが、帰って来ただと!? これはいかん。誰か! 孤児院の誰でもいい、知らせてくるのだ!』
リルの姿を見て、本人だと知るや否や、村長さんは外見からは想像できないほどのハリのある声を出し、指示を出していた。
わ、すごい。
少し呑気にそんな事を思っていると、もう伝えに行ったのか、一人の女性がこちらに走って来た。
「リル!」
「テトラ、せんせい……!」
その女性は、リルに駆け寄ってくると、思いっきり抱きしめた。
リルの方も、それを受け入れ、テトラと呼ばれていた女性を抱きしめ返した。
「助けてあげられなくて、ごめんねっ……!」
テトラさんは、泣きながらリルに謝る。
リルもリルで、涙を流していた。
いいね、こう言う光景。
本当に、助けてよかった。
「女神様、あの時だけでなく、私の娘とも言えるリルを助けていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。ボクもほとんど成り行きで助けたようなものですから。それに、リルはいい娘です。向こうの世界でも、ここにいるみんなと仲良く暮らしていますよ」
「暮らしている……?」
「あ、すみません。えっと、実はリルなんですが……ボクが引き取る形で、向こうで家族として一緒に暮らしているんです。現状は、この娘たちと一緒で、ボクの妹、ということになっています。もちろん、ボクもリルのことは本当の妹だと思っていますし、大切にしています。それこそ、危害が及ぼうものなら、全力で助けるくらいに」
「リル、本当なの?」
「う、ん。イオおねえちゃん、とってもすごい、の。わたし、幸せだよ」
「そうなの……。ということは、これからも女神様と一緒に?」
「わたしは、イオおねえちゃんたちと一緒が、いい、から……えと、ご、ごめんなさい……」
「謝らないで。私としても、引き取り手が現れてくれて嬉しいの。何より、あなたを大切にしてくれる人に引き取ってもらえたんだもの、私も嬉しい」
テトラさんは優しい笑顔をリルに向けながら、そう告げる。
「テトラ、せんせい……」
「女神様、どうか、これからもこの娘のことを、よろしくお願いします」
こちらに向き直ると、テトラさんはボクに深々とお辞儀をしてきた。
「はい。任せてください。きっと、素敵な女性に育てます。それに、来ようと思えばこっちの世界にはいつでも来れますから。その時は、必ず」
「それは、とてもありがたいです。これからの成長が見れないと思ったら、少し寂しく思っていたので……」
ずっと育てて来たから、当たり前の感情だよね。
よかった、異世界転移装置を創ってもらって……。
これがあれば、色々と助かるからね。
「あ、そうだ。えっと、村長さんに訊きたいことがあるんですけど……」
『私に、ですかな? もちろん、女神様の頼みとあらば、何なりと』
「えっと、さっきのお話の続きなんですけど……ボクがここに来た時のお話を聞かせてもらえませんか?」
『ふむ……わかりました。それでは、私の家で話をしましょうか。あぁ、女神様の友人の皆様や家族の皆様もどうぞこちらへ』
「ありがとうございました。それじゃあ、行こ、みんな」
ボクがそう言うと、みんなは軽く頷いた。
村長さんが一声かけ、ボクたちは村長さんの後をついていった。
『それで、女神様が助けてくださったときの話、でしたな』
「はい」
村長さんの家に入り、リビングらしき場所へ移動すると、そこにあった椅子に腰かける。
メルたちは、リルが暮らしていた孤児院に遊びに行った。
リルが行きたいと言ったからね。
それに他のみんなが便乗した形です。
仲がいいのは、いいことです。できれば、こっちの世界でも友達を増やしてほしいところ。
未果たちは、ボクの方が気になったようで、こちらに同席してます。
「あ、お話してもらう前に一ついいですか?」
『もちろんですとも』
「それじゃあ……。あの、どうしてボク、女神様って呼ばれているんですか?」
『あぁ、それはですな、その時の女神様への畏敬の念を抱いた者たちがそう呼びだしたのです』
「いや、ボク人間ですけど……」
『そうですな。しかしながら、その時の女神様は特殊なオーラとも呼べるようなものを発しておりましたので』
「オーラ、ですか」
ここでもオーラ。
ボクの体って、そんなに変なものが発されてるの?
どうしよう、すごく気になって来た。
と、とりあえず、今は話を聞こう。
「えっと、出来れば女神様はやめて頂けると……」
『そうですか? では……勇者様と』
それはそれで恥ずかしいけど、まだマシ、かな。うん。
「じゃあ、それでお願いします……」
『わかりました。では、話をするとしましょうか』
「はい。お願いします」
『あれは――』
それは、依桜が二度目の異世界転移をした時の事。
あの時と言えば、依桜は何かと問題を引き寄せていた。
転移した初日はさしたる問題はなかったが、二日目からは割と問題を引き寄せていた。
二日目は単純に、ミオによる謎すぎるテストを受け、その際に約束した料理を作るべく、王都へ買い物に出かける。
その際に、国王と会い、そのまま城へと移動。
パーティーで着るドレスを選んでいると、リーゲル王国の王子である、セルジュにプロポーズされると言った事態を招いた。
三日目は、誘拐されかけたリーゲル王国の王女である、フェレノラを偶然助け、そこでミオの正体についてある程度知ることになったりと、結構あれだった。
四日目は普通にパーティーだけだったので、特に問題はなかった。
が、問題が発生したのは五日目と六日目のこと。
五日目の朝はそこまで問題なかった。
問題が発生したのはその後。
依桜がごろごろするぞー! と決めた直後から、依桜の記憶に欠落が生まれた。
欠落、と言っても、欠落したのはあくまでも五日目と六日目の記憶だけであって、それ以外は正常である。多分。
近頃、依桜はまれに記憶があやふやになる時があるとか言っているので、意外と何かあるのかもしれない。本人は病気かもしれないと思っているそう。依桜らしい。
さて、そんな依桜だが、五日目に何をしていたか、と言えば……
「はぁっ!」
『『『ギャァァァァァァァァッッ……』』』
魔法を用いて、魔物の群れを撃退していた。
『め、女神様だ……女神様が私たちの村を救いに……!』
そんな依桜の背後では、多くの村人たちが魔物を蹴散らしていく依桜を見て、崇拝に近い感情を向けていた。
なぜ、こうなったかと言うと、答えはシンプル。
順を追って説明するため、ほんのわずかに時間を遡る。
ミオの家にて。
「エル――師匠、少し出かけて来てもいいですか?」
ある程度の家事を終えた依桜が、ミオに対し『出かけてきていいか』ということを尋ねたところから始まる。
最初、何かを言いかけて止めたのは、何だったのかは不明である。
「ん、ああいいぞ。どこへ行くんだ?」
「いえ、ちょっと散歩に行って来るだけですよ」
「そうか。わかった。気分転換でもしてきな」
依桜のお願いに、ミオは普通にOKをする。
まあ、この前に『ごろごろしていいですか?』と依桜自身が訊いているので、OKしないわけがないのだが。
「はい、ありがとうございます。師匠」
「気にするな。あたしは適当にごろごろしてるよ」
「そうですか。でーも、お酒は飲み過ぎたらいけませんよ?」
「わーってるって。ほんと、お前は心配性だよな……なんだか、あたしの親友を思い出すぞ、このやろー」
依桜の忠告に、苦笑いを浮かべ、半ばふざけたような反応をするミオ。
そんな反応を見て、依桜も軽く笑う。
「ふふっ、そうですね。では、ボクは少し散歩に行ってきます。師匠のことですから、心配はいらないでしょうけど、気を付けてくださいね?」
「それこそ、杞憂ってものだ。ま、安心しな。あたしを殺せる存在なんざ、邪神やあたしの親友だった創造神くらいものだからな」
「そうなんですね。……それでは、行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
軽く微笑んでから、依桜は家を出た。
(……そういやあいつ、あんなに丁寧口調だったか?)
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