第423話 妹たちの孤児院へ
異世界旅行が始まり、みんなは初めての異世界ということもあり大はしゃぎ。
異世界組であるメルたちの方はと言えば、普通に楽しんでます。
まあ、メルは魔王として生まれてからずっと(とは言っても数ヶ月)魔族の国にいたし、他の五人に至っては孤児な上に誘拐されていた、という事情があったため、こう言った場所に来ることはなかったそう。
そう言えば、五人の孤児院ってどこなんだろう?
「ねえ、ニア、リル、ミリア、クーナ、スイ。みんなは、自分が今まで過ごしていた孤児院の場所って覚えてる?」
こっちの世界に来たし、ちょっと尋ねてみよう。
「えっと、私はムルフェ、と言う町です」
「わたし、は、メネス村、です」
「ぼくはルエアラの町だよ!」
「私はザブジェの町なのです」
「……ミファロ村」
みんなしっかりと憶えていたらしく、村や名前の場所を教えてくれた。
「ニア、リル、ミリアの住んでいた場所はわかるけど、クーナとスイの二人はわからない……。そこってやっぱり、魔族の国にある場所なの?」
「はいなのです」
「……そう」
魔族の国となると、一応そっちにも行く予定だから、その時にジルミスさん辺りに場所を聞いてみよう。
あ、でも、その前に行くかどうかを聞かないと。
行く前提で考えるのは、みんなのことを考えていないと言うのと同じこと。
「えっと、みんなはその孤児院に行きたいかな?」
「そ、それって、わ、私たちはもう家族じゃない、って言うことですか……?」
ボクが孤児院に行きたいかどうかを尋ねたら、ニアが泣きそうな顔で尋ね返してきた。
あぁ! よく見たら、他の娘も泣きそう!
「ち、違うからね!? その人たちの元に帰すって言うわけじゃなくて、単純に行きたいか、って言うことを訊いただけだから! みんなを孤児院に戻すわけないよ! 大事な妹たちなんだもん!」
「じゃあ、わたしたち、のこと、好き……?」
「もちろん、大好きだよ! メルも含めて、みーんなボクの世界一大切で、大好きな妹たちだから!」
「ねーさま!」
「イオお姉ちゃん!」
「イオ、おねえちゃん……!」
「イオねぇ!」
「イオお姉さま!」
「……イオおねーちゃん!」
「わわっ……! ふふっ、大丈夫だからね。ボクはみんなとずっと一緒にいるから」
「「「「「「うんっ!」」」」」」
よかった、誤解が解けて……。
みんなを泣かせそうになるのは、お姉ちゃんとして失格だからね!
それにまあ、今のはボクの訊き方も悪かったし。
うーん、今まで兄弟姉妹とかいなかったから、この辺りの勝手がたまにわからない……いきなりだったもん、妹ができたのなんて。
と言っても、よほどのことがない限り、新しく妹ができる、何てこともないと思うんだけどね……。
この辺りはまあ……うん。ボクも悪いというか……でも! ボクは後悔していません! むしろ、可愛い妹たちができてとっても満足! あと、毎日が楽しい!
特に、夏休みなんて例年通りなら、家の家事をする、みんなと一緒に何かする、くらいの当たり前のような日常を過ごすだけだったけど、今年からは可愛い妹たちがいるからね! それはもう毎日が楽しい。
妹っていいよね!
メルちゃんたちと熱い抱擁をする依桜を傍から見る。
「白昼堂々とあそこまで妹とイチャコラできるとは……」
「依桜は昔から、何かに集中すると周りが見えなくなるからな……」
未果のセリフに、俺がそう続ける。
「依桜ちゃんってそうなの? うち、まだ知り合ってそこまで経ってないからわからないよ」
「私も。普段はあまり接点ないしね。たまに、声優業の方で一緒にお仕事するくらいだから」
すると、途中から知り合った御庭と、美羽さんの二人が不思議そうに俺たちに尋ねてくる。
「あー、えっとだね、依桜君ってこう、普段は視野が広いけど、別の誰かに熱中しちゃうと、その人にかかりっきりになっちゃうのさ」
「わかるわかる。オレも中学時代に受験勉強を依桜と一緒にしてて、そんで教えてもらったりしてたけどよ、なんてーか、オレにかかりっきりになってて周囲のことが見えず、結果的にドジしてたなぁ。頭ぶつけたり、足が痺れていることに気づかなかったり」
うんうんと頷きながら、態徒が過去を振り返りながら言う。
それは、俺も一緒にいたな。
たしか、態徒が、
『依桜! 晶! 頼む! オレに勉強を教えてくれぇ! オレだけ叡董学園に進学できないのって、マジで寂しいんだよぉ!』
って言う具合に。
俺と依桜も、態徒のことは大事な友人だと思っていたし、何より普段から一緒のグループで遊んだり集まったりしているというのに、一人だけいない、というのも寂しいと考えた結果、俺と依桜で勉強を教えることになった。
まあ、俺たちも深く理解できるいいきっかけになったし、その頑張りで態徒も合格できたんで、俺たち的には結果オーライだったしな。
で、その時の勉強中に、依桜が態徒に教えるのに夢中になっていたわけだ。
ちなみにだが、依桜がその時したこととして、机に乗り出して態徒に勉強を教えていたんだが……その時、着ていたシャツの襟元からちらっと内側の肌が見えていて、態徒がなぜかドギマギした結果、依桜が気付き、恥ずかしそうにした。で、その際に足が痺れていたことに気づき、テーブルの上の麦茶をひっくり返して自分にかかった上に、服が透ける、何て言う事態も引き起こしてた。
依桜は男にしては、本当に女子みたいな見た目だったから、思わずドギマギしたな。態徒の気持ちもわからないでもない。
何せ、依桜は男の時から微妙にエロかった。無自覚に。
……俺と態徒にその気はないんだがな。
「いやまあ、そん時に比べたら、今よりはマシなんだろうなぁ、とか思うけどよ」
「そうだな。あの時は……まだ、自分の状況に気づくほどだったからいいが、今のあれは、な……」
「だねぇ。メルちゃんたち相手に夢中になりすぎて、自分がものすごーく周囲の眼を集めていることに気づいてないねぇ。見てよあれ、すっごいだらしない笑顔で見ている人が大勢だよ? さっすが依桜君!」
女委の言う通り、依桜の周囲には、だらしない笑みを浮かべた人がそれなりにいる。
理由はまあ、あれだろうな。
女委風に言うのならば、銀髪碧眼美少女とロリ姉妹たちとの激甘絡み、と言ったところだろうか。
たしかに、見ていてほっこりするし、ああなる気持ちもわからないでもないが……いささか表でする顔にしては、ややキツイ気がする。
これが元の世界だったら、確実に通報物だな。
……いや、むしろ現場に到着した警察官すらああなる可能性がある、か。
末恐ろしい幼馴染だ。
「あー、依桜? そろそろいいかしら。周囲にものすっごく見られてるわよ? さすがに、ここにずっといるのは……」
さすがにこのままじゃまずいと思ったのか、未果が代表して依桜に周囲のことを言っていた。
「あ、ご、ごめんね! た、たしかに邪魔になっちゃうよね……! じゃ、じゃあ、えっと、い、行こっか!」
依桜は未果が教えた状況に気づくと、慌てたように立ち上がり、そそくさとその場を離れて行き、俺達もその後を追った。
なかなかに恥ずかしい姿を周囲に曝してしまった後は、普通に観光再開。
再開と言っても、ボクたちはこれから王都を出ることに。
理由は簡単。
ニアたちが誘拐される前まで過ごしていた孤児院へ向かうこと。
あの後、孤児院に行きたいと言われたからね。
ニアたちがそれぞれ暮らしていた孤児院は、基本的にいい場所だったらしく、同い年くらいの子供たちと仲良く遊んでいたそう。
少なくとも、そんなことで嘘を吐いても意味はないし、第一、みんながボクに嘘を吐くということはほとんどないと思ってます。まあ、ボクの勝手な思い込みなのかもしれないけど、だとしても嘘は吐かないはず。
クーナとスイの二人がそれぞれ過ごしていた孤児院には、魔族の国に行った時に行くとして、ニアたちは出来る限り、王国に滞在している間に行きたいところ。
幸いと言うか、三人が過ごしていたという孤児院は、そこまで遠くなく、日帰りで行けるくらいの近さだった。
行く機会は、こういう時にしかないので、最悪遠かったら、みんなを『アイテムボックス』の中に入れて、ボクが全力で走ったけどね。
ここから近いのは、リルが過ごしていた孤児院がある、メネス村と言う場所へ。
この村に関しては、ボクは足を踏み入れたことがなかったり。
王都周辺の村や町全部に行ったわけじゃないし、メネス村がある辺りは、比較的平穏な場所だったからね。
それを言ったら、他のみんなが過ごしていたという村や町はどこも行ったことがないんだけどね。ボク。
いくら勇者と言えど、身は一つ。さすがに、全部の村や町へ行くことはなかったからね。
幸いだったのは、みんなが過ごしていた村や町は、あまり被害が出なかったということかな。
仮に、ボクが行ったことがあった場合、みんなのことを軽くなら覚えていたと思うしね。
絶対に行ってないと断言できます。
未果たち地球組も、せっかく異世界に来たんだから、いろんな場所を見て回りたいという理由で、付いて来てます。
もちろん、断る理由もないし、大勢の方が楽しいからね。
心配事はと言うと、下手な盗賊とかが出ないか、ということなんだけど……『気配感知』で探ったところ、そんな気配はない。
前回はたまたま遭遇しただけだからね。
それに、戦争終結後は、戦争に回していた労力を、王都周辺や、各村や町に警備兵を送ることができるようになったから、治安が戦時中よりもよくなってきているとか。
なんでも、王都付近にはあまり盗賊や山賊と言ったような人たちが出ないよう、しっかりと巡回をしているとのこと。
そう言うこともあって、前回は本当に偶然だったんだなって。
ちなみに、あの時ボクが更生させた人たちは、今は真っ当に働いているみたいです。
王都で『気配感知』を使用したら、反応がありました。
せっせと働いているみたいで、充実している時の反応がありました。
よかったです。
「イオおねえちゃん、あそこ」
「どれどれ……あ、あそこだね。みんな、もう少しみたいだから、頑張ろう!」
「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」
うーん、大人数。
ここまで大勢の旅行は初めてだよ。
まあ、だからこそ楽しいんだけどね。
そんな事を思いつつ、ボクたちは村へ行く足を早めた。
そして、村に到着し、村に入るなり、
『女神様、ありがとうございました!』
「ふぇ……?」
なぜかいきなり、村の人達にお礼を言われた。
ど、どういうこと……?
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