第106話 態徒の瓦割り
前回に引き続き、オレが進行役だ。
いや、うん。マジ地獄だった。
オレ、美人なお姉さんだったら、どんなに厳しくても、修業はこなせるんじゃないか、って思っていた時期があったんだけどさ……無理っすわ。
ミオ先生しか、そんな目に遭っていないが、少なくとも断言できる。
オレ、これだけは無理だわ。
『お知らせします。瓦割りに出場する選手は、グラウンドに集まるようお願いします』
と、ここで修業終了(召集のお知らせ)の合図が。
「チッ。時間か……。まあいい。少なくとも、これだけ割れるようになっときゃ、問題ないだろ」
「あ、あざした……」
「じゃ、頑張れよ」
応援の言葉? を言った瞬間、ポンッ! と音を立てて、ミオ先生が消えた。
「ま、マジで分身だったのか……いや、テントにもう一人いた時点で知ってたけど」
ファンタジーって、すげぇなぁ……。
オレも異世界に行けば、依桜とかみたいに、何らかの特別な力とか、得られんのかなぁ。
つか……ミオ先生。これだけ割れるようになれば問題ない、とか言ってたけどさ……
「さ、さすがに二十七枚は頑張ったほうだと思うんだ、オレ」
そもそも、この歳でこれだけできるとか、十分じゃね? 十分すぎね?
というかよ、ネットでチラッと調べたら、オレくらい年代だと、平均数枚程度だぞ? 全国的なものじゃないが。
そっから考えたとして、すごいやつでも十枚後半くらいなんじゃね? オレ、すごくね? だって、二十七枚割れるんだぜ?
これなら、さすがに勝ったと言えるだろ。
よほど、とんでもないやつがいない限りは、だが。
「……とりあえず、行くか。グラウンド」
やべえことにはならんだろ。
……なんて、楽観的思考をしていたのが悪かったんだろうなぁ。
「フハハハハハ! この程度のお遊び、俺が優勝するに決まっとるわ!」
こんな、いかにも強いですよ! みたいな人がいたんだからな。
……いや、待て。本当に高校生か、この人。
なんか、身長二メートルくらいあるぞ、これ。
つか、肩幅やばくね? 筋肉やばくね? ムッキムキだぜ? 全身筋肉でできてるって言われても、納得しちまうくらい、やばいんだが。
あと、どう見ても顔つきが高校生のそれじゃねえ。
イメージ的には、ス〇ファに出てくる、リ〇ウとガ〇ルを足して二で割ったような外見だな。ゴリッゴリの筋肉っすよ。
と言うか、この学園、結構キャラが濃いやつが多いが……ここまで濃い奴がいたなんて、知らんかったぞ? ……謎が多いな。
それと、高校生で、『フハハハハハ!』って笑うやつ、オレ、初めて見たぞ。
いるんだ、リアルで。
『はい、では、時間になったようですので、ルール説明を行います。まず、選手の皆さんには、一斉に瓦を割ってもらいます。最初は、一人ずつどこまでやれるか、と言うルールで考えていたのですが、午前の部の競技が、思った以上に長引いてしまったので、急遽変更となりました』
長引くレベルの競技って、普通に考えたら相当やばくない?
あの競技のラインナップだったら、比較的まともに見えるが……まあ、叡董学園だしな。何があっても不思議じゃないわ。
実際、変な実況とか聞こえてたしよ。
『皆さんに割ってもらう枚数は、全員同じです。一枚ずつ増やしていき、最後まで残っていた人が勝ち、と言うルールです。途中で、もう無理と判断した場合や、一枚でも残ってしまった場合は、その時点でその人は終了となります。それから、この競技におけるポイントは、瓦一枚割るごとに、一点が入ります。さらに、十枚毎にボーナスで+十点が入りますので、是非とも頑張ってください!』
いや、結構地獄じゃね?
一枚ずつ増やして割っていくってことは、途中でかなり手が痛くなるんだぜ?
間に休憩を挟まずにやるとか、正気の沙汰じゃねえ。
……オレはさっきまでそれをやっていたわけだが!
『それから、割る際に使用できるのは、手首から下のみです。肘、膝などの使用は原則禁止ですので、しないようにお願いします。それから、メリケンサックなどの装備品もなしですからね。指輪も当然なしです。なんらかの装飾品が付いているの発見した場合、すぐさま失格となりますので、ご注意ください』
なるほど。
てことは、拳でやってもいいし、手刀でやってもいいってわけか。
で、あのヤバイそうな奴は……
「ふっ、俺のダイヤモンドよりも固い拳ならば、二十八枚は余裕よ」
ダイヤモンドよりも固いんだったら、百枚くらい割れるんじゃね? 知らんけど。
さすがに、ダイヤモンドよりも固いは誇張しすぎだろ。
……てか、二十八枚って、オレの最高記録より多くね?
つまり、あれか? オレは、二十九枚以上割らないといけないってことか?
……無理ゲー。
『では、そろそろ時間も押してきているようなので、競技に移りたいと思います!』
……オレ、勝てるのか、これ。
「あ、態徒君だ」
「あらほんと。今までどこにいたのかしら?」
「たしかにな。態徒が食いつきそうなほどの競技があった上に、依桜のこの衣装も見ずに、どこに行ってたんだ?」
「……」
「……あー、依桜? 大丈夫?」
「……大丈夫、じゃないです」
はい。ボクは例によって、あの衣装を着てますよ。
……着たくなかったんです。
少し前、態徒以外のみんなでお昼を食べ終えて、グラウンドに出てきた後、ボクたちは母さんたちのところにいた。
そこでは、
「依桜、素晴らしい姿をありがとう」
「ほんとだな! まさか、あれほどのすんばらしい依桜の透け透けが見れるとは思わなかっぶらぁ!?」
セクハラ紛いなことを、平気で言われた。
父さんだけは、張り倒しました。ドストレートすぎたので。
午前のことを話題に、軽く談笑して、再開十分前になったので、母さんたちと別れ、西軍の応援席に行った時。
『あ! 依桜ちゃん発見! みんな、連行だよ!』
『『『おー!』』』
「きゃっ! な、なんですか!? って、わわわっ!? も、もちあげないでくださいぃぃ!」
応援団に所属している女の子たちに、連行されました。
その後、更衣室に連れ込まれ、あっという間にあのチアガール衣装に着替えさせられました。
……逃げられると、思ったんだけどなぁ……。
どうやら、ボクに拒否権はなかったみたいです……。
自分で了承しちゃったので、自業自得なんですけどね……。本当、なんで了承しちゃったのかなぁ……。
そんなわけで、こうしてまた、恥ずかしい格好をしているわけです、ボク。
「……はぁ」
「まあ、なんだ。元気出せよ」
「……そうは言っても、もう疲れちゃったよ……」
「でも、次は態徒君が出る競技だよ? 応援しなくていいの?」
「……そうだね。応援しないと」
もうすぐ競技が始まるみたいだし……。
うん。大事な友達が出るんだから、応援、しないと。
「お、やる気出たみたいね」
「なんというか、もう諦念に近いけどね。態徒が出るなら、恥ずかしくても応援しないとね」
「さすが依桜君だねぇ。じゃ、応援しよっか!」
『それでは! まずは一枚目のチャレンジです! スタート!』
ここはスターターピストルじゃないのな。
まあいいや。とりあえず割ろう。
オレは拳と手刀、両方で行けるが、どちらかと言えば、手刀のほうができる。
「ふっ!」
バリンッ!
見事に真っ二つになった。
あれ? なんかこの瓦、さっきの奴より柔らかくないか? 単純に、オレが強くなっただけなのか、瓦が柔らかいのか。どっちだ?
いやまあ、割れたからいいか。
とりあえず、周りはーっと。
見たところ、参加者全員が割ることに成功していた。
一応、素人でも割と簡単に割ることができるらしいし、概ね予想通り、か?
一枚くらいなら、誰でもできるだろうしな。
問題は……
「ぬるい! ぬるすぎるわ!」
あれだな。
やべえ、マジであれはやべえ。
……見せ筋じゃない、よなぁ、どう考えても。
だってよ、一枚とは言え、粉砕してんぞ、瓦。
あれ、拳でやったのか? どうやったら粉砕できんだ? どう考えても、端のほうとか粉砕するの、無理じゃね?
やっぱ、あれ絶対高校生じゃねえよ。
まあ、そんなわけで、競技は順調に進んだ。
とりあえず、武術をやっていないような人は、五枚程度でギブアップになった。
そこからは、武術の経験者、もしくは武術系統の部活をしている奴だけだった。
まあ、そりゃな。
やってるのとやってないのとじゃ、力の使い方も違う。素人が力任せにやっても、割るのは難しいだろ。
オレだって、最初のころは全然割れなかったしよ。
で、そっから先は、ほとんど武術経験者の戦いだった。
どうせこうなるとわかっていたが、まさか、本当に予想通りになるとは思わなかったけどな。
そんな経験者たちも、大体十枚に差し掛かったあたりで、ぽつぽつとリタイアし始めてきていた。
あー、やっぱり十枚ちょいが平均か……。
で、あのヤバそうなやつはと言うと、
「まだだ! まだいけるぞ!」
割と余裕そうだった。
しかも、相変わらず粉砕してやがるし。
さっき、自分の瓦を割りながらチラッと見たが、あいつ、マジで拳で粉砕してたんだよなぁ。
何の抵抗もないかのように、拳が瓦に貫通してたもんな。
何あれ? オレでもあれは無理だわ。
拳であんな威力と勢いを出すのは無理。
つーか、オレとは筋肉の付け方が違うな、どう見ても。
あいつの場合は、ひたすらに鍛え続けた結果だろうな。だから、ブ〇リーみたいになってるわけだし。
オレの場合は、攻撃に使う筋肉を重点的に、って感じで付けてたが。
と言っても、基本鍛えているがな。
で、一番おかしい筋肉の付け方してたのが、依桜だな。
普通は、あんな付き方しないんだがな……。
あれか。やっぱり、ミオ先生がおかしいのか? ……そうだろうなぁ。すくなくとも、こっちの世界の武術を、見よう見まねで習得しちまったくらいだし……。
まあ、あれと比較しちゃだめだよな。うん。
で、それから順調に進み、
『さあ! 二十七枚目です! 現在残っているのは二人! 一年六組変之態徒君と、一年一組佐々木藤五郎君です!』
いやあいつ一年だったのかよ!?
普通にタメじゃねえか!
マジで? あいつ、どっからどう見ても年上にしか見えんぞ!?
マジでどうなってんだこの学園!
あんな目立つ奴がいたのに、オレはなんで今まで気づかなかったんだ?
「ふっ、まさか、お前のような軟弱野郎が残るとはな」
「誰が軟弱野郎だ!」
「フハハハハハ! すまんすまん。あまりにも、小さく見えたのでな」
小さくってか、オレ、お前と歳同じだぞ?
大丈夫か、こいつ。煽ってんのか?
「ああ、そうっすか」
そりゃ、お前から見たら、世の中の大半の人が小さく見えるだろうよ。
二メートルもあるんだから。
「先に言っておこう。オレは、貴様が憎い!」
「はぁ」
「……なんだ、その気のない反応は」
「いやだって、オレに憎まれるようなことしてねぇし」
見ず知らずの男に恨まれるとか、普通に考えて怖くね?
「なんだと? 貴様……言うに事欠いて、憎まれるようなことはない、だと?」
「まあな」
「そんなことはないっ! 貴様……男女と随分仲がいいじゃないか!」
……………あー。そっちだったか……。
依桜か。結局、依桜絡みか。
「まあ、中学の頃からの付き合いだしな」
「なにぃ? 貴様、まさか……つ、付き合ってるのかっ?」
「そんなわけないだろ。あいつ、元男だぜ? まあ、実際すっげえ可愛いけどよ」
まあ、依桜みたいな美少女と付き合えたら、とは常々思うが。
元男と言っても、何も知らない人からしたら、最初から女だった、ってお思うんだろうけどな。
「おのれ! 碌に話せない俺たちへの当てつけかっ! 俺たちはなぁ……基本的に陰から見ているだけなんだぞ!」
「それ、ストーカーじゃないのか?」
「断じて違うっ! 見守っているだけだ!」
世に人は、それをストーカーと言うんだが……。
しっかし、見守る、ねぇ?
依桜はこの世界の人に見守られるほど、弱くないんだがな。
多分、その辺りを勘違いしてるんじゃないかね?
ここにいる人間で、依桜が異常な力を持っている、なんてことを知ってるのは、ほんの一部だし。
オレたちだって、少し後に聞いたくらいだ。
……そういや、俺『たち』って言ってたよな?
……こいつまさか。
「なあ、佐々木、だっけか? まさかとは思うんだが……お前、ファンクラブに入ってたり?」
「当然だ! あの、可憐さと美しさを兼ね備えた美貌を持ち、か弱そうな雰囲気を持つ男女依桜さんのファンクラブだぞ!? 入らないわけがない!」
やっぱりだったか……。
まさか、ファンクラブ会員の人間に会うとは……。
たしか、学園の八割くらいが加入してるんだったか?
……まさか、こんな武術一筋! な奴が、そんな俗的なものに参加するとはな。
つか、依桜がか弱い、ねぇ?
そのか弱い奴が、テロリストを一人で撃退しちゃってるわけだが……まあ、うん。
知らないほうがいい真実って言うものあるだろ。
どの道、美天杯で否が応でも知りそうだしな。依桜、あれに出場するし。
「俺は……俺たちは、普段から一緒にいるお前や、小斯波晶が憎いのだ!」
「いや、オレはともかく、晶に関しちゃ幼馴染だぞ?」
「知ったことか! 幼馴染という、圧倒的有利なポジションにいるのが憎いのだ!」
「逆恨みじゃねえか……」
晶と未果は、幼少の頃からの付き合いなんだぜ? オレと女委は中学の頃からだがよ。
と言うか、
「晶は、依桜が男だった時からの幼馴染なんだぞ? 別に、恨む意味ないだろ」
「ふんっ。そんなことは知らん!」
「知らんて……」
こいつ、ずいぶん自分勝手な奴だな……。
依桜のファンクラブに参加している奴らって、みんなこう言うような奴ばかりなのか? ……だとしたら、依桜が気の毒なんだが……。
というか、普通に晶を馬鹿にされてる気がするんだが……嫌な奴だな。
「まあいい。貴様をこの競技で倒せば、いいのだからな!」
倒す競技じゃないだろ、これ。
『あ、お話しが終わったようですね。では、始めたいと思います! それでは……スタート!』
まさかの、放送の人待ってくれてた。
とりあえず、割らないとな。
「すぅー……ふっ!」
バリンッ! と言う音が二十七枚分、ほぼ同時に鳴り、真っ二つになった。
ちなみにこれ、ミオ先生に教えられた寸勁を使っていたりする。
……できないと、マジで殺してくるんじゃないか、ってくらいの気迫なんだぜ? できないとあれだろ?
……オレ、魔改造されてる気がするんだが。
で、佐々木はっと……あー、やっぱりできてるよな。
「次で、決着をつけてやろうではないか」
「あー、はいはい」
もう適当だ。
『両者ともにクリアです! では、二十八枚に移りたいと思います!』
くっ、ちょっとまずいかもな……。
オレ、二十七枚が限界だしよ。
どうする。今のオレに割ることができるのか?
……まずい。
と、内心かなりまずい状況に焦っていると、
「た、態徒! が、がんばってぇ!」
女神からの声援が届いた。
……うっわ。マジでエロイな、あの服装。
いやいや、そんなことよりも……やばい! 依桜からの声援、マジ嬉しい!
しかも、力が湧いてくるような感じがするぞ! これならいけるんじゃね!?
まあ、同時に、
「ぐぎぎぎッ!」
真横の奴から、やべえ顔で睨まれているわけだが。
あと、観客のほうからも、殺意の籠った視線が飛んできてるし。
『では……スタート!』
今のオレならば、確実に割れるはず!
ミオ先生がやった方法で、オレも割るぜ!
瓦の上に手を置く。
「………………ふっ!」
精神統一をし、全身を使った一撃を瓦にぶつけた。
すると、バリンッ! と言う音が、今度は立て続けになり続け……すべての瓦を割り切ることに成功した。
よっしゃ! 成功したぜ!
さて、佐々木は……って、お?
「ぬ、ぬかったッ……!」
一枚だけ残ってしまっていた。
『決着です! 瓦割りを制したのは、一年六組変之君です!』
よっしゃあああああ!
勝った! 勝ったぞ!
「畜生……。こんな、変態の代名詞のような奴に負けるとはッ……!」
「じゃあ、オレの勝ちってことでな」
「くっ、美天杯、覚えていろよ!」
まるで、三下のような捨て台詞を残して、佐々木は走り去っていった。
「……なんとか勝てたぜ……」
オレは勝てたことに満足すると、依桜たちのところへ向かった。
……あ、手が痛い。
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