第105話 態徒の特訓(強制)
どうも。変之態徒です。
えー、普段のオレからは全く想像もできないほどの丁寧な入りですが……まあ、色々あるんだよっ!
ちくしょう! 依桜が出場してた障害物競争、マジで見たかった!
なんかよ、スライムプールとか聞こえてたしよ、依桜がスライムプールに落ちて、透け透けだって聞こえてたしよ……!
なぜだ! なぜ、オレは見れなかったんだっ!
……いや、原因はわかってるけどさ!
「おら、さっさともう一回だ」
「は、はいぃ!」
現在、オレの目の前にはミオ先生がいた。
え? テントのところにいるだろって?
あれは紛れもない本人だけど、オレの目の前にいるミオ先生も、一応本人だ。
一応ってつくのは、目の前の先生が、分身体だから……だそうだ。
……目の前で堂々とファンタジーが現れちゃってるんですけどぉ!? って、最初は驚いたもんだよ。
なんか知らないが、開会式の後、いきなりミオ先生に声をかけられ、
『体育館裏な』
って言われたら……男ならついていくだろ。
だってよ、ミオ先生、めっちゃ美人なんだぜ? しかも、すっげえスタイルいいんだぜ!? 胸の大きさ的には、依桜のほうがでかいがよ。なんつーか……均整の取れた体つきって言うのか? まさにそれだったんだよ!
だからさ、いきなり呼び出されて、有頂天になったわけよ。
で、のこのことついて行くと、目の前に大量の瓦を用意された。しかも、ものすごい笑顔で。
……どゆこと? と、最初は思ったさ。
大量の瓦について尋ねると、満面の笑みで、
『割れ♪』
って言うんだぜ?
……オレ、断ったら死ぬんだなと、その時悟ったぜ。
なんかこう、有無を言わさぬ圧力が、その笑顔にはあったんだよ。
それで、開催式以降、ひたっすら瓦を割らされているってわけだ。
「ふむ。軟弱な人間が多いこの世界にしては、筋がいいじゃないか」
「あ、ありがとうございますっ!」
「だが。依桜ほどじゃないな」
……オレ、依桜より才能ないん?
いや、たしかに依桜は色々とおかしいけどよ……異世界に行く前とか、言い方は悪いが、かなり弱そう……というか、かなり弱かったぜ?
そんな依桜が、ある日突然、異常な力を出した時は、マジでビビった。
まあ、美少女になったことの方がビビったけどな!
……ま、美少女になった依桜に力負けした時は、なんか……すっげえ敗北感だったけどな。
いや、世の中には吉田〇保里みたいな、霊長類最強女子、みたいな人がいるけどよ、あれはまだ、地球規模のレベルじゃん? だけどさ、依桜って、地球規模じゃねえじゃん! 異世界のほうじゃん!
吉田〇保里は、筋肉とかわかるじゃん? でもさ、依桜って、すっげえ華奢じゃん! ドっからどう見ても、腕力があるように見えないじゃん!
依桜曰く、
『無駄な筋肉をつけてないだけだよ』
だそうだが、だとしても、限度ってもんがあるだろ!?
何をどうしたら、華奢な体系のまま、あんな馬鹿みたいな力を身に着けられるんだよ!
マジあり得ねぇよ……。
「ったく、こんな薄っぺらいもん割るのに、なんでそんなに時間がかかるんだ?」
「いや、あの……さ、さすがにこれを薄いと言うのは……」
「あぁ? たった三十枚程度、どう考えても薄いだろうが」
「いや、分厚いっすよ!? それ、こっちの世界基準で言ったら、かなり分厚いっすよ!?」
瓦一枚ならまだしも、三十枚は分厚すぎる!
と言うかこの人、あっちの世界基準で言ってるよね!? いや、この場合、ミオ先生の基準なのか!?
「んなもん知らん」
り、理不尽すぎる。
「と、と言うか、何故オレは、瓦割りをさせられてるのでしょうか……?」
「あ? んなもん、勝つためだろうが。それに、お前はイオの友人だ。瓦割りという、この薄っぺらい板を割るだけの競技に出るのだろう? なら、完璧に優勝できるようにしなきゃ、勝てないだろう」
「い、いや、そもそも、これは子供お遊びな祭りと言うか……」
「勝負と言うからには、遊びだろうが何だろうが、勝つ」
あ、ダメだ。全然、話を聞いてくれる気配がねぇっ……。
と言うか、瓦を薄っぺらいとか言っているけどよ……これ、薄くないよな?
日本の文化ぞ? かなり昔からある、日本の文化ぞ?
割と頑丈に作られてると思うんだが……これを薄っぺらい?
いや、一枚とか二枚くらいだったら、大抵の人は割れると思うぞ?
でもさ、三十枚を同時に割るとか、正気の沙汰じゃなくね?
たしか、瓦割りの世界記録って、チョップじゃなく、エルボーなら八十四枚だぜ? いや、肘だから正確に言えば、若干違うと思うが。
だが、通常の瓦割りの世界記録は、四十枚。
その世界記録の四分の三を、高校生にやらせるとか、頭がおかしいんじゃないだろうか。
つか、無理じゃね? オレの最高記録、十七枚だぜ? 半分くらいしか割れないぜ?
というか、ミオ先生は、一体どれくらい割れるんだ?
そう思って、聞いてみたところ、
「あたしか? そうだな……ちょっと一枚割ってみるか」
そう言って、一枚手に取り、設置。
そのまま、垂直に手刀を振り下ろすと……スパンッ! と言う音を立てて、真っ二つに切断された。
……いや、待て待て待て待て! おかしいおかしい!
なんで瓦を切断しちゃってるの!? これ、瓦『割り』だよな!? 今ミオ先生がやったのって、瓦割りじゃなくて、瓦『切り』だよな!?
つーか、素手で切断すること自体おかしいだろ!
「ふむ。これくらいだと考えると……ま、本気を出せば一万枚は行けるだろ」
……一万はおかしくね?
「ま、あたしが本気を出したら、星ごと割っちまうだろうがな。ハハハ!」
……なんで笑ってられるんだ、この人。
つか、星ごと割るって……何?
人間って、瓦割りと同時に、地球割りもできるの? マジ?
……あかん。ツッコミが追い付かねぇ……。
てか、なんでボケのオレが、ツッコミをせねばならんのだ!
オレ、ツッコミじゃねえんだよ! ボケなんだよ! ボケにツッコミやらせるとか、どうかしてるだろ!
あー……しんどいっ。
「ちなみにだが、イオが本気出せば、七千枚は行けると思うぞ。さすがに、星は割れんがな」
マジかー。あいつ、七千枚も割れるのかー。
……オレ、泣きたくなってきた。
「まあ、あいつもまだまだだ。できることなら、神を殺せるくらい強くなってもらいたいんだがな」
「弟子に求めることじゃないっすよね、それ!?」
なんか、依桜が神を殺せるくらいに強くしようとしちゃってるんだけど、この人!
オレの友人がそこまで行ったら、さすがに怖いぞ!? 神殺しを達成した高校生とか嫌すぎるわ!
んなもん、ライトノベルの中だけでいいよ!
「いや、正直あいつにはそれくらいになってもらわんと困るんだよ」
「なぜに!?」
「……そりゃお前、世界を滅ばされたくないからだろ」
「マジっすか?」
「マジっすよ。知ってるか? 世界ってのは、いくつもあるんだよ。で、その世界一つ一つに神ってのが何柱かいてな。その内の一柱が、邪神ってのになっちまうんだよ」
「いやいやいや! なんか話のスケールがでかすぎません!?」
なんで、どこにでもいる男子高校生に、そんな頭のおかしい話を聞かされてるんだ!?
オレに話すような内容じゃなくね? なんで!?
どう考えても、依桜にする話だろこれ!
「だからまあ、できれば抑止力が一人でも多く欲しいんだよ」
「……そうなんすね」
依桜、マジで不憫なんだが。
「だからまあ、あたしがこっちの世界に来れたのは重畳だったぞ。酒も、食べ物も美味いからな」
絶対、最後二つが本命だと思うのは、なぜだ?
「ま、この話は、依桜に後日話すとしてだ……さて、無駄話はここまでで、そろそろ再開するぞ」
「いやあの、さすがに、お腹空いてきたんすが……」
「我慢しろ」
「いや、あの……」
「我慢だ」
「で、でも――」
「我慢。できるよな?」
「……はい」
理不尽すぎる。
飯すら食わせてくれないんだけど、この人。
あれ? オレ、結構長いこと瓦割りをしてるんだが? 開会式が八時半に始まって、九時からずっとこれをやっているんだが?
休憩? そんなもの、なかったっす。
休む暇があるなら、割り続けろ、って言うんだぜ? ミオ先生。
これ、虐待って言うんじゃないだろうか? かれこれ、休憩なしで、三時間以上は割り続けてるぞ? オレ。
正直、手が痛い。と言うか、枚数的にはかなりやったぞ? 多分……百枚以上は割ってるぜ?
え? それだけやれば、骨がボドボドになるだろって? ……この人、骨がイカれたそばから、回復魔法で回復してくるんだぜ? だから、
『これで、何度でもできるよな?』
って言って、瓦割りをさせてくるんだぜ? 地獄だよ。
これ、依桜も修業時代は、こんな感じだったのか? だとしたら……よくもまあ、精神が壊れなかったな、依桜。
オレだったら、普通に投げ出したくなるわ。
つか、異世界に行けるんだったらよ、ハーレムを作りたいもんだぜ。
……まあ、依桜曰く、チート能力なんてものはもらえなかったらしいがな!
……うん。オレが行ったとして、すぐに死ぬのが目に見えるわ。
だってよ、魔物とか、魔族ってのがいるんだろ? 依桜が行った異世界。
オレ、同年代じゃ、ちょっと強いくらいでしかないから、たいして持ちこたえられないぜ? 一日で死にそう。
「んで? お前、今はどこまで割れる?」
「つ、ついさっき、二十三枚に到達したところですハイ」
「チッ。その程度か……」
……あの、十六歳の男子高校生には、二十三枚でも結構すごいほうだと思うんですが……。
この人の場合、どこからがすごいんですかね? オレはそれをすごく知りたいっす。
「ったく、寸勁くらい、できるようにしとけ」
「いやいやいや!? それ、相当な技術がいるんですが!?」
完全に外側じゃなくて、内側から破壊しに来てるじゃないっすか!
オレ、発勁とか使えないっすよ!? 家の道場、中国拳法とかじゃないんですが!
「まあいい、見てろ」
そう言うと、ミオ先生が十枚重ねになっている瓦の一番上に手を置き、
「ふっ――」
短い呼気と同時に、一瞬体がブレた。
と思った次の瞬間。
ガシャンッ!
と言う音を立てて、縦に割れた。一枚残らず。
……えぇぇ?
「こんな感じだ。ま、最小限の力で、高威力の衝撃を与える技だ」
いや、それは知ってるんです。
「あの、なんで寸勁なんて知ってるんすかね……?」
「ああ、これか? ちと、こっちの世界の武術ってのが気になったんで、調べて、見よう見まねでやったらできた」
「そう、なんすね……」
できちゃったんすねぇ……。
……この人、天才すぎませんかねぇ? いや、ミオ先生の場合、天災?
普通、見よう見まねでできるものなのか? 武術って。
……依桜の師匠、マジぱないっすわ。
この後、ものすごく練習させられた。
……腹が減った。手がいてぇ……。
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