第406話 いらん知識を吹き込む女委
未果に膝枕をしてもらって十分に回復した後は、みんなと一緒に時間いっぱいまで遊びました。
まあ、師匠がかなりやりすぎちゃって、よく態徒が吹き飛ばされたりしたけど。
態徒は頑丈になったよね、本当に。
鮫の一件以外は、これといったアクシデントが起こることもなく、平穏に自由時間も終了し、旅館に帰ることとなりました。
そして、旅館の部屋にて。
「う~、髪がベタベタする……」
「そうね。海に入ると、髪の毛ってべたつくのよねぇ」
「わかるわかる。わたしもちょっと入っただけでベッタベタだよ」
「うちも」
今日一日海にいたせいで、髪の毛がすごくベタベタしていた。
女の子になって、前向きに考えるようになってからというもの、ちょっとずつ髪の毛とか服装とかについて気を遣うようになったんだよね……。
そのせいか、こうしてちょっとベタベタしているのが気になって仕方がない。
「まあ、幸いにもこの後すぐお風呂らしいし、もう少しの辛抱ね」
「そうだね」
すぐにお風呂に入れるのはありがたい。
林間学校も臨海学校も、どっちも体を動かしたから汗もかいてるしね。
そう言う意味でお風呂の時間になってるんだと思うし。
「そう言えば、最近依桜って体が変化しないわよね」
「あ、そう言えばそうだねぇ~」
「変化?」
「あぁ、そう言えばエナは見たことがなかったわね。依桜、説明」
「うん。えっとね、異世界に行って、呪いをかけられた、って言う話は前にしたよね?」
「聞いたね。たしか、それで今みたいな可愛い女の子になっちゃった、って言う話だよね?」
「そうだよ。それで、しばらくして一度解呪を試みたんだけど……まあ、その……師匠が失敗しちゃってね。それで、変な追加効果まで現れるようになっちゃったの」
「追加効果?」
「うん。簡単に言うと、小学四年生くらいにまで体が縮んじゃったり、小学一年生くらいにまで縮んだ上に、狼の耳と尻尾が生えたり、今の姿に狼の耳と尻尾が生えたり、あとは大人の姿になったり、って言う感じかな? これが不定期でくるの」
「何それすごい! 依桜ちゃんって、変身もできるんだね!」
「変身とはちょっと違うかな……?」
あながち間違いじゃないけど、変身と言い切るのは難しい。
だってあれ、本当に縮んだり、大きくなったりするんだもん。
「ちょっと見てみたいな~」
「まあ、一緒に過ごしていればその内見られるわよ」
「だね~。初めて変化した時は、授業中だったよね。しかも、裸Yシャツ姿になっちゃって、悲鳴上げてたもんね」
「め、女委!? その話は……!」
「裸Yシャツ……」
「やめて!? そんな慈愛に満ちた目を向けないでぇ!」
あの時は本当に恥ずかしかったんだよぉ……。
いきなりYシャツ以外がずり落ちちゃって、パンツとかも下に落っこちてたし……。
あれはね、本当に……きつかった。
「あの時は、いきなり依桜が叫び出すからびっくりしたわ」
「あぁ、あれね~。急にアニメのキャラクターみたいな絶叫の仕方したから何事かと思ったね。そしたらいきなり光って爆発して、煙が晴れたらそこにちっちゃい依桜君がいるんだもん。今世紀最大のびっくりだったよね」
「そんな変化の仕方なんだ。面白いね!」
「いや、ボク的にはそこまで面白くないんだけど……」
「でも、傍から見たらなかなかに面白い状況じゃないかしら? アニメの中みたいな出来事が目の前で起こったわけだし」
「……そうかもしれないけど」
それは他人だからそう思うだけであって、当人からしたら洒落にならないよね?
あの時の事、未だに微妙な気分になってるんだけど。
危うく、裸を晒すところだったわけだし。
「でも、今はどういう風に変わってるの? うち、ちょっと気になる」
「えっと、変化する前日って、すっごく眠くなるの。しかも、抗いがたい睡魔でね。ボク自身、抗えたことはないかな。横になった瞬間に意識が落ちて、朝目が覚めたら変化、って言う感じ」
「なるほど! じゃあ、すっごく眠くなったら依桜ちゃんは何か姿が変化してるってことだね!」
「多分? 少なくとも、変化する前日はそんな感じだから、間違ってないと思うよ」
できれば、変化して欲しくはないけど……。
「ちなみに、エナっち的にどの形態の依桜君が気になる?」
「うーん……やっぱり、耳と尻尾が生えてる姿かな!」
「あー、あれね。あの姿の時の依桜の耳と尻尾って、ものっすごいもふもふしてるから、気持ちいいのよね。思わずずっと触りたくなっちゃうくらいに」
「えー、いいな! うちも触ってみたい!」
「あ、あはは……もし、変化したら、その……さ、触らせてあげる、よ」
「ほんと!? ありがとう、依桜ちゃん!」
「あら、いいの? たしかあれ、依桜にとって結構くすぐったかったり、変な気分になるとか言ってなかった?」
「そうだけど……あ、あれはあれで、き、気持ちいいし……」
上手な人が撫でると、結構気持ちよくて、ついつい声を漏らしちゃうんだよね、あれ。
個人的には……ちょっと癖になってたり。
「……なるほど」
「依桜君、どんどん染まってきてるねぇ」
「何に!?」
「んー、女の子としての生とか性とか」
「「ぶふっ」」
「えっと、『せい』?」
なんとなく、生きるの方の『生』はわかるんだけど、もう一方の『せい』がなんなのかわからない。
「女委、そう言う発言は控えなさいよ……依桜の前で」
「そうだよ、女委ちゃん。依桜ちゃんは、綺麗だからこそ、魅力が最大限に引き出されてるんだよ! それを汚しちゃったら、せっかくの希少価値が薄れちゃうよ!」
「き、希少価値?」
ボクにそんなものはないような……。
「おっと、いけないいけない。それは看過できない問題だねぇ。うむ、今のはわたしが悪かった。ごめんね、依桜君」
「別にいいけど……あの、ボクはなんで謝られたの?」
「「「そのままの依桜(君)(ちゃん)でいて欲しいから」」」
「そ、そですか」
一体、どういう意味なんだろう?
それから少ししてお風呂の時間。
「はーい、一名様強制連行~」
「あぅぅぅ~~……」
ボクは未果に引きずられるようにして連れて行かれていました。
お約束なのかな、これ。
「ほら、さっさと入るわよ。この後、夕食なんだから」
「う、うん……」
「もう一年近く経つのに、未だに慣れないんだねぇ、依桜君は」
「だ、だって……は、恥ずかしい、んだもん……」
(((可愛い……)))
むしろ、すぐに慣れる人って、すごいと思います。
……でも、一年近くも慣れないままって、遅い、のかなぁ……。
とは言っても、性転換をする、なんて普通は起こり得ない事態だから、きっとボクの反応が普通のはず……。
できれば、一人で入りたいものです……。
「洗いっこがしたい」
「どうしたのよ、エナ」
「んー、ほら、こう言うのって、お友達同士で洗いっこ、みたいなのが定番だと思うんだ、うち。よくない? 青春っぽくて」
「おー、いいね! わたしは賛成! 面白そうだし、格好のネタだぜぃ!」
「……まあ、一理あるわ。私も賛成」
未果が言うと、三人がじっとこっちを見てきた。
え、これは……もしかしてボクも含まれてる……よね。この感じだと。
「あ、あの、へ、変なことにならなければいいかなー、なんて……」
「なら、賛成ということね」
勝手に決められた。
明らかにボクに拒否権はないよね?
「じゃあじゃあ、どうやって洗う? やっぱり、誰かが誰かの背中を洗うとか?」
「まあ、妥当なのはそうよね」
「いやいや、それだけじゃつまらんですよ!」
「女委ちゃんは何かあるの?」
「こういう時は……依桜君、ちょっと耳を貸して」
「え? う、うん」
言われた通り、女委の近くに行って耳を貸す。
なんだろう?
「―――――」
「……………え。そ、そそそ、それを、や、やる……の?」
「おうともさ! これはね、女の子同士で洗いっこをする時の、スタンダード的な洗い方なのだ!」
「う、うぅぅっ……そ、それがき、基本、なら……」
え、なんで依桜、あんなに顔真っ赤なの?
一体女委に何を吹き込まれたのよ、あの娘。
しかも、真っ赤というか、完全にトマトレベルの赤さよ? 何を吹き込まれたらあんなに顔を赤くするのかしら?
……なんだか、嫌な予感がするわね。ある意味では、いい予感とも言えるけど。
ここは、身がまえておくに限るわね。
「じゃ、じゃあ、み、未果、から……」
「ええ、お願い」
まずは私からと来たか。
一体、どんな方法で洗ってくるのかしら?
普通に洗うのなら、垢すりとかタオルだろうけど……。
様々な可能性に思考を巡らせていると、不意に私の背中に、ものっすごく柔らかいものが押し当てられた。
「わ、依桜ちゃん大胆……」
ん? エナの今のセリフは一体どういう――
「んっ……ふぅっ、ん……っ! み、みかぁ、ど、どう、かなっ……?」
「――ッ!?」
その瞬間、私の体に電流が走った。
……え、ちょっと待ってちょっと待って!?
こ、この温かくて、すっごく柔らかくて、まるでマシュマロのような感触で、先端の辺りにちょっと固めの感触があって、尚且つ丸い形をしていると予想される、この感触は……ま、まさか……依桜の胸!?
「い、依桜!? あなた、一体何で私の体を……って、んんんっ!?」
「んぁっ! く、ふぅ……はぁっ……ぁっ……!」
背後を見てびっくり!
予想通り、依桜が自分の体を使って私の背中を洗っていた。
「ちょいちょいちょいちょいちょい! 依桜、ちょーーーっと待って!?」
「ど、どう、したの……? も、もしかして、き、気持ちよくなかった……?」
「いや、気持ちいいわ」
むしろ、気持ちよくないわけがない。最高すぎて、思わず天国だと思ったわ。
「そ、そっか。じゃあ、えと、つ、つつつ、続ける、ね……?」
「ええ、お願い……じゃなくて! ストップ!」
私は勢いよく振り向き、依桜の方に両腕を乗せてちょっと押しのける。
「依桜、今、何をどうやって、私の背中を洗ってたの?」
「え、えっと……ぁの……ぼ、ボク、の胸に、その……ぼ、ボディーソープを垂らして、えと……か、体、で……」
自分で言っててどんどん顔を赤くさせ、それに比例するように声もか細いものになっていく。
そんなに恥ずかしいのなら、なぜやったのよ……。
……いや、原因はわかりきってるけど。
「依桜、ちょっと待ってね。私、そこのド級変態とOHANASHI☆ があるから」
「う、うん……」
「さあ、女委。ちょ~~~~っと、向こうでお話ししましょうかぁ。あ、依桜とエナは普通に体を洗ってていいわよ。遅くなるから♪」
「「は、はーい」」
「さ、行きましょ、女委」
「にゃ、にゃははー……み、未果ちゃんや、目が笑ってない……」
「いいからさっさと来る!」
「うにゃ~~~~……」
私は女委を引きずって、一時的に脱衣所の方に出た。
「あんたねぇ、一体何を考えてるのよ! あれはまずいでしょ! あれは!」
そして、脱衣所で正座させるなり、私は女委に開口一番に怒鳴っていた。
「いやぁ、その……で、出来心と言いますか……ね?」
「…………本音は?」
「依桜君の神おっぱいで、背中を洗ってほしかったであります!」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ」
ここまでド変態だったとは思わなかったわ、私。
……いや、そもそも、コ〇ケで頒布している本が十八禁な時点で、変態も何もないし、そこで純粋すぎる依桜に接客をさせていた時点で、わかりきってはいたけど……まさか、ここまでだとは思わないじゃない。
「まったく……あんた、あれどう考えても、そういうお店の洗い方じゃないの! 依桜に何を吹き込んでんのよ! さっき言ったばっかじゃない、純粋のままでいて欲しいって!」
「いやいや、依桜君にはあくまでも、『女の子同士としての洗い方ではスタンダード』と言っただけであって、あれがエロ行為かと言われるとちがう――」
「あ?」
「サーセン」
「依桜に変な知識を与えるんじゃないわよ……。あの娘、純粋なんだから、そう言うの信じちゃうのよ? ……しかも、初めてな上に知識もないのに、ものっすごい上手かったし」
「あ、上手かったんだ」
「……まあね」
あの娘のエロさは潜在的な物ね。
なんと言うかこう……歳を積み重ねるごとに、熟練されていったもの、みたいな感じ?
まあ、依桜はもともと男だった上に、エロ知識が全くないから、熟練もへったくれもないんだけど。
あと、歳と言っても、依桜は二十歳くらいだし、まずおかしいんだけど。
って、それはそれとして。
「ともかく、依桜に変な知識を教えない! あの娘が自分で知ろうとしない限りは、絶対に言わない事。いい?」
「えー、無知シチュがいいのに……」
「その気持ちはわからないでもないけど、ぶっ飛ばすわよ」
「イエスマム!」
「ったく……ほら、戻るわよ」
「うーい!」
どうしようもない変態よ、女委は。
「……それでそれで、依桜君にしてもらった感想は?」
「…………………………………………天国だった」
「おほー、正直ですなぁ!」
「うるさい」
ほんと、なんでこんなのと友達なのかしら……?
お風呂に戻ったら、なんか昨日と同じような光景――というか、鼻血を出して、血溜まりに沈んでいる女子たちの姿があった。
……二次災害が起きてるじゃないの!
「急いで運ぶわよ!」
初日に続き、またしても、騒がしい入浴だった。
なぜか血溜まりに沈んでいた女の子たちを、昨日と同じように救助。
それを終えて、夜ご飯を食べてから部屋に戻ると……
「あ、あれ? す、すごく眠い……」
とてつもなく強い睡魔に襲われた。
こ、このパターンは……!
「あ! これってもしかして、変化する前兆のものかな!?」
「多分ね。前にもあったし、間違いないわ。女委、急いで布団を敷いて。すぐ寝かせるわよ」
「OK!」
なんとか睡魔に抗っていると、未果の指示で女委が高速で布団を敷いてくれた。
ボクはそれに倒れ込むと、すぐに意識が遠ざかっていった。
どう、なる……んだ…………ろ、う……。
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